第二話『勇者と魔王』(改訂版 ver.1.01)
第一話に続き、プロローグ第二話も現在の設定や今後の物語に合わせて、改訂版として書き直しました!
五人いるはずの勇者。
しかし、見つかっているのは四人だけ。
そして世界は、五人目が見つかるまで待ってはくれません。
今回から少しずつ、
「勇者と魔王」
そして五百年前から伝わる物語の、その先へ踏み込んでいきます。
すでに読んでくださった方も、改訂された部分を探しながらもう一度楽しんでいただけたら嬉しいです!
そして、
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは、プロローグ第二話です!
「腹減った」
遺跡を出て、最初にピートが言ったのがそれだった。
「……ピートさん、さっき食べてませんでした?」
シロナが呆れたように振り返る。
「食った」
「では、なぜもうお腹が空くんですか」
「戦ったからだ」
「そうですか」
「納得したか?」
「いえ、考えるのをやめました」
「おい」
ニールは思わず吹き出した。
ついさっきまで巨大な石像に追い回されていたというのに、遺跡から出てしまえばいつもの調子だ。
夕暮れの街道を四人で歩く。
空は赤く染まり、遠くにはアルヴェリア王国の山々が連なっていた。
「なあ、ハリト」
「何?」
「これで何連敗?」
「何が?」
「赤探し」
ハリトは少し考えた。
「七」
「そんなに?」
「七だよ」
「嘘だろ」
「神殿、古戦場、北の塔、地下墓地――」
「待て待て。聞きたくない」
「君が聞いたんだろ」
ニールは頭を抱えた。
七か。
思っていたより外している。
「今回こそ当たりだと思ったんだけどなあ」
「毎回言ってるよ」
「そうだっけ?」
「毎回」
ハリトは淡々と言った。
「そもそも、五百年前の英雄の手掛かりなんて、そこら中にあるからね」
「どういう意味だよ」
「ロッサ・レギアが有名すぎるってこと」
それは、そうだった。
赤の勇者――ロッサ・レギア。
五百年前、《五大勇者》を率いて魔王を討ち倒したと伝えられる英雄。
アルヴェリアで彼女の名を知らない者は、ほとんどいない。
街には銅像。
教会には絵画。
子ども向けの物語にも登場する。
だから「赤の勇者ゆかりの地」なんてものは、探せばいくらでも出てくる。
問題は、そのほとんどが後世に作られたものだということだった。
「有名人って面倒だな」
「本人に言ってやれば?」
「会えたらな」
ニールがそう言った時だった。
前方から馬車がやってきた。
一台ではない。
三台。
四台。
荷物を山ほど積んだ馬車が、列になってこちらへ向かってくる。
荷台には人が乗っていた。
老人。
女性。
小さな子ども。
誰もが疲れた顔をしている。
ニールの表情から笑みが消えた。
「……避難民か」
ハリトが呟く。
馬車の側面には泥が跳ね、布で覆われた荷物が乱雑に積まれている。
鍋。
毛布。
木箱。
家財道具まである。
旅をしているんじゃない。
暮らしていた場所から、そのまま逃げてきたのだ。
「また増えていますね」
シロナの声からも、さっきまでの軽さが消えた。
最後尾を歩いていた兵士の腕には包帯が巻かれている。
ピートが立ち止まった。
「東からか?」
兵士は四人を見た。
一瞬驚いたような顔をして、それから小さく頭を下げる。
「……国境近くの村です」
「ノクティアが動いたのか?」
兵士は答えなかった。
ただ、その沈黙だけで十分だった。
四人は馬車が通り過ぎるまで、街道の端に立っていた。
さっきまでうるさかったピートも何も言わない。
馬車に乗った小さな男の子が、こちらを見ていた。
ニールの剣。
ハリトの弓。
ピートの大剣。
シロナの杖。
そして。
四人の腰にある、それぞれ色の違う《勇者装具》。
少年が目を見開いた。
「……勇者様?」
小さな声だった。
母親らしい女性が慌てて少年を抱き寄せる。
ニールは一瞬迷ってから、笑って手を振った。
少年も、小さく手を振り返した。
馬車が遠ざかっていく。
「……行こう」
ニールが言った。
今度は、誰もふざけなかった。
王都に戻ったのは、翌日の昼だった。
巨大な城壁。
いくつもの尖塔。
街の中央には白亜の王城がそびえている。
大通りには商人の声が飛び交い、馬車が行き交い、どこからか焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。
「肉!」
ピートが反応した。
「ピートさん、さっきまで真面目な顔をしていたでしょう」
「真面目でも腹は減る」
「ある意味、尊敬します」
「だろ?」
「褒めてません」
いつもの二人が戻ってきた。
ニールは苦笑しながら大通りを歩く。
王城へ続く道の途中、大きな広場に出た。
その中央に、巨大な石像が立っている。
五人の男女。
五百年前の《五大勇者》だ。
何度も見ているはずなのに、ニールはつい足を止めた。
中央にいるのは、一人の女性。
長い髪をなびかせ、剣を掲げている。
赤の勇者。
ロッサ・レギア。
その左右には、青、緑、黄、白。
四人の勇者が並んでいた。
「……なあ」
ニールは像を見上げる。
「何回見ても、ロッサだけでかくない?」
「そこ?」
ハリトが呆れる。
「いや、見てみろよ。明らかに一人だけ目立ってるだろ」
「《五大勇者》を率いた人物ですからね」
シロナが答えた。
「それにしたってさ」
ニールは少し離れて像全体を眺める。
「これじゃ『ロッサと愉快な仲間たち』じゃねえか」
「君もその愉快な仲間の一人みたいなものだろ」
「俺は五百年後だから違う」
「青の勇者なんだから似たようなものでしょ」
「嫌だよ。愉快な仲間扱い」
「俺はいいぞ!」
ピートが胸を張った。
「お前は似合うな」
「どういう意味だ?」
シロナが小さくため息をつく。
「五百年前の英雄の前で、よくそんな話ができますね」
ニールはもう一度、ロッサの像を見上げた。
赤の勇者。
五人の中心にいた人物。
これほど有名なのに。
「……どこにいるんだろうな」
思わず口から出た。
ハリトが横を見る。
「赤?」
「ああ」
青はいる。
緑もいる。
黄も白もいる。
それなのに。
赤だけが、いない。
「案外、近くにいたりしてな」
ピートが言った。
「それなら、とっくに見つかっています」
「分からんぞ。ニールの隣の家とか」
「それはさすがに笑えない」
もしそうだったら、七か所も遺跡を巡った自分たちは何だったんだ。
「行きましょう」
シロナが王城へ目を向けた。
「報告が先です」
「はいはい」
ニールたちは再び歩き始めた。
その時。
ふと、像の台座に刻まれた文字が目に入った。
何度も見た文章だ。
『五人の勇者、魔王を討ち果たし、世界に平和をもたらす』
昔から知っている。
誰も疑わない。
子どもだって知っている。
勇者が魔王を倒す。
それで世界は平和になる。
ニールだって、ずっとそう思ってきた。
だからこそ。
赤の勇者を探している。
王城へ到着して間もなく、ニールたち四人は会議室へ通された。
遺跡で発見した折れた剣について報告を終えると、向かいに座る男が重い声で言った。
「……今回も違ったか」
「はい」
シロナが答える。
「赤の勇者ロッサ・レギアに関連する遺物である可能性は高いと思われます。しかし、本人が使用したものではありません」
「現在の赤へ繋がるものは?」
ハリトが首を振った。
「ありませんでした」
男は目を閉じ、小さく息を吐いた。
机の上には、大きな地図が広げられている。
アルヴェリア王国。
そして、その東。
ノクティア連邦。
ニールは地図を見た。
「……何かあったんですか?」
男が四人を見る。
「時間がない」
低い声だった。
「ノクティアが動いた」
部屋の空気が変わった。
「国境付近で、複数の部隊が確認された。すでに周辺の村には避難命令を出している」
昨日すれ違った馬車を思い出す。
あの親子も、その一つだったのだろう。
「魔王は?」
ニールが尋ねる。
「まだ姿を見せていない」
男は地図の一点に指を置いた。
「だが、ルジナ・ノクスが魔王となって以来、ノクティア側の動きが活発になっている」
――ルジナ・ノクス。
現在の魔王。
ニールが知っているのは、名前くらいだった。
どんな姿をしているのか。
どんな声なのか。
何を考えているのか。
そもそも、なぜアルヴェリアと敵対しているのか。
ニールは何も知らない。
ただ一つだけ。
勇者である自分たちが、いずれ戦う相手。
そう教えられてきた。
「五人が揃うまで、待てないんですか?」
シロナが尋ねる。
男はしばらく答えなかった。
「それを待っている時間がないと言っている」
ニールは思わず拳を握った。
「でも、伝承では――」
「分かっている」
男が遮った。
「五人の勇者が揃い、魔王を討つ。それが五百年前から伝えられてきた」
その視線が四人へ向けられる。
「だが、現実には四人しかいない」
誰も言葉を返せなかった。
「赤の勇者を探すことは続ける。しかし同時に、君たちにも国境へ向かってもらいたい」
「四人で?」
「ああ」
ニールは三人を見る。
ハリト。
ピート。
シロナ。
四人。
いつもの顔ぶれだ。
本当なら、ここにもう一人いるはずなのに。
「そこで何を?」
ハリトが尋ねた。
男は地図の上を指でなぞり、国境付近で止める。
「ノクティアの動きを調べてほしい。そして――もう一つ」
指が少し南へ動いた。
そこには、小さな印が描かれている。
「三日前、この場所で古代遺跡に異変が確認された」
「異変?」
「内部から光が確認された。五百年以上、沈黙していた遺跡だ」
ハリトの表情が変わる。
「五百年……」
「ああ」
「それがノクティアと関係あるんですか?」
ニールが尋ねた。
「分からない」
男は地図を見つめた。
「だから、君たちに調べてほしい」
ニールはもう一度、三人を見た。
赤はいない。
今回も見つからなかった。
それでも。
世界は、五人が揃うまで待ってくれないらしい。
「……分かりました」
ニールは答えた。
「行きます」
会議室を出たあと。
長い廊下を歩きながら、ピートが口を開いた。
「で」
「ん?」
「出発はいつだ?」
「明日の朝でしょうね」
シロナが答える。
「じゃあ今日は肉だな」
「なぜそうなるんですか」
「遠征前だぞ?」
「だから?」
「肉だろ」
「意味が分かりません」
ニールとハリトは顔を見合わせた。
「行くか」
「肉?」
「肉」
「あなたたちまで!?」
シロナの声が廊下に響いた。
ニールは笑った。
四人。
やっぱり、一人足りない。
でも。
今はこの四人で行くしかない。
五人目が見つかるまで、世界が待ってくれるわけじゃないのだから。
――勇者が魔王を倒す。
そうすれば、世界は救われる。
それは誰もが知っている物語だった。
俺だって、それを疑ったことはなかった。
この時までは。
次に向かう場所で目にするものが、その当たり前に初めて小さなヒビを入れることを。
俺たちは、まだ知らなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
プロローグ第二話も、物語の大きな流れはそのままに、現在の世界観やキャラクター設定に合わせて改訂しました。
第一話では、
「なぜ、五人目の《赤の勇者》だけが見つからないのか?」
という謎を描きました。
そして第二話では、もう一つ。
勇者が魔王を倒せば、世界は救われる。
この世界では、誰もが知っている当たり前の物語です。
もちろん、この時のニールもそれを信じています。
でも――本当に、それだけなのでしょうか?
五百年前に何があったのか。
なぜ五人の勇者が再び現れたのか。
そして、現在の魔王――ルジナ・ノクスとは何者なのか。
まだまだ物語は始まったばかりです。
すでに読んでくださっている方には、今回の改訂で追加・変更された部分が、これから先どんな意味を持ってくるのかも楽しんでいただけたら嬉しいです!
そして、
「続きが気になる!」
「ニールたちの冒険をもっと読みたい!」
と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです!
皆さんからの応援が、続きを書く大きな励みになります。
次回、プロローグ第三話。
四人の勇者が向かう先で、
《勇者と魔王》という物語に、最初のヒビが入ります。
引き続き、
『五人目の勇者が見つからない』
をよろしくお願いします!




