第一話『五人目がいない』(改訂版 ver.1.01)
連載を進める中で、世界観やキャラクター、今後の物語の設定がより固まってきたため、プロローグ第一話を改めて見直し、改訂版として書き直しました!
すでに読んでくださった方も、ぜひもう一度楽しんでいただけたら嬉しいです。
そして初めて来てくださった方も、ありがとうございます!
読んでみて、
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
それでは――
『五人目の勇者が見つからない』
物語の始まりです!
「だから、なんで俺なんだよ!」
ニールは走っていた。
正確には、逃げていた。
薄暗い遺跡の通路を全力で駆けながら振り返ると、さっきまで壁の一部だった巨大な石像が、ずしん、ずしんと床を揺らしながら追ってきている。
でかい。とにかくでかい。
頭が天井すれすれなのだから、たぶん五メートルはある。
《前方――注意》
「分かってる!」
「分かってない! ニール、前!」
「え?」
ハリトの声に前を向いた瞬間、足元の床が沈んだ。
カチッ、と嫌な音がした。
「……あ」
《罠――作動》
「それは踏む前に言ってくれ!」
壁に小さな穴がいくつも開く。
「伏せろ!」
ハリトの声とほぼ同時に、無数の矢が飛んできた。
「うわあああっ!」
頭を抱えて滑り込む。
矢が頭上を抜け、そのまま後ろの石像へ突き刺さった。
もっとも、石でできた身体には傷ひとつついていない。
「危なっ……!」
「罠を踏むなって言っただろ!」
「こんなの走りながら分かるか!」
「僕は分かった」
「だったら先に言えよ!」
「言う前に君が踏んだんだよ!」
ハリトが呆れた顔で弓を構える。
その腰では、緑の紋章を宿した《勇者装具》が淡く光っていた。
次の瞬間、その横を大きな影が駆け抜けた。
「細けえことはいい! あいつをぶっ倒せば済む話だろ!」
ピートだった。
人間よりも一回り分厚い身体。太い腕で、自分の身体ほどもある大剣を軽々と担いでいる。
腰の黄色い《勇者装具》が光った。
「待てピート! 一人で行くな!」
「任せろ!」
「それ任せちゃ駄目なやつ!」
遅かった。
ピートは石像の正面まで走ると、大剣を振りかぶった。
「おらああああっ!」
轟音。
大剣が石像の脚へ叩き込まれた。
石の表面に亀裂が走り、巨体がぐらりと揺れる。
「おっ!」
ピートが笑う。
「効いてるじゃねえか!」
だが。
石像はゆっくりとピートを見下ろした。
「…………」
「あれ?」
巨大な拳が振り上げられる。
「ピート!」
「ちょ、待っ――」
「《光壁》!」
白い光が走った。
ピートの身体を半透明の壁が包み込み、その直後、石像の拳が叩きつけられる。
凄まじい音とともに土煙が舞った。
「だから、勝手に突っ込まないでください!」
後方でシロナが杖を構えていた。
長い銀髪が魔力の風に揺れ、その腰では白の《勇者装具》が光を放っている。
「助かった!」
「あとで治療費を請求します」
「仲間だろ!?」
「仲間だから言ってるんです!」
相変わらずだな、こいつら。
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
ニールは剣を抜いた。
同時に、腰の青い《勇者装具》が淡く輝く。
《対象――解析継続》
「頼むぞ」
《――了解》
青みがかった光が刀身を覆った。
「ハリト、弱点は?」
「今探してる!」
「早めに頼む!」
「注文が多いな!」
ハリトが弓を引く。
緑の装具が明滅し、その視線が石像の全身を追った。
ピートがつけた脚の亀裂。
シロナの《光壁》に拳を弾かれ、わずかに開いた上半身。
その胸の中央で、一瞬だけ赤い光が漏れた。
「――見つけた」
ハリトの目つきが変わる。
「胸だ。装甲の隙間に核がある」
「最初からそこ狙えばよかったんじゃねえか!」
ピートが叫ぶ。
「今見つけたんだよ!」
「なら俺が――」
「ピートさんは動かないでください!」
「お前はそこで待ってろ!」
「今度は僕たちがやる!」
三人の声が重なった。
「なんでだよ!」
ピートの抗議は無視した。
ニールは石像を見上げる。
胸の核は高い。
普通に跳んだだけでは届かない。
「シロナ!」
「はい!」
足元に白い魔法陣が浮かぶ。
身体が一気に軽くなった。
《身体強化――確認》
「ハリト!」
「分かってる!」
矢が放たれた。
一本。
二本。
二本の矢が胸部装甲の継ぎ目へ突き刺さる。
石像がハリトへ顔を向けた。
その瞬間。
「こっちだ!」
ピートが大剣を石像の脚へ叩きつけた。
「待ってろって言っただろ!」
「待てるか!」
だが、その一撃で亀裂がさらに広がった。
石像の巨体が傾く。
「ニール! 今だ!」
「おう!」
走る。
一歩。
二歩。
石像の拳がこちらへ振り下ろされる。
《右方――回避推奨》
「分かってる!」
床へ叩きつけられる寸前、右へ跳ぶ。
轟音。
砕けた石が頬をかすめた。
ニールはそのまま石像の腕へ足をかける。
「ニールさん!?」
シロナの声。
《行動――非推奨》
「ここまで来て言うな!」
腕から肩へ駆け上がり、さらに跳ぶ。
ハリトの矢によってわずかに開いた装甲。
その奥。
赤く光る核が、目の前にあった。
「これで――どうだ!」
青い光をまとった剣を突き立てる。
硬い。
一瞬、弾かれそうになる。
《出力補助》
「頼む!」
青い光が強くなる。
両手で剣を押し込んだ。
ぴしり、と音がした。
核に一本の亀裂が走る。
そこから一気に亀裂が広がった。
「やった!」
《離脱――推奨》
「え?」
「ニール、離れろ!」
ハリトの声で気づいた。
石像の身体が傾いている。
「うおおおお!?」
慌てて飛び降りる。
背後で巨大な石像が崩れ落ち、遺跡全体が揺れた。
しばらく誰も喋らなかった。
舞い上がった埃が、ゆっくりと落ちてくる。
「……死ぬかと思った」
ニールが呟く。
《同意》
「お前まで言う?」
「それはこっちの台詞です」
シロナがじろりと睨んできた。
「無茶しすぎです」
「でも倒しただろ?」
「結果論です」
「ニールも大概だな」
ハリトが弓を背負い直す。
「君はピートに文句言えないよ」
「一緒にすんなよ」
「なんでだよ!」
ピートが不満そうに大剣を背負った。
その時だった。
「……待って」
ハリトが崩れた石像の向こうを見ていた。
壁に亀裂が入っている。
いや、違う。
石像が倒れた衝撃で、壁を覆っていた石板が崩れたらしい。
その奥に暗い通路が続いていた。
「隠し部屋か?」
ピートが嬉しそうに目を輝かせる。
「宝かもしれねえぞ」
「ピートさんは少し休んでいてください」
「なんで俺だけ扱い悪いんだ?」
「理由を説明する必要があります?」
「ある!」
結局、四人で奥へ進んだ。
さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだった。
狭い通路を抜けると、小さな部屋に出る。
家具も装飾もない。
ただ、部屋の中央に石の台座がひとつ置かれていた。
その上に――一本の折れた剣がある。
「……剣?」
ニールが近づこうとすると、ハリトが腕を出した。
「待って」
「また罠?」
「分からない。だから待って」
「はいはい」
ハリトが慎重に台座を調べ始める。
その間に、ニールは剣を眺めた。
ずいぶん古いものらしい。
刀身は半ばから折れ、赤茶色に錆びついている。
けれど。
柄の部分だけは、妙に綺麗だった。
そこに、小さな紋章が刻まれている。
「……これ」
思わず声が漏れた。
炎を思わせる形。
何度も見た。
何度も探した。
知らないはずがない。
「赤の紋章……?」
シロナも気づいた。
空気が変わった。
ピートが台座へ近づき、ハリトも黙って剣を見る。
「まさか……本物か?」
ピートの声まで小さくなる。
「まだ分からない」
ハリトは台座に刻まれた文字を調べ始めた。
ニールの心臓が速くなる。
この遺跡へ来た目的。
いや――ここ数か月、ずっと探し続けているもの。
赤の勇者。
五百年前。
魔王と戦い、世界を救ったと伝えられる《五大勇者》。
赤。
青。
緑。
黄。
白。
そして今。
五百年の時を経て、その五色を受け継ぐ勇者たちが再び現れ始めた。
青は、俺。
緑は、ハリト。
黄は、ピート。
白は、シロナ。
四人まで揃った。
問題は――最後の一人。
赤だけが、いまだに見つかっていない。
五百年前の《五大勇者》を率いた、赤の勇者。
ロッサ・レギア。
もし、この剣が彼女のものなら。
今の赤へ繋がる手掛かりが残されているかもしれない。
「どう?」
待ちきれずにニールが聞いた。
ハリトは返事をしない。
何度か台座の文字と剣を見比べる。
やがて、小さく息を吐いた。
「……違う」
「え?」
「この剣が作られたのは、《五大勇者》の時代より後だ。たぶんロッサ・レギアを祀るために作られたものだと思う」
「じゃあ……」
「今の赤に繋がる手掛かりじゃない」
「…………マジか」
ニールはその場に座り込んだ。
ここへ来るまで三日かかった。
途中で魔物に襲われた。
食料をひとつ落とした。
ピートが罠を踏んだ。
さっきは俺も踏んだ。
そして、収穫なし。
「また外れかよ……」
「仕方ないよ」
ハリトが言った。
「探してるのは、五百年前の伝承から続く手掛かりなんだから」
「それにしたって何もなさすぎだろ」
ニールは台座に背中を預けた。
「しかし、変だよな」
「何がです?」
シロナが尋ねる。
「俺たちは、なんだかんだで四人揃っただろ?」
「あっさりではありませんでしたけどね」
「まあ、そこは置いといて」
「置くんですか」
ニールは指を折っていく。
「青、緑、黄、白。四人揃った。魔王も現れた。それなのに、赤だけいない」
誰も答えない。
「五百年前は、赤が《五大勇者》の中心だったんだろ?」
「伝承では、そうですね」
「だったら一番最初に出てきてもよくない?」
「勇者に順番なんてあるのか?」
ピートが真顔で聞いてくる。
「いや、知らんけど」
「じゃあいいだろ」
「よくねえよ。こっちは探してんだよ」
ニールは頭をかいた。
五人目。
一体、どこにいる?
既に現れているなら、何かひとつくらい手掛かりがあってもいいはずだ。
それなのに、何もない。
「……なあ」
ふと思った。
「俺たち、探す場所を間違えてたりしないよな?」
ハリトがこちらを見る。
「今さら何言ってるの?」
「いや……なんとなく」
「アルヴェリア中から情報を集めてるだろ」
「……だよなあ」
ギルド。
王国。
古い記録。
遺跡。
赤の紋章に関する噂があれば、どんな小さなものでも調べた。
それでも見つからない。
「……もしかしてさ」
「今度は何です?」
シロナが少し警戒した顔をする。
「赤の勇者って、ものすごい方向音痴だったりしない?」
三人がニールを見る。
「だって俺たちがこれだけ探しても会えないんだぞ? 向こうも俺たち探してて、ずっと逆方向に進んでるとか」
「あるかもしれん!」
ピートが笑った。
「ないと思います」
シロナは冷たかった。
ハリトだけが少し考えてから、肩をすくめた。
「まあ、見つからない以上、次へ行くしかないね」
「……だよなあ」
ニールは立ち上がった。
そして、もう一度だけ折れた剣を見る。
古びた柄に刻まれた、赤の紋章。
「まったく……」
五百年前には《五大勇者》の中心だったという、赤の勇者。
今代の赤は、一体どこで何をしているのやら。
この時の俺は、本気でそう思っていた。
赤の勇者は、この世界のどこかにいる。
ただ、俺たちがまだ見つけられていないだけだと。
だから、探せばいい。
赤の勇者を見つける。
五人を揃える。
魔王を倒す。
そうすれば、世界は救われる。
――それくらい、単純な話だと思っていた。
ただ一人。
五人目だけが、見つからない。
その理由を。
この時の俺たちは、まだ知らなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回の改訂では、物語の大きな流れや、
「なぜ、五人目の勇者だけが見つからないのか?」
という最初の謎はそのままに、キャラクターたちの戦い方や、今後の物語につながっていく部分などを、現在の設定に合わせて見直しました。
このプロローグで描かれているのは、少し先の未来。
青、緑、黄、白。
四人の勇者はすでに揃っている。
それなのに――
《赤の勇者》だけが見つからない。
どこにいるのか。
なぜ見つからないのか。
そして、本当に「五人の勇者を揃えて魔王を倒す」だけで、すべては終わるのか。
この第一話に登場した何気ない言葉や出来事も、物語が進んでから読み返すと、少し違って見えるかもしれません。
ぜひニールたちと一緒に、この世界の謎を追いかけていただけたら嬉しいです!
そして、
「面白かった!」
「続きも読んでみたい!」
と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
皆さんからの応援を励みに、これからも物語を書き続けていきます。
引き続き、
『五人目の勇者が見つからない』
をよろしくお願いします!




