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『五人目の勇者が見つからない』(改訂版 ver.1.01)

幕間『五人目の勇者が見つからない』(改訂版 ver.1.01)です。


第一章『青の勇者』を終え、ニールは《青の勇者》として最初の一歩を踏み出しました。


しかし――。


青が目覚めたことで動き始めたものは、ニールだけではありません。


緑。


黄。


白。


そして――赤。


五百年間、眠り続けていた四色にも変化が訪れます。


今回はニールたちの知らない場所で起きている、少しだけ特別な幕間です。


そしてここから、本作のタイトルでもある、


『五人目の勇者が見つからない』


その意味が、少しずつ姿を見せ始めます。


楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

 五百年前。


 五人の勇者がいた。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 白。


 彼らは魔王を倒し、世界を救った。


 そして――消えた。


 それから五百年。


 人々は彼らを《五大勇者》と呼び、その英雄譚を語り継いできた。


 けれど。


 誰も知らない。


 彼らが残したものが。


 今も、この世界のどこかで眠り続けていることを。


 そして。


 五百年の沈黙を最初に破った色は――。


 青だった。


     ◇ ◇ ◇


 蒼天遺跡。


 地下深く。


 ニールとハリトが去った後。


 青い光に満たされていた継承区画は、再び静寂を取り戻していた。


 巨大な蒼龍――継承資格を判定する試練体も、すでに動きを止めている。


 ただ。


 五百年前とは、一つだけ違うものがあった。


《青系統――認証済》


《継承者――ニール・レイン》


《勇者装具――認証完了》


《系統接続――再構築開始》


 青い光が、一度だけ明滅する。


 ニールが持ち帰った《青の勇者装具》。


 その認証を起点として。


 五百年間、切断されていた何かが。


 少しずつ。


 世界へと広がり始めていた。


《同系統領域――再接続》


《共有領域――応答待機》


《他系統――探索開始》


 赤。


 緑。


 黄。


 白。


 眠っていた四つの色へ。


 青が。


 呼びかけ始める。


     ◇ ◇ ◇


 アルヴェリア王国の北方。


 深い森。


 人の足がほとんど入らない場所に、一本の巨木が立っていた。


 幹は何人もの大人が手を繋いでも囲めないほど太く、その根は大地を這い、森そのものと一体になっているように見える。


 その根の。


 さらに下。


 誰にも知られていない地下で。


 ぽつり。


 緑色の光が灯った。


《青系統――認証確認》


《接続信号――受信》


《探索領域――更新》


《緑系統――探索開始》


 五百年間。


 光を失っていた壁の一部へ、細い緑の線が走る。


 そのさらに奥。


 巨大な何かが眠っていた。


 長い鼻。


 岩壁のような巨体。


 大地へ沈み込むような四肢。


 緑の光が、その身体の一部へ届く。


 けれど。


 それは――目覚めない。


《起動条件――未達》


《休眠――継続》


 代わりに。


 別の探索機能が動き始める。


《候補対象――照合》


《適合反応――検出》


《位置情報――更新》


 そして。


 緑の光が。


 一つの魂を捉えた。


     ◇ ◇ ◇


「ニール、そっちじゃないよ」


「分かってる!」


「じゃあ、どうしてそっちに行くの?」


「近道かなって!」


「反対方向だけど」


「…………」


 リーヴェル。


 依頼を終え、ギルドへ戻る途中。


 ハリト・ヴェールは呆れたようにため息をついた。


「こっち」


「はい……」


 先を歩くハリトの背には、いつもの弓がある。


 故郷を出る時。


 大切な人たちから贈られたものだ。


 森で育ち。


 弓を学び。


 風の魔法を覚え。


 そして八年前。


 一人の少年と出会った。


「なあ、ハリト」


「何?」


「俺、方向音痴じゃないよな?」


「自覚なかったの?」


「えっ」


「行くよ」


「ちょっと待って! 今の詳しく!」


 ハリトが歩き出す。


 ニールが追いかける。


 その腰で。


 青の《勇者装具》が。


 ほんの一瞬だけ光った。


「ん?」


「どうしたの?」


「いや……」


 ニールが腰を見る。


「こいつが今、光ったような」


《…………》


「ベルトちゃん?」


《――否定》


「名前の話じゃない!」


「ニール」


「何?」


「また始まったの?」


「こいつが!」


「僕には聞こえないって」


「そうだった!」


 ハリトがため息をつく。


 そして。


 歩き出そうとした、その時。


「…………?」


 今度は。


 ハリトが止まった。


「どうした?」


「いや……」


 耳を澄ませる。


 風。


 木々。


 鳥の声。


 いつものリーヴェルの音。


 なのに。


 なぜか。


 ほんの一瞬だけ。


 遠くから。


 何かに呼ばれたような気がした。


「……何か」


「何か?」


「いや」


 ハリトは首を振った。


「気のせいだと思う」


「疲れてるんじゃない?」


「誰のせいだと思ってるの?」


「え?」


「行くよ」


「待てよ!」


 二人は歩き出す。


 知らないまま。


 遥か遠くの森の地下で。


 緑の光が。


 確かに一人を捉えていた。


《候補対象――捕捉》


《適合反応――継続》


《位置――青系統継承者ニ近接》


 青のすぐ隣に。


 緑は――。


 もう、いた。


     ◇ ◇ ◇


 さらに遠く。


 岩山に囲まれた国。


 石と鉄。


 炎と槌。


 朝から晩まで、どこかで金属を打つ音が響いている。


 ドワーフたちの国。


 その中心。


 王城。


「…………」


 巨大な机の上に。


 紙の山があった。


 その向こうに。


 さらに巨大な男がいた。


 太い腕。


 広い肩。


 鍛え抜かれた身体。


 黄金色の髪。


 そして――国王。


「…………」


 男は正面を見る。


 紙。


 右を見る。


 紙。


 左を見る。


 やっぱり紙。


「終わらねえ」


 側近は答えない。


「なあ」


「何でしょう、陛下」


「これ全部、今日中か?」


「はい」


「魔物百匹と戦う方が楽じゃねえか?」


「書類は襲ってきませんので」


「だから厄介なんだよ!」


 男――ピート・グランフォードは頭を抱えた。


 その腰には、一つの古い装具がある。


 代々。


 王家に受け継がれてきたもの。


 王位を継ぐ者が身につける。


 ただ、それだけのもの。


 少なくとも。


 この国では、そう伝えられていた。


 その中央が。


 ぽうっ。


 黄色く光った。


「ん?」


 ピートが腰を見る。


 光はすぐに消えた。


「…………」


「どうされました?」


「今、光ったか?」


「何がです?」


「これ」


 腰の装具を指差す。


「王家の聖具ですか?」


「おう」


「いえ」


「そうか」


 ピートは首を傾げる。


「…………」


「…………」


「腹減ったな」


「仕事をしてください」


「肉」


「仕事をしてください」


「王様ってもっと自由じゃねえのかよ!」


 机へ突っ伏す。


 その頃。


 岩山の奥深く。


 誰にも知られていない場所で。


 金色の光が灯っていた。


《黄系統――探索開始》


《候補反応――検出》


《距離――》


 停止。


《再計測》


《距離――極小》


 再び。


《再計測》


《距離――極小》


 沈黙。


《候補対象――確認》


《勇者装具――》


 さらに長い沈黙。


《装備済》


 金色の光が。


 一度。


 強く明滅した。


 まるで。


 五百年ぶりに目覚めた何かが。


 予想外の状況を理解しようとしているかのように。


     ◇ ◇ ◇


 街道を。


 一人の銀髪の旅人が歩いていた。


 長い銀髪。


 わずかに尖った耳。


 白を基調とした旅装。


 シロナ・エルネージュ。


「…………」


 シロナが足を止めた。


 風が吹く。


 銀髪が揺れる。


「……またですか」


 最近。


 時折感じる。


 視線とは違う。


 魔力とも違う。


 遠くから。


 何かに探されているような。


 奇妙な感覚。


「気持ちの良いものではありませんね」


 小さく呟く。


 そして。


 ふと。


 森で出会った二人の冒険者を思い出した。


 ニール・レイン。


 ハリト・ヴェール。


『俺、二つ星だから!』


『見えています』


『そこはもうちょっと驚いてもよくない!?』


「…………」


 思い出す必要のないところまで思い出した。


「……変な方でしたね」


 わずかに笑って。


 シロナは再び歩き出す。


 その遥か彼方。


 誰にも知られていない場所で。


 白い光が灯る。


《白系統――探索開始》


《候補反応――検出》


《距離――遠》


《追跡――開始》


 さらに奥。


 暗闇の中。


 巨大な翼の輪郭が。


 ほんの一瞬。


 白銀の光に照らし出された。


 けれど。


 翼は開かない。


 眠ったまま。


 ただ。


 白い光だけが。


 一人の旅人を追い始めた。


     ◇ ◇ ◇


 緑。


 見つかった。


 黄。


 見つかった。


 白。


 見つかった。


 そして。


 最後の一色。


 赤。


《赤系統――探索開始》


 暗闇の中。


 赤い光が灯る。


《候補反応――検索》


《…………》


《反応――検出》


 いた。


 赤も。


 確かに存在している。


《候補対象――照合》


《魂紋――照合開始》


 沈黙。


《…………》


《再照合》


 再び。


 沈黙。


《魂紋――適合》


《継承資格――》


 止まる。


《…………》


《判定不能》


 赤い光が揺らいだ。


《再照合》


《魂紋――適合》


《継承資格――判定不能》


《再照合》


 同じ結果。


 候補者は存在する。


 魂も。


 間違いなく、赤に反応している。


 それなのに。


 認証できない。


《矛盾――検出》


《候補者――存在》


《魂紋――適合》


《継承資格――判定不能》


 何度繰り返しても。


 結果は変わらない。


 探している。


 見つけている。


 それなのに。


 赤だけが。


 届かない。


     ◇ ◇ ◇


 五百年前。


 五人の勇者がいた。


 赤。


 青。


 緑。


 黄。


 白。


 そして今。


 青が目覚めた。


 それに呼応して。


 残された四つの色が。


 再び動き始めた。


 緑は。


 すでに青のすぐそばにいる。


 黄は。


 知らないまま、その装具を身につけている。


 白は。


 一人、世界を歩いている。


 そして。


 赤も――。


 いる。


 確かに。


 いるはずなのに。


《赤系統――候補者検出》


《魂紋――適合》


《継承資格――判定不能》


 五人目だけが。


 見つからない。


 五百年間止まっていた歯車は。


 もう。


 動き始めている。


 青から。


 緑へ。


 黄へ。


 白へ。


 そして――赤へ。


 これは。


 五人の勇者を探す話。


 けれど。


 いつか彼らは知ることになる。


 探していた最後の一人が。


 なぜ。


 最初から――。


 見つからなかったのか。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


青の勇者――ニール・レイン。


その認証をきっかけに、五百年間途絶えていた四色の探索も動き始めました。


そして今回、読者の皆さんにはニールより一足先に、それぞれの状況を見てもらいました。


緑は――青のすぐそば。


黄は――本人も知らないまま、すでに装具を身につけている。


白は――世界を旅している。


そして。


最後の一色。


赤。


候補者はいる。


魂も適合している。


それなのに――。


《継承資格――判定不能》


見つけているはずなのに、見つからない。


ここでようやく、本作のタイトル、


『五人目の勇者が見つからない』


が、作中でも大きな謎として動き始めます。


なぜ赤だけが認証できないのか。


五百年前に何があったのか。


そもそも《五大勇者》とは何なのか。


そして、青が目覚めたことで、これから何が始まるのか。


答えはまだ先です。


ただ一つ言えるのは――。


五百年間止まっていたものは、もう動き始めています。


そして個人的には、五百年ぶりに探索を始めた結果、


「黄の候補者……近っ! っていうか、もう装備してる!?」


みたいな状態になっている黄色側が結構好きです。


ここから、ニールの冒険はリーヴェルの外へ、少しずつ広がっていきます。


続きも気になると思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援よろしくお願いします!

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