第二十五話『青の勇者』(改訂版 ver.1.01)
第一章 第二十五話『青の勇者』(改訂版 ver.1.01)です。
自らの意思で、青の《勇者装具》を受け取ることを選んだニール。
その瞬間、彼が目にしたのは――自分ではない“誰か”の記憶。
青い剣。
五つの色。
そして、赤い誰かが呼んだ謎の名前。
「アズール」
五百年前の《五大勇者》と、ニールの青い痣。
バラバラだったものが、少しずつつながり始めます。
そしてついに――物語は第一章のタイトルへ。
『青の勇者』
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世界が。
蒼く染まった。
◇ ◇ ◇
「――っ!」
眩しい。
反射的に目を閉じた。
はずだった。
なのに。
見える。
青い空。
どこまでも続く、青。
「……どこだ?」
蒼天遺跡じゃない。
あの蒼龍も。
ハリトもいない。
俺は知らない場所に――。
いや。
違う。
ここに立っているんじゃない。
見ている。
誰かの目を通して。
誰かの――。
◇ ◇ ◇
剣が見えた。
青い剣。
俺の手が、それを握っている。
いや。
俺じゃない。
もっと大きな手。
傷がある。
長い間、剣を握ってきた人間の手。
その手が、青い剣を振る。
「……っ!」
速い。
俺なんかとは全然違う。
力任せじゃない。
身体が剣を知っている。
剣が身体の一部みたいに動いている。
前を見る。
誰かがいた。
一人。
二人。
三人。
緑。
黄。
白。
そして――。
赤。
「…………」
赤い髪が、風になびいている。
女の人……?
顔はよく見えない。
なのに。
胸が妙にざわついた。
知らない。
俺は、あの人を知らない。
なのに。
『――アズール!』
「……!」
赤い誰かが振り返った。
俺を呼んだ?
違う。
アズール。
誰だ?
『アズール!』
もう一度。
その名前が響いた。
その瞬間。
景色が崩れた。
「待っ――!」
◇ ◇ ◇
「ニール!」
「……っ!」
目を開ける。
「ハリト……?」
「大丈夫?」
「…………」
蒼天遺跡。
巨大な蒼龍。
そして、目の前に浮かぶ青の《勇者装具》。
俺の右手は、その中央に触れていた。
「俺……」
夢?
いや。
夢より、ずっとはっきりしていた。
「何か見た?」
「……うん」
「何を?」
「分からない」
「分からない?」
「知らない場所だった。誰かの……記憶みたいな」
口にして、自分でも変だと思う。
青い剣。
緑。
黄。
白。
赤。
そして。
「……アズール」
「何?」
「アズールって、名前」
口に出す。
知らない名前。
聞いた覚えもない。
なのに、胸の奥に何かが引っかかる。
「誰?」
「俺が聞きたい」
「ニールが言ったんだけど」
「そうなんだけど!」
何なんだ。
今の。
その時だった。
《継承意思――確認》
「……!」
青の《勇者装具》が強く光る。
《魂紋――照合》
《適合――確認》
《青系統――正式認証》
読んでいるわけじゃない。
見たことのない文字なのに、意味だけが直接頭の中へ流れ込んでくる。
「ニール?」
「まただ」
「何が?」
「意味が入ってくる」
「読めるの?」
「違う。文字は読めない。でも、何を伝えようとしてるのかは分かる」
変な感覚だ。
文字を読むより先に。
意味だけが分かる。
《継承対象――ニール・レイン》
《青の勇者装具――認証》
《継承処理――開始》
次の瞬間。
青い光が弾けた。
◇ ◇ ◇
「うわっ!?」
目の前に浮かんでいた装具が消えた。
「消えた!?」
「ニール、腰」
「え?」
自分の腰を見る。
「……何これ」
あった。
青の《勇者装具》が、いつの間にか俺の腰に巻かれている。
「勝手についた!」
「外せる?」
「ちょっと待って」
触ってみる。
留め具らしいものはある。
でも、外し方が分からない。
「……取れない」
「呪われてる?」
「怖いこと言うなよ!」
すると。
腰の装具が淡く光った。
《解除意思――確認》
「え?」
意味が頭へ流れ込んでくる。
「外したい」
カチッ。
「…………」
外れた。
「外れた!」
「よかったね」
「いや、待って」
「何?」
もう一度、腰へ近づけてみる。
カチッ。
「ついた!」
「楽しそうだね」
「だって凄くない!?」
「凄いけど」
ハリトはいつもの顔だった。
「もう少し緊張感を持った方がいいと思う」
「さっき巨大な龍と戦ったばっかりだからいいだろ!」
俺は腰の装具を見る。
中央にある青い部分が、淡く光っている。
石なのか。
魔道具なのか。
それすら分からない。
「これで……」
俺は蒼龍を見る。
「俺、勇者になったの?」
短い沈黙。
そして。
『――青系統ノ継承処理、完了』
「それって……」
『――継承者、ニール・レイン』
蒼龍の瞳が俺を捉える。
『――青ノ勇者トシテ認証』
「…………」
俺が。
青の勇者。
「ハリト」
「何?」
「俺、勇者だって」
「聞いてた」
「青の勇者だって」
「それも聞こえてたよ」
「…………」
「…………」
「もっと驚いてよ!」
「十分驚いてる」
「全然そう見えない!」
でも。
俺自身も、よく分からない。
勇者。
五百年前、魔王を倒したと伝えられている存在。
その一人と同じ、青。
それに俺が?
「…………」
手を見る。
何も変わっていない。
俺は試しに拳を握った。
「勇者って、もっとこう……」
「こう?」
「ドーン! って強くなるんじゃないの?」
「知らないよ」
「ちょっと試していい?」
「何を?」
俺は父さんからもらった剣を抜いた。
構える。
振ってみる。
ヒュッ。
「…………」
もう一度。
ヒュッ。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「そんなに変わってない」
「そうみたいだね」
「そこは何か変わっててくれよ!」
少し身体が軽い――ような気がする。
魔力が流れやすい――ような気もする。
でも。
たぶん。
気のせいと言われたら反論できない。
少なくとも、突然ものすごく強くなった感じはしない。
「勇者……だよな?」
『――肯定』
「弱くない?」
『――現時点ノ候補――』
「待って。今絶対ひどいこと言おうとしただろ」
『――継承者ノ戦闘能力ハ、発展途上』
「言い方変えた!」
ハリトが小さく笑う。
「笑うなよ!」
「発展途上だって」
「便利な言葉だな!」
すると。
青の《勇者装具》が淡く光った。
《装具出力――制限》
「……ん?」
《継承者能力――不足》
《同調――初期状態》
《継承者ノ成長ニ応ジ、出力領域ヲ拡張》
「…………」
「今度は何?」
「たぶん……」
俺は腰の装具を見る。
「これ、持っただけじゃ全部の力を使えないみたい」
「どういうこと?」
「俺が強くならないと、こいつも本当の力を出せない……のかな」
『――概ネ肯定』
「概ね!?」
何だその微妙な返事。
「じゃあ、勇者になったから急に最強とかじゃない?」
『――否定』
「…………」
俺はハリトを見る。
「地道に頑張ろう」
「勇者になったのに!?」
「勇者でも練習は必要なんじゃない?」
「もっとこう、伝説の力で一気にドーン! って!」
「さっきも言ってたね」
「夢があるだろ!」
勇者。
思ってたのと、ちょっと違う。
いや。
だいぶ違う。
◇ ◇ ◇
その時。
――リーン。
「……!」
聞き覚えのある音が、頭の奥に響いた。
実際に耳から聞こえたわけじゃない。
あの時と同じ。
自分にしか聞こえない、不思議な音。
「ニール?」
「ちょっと待って」
目を閉じる。
自分の内側へ意識を向ける。
すると。
いつものように。
意味が浮かんだ。
《ニール・レイン》
《LEVEL 三》
「…………」
目を開ける。
「上がった」
「何が?」
「LEVEL」
「…………」
「三になった!」
「よかったね」
「薄い!」
「だって僕、五だし」
「今それ言う!?」
勇者になったのに。
LEVEL三。
「…………」
俺は腰の青い装具を見る。
「青の勇者。LEVEL三。二つ星冒険者」
「分かりやすいね」
「何が!?」
「まだ新人だってことが」
「伝説感がない!」
ハリトが少し笑った。
でも。
俺も、少しだけ笑ってしまった。
勇者になった。
それでも。
俺は俺だ。
◇ ◇ ◇
「なあ」
俺は蒼龍を見る。
『――質問ヲ受理』
「これから俺、何すればいい?」
『――質問内容ヲ特定不能』
「勇者になったんだろ?」
『――肯定』
「じゃあ……」
少し迷って。
聞いた。
「魔王を倒せばいいの?」
ハリトが俺を見る。
蒼龍は答えない。
「……おい?」
やがて。
『――該当命令――存在セズ』
「え?」
ハリトの表情も変わった。
「ニール。今、何て?」
「魔王を倒せって命令は……ない?」
『――肯定』
「でも」
《五大勇者》は、魔王を倒した。
そう教わってきた。
五百年前。
五人の勇者が現れ。
魔王を倒し。
世界を救った。
それが、誰もが知っている英雄譚だ。
「じゃあ勇者って、何する人なんだ?」
『――回答不能』
「また!?」
『――当試練体ノ判定領域外』
「お前、本当に試験以外分かんないな!」
『――肯定』
「そこは自信満々なんだ!?」
ハリトがまた笑っている。
でも。
俺は気になった。
魔王を倒せ。
そんな命令はない。
だったら。
五百年前の《五大勇者》は、なぜ魔王と戦った?
「……じゃあ、もう一つ」
『――質問ヲ受理』
「俺以外にも勇者っているの?」
『――五系統ヲ確認』
蒼龍の背後。
壁に刻まれていた紋章が光った。
「……!」
赤。
青。
緑。
黄。
白。
五つ。
その中で、青だけが強く輝いている。
『――赤系統』
『――青系統』
『――緑系統』
『――黄系統』
『――白系統』
「《五大勇者》……」
昔話と同じだ。
「じゃあ俺が青なら……」
残りは。
「あと四人?」
『――未認証系統――四』
「どこにいる?」
『――現在位置――不明』
「分かんないの!?」
『――系統間接続――長期間途絶』
「どのくらい?」
蒼龍の瞳が淡く光る。
『――約五百年』
「…………」
五百年。
やっぱり。
この場所は、《五大勇者》とつながっている。
そして。
『――青系統、正式認証』
青の紋章がさらに強く輝いた。
『――休眠接続領域――一部再開』
「休眠……?」
『――他系統探索――開始』
「探索?」
その瞬間。
遺跡全体が震えた。
「うわっ!」
「ニール!」
青い光が、壁を走っていく。
部屋から。
通路へ。
さらに、その先へ。
まるで。
何かを探しに行くように。
◇ ◇ ◇
遥か遠く。
深い森。
誰も知らない地下。
長い年月。
光を失っていた古い遺構に。
ほんの一瞬。
緑の光が灯った。
《青系統――認証確認》
《接続信号――受信》
《緑系統――探索開始》
そして。
さらに深く。
光すら届かない場所で。
巨大な何かが。
眠ったまま。
わずかに震えた。
◇ ◇ ◇
さらに遠く。
山々に囲まれた国。
巨大な石造りの城。
その玉座に、一人の男が座っていた。
「……暇だ」
「陛下」
「何だ?」
「執務中です」
「知ってる」
「では書類を」
「嫌だ」
「陛下」
「腹減った」
「先ほど昼食を召し上がったばかりです」
「もう腹減った」
「仕事をしてください」
男は大きかった。
太い腕。
分厚い胸板。
黄金色の髪。
人間より一回り大きな身体。
その腰には、王家に代々受け継がれてきたという古い装具がある。
ピカッ。
「……ん?」
「どうされました?」
男は腰を見る。
「今、光った?」
「何がです?」
「これ」
側近も装具を見る。
「……いつもの王家の装具に見えますが」
「だよな」
「仕事に戻ってください」
「やっぱり飯にしない?」
「戻ってください」
「厳しくない?」
男は気づかない。
古い装具の奥で。
長い間眠っていた何かが、一瞬だけ反応したことに。
《黄系統――反応》
《適合対象――近接》
《探索距離――零》
◇ ◇ ◇
そして。
街道。
一人の銀髪の少女が歩いていた。
長い銀色の髪。
少し尖った耳。
白い旅装。
「…………?」
ふいに。
少女が足を止めた。
振り返る。
そこには誰もいない。
「……気のせいでしょうか」
首を傾げる。
しばらく周囲を見回したあと。
また歩き出す。
少女は知らない。
遥か遠く。
白い紋章が。
静かに光り始めたことを。
《白系統――探索開始》
《適合反応――微弱》
《探索――継続》
◇ ◇ ◇
そして。
最後。
光の届かない場所。
赤い紋章がある。
長い間。
何の反応も示さなかった紋章。
そこへ。
青から発せられた信号が届いた。
ドクン。
赤い光が。
一度だけ脈打つ。
《赤系統――探索開始》
沈黙。
《適合反応――検出》
《照合――開始》
赤い光が強くなる。
そして。
《――――》
光が乱れた。
《再照合》
再び。
乱れる。
《適合反応――存在》
《状態――判定不能》
長い沈黙。
やがて。
《赤系統――探索継続》
赤い光だけが。
不規則に。
もう一度。
脈打った。
◇ ◇ ◇
蒼天遺跡。
そんなことが世界のあちこちで起きているなんて。
俺が知るはずもない。
俺はただ、腰についた青の《勇者装具》を見ていた。
「……ハリト」
「何?」
「俺」
一度、息を吸う。
「本当に勇者になったみたい」
「そうみたいだね」
「…………」
勇者。
まだ、何も分からない。
何をすればいいのか。
なぜ俺が選ばれたのか。
五百年前に何があったのか。
アズールという名前が何なのか。
それすら分からない。
でも。
一つだけ。
俺にも分かった。
俺が青の《勇者装具》を受け取ったことで。
何かが始まった。
俺たちがまだ知らない場所で。
五百年間。
止まっていた何かが。
今――。
再び、動き始めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついにニールが、正式に青の《勇者装具》の継承者となりました。
……とはいえ。
青の勇者、LEVEL三。二つ星冒険者。
勇者になった瞬間から最強になるわけではなく、《勇者装具》もまた継承者とともに力を引き出していくもの。
つまりニールの冒険は、ここからです。
そして今回、もう一つ大きな謎が出てきました。
五百年前の《五大勇者》は魔王を倒したと伝えられている。
ところが蒼龍に確認すると――
「魔王を倒せ」という命令は存在しない。
では、《五大勇者》とはそもそも何だったのか。
そしてニールが見た“記憶”の中で呼ばれていた、
「アズール」
とは誰なのか。
さらに青の正式認証によって、五百年間途絶していた残る四色の探索も動き始めました。
緑。
黄。
白。
そして――なぜか正常に判定できない、赤。
青の勇者が誕生したことで、ニールの知らないところでも何かが動き始めています。
五百年前に止まったものは、一体どこへ向かうのか。
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