第二十三話『勇者の資格』(改訂版 ver.1.01)
第二十三話『勇者の資格』(改訂版 ver.1.01)です。
蒼天遺跡から「来い」と呼ばれたニール。
引き返そうとした二人でしたが、帰り道は閉ざされ、青い光に導かれるように遺跡のさらに奥へ。
そこで待っていたのは、《五大勇者》の壁画と謎の青い装具。
そして――壁画に描かれていた、巨大な蒼い龍。
ニールが初めて「勇者」という言葉と真正面から向き合う回です。
楽しんでいただけたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
『――来い』
確かに、そう聞こえた。
地下へ続く階段。
壁を走る青い光。
そして、俺の胸で熱を持つ痣。
「…………」
行きたい。
めちゃくちゃ行きたい。
子どもの頃から気になっていた場所だ。
あの時は、
『――まだ早い』
と言われた。
でも今は、
『――来い』
である。
これはもう、行けということでは?
「ニール」
「何?」
「顔」
「顔?」
「ものすごく行きたそう」
「…………」
ハリト。
こいつ、俺の顔を読む能力だけ異常に高くない?
「でも」
ハリトは地下への階段を見た。
「一度戻った方がいいと思う」
「……やっぱり?」
「僕たちが受けた依頼は、蒼天遺跡周辺の調査だからね。遺跡の中で異変を発見した。それを報告すれば、依頼としては十分だと思う」
「……だよな」
分かっている。
昇格試験で散々学んだ。
何のための仕事なのか。
目的を忘れない。
勝手なことをしない。
そして、生きて帰る。
昔の俺だったら、たぶん何も考えずに進んでいた。
でも今は冒険者だ。
「じゃあ、戻ろう」
「うん」
俺たちは来た道を振り返った。
その時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
「……え?」
石が動く。
俺たちが入ってきた通路の両側から、壁がせり出していた。
「ニール!」
「嘘だろ!?」
二人で走る。
でも、間に合わなかった。
ゴォン!
目の前で、通路が完全に閉ざされた。
「…………」
「…………」
俺は閉じた石壁を見上げた。
「ハリト」
「何?」
「これ、俺のせいかな」
「たぶん」
「即答!?」
「ニールが来てから全部動き始めたから」
「反論できない!」
石壁へ両手をつける。
押してみる。
当然、びくともしない。
「開けー!」
「力で開くと思う?」
「やってみないと分からないだろ!」
「じゃあ僕もやる」
「手伝ってくれるの!?」
「早く帰りたいから」
「理由が冷たい!」
二人で壁へ手をつく。
「せーの!」
「……!」
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
「…………」
「ハリトも声出せよ!」
「力が逃げる」
「俺だけ恥ずかしいじゃん!」
当然。
開かなかった。
◇ ◇ ◇
「……進むしかないか」
「そうだね」
ハリトは意外と冷静だった。
「怖くないの?」
「怖いよ」
「そう見えない」
「ニールが僕の分まで慌ててるから」
「俺、役に立ってる!?」
「ある意味では」
「絶対違う意味だろ!」
でも。
少しだけ気持ちが楽になった。
一人じゃない。
ハリトがいる。
それだけで、知らない地下へ進む怖さが少し薄れる。
「行こう」
「うん」
俺たちは、青い光に照らされた階段を降り始めた。
◇ ◇ ◇
階段は、思っていたよりずっと長かった。
「どこまで続くんだ?」
「分からない」
「地面の下だよな?」
「階段を降りてるからね」
「そういうことじゃなくて!」
壁には青い光が走っている。
松明は必要ない。
魔法なのか。
魔道具なのか。
それすら分からない。
「触るなよ」
ハリトが言った。
「触らないよ」
「本当に?」
「俺を何だと思ってる?」
「子どもの頃、行くなと言われた遺跡に入った人」
「お前も一緒だっただろ!」
「ニールについてきただけ」
「共犯者!」
そんなことを話しながら、俺たちは階段を降りていく。
やがて、階段が終わった。
「……広い」
その先にあったのは、巨大な地下空間だった。
いや。
遺跡というより――建物の中?
石で造られているはずなのに、俺が知っている古い遺跡とは何かが違う。
「ハリト」
「うん」
「ここ……」
「綺麗すぎる」
そう。
地上部分は崩れていた。
苔が生え、石柱も割れ、長い年月を感じさせる場所だった。
なのに、ここにはほとんど埃さえない。
「誰か使ってるのかな」
「それなら人の痕跡があるはずだよ」
「じゃあ、なんでこんなに綺麗なんだ?」
「分からない」
分からないことばかりだ。
壁には、見たことのない文字が刻まれている。
「読める?」
「読めない」
「俺も」
俺が一歩近づいた、その時。
刻まれた文字が青く光った。
「うわっ!」
「ニール!」
思わず後ろへ飛び退く。
しかし、それ以上は何も起こらない。
「……びっくりした」
「触った?」
「触ってない!」
「珍しい」
「信用なさすぎない!?」
俺は恐る恐る、光った文字を見る。
読めない。
見たこともない文字だ。
なのに――。
「…………」
何だ?
頭の奥に、何かが引っかかる。
文字を読んでいるわけじゃない。
なのに。
意味だけが――。
「……継承?」
「え?」
「いや……」
俺は首を振った。
「今、一瞬だけそんな意味が浮かんだ」
「文字が読めたの?」
「分からない。文字は全然読めない」
「でも意味は分かった?」
「たぶん」
継承。
何を?
誰から?
「ニール」
「うん?」
「こっち」
ハリトが少し先を指差していた。
◇ ◇ ◇
そこには、巨大な壁画があった。
「……五つ?」
「うん」
五つの紋章。
赤。
青。
緑。
黄。
白。
見た瞬間、俺にも分かった。
「《五大勇者》……?」
「僕もそう思う」
五百年前、魔王を倒したとされる五人の勇者。
子どもの頃から何度も聞いた。
俺たちも何度も真似をして遊んだ。
赤の勇者。
青の勇者。
緑の勇者。
黄の勇者。
白の勇者。
「じゃあ、この遺跡って……」
「《五大勇者》と関係があるのかもしれない」
――ドクン。
「っ……」
「また?」
「うん」
五つの紋章の中で。
青だけが光っていた。
「やっぱり俺に反応してる?」
「ここまで来ると、その可能性はかなり高そうだね」
「なんで俺なんだよ……」
「それを僕に聞かれても」
「だよな」
青い紋章の下には、人の姿が描かれていた。
剣を持つ、一人の男。
その背後には――。
「……龍?」
長い身体。
巨大な角。
空を泳ぐような姿をした、蒼い龍。
「青の勇者と……龍?」
「そんな伝承、聞いたことある?」
「ない」
「僕も」
何度も聞いた《五大勇者》の英雄譚。
でも。
青の勇者が龍を従えていたなんて話は、一度も聞いたことがない。
壁画の中で。
勇者と龍は、並ぶように描かれていた。
◇ ◇ ◇
さらに奥へ進む。
俺たちが近づくたびに、壁の青い光が一つずつ灯っていった。
「……案内されてるみたいだな」
「僕もそう思ってた」
「嫌な感じは?」
「それを聞こうと思ってた」
「罠とか?」
「うん」
俺は左胸へ触れる。
痣はずっと熱を持っている。
「痛くはない」
「ならいいけど」
「むしろ……」
俺は少し考える。
「懐かしい」
ハリトが俺を見る。
「……懐かしい?」
「変だよな。初めて来た場所なのに」
「うん。変だね」
「そこは否定してくれよ!」
「だって変だし」
「そうだけど!」
知っているような。
知らない。
でも、どこか帰ってきたような。
そんな奇妙な感覚。
その時だった。
「……っ!」
突然、何かが頭の中へ流れ込んできた。
青い空。
風を切る剣。
誰かの背中。
その向こうに――。
赤。
「ニール?」
「……!」
消えた。
一瞬だった。
「どうした?」
「今……何か見えた」
「何が?」
「分からない」
夢みたいだった。
思い出そうとしても、輪郭が崩れていく。
青い空。
剣。
誰か。
そして。
「……赤?」
「赤?」
「いや……何でもない」
本当に、分からない。
「大丈夫?」
「うん」
俺は頭を振った。
「進もう」
◇ ◇ ◇
やがて、俺たちは巨大な扉の前へ辿り着いた。
「…………」
今までとは明らかに違う。
俺たちの何倍もの高さがある巨大な扉。
中央には青い紋章。
その周囲には、龍のような模様が刻まれている。
――ドクン。
――ドクン。
――ドクン。
「ニール」
「うん」
「たぶん」
「分かってる」
俺が開ける。
いや。
俺に開けさせようとしている。
たぶん、そういうことだ。
俺は扉へ近づいた。
「……触るぞ」
「今度は止めないよ」
「珍しい」
「ここまで来たからね。でも何かあったら、すぐ離れて」
「分かった」
右手を、青い紋章へ置く。
瞬間。
視界が青に染まった。
「うわっ!」
「ニール!」
眩しい。
青い光が右腕を走り、そのまま胸の痣へ流れ込んでくる。
「熱っ……!」
痛くはない。
でも、熱い。
そして。
頭の中へ、無機質な何かが流れ込んできた。
《候補者――確認》
《魂紋照合――開始》
「……まただ」
「聞こえるの?」
「うん」
「僕には?」
「たぶん聞こえてない」
ハリトには聞こえていない。
俺にだけ。
言葉ではない何かが、意味となって伝わってくる。
《魂紋――適合》
《青系統――認証》
《第一認証――完了》
ゴゴゴゴゴゴ……。
「開く……!」
巨大な扉が、ゆっくりと左右へ開いていく。
その向こうには、暗闇が広がっていた。
「…………」
何も見えない。
いや。
一つだけ。
部屋の中央。
青い光がある。
「何だ……あれ」
台座だ。
その上に、何かが置かれている。
俺たちは慎重に中へ入った。
◇ ◇ ◇
それは、剣ではなかった。
鎧でもない。
「……何だ、これ?」
腰に巻くもの……だろうか。
金属のような素材で作られ、中央には青い宝石のようなものが埋め込まれている。
見たことのない装具。
「魔道具?」
ハリトが呟く。
「分からない」
でも。
俺には分かった。
これだ。
俺を呼んでいたのは――これだ。
一歩、近づく。
《青の候補者――確認》
「……!」
中央の青い部分が光った。
《魂紋――一致》
《勇者装具――認証待機》
「勇者……装具?」
「何?」
「今、そう聞こえた」
勇者。
その言葉に、心臓が大きく鳴った。
壁画。
五つの色。
青の勇者。
俺の胸にある青い痣。
そして。
目の前にある、青の《勇者装具》。
「まさか……」
俺が手を伸ばそうとした、その時。
ズ……ン。
「…………え?」
床が揺れた。
ズ……ン。
今度は、もっと大きく。
「ニール」
「うん」
「後ろ」
「……うん」
見たくない。
ものすごく見たくない。
でも。
ゆっくりと振り返った。
暗闇の中。
二つの巨大な青い光が灯っていた。
「…………」
「…………」
目だ。
「でか……」
次の瞬間。
部屋中の青い光が一斉に灯った。
「……!」
暗闇の奥から、その全貌が姿を現していく。
巨大な頭部。
長い角。
地を這うように続く、長大な身体。
その表面を覆うのは、鱗――。
いや。
「……金属?」
生き物の鱗とは、どこか違う。
石とも違う。
青黒い外殻。
その隙間を、淡い蒼光が走っている。
「龍……なのか?」
壁画を思い出す。
青の勇者。
その背後に描かれていた、巨大な蒼龍。
同じだ。
目の前にいる。
でも。
本当に龍なのか?
魔物なのか?
魔道具なのか?
俺には分からない。
ただ、一つだけ分かる。
あいつは――俺を見ている。
《青の候補者――確認》
今度は。
「……ハリト?」
「うん」
ハリトの顔が強張る。
「僕にも聞こえた」
頭の中じゃない。
巨大な空間そのものが震えるような声だった。
蒼い龍が、ゆっくりと身体を起こす。
『――継承資格ヲ、確認スル』
「継承……?」
俺は台座の上の《勇者装具》を見る。
蒼龍の瞳が、俺を捉えた。
『――候補者ニ問ウ』
「…………」
『――力ヲ、望ムカ』
「力……?」
『――勇者ノ力ヲ』
「…………!」
勇者。
やっぱり。
聞き間違いじゃない。
俺は、もう一度青い装具を見る。
「俺が……」
青い装具。
巨大な蒼龍。
《五大勇者》の紋章。
そして、俺の胸にある青い痣。
「……青の勇者?」
蒼龍は答えない。
代わりに、その巨大な身体をさらに起こした。
『――資格ヲ、示セ』
青い光が部屋を満たしていく。
俺は反射的に、父さんからもらった剣の柄へ手をかけた。
戦うのか?
こいつと?
こんな巨大な龍と?
無理だろ。
どう考えても無理だ。
でも。
逃げ道はない。
「……やるしかないか」
俺は剣を抜いた。
その時。
『――候補者ニ問ウ』
「え?」
蒼龍は動かなかった。
襲ってもこない。
ただ、その蒼い瞳で俺を見ている。
そして。
『――仲間ヲ捨テ、独リデ進ム覚悟ハアルカ』
「…………え?」
一瞬。
意味が分からなかった。
俺は隣を見る。
ハリトがいる。
子どもの頃から。
ずっと一緒に冒険してきた。
今日だって、ここまで一緒に来た。
「仲間を……捨てる?」
『――然リ』
「…………」
俺は剣を握ったまま、蒼龍を見上げた。
力を望むか。
勇者になりたいか。
そう聞かれると思っていた。
強さを示せ。
戦え。
そう言われると思っていた。
でも。
最初に問われたのは――。
仲間を捨てられるか。
だった。
俺はもう一度、ハリトを見る。
そして。
なぜか。
少しだけ腹が立った。
「……何だよ、それ」
試練は。
戦いが始まるより先に――。
もう、始まっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに登場しました。
青の《勇者装具》。
ニールの胸にある青い痣、《五大勇者》の壁画、青の勇者と共に描かれた蒼い龍。
これまで点々と置かれていた「青」が、少しずつ一つにつながり始めています。
そして今回、ニールが問われたのは――
『――仲間ヲ捨テ、独リデ進ム覚悟ハアルカ』
勇者になるなら、強くなればいい。
巨大な敵を倒せばいい。
そんな試練を想像していたニールに突きつけられたのは、まったく別の問いでした。
勇者とは、何なのか。
そしてニールは、何のために剣を取るのか。
ここから始まる試練は、ニールの「強さ」だけを試すものではありません。
次回、ニールが出す答えとは――。
続きが気になった方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




