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第二十話『広がる世界』(改訂版 ver.1.01)

二つ星になったニールたち。


受けられる依頼が増え、行ける場所が増え、それぞれの冒険も少しずつ広がっていきます。


同じ昇格試験を乗り越えたミーナ、セラ、オルド、カイルも、それぞれ自分に合った次の依頼へ。


そしてニールにも、ずっと気になっていた一枚の依頼書がありました。


その行き先は――《蒼天遺跡》周辺。


幼い頃には「まだ早い」と告げられた場所へ。


今度は冒険者として、もう一度向かいます。


楽しんでいただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

 二つ星になった。


 昨日まで一つだった星が。


 二つになった。


 つまり。


「ハリト」


「何?」


「俺たち、もう新人じゃないんじゃない?」


「新人だよ」


「即答!?」


 二つ星昇格試験の結果が出てから、二日。


 俺とハリトは、冒険者ギルドの依頼掲示板の前に立っていた。


「だって二つ星だぞ?」


「うん」


「一つ星が新人だろ?」


「誰が決めたの?」


「俺」


「じゃあ違う」


「早い!」


 俺は腰からギルドプレートを取り出す。


 そこには。


 ちゃんと二つ。


 星が並んでいる。


「見ろ!」


「昨日から何回見せるの?」


「二つ星!」


「知ってる」


「いいだろ、別に!」


「嬉しいのは分かったから、そろそろしまった方がいいよ」


「何で?」


「落としそう」


「…………」


 俺は素直にしまった。


 なくしたら泣く。


「でもさ」


 改めて。


 掲示板を見る。


「本当に増えたな」


「うん」


 今まで俺たちが見ていたのは、一つ星向けの依頼だけだった。


 街の手伝い。


 簡単な採取。


 近場の調査。


 危険度の低い魔物への対応。


 それが今は。


「護衛依頼……」


 隣町まで商人を護衛。


「採取……」


 リーヴェル北部の森で薬草採取。


「魔物討伐……」


 危険度二の魔物。


「おお……!」


 行ける場所が増えてる。


 仕事の種類も増えてる。


 それに。


「報酬も増えてる!」


「そこ?」


「大事だろ!」


「否定はしない」


 二つ星。


 ただ、プレートの星が増えただけじゃない。


 俺たちに。


 少しだけ。


 任せてもらえる仕事が増えた。


「……冒険者っぽくなってきたな」


「最初から冒険者だよ」


「そういう意味じゃない!」


 なんていうか。


 世界が。


 少しだけ広くなった。


 そんな感じがした。


 そして。


 俺には。


 二日前からずっと気になっている依頼がある。


 掲示板の端。


 一枚の調査依頼。


 《蒼天遺跡》周辺。


 昇格した日に見つけた。


 あの依頼。


 今日は。


 それを受けるつもりで来た。


 ――はずだった。


「ハリト!」


「何?」


「こっちの護衛も面白そう!」


「…………」


「この討伐も!」


「…………」


「薬草採取も――」


「ニール」


「何?」


「蒼天遺跡は?」


「…………」


「忘れてた?」


「忘れてない!」


 ちょっと目移りしただけだ。


     ◇


「いた!」


「うわっ!」


 突然。


 後ろから声がした。


 振り返る。


「二つ星同期!」


 ミーナだった。


「その呼び方、まだ使うの!?」


「いいじゃん。二つ星同期」


 ミーナの腰にも。


 二つの星が刻まれたプレート。


「何してるの?」


「依頼探し」


「見れば分かるよ」


「最近みんな俺に厳しくない?」


「前からじゃない?」


「お前まで!」


 ミーナが笑う。


「ミーナは?」


「私はこれ!」


 見せてきたのは。


 《二つ星・採取依頼》。


 森に生える薬草と木の実の採取。


「採取?」


「うん」


「もっとこう、魔物探したりしないの?」


「なんで?」


「いや、ミーナって索敵得意だったから」


「だからだよ」


「え?」


「必要なものを見つけるのも、索敵でしょ?」


「…………」


 なるほど。


「魔物だけ見つけられても、お金にならないし」


「急に現実的!」


「冒険者だもん」


 そう言って。


 ミーナがニヤッと笑った。


「それに、戦わなくて済むなら楽じゃん」


「それはそう」


 ロックリザードの一件で。


 俺たちは嫌というほど学んだ。


「一人で行くの?」


「途中で他の人と合流するよ」


「そっか」


「何?」


「いや」


 昨日まで一緒に試験を受けていたのに。


 今日は。


 もう別の冒険へ行くんだな。


「じゃ、行ってくる!」


「おう!」


「またね、二つ星同期!」


「だからその名前――」


 ミーナが数歩進んで。


 振り返った。


「ニール!」


「何?」


「今度、面白そうな依頼あったら誘ってよ!」


「おう!」


「ハリトも!」


「僕はついで?」


「二人セットでしょ?」


「誰がセットだ!」


「行ってきまーす!」


 ミーナは笑いながらギルドを出ていった。


「……元気だな」


「ニールと似てる」


「俺、あんな感じ?」


「だいぶ」


「知らなかった……」


     ◇


「あら」


 次に会ったのは。


 セラだった。


「おはよう」


「おはよう」


「やっと敬語やめたのね」


「ラト村で怒られたから」


「怒ってない」


「怖かった」


「怒るわよ」


「ほら!」


 セラは呆れたように息を吐いた。


 手には何枚かの依頼書。


「セラも依頼?」


「ええ。魔術素材の調査」


「やっぱり魔法関係なんだ」


「せっかく得意なものがあるんだから、使わない理由ないでしょ」


「確かに」


 セラが依頼書をまとめる。


 それから。


 思い出したように俺を見る。


「そういえばニール」


「何?」


「昨日の話なんだけど」


「昨日?」


「ラト村で話したでしょ。あなたの水魔法」


「ああ」


 結局。


 食事のあと。


 結構長いこと質問された。


「やっぱり変よ」


「何が!?」


「誰にも習わずに《水球》まで使えてること」


「使えるんだからいいだろ?」


「よくない」


「また!?」


「あなた、自分がどうやって魔力を動かしてるのか説明できる?」


「……なんとなく?」


「ほら」


「なんとなくで出るんだから仕方ないだろ!」


「だから危ないって言ってるの」


 セラは額を押さえる。


「魔力循環も知らない。術式構築も知らない。属性接続も知らない」


「三つとも知らない!」


「威張らないで!」


 ハリトが横で笑っている。


「笑うな!」


「でも、僕もセラに賛成かな」


「お前まで!」


「ニールは感覚でやりすぎなんだよ」


「できてるからいいじゃん!」


「今はね」


 セラが言った。


「今は?」


「もっと難しい魔法を使おうとした時、それじゃたぶん詰まる」


「…………」


 それは。


 ちょっと困る。


「だから」


 セラが続ける。


「王都へ行くことがあったら、魔法学校を見てみるといいわ」


「魔法学校……」


「魔法を使える人が、魔法を学ぶ場所」


「俺も入れるの?」


「知らない」


「知らないの!?」


「入学条件まで全部覚えてないわよ!」


「なんだよ!」


「でも」


 セラが俺を見る。


「あなた、一度ちゃんと基礎から勉強した方がいいと思う」


「そんなに?」


「そんなに」


 魔法学校。


 王都。


 今の俺には。


 まだ遠い場所。


 でも。


「……ちょっと面白そうだな」


「でしょ?」


 セラが笑った。


「行くことになったら教えて。私も興味あるから」


「セラも?」


「当たり前でしょ」


 その目が。


 ちょっとだけ。


 いつもより輝いた気がした。


「魔法って、まだ分からないことだらけなんだから」


「へえ……」


「何?」


「セラ、魔法の話になると楽しそうだな」


「悪い?」


「いや」


 俺は笑う。


「俺も冒険の話してる時、そんな感じかも」


「……一緒にしないで」


「何で!?」


「じゃあ、また」


「おう!」


 セラは受付へ向かっていった。


 魔法学校。


 王都。


 知らない魔法。


 知らない知識。


 また一つ。


 行ってみたい場所が増えた。


     ◇


「お」


 今度は。


「ニール。ハリト」


「オルド!」


 大きな盾を背負ったオルドが歩いてきた。


「何か依頼?」


「ああ。商隊の護衛だ」


「護衛!」


「隣町までだけどな」


「一人?」


「三人組だ。向こうで待ってる」


 オルドが笑う。


「昨日まで受けられなかった仕事だからな」


「……やっぱ嬉しい?」


「まあな」


 オルドも。


 少し嬉しそうだった。


「二つ星になった実感はある」


「だよな!」


「ニールは分かりやすいな」


「また言われた!」


「何が?」


「もういい!」


 オルドが笑う。


「じゃあ、またな」


「おう!」


「今度組むことがあったら、よろしく」


「もちろん!」


 オルドも出ていく。


 ミーナ。


 セラ。


 オルド。


 みんな。


 それぞれ別の依頼へ向かっていく。


「なんか」


 俺は言った。


「不思議だな」


「何が?」


「一昨日まで、一緒に試験受けてたのに」


「うん」


「今日はみんな別々なんだな」


「冒険者だからね」


「……そっか」


 俺たちには。


 俺たちの冒険がある。


 ミーナにはミーナの。


 セラにはセラの。


 オルドにはオルドの。


 同じ試験を受けたからって。


 ずっと一緒にいるわけじゃない。


 でも。


 また会える。


 時々。


 一緒に仕事をすることだってあるかもしれない。


 そういうのも。


 なんか。


 いいな。


     ◇


「おい」


「ん?」


 今度は。


 向こうから呼ばれた。


「いつまで掲示板の前をうろうろしてるんだ?」


「カイル!」


「邪魔だぞ」


「第一声それ!?」


 槍を背負ったカイル。


 腰には。


 俺たちと同じ。


 二つ星のプレート。


「カイルも依頼?」


「当たり前だ」


「何受けるの?」


「これ」


 見せてきたのは。


 街道周辺の魔物討伐。


「討伐か!」


「ああ」


「やっぱりカイルっぽいな」


「どういう意味だ?」


「強そうなのと戦ってそう」


「お前は俺を何だと思ってる?」


「槍で何でも倒す奴」


「昨日の話を聞いてたのか?」


「聞いてたよ!」


「なら言うな」


 そう言いながら。


 カイルは少し笑った。


「一人?」


「いや」


「お?」


「二人、組む」


「へえ!」


「何だ、その顔」


「いや」


 俺はニヤッとする。


「任せる練習?」


「…………」


「レイヴさんに言われたもんな」


「ニール」


「何?」


「一回黙れ」


「図星だ!」


「違う」


「顔に出てる!」


「出てない」


 でも。


 カイルは。


 前より少しだけ。


 楽しそうだった。


「どんな人と組むの?」


「剣士と斥候」


「へえ」


「俺にないものを持ってる奴にした」


「…………」


 俺はカイルを見る。


「何だ?」


「いや」


「言いたいことがあるなら言え」


「ちゃんと考えてるんだな」


「殴るぞ」


「何で!?」


「俺を何だと思ってる」


「LEVEL八」


「そこだけ切り取るな」


 そうだ。


 こいつ。


 俺よりずっとLEVELが高い。


 なのに。


 昨日。


 レイヴさんに。


 俺たちと同じように課題を指摘された。


「なあ、カイル」


「何だ?」


「俺も強くなれるかな」


「知らん」


「即答!?」


「ただ」


 カイルが俺を見る。


「お前、LEVEL二なんだろ?」


「……そうだけど」


「なら、まず上げろ」


「簡単に言うなよ!」


「俺は八だ」


「知ってるよ!」


「追いついてみろ」


「…………」


 なんだ。


 それ。


「言ったな?」


「ああ」


「絶対追いつくからな!」


「やってみろ」


「抜いてやる!」


「それは無理だ」


「何でだよ!」


「俺も上がるからだ」


「くっそおおお!」


 カイルが笑った。


「じゃあな、LEVEL二」


「覚えてろよ、LEVEL八!」


「その呼び方やめろ」


「お前が始めたんだろ!」


 カイルは片手を上げ。


 ギルドを出ていった。


「……あいつ」


「気に入った?」


 ハリトが言う。


「まあな」


「似た者同士だしね」


「どこが!?」


「負けず嫌い」


「…………」


 否定できなかった。


     ◇


「さて」


 俺たちは。


 もう一度。


 二つ星の掲示板へ戻った。


「で」


 ハリトが言う。


「結局、どうするの?」


「…………」


 護衛。


 採取。


 討伐。


 調査。


 さっきまで。


 全部面白そうに見えていた。


 いや。


 今も面白そうだ。


 ミーナは。


 得意な索敵を活かして採取へ。


 セラは。


 魔法の知識を活かして魔術素材の調査へ。


 オルドは。


 盾を活かして護衛へ。


 カイルは。


 槍を持って討伐へ。


 みんな。


 自分の得意なものを持って。


 それぞれの冒険へ向かった。


「俺は……」


 何がしたい?


 何が得意?


 まだ。


 よく分からない。


 剣だって。


 強くない。


 魔法だって。


 セラに言わせれば。


 基礎すら知らない。


 LEVELだって。


 まだ二。


 でも。


 一つだけ。


 ずっと。


 気になっている場所がある。


 俺は。


 掲示板の端を見る。


 そこには。


 二日前から。


 一枚の依頼書が貼られている。


 《二つ星・調査依頼》


 リーヴェル北東部における魔物分布の調査。


 最近。


 この地域で。


 複数の魔物の生息域に変化が見られるという。


「西の森でもあったよね」


 ハリトが言った。


「うん」


 アースボア。


 本来なら。


 あんな浅い場所には来ない魔物。


 あの時は。


 何かから逃げていた。


 今回も。


 同じなのか。


 それとも。


 違う何かなのか。


 調査対象地域。


 そこには。


 俺がずっと知っている名前がある。


 《蒼天遺跡》周辺。


 ドクン。


「……っ」


「ニール?」


 左胸。


 服の下。


 青い痣が。


 熱を持つ。


 あの日。


 この依頼を初めて見た時と同じ。


 いや。


 それ以上に。


 何かに。


 呼ばれているような。


 そんな感覚。


「ハリト」


「何?」


「やっぱり」


 俺は。


 その依頼書へ手を伸ばした。


「これにする」


 ハリトは。


 依頼書を見る。


「蒼天遺跡」


「うん」


「だと思った」


「何だよ」


「二日前からずっと気にしてたから」


「分かってたの?」


「分かるよ」


 ハリトも。


 あそこへ行ったことがある。


 子どもの頃。


 二人で。


 父さんに止められていたのに。


 こっそり。


 遺跡の中へ入った。


 地下で見た。


 青い光。


 意味の分からない文字。


 開かなかった扉。


 そして。


 あの声。


『――まだ早い』


「……今なら」


 俺は言った。


「行ってもいいんだよな」


「周辺調査だからね」


「分かってる!」


「遺跡そのものを調べる依頼じゃない」


「分かってるって!」


「勝手に奥へ入ったら駄目だからね」


「何で三回言うんだよ!」


「ニールだから」


「信用がない!」


「あるよ」


「本当?」


「勝手に遺跡へ入らない程度には、まだない」


「ないんじゃねえか!」


 でも。


 俺は笑っていた。


 子どもの頃。


 行くなと言われた場所だった。


 何も知らなくて。


 何もできなくて。


 ただ。


 気になったから入った。


 でも。


 今は違う。


 十五歳になった。


 冒険者になった。


 LEVELも。


 一から二になった。


 そして。


 二つ星になった。


 これは。


 ちゃんとした依頼だ。


「行こう」


 俺は依頼書を掲示板から取る。


「《蒼天遺跡》へ」


「周辺ね」


「分かってるって!」


 ハリトと一緒に。


 受付へ向かう。


 胸の奥が。


 妙に騒がしい。


 懐かしいような。


 怖いような。


 それでも。


 行きたい。


 あの場所へ。


 もう一度。


 この時の俺は。


 まだ知らなかった。


 《蒼天遺跡》へ向かう前に。


 俺たちが。


 一人の旅人と出会うことを。


 銀色の髪。


 少し尖った耳。


 柔らかな光の魔法。


 丁寧な言葉遣い。


 そして。


 その丁寧さからは想像できないくらい。


 容赦のない一言を。


 平然と投げてくる――。


 そんな。


 少し変わった旅人と。


 出会うことを。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、二つ星になったことでニールたちの世界が一気に広がっていく回でした。


そして個人的に描きたかったのが、昇格試験を一緒に乗り越えた六人のその後です。


ミーナは索敵能力を活かして採取へ。

セラは魔法の知識を活かして魔術素材の調査へ。

オルドは盾を活かして護衛へ。

カイルは仲間と組んで討伐へ。


ずっと同じパーティーではない。


それぞれに、それぞれの冒険がある。


でも、またギルドで会ったり、ときには一緒に依頼を受けたりする。


そんな「同期の冒険者」らしい関係も、これから少しずつ描いていきたいと思っています。


そしてセラから出てきた「魔法学校」という言葉。


感覚だけで《水球》を使っているニールですが、どうやら魔法には彼の知らない世界がまだまだありそうです。


いつか王都へ行くことがあれば――その辺りも、きっと大きな冒険になるはず。


しかし、その前に。


ニールが選んだ次の依頼は、


《蒼天遺跡》周辺の調査。


子どもの頃、ハリトと二人で忍び込み、開くことのできなかった扉。


『――まだ早い』


あの言葉から八年。


十五歳になり、冒険者になり、二つ星になったニールは、再びあの場所へ向かいます。


ただし――その前に。


どうやら、少し変わった旅人との出会いが待っているようです。


銀色の髪。

少し尖った耳。

光の魔法。

丁寧な言葉遣い。


果たして何者なのか。


次回も楽しんでいただけたら、ぜひブックマーク・評価で応援よろしくお願いします!

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