第十九話『二つ目の星』(改訂版 ver.1.01)
二つ星昇格試験を終えた六人。
ロックリザードとの戦闘、戦わないという選択、壊れた橋、そしてラト村への護送。
レイヴは、そんな六人の何を見ていたのでしょうか。
強さだけでは決まらない冒険者の評価。
それぞれが指摘される長所と課題、そしてついに――結果発表です。
果たして、六人は二つ目の星を手にすることができるのか。
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眠れなかった。
いや。
寝た。
寝たんだけど。
たぶん、いつもの半分くらいしか寝てない。
「早すぎた」
「…………」
「ニール」
「何?」
「昨日と同じことしてるよ」
「仕方ないだろ!」
二つ星昇格試験。
結果発表の朝。
俺とハリトは――。
また一時間前にギルドへ来ていた。
「昨日は試験に遅れたくないからって言ってたよね」
「今日は結果発表に遅れたくない」
「結果は逃げないよ」
「分かんないだろ!」
「逃げる結果って何?」
「知らない!」
自分でも何を言ってるのか分からない。
腰に下げたギルドプレートを見る。
そこに刻まれている星は。
まだ一つ。
「…………」
昨日も見た。
何度も見た。
だけど。
今日。
これが変わるかもしれない。
「なあ、ハリト」
「何?」
「落ちてたらどうする?」
「また受ける」
「……普通だな」
「他に何するの?」
「もっとこう、悔しがるとか」
「落ちてから考える」
「強いな、お前」
「ニールが考えすぎなんだよ」
そうかもしれない。
でも。
二つ星になりたい。
もちろん、《蒼天遺跡》へ近づきたいのもある。
受けられる依頼も増える。
行ける場所も増える。
だけど。
昨日一日を経験して。
少しだけ。
別の意味も増えた。
二つ星。
それは。
ただ、一つ星より強い冒険者になるってことじゃない。
誰かに。
もう少し大きな仕事を任せてもらえる冒険者になるってことだ。
◇
「おはようございます!」
ギルドへ入る。
「おはようございます」
エマさんが受付から顔を上げた。
時計を見る。
そして。
「……またですか」
「何がですか!?」
「いえ」
絶対、一時間前って言いたかった。
「他の皆さんはまだですよ」
「知ってます!」
「では、待っていてください」
「結果だけ先に――」
「駄目です」
「まだ最後まで言ってない!」
「結果だけ先に教えてください、ですよね?」
「……はい」
「駄目です」
「ですよね!」
ハリトがさっさと椅子へ座る。
「だから言っただろ」
「もしかしたらエマさんなら教えてくれるかなって」
「私も知りませんよ」
「え?」
「最終判断をするのは試験官ですから」
レイヴさん。
昨日。
ずっと俺たちを見ていた。
眠そうな顔で。
何を考えていたのか。
ほとんど分からなかった。
「……緊張してきた」
「今?」
「今」
◇
しばらくすると。
オルド。
セラ。
ミーナ。
カイル。
順番に集まってきた。
「おはよー!」
ミーナだけ妙に元気だ。
「ミーナ、緊張しないの?」
「するよ?」
「見えない」
「ニールが緊張しすぎなんじゃない?」
「二人目!」
「何が?」
「今日それ言った人!」
「じゃあ私で三人目」
セラが言った。
「増えた!」
「朝から元気だな」
オルドまで笑っている。
カイルだけは壁にもたれ、黙っていた。
「カイル」
「何だ?」
「緊張してる?」
「してない」
「嘘だ」
「してない」
「顔硬いぞ」
「元からだ」
「確かに」
「ニール」
「はい」
「殴るぞ」
「緊張してるじゃん!」
「元気だな、お前ら」
聞き覚えのある声。
振り返る。
ぼさっとした髪。
無精ひげ。
眠そうな目。
「レイヴさん!」
「朝から声でけえな」
「結果!」
「挨拶より先にそれか?」
「あっ」
「おはようございます!」
「二回言わなくていい」
レイヴさんが奥の部屋を指した。
「来い」
◇
小さな会議室。
俺たち六人が並ぶ。
正面にはレイヴさん。
その横にエマさん。
机の上には。
六枚のギルドプレート。
俺たちのものだ。
「さて」
レイヴさんが椅子に座る。
「昨日の二つ星昇格試験について、結果を伝える」
ごくり。
誰かが唾を飲み込んだ。
俺かもしれない。
「その前に」
「まだあるんですか!?」
「ある」
「早く結果聞きたい!」
「だから黙って聞け」
「はい」
レイヴさんは俺たち六人を見回した。
「昨日、お前らにはラト村まで薬草と治療薬を運んでもらった」
ぬかるみ。
ロックリザード。
巣。
迂回路。
古い橋。
昨日のことなのに。
なんだか、ずっと前のことみたいに感じる。
「俺が見てたのは、魔物を何体倒したかじゃない」
レイヴさんが言う。
「準備。歩き方。周囲への注意。仲間との距離。休憩の取り方。予想外のことが起きた時、どうするか」
一つずつ。
指を折る。
「知らないことを、知らないと言えるか。誰かが間違えた時、どう補うか。そして――」
俺たちを見る。
「依頼の目的を忘れないか」
昨日。
ロックリザードの巣の前で。
俺たちは一度。
忘れかけた。
「一人ずついくぞ。まず、ミーナ」
「はい!」
「索敵能力は十分」
ミーナの獣耳が、ぴんと立つ。
「お前が先に気づいたことで避けられた危険もあった」
「はい!」
「ただし」
耳が少し下がった。
「気づいた情報は、もっと早く言葉にしろ」
「……はい」
「お前だけ分かってても、仲間には分からん。耳と鼻は優秀だ。でもパーティーで仕事するなら、口も使え」
「はい!」
また耳が立った。
分かりやすいな。
「セラ」
「はい」
「魔法の使い方は悪くない。特にロックリザードとの戦闘だ。倒すためだけじゃなく、敵の体勢や位置を動かすために使った」
セラが小さく頷く。
「ただ、お前は魔法で解決できると分かると、そっちから考える癖がある」
「…………」
「魔力で解決できることと、魔力で解決すべきことは違う」
「……はい」
「仕事はその場を切り抜ければ終わりじゃない。帰りの分まで残しとけ」
「分かりました」
「オルド」
「はい」
「お前は安定してる」
「ありがとうございます」
「装備もいい。盾の扱いもいい。無茶もしない」
おお。
めちゃくちゃ褒められてる。
「ただし、黙りすぎる」
「……そうですか?」
「分かってることを、自分の中だけで処理する癖がある。盾役がどこを守るのか、どこへ敵を流すつもりなのか。それが分かれば、後ろはもっと動きやすい」
「……なるほど」
「守るなら、守り方まで伝えろ」
「はい」
「ハリト」
「はい」
「よく見えてる」
短い。
「以上」
「えっ!?」
俺が声を上げた。
「短くないですか!?」
「ニールの評価じゃない」
「すみません」
「……ただし」
レイヴさんはハリトを見る。
「見えすぎる奴の悪い癖もある」
ハリトの表情が。
少し変わった。
「何でも一歩引いて考える」
「…………」
「自分が前に出るより、他人を動かした方がいいと思ってる」
「それは……」
「悪いとは言ってない」
レイヴさんが言う。
「でもな」
少しだけ間を置く。
「お前自身が決めなきゃいけない時も来る」
「…………」
ハリトはしばらく黙っていた。
「……はい」
いつもの軽い返事じゃなかった。
俺は横を見る。
ハリトは前を向いている。
「次。ニール」
「はい!」
「うるさい」
「まだ何もしてない!」
「返事がうるさい」
「どうすればいいんですか!?」
「普通にしろ」
「はい……」
「お前は」
レイヴさんが俺を見る。
「この六人の中じゃ、戦闘能力は低い」
「ぐっ」
分かってる。
分かってるけど。
直接言われると刺さる。
「判断も早くない」
「ぐぐっ」
「考える前に動く」
「ぐぐぐっ」
「周りが見えなくなる」
「もうやめてください!」
隣でミーナが笑いを堪えている。
絶対あとで覚えてろ。
「でも」
レイヴさんが言った。
「分からなくなった時、一度戻れる」
「……戻る?」
「何のための仕事なのか、ってところにな」
俺は顔を上げた。
「ロックリザードを倒すかどうかで迷った時、お前は馬車を見た」
「…………」
「橋でもそうだ。何が使えるか探した」
「……はい」
俺は別に。
正解を知っていたわけじゃない。
すごいことをしたつもりもない。
ただ。
分からなかったから。
最初に戻った。
「迷った時に、何のための仕事なのかに戻れる。それは冒険者に必要な力だ」
「……はい」
なんだろう。
ちょっと。
嬉しい。
「ただし、無茶するな」
「はい」
「人の話を聞け」
「はい」
「突っ込む前に一回考えろ」
「はい」
「返事だけはいいな」
「はい!」
「うるさい」
「理不尽!」
笑いが起きた。
「最後。カイル」
「はい」
「お前は強い」
「……はい」
「この六人で一対一なら、おそらくお前が一番だ」
俺もそう思う。
槍の扱い。
動き。
判断の速さ。
ロックリザードとの戦いでも。
明らかに俺より強かった。
「役割を決める時も、お前が最初に動いた。状況判断も悪くない」
「はい」
「ただし」
レイヴさんが続ける。
「自分でやろうとしすぎる」
カイルの眉が動いた。
「前に出る。敵を倒す。判断する。仲間に指示する。全部、自分が一番できると思ってる」
「……それの何が悪いんですか?」
カイルが少し強い口調で言った。
「できる奴がやる。それが一番確実でしょう」
「そうだな」
レイヴさんは否定しなかった。
「一人なら」
「…………」
「でも昨日は六人だった」
静かになる。
「ミーナにしか分からないことがあった。ハリトにしか見つけられないものがあった。セラの魔法が必要な場面があった。オルドの盾が必要だった」
そして。
俺を見る。
「ニールが仕事の目的に戻したから、戦わない選択もできた」
カイルは何も言わない。
「お前一人で全部できたか?」
「…………」
「強い奴が全部やるのは、信用じゃない」
レイヴさんが言った。
「任せられるのも、強さだ」
カイルは拳を握った。
しばらくして。
「……はい」
それだけ答えた。
◇
「では」
レイヴさんが六枚のプレートへ手を置く。
来た。
心臓が跳ねる。
「結果を発表する」
誰も喋らない。
「ミーナ・フェル」
「はい!」
「合格」
「っしゃあ!」
「静かにしろ」
「はい!」
「セラ・ミルフィ」
「はい」
「合格」
「……ありがとうございます」
セラが小さく息を吐く。
「オルド・バッシュ」
「はい」
「合格」
「ありがとうございます」
オルドが静かに笑った。
「ハリト・ヴェール」
「はい」
「合格」
「ありがとうございます」
ハリト。
合格。
よし。
そして。
「ニール・レイン」
「は、はい!」
レイヴさんが。
俺を見る。
「…………」
「…………」
「…………」
「長くないですか!?」
「面白くて」
「遊ばないでくださいよ!」
レイヴさんが笑う。
「合格」
「…………」
一瞬。
頭が止まった。
「え?」
「聞こえなかったか?」
「いや……」
「合格だ」
「…………」
そして。
「よっしゃあああああああ!!」
「うるさい!」
全員から言われた。
でも。
今だけはいいだろ。
「ハリト!」
「何?」
「二つ星だ!」
「聞いてたよ」
「俺たち二つ星だぞ!」
「うん」
「もっと喜べよ!」
「僕も嬉しいよ」
「顔!」
「これが嬉しい顔」
「分かりづらい!」
だけど。
まだ。
一人。
名前を呼ばれていない。
俺はカイルを見る。
カイルも。
まっすぐレイヴさんを見ていた。
「カイル・ローデン」
「はい」
少しだけ。
間があった。
「合格」
「…………」
カイルは。
すぐには返事をしなかった。
「ただし」
レイヴさんが続ける。
「六人の中で、一番危なかったのはお前だ」
「……はい」
「強さは十分。むしろ二つ星としてはかなり強い」
「はい」
「だからこそ覚えろ」
レイヴさんがカイルを見る。
「自分より上手い奴がいたら任せろ。自分にできないことは認めろ」
「…………」
「一人で全部できる必要なんかない」
カイルは。
少しだけ視線を落とした。
そして。
「……分かりました」
「次も同じことをやったら?」
「その時は落としてください」
「言ったな?」
「はい」
レイヴさんが笑った。
「なら、合格だ」
「……ありがとうございます」
六人。
全員。
合格。
昨日の朝。
たまたま同じ場所に集められただけだった六人が。
今日。
同じ二つ目の星を手に入れた。
◇
「お待たせしました」
受付。
エマさんが更新されたギルドプレートを返していく。
「ミーナさん」
「はい!」
二つの星。
「セラさん」
「ありがとうございます」
二つの星。
「オルドさん」
「どうも」
二つの星。
「カイルさん」
「ありがとうございます」
二つの星。
「ハリトさん」
「ありがとうございます」
二つの星。
そして。
「ニールさん」
「はい!」
手渡された。
自分のギルドプレート。
見る。
そこには。
昨日まで一つだった星が。
二つ。
並んでいる。
「…………」
本当に。
増えてる。
「ハリト」
「何?」
「二つ星だ」
「見れば分かる」
「俺、二つ星だぞ!」
「さっきも聞いた」
「でも二つ星だぞ!」
「うん」
「もっと喜べよ!」
「僕も嬉しいって言っただろ」
「顔!」
「これが嬉しい顔」
「分かりづらい!」
「二つ星くらいで騒ぐな」
後ろからレイヴさん。
「初めてなんです!」
「……そうか」
レイヴさんが少しだけ笑う。
「じゃあ今日は、騒いどけ」
「はい!」
「うるせえ」
「どっち!?」
ミーナが横から俺のプレートを覗き込んだ。
「これで星は一緒だね」
「おう!」
「でもLEVELは私の方が上」
「まだ言うの!?」
「LEVEL三の先輩ですから」
「星は同じだろ!」
「LEVELは?」
「二!」
「じゃあ先輩」
「くっそおおお!」
「朝から元気だね」
ハリトが呆れている。
でも。
ミーナも。
笑っていた。
◇
「それでは」
エマさんが依頼掲示板を指す。
「本日から皆さんは、二つ星向けの依頼を受注できます」
「おお……!」
今まで見ていた場所より。
少し上。
二つ星。
そこに貼られた依頼書。
護衛。
採取。
調査。
討伐。
知らない村。
知らない森。
知らない洞窟。
昨日まで。
俺には選べなかった仕事。
「ハリト」
「うん」
「増えたな」
「増えたね」
俺たちの冒険が。
少しだけ。
広がった。
どれにしよう。
そんなことを考えながら。
一枚ずつ眺めていた。
その時だった。
「……ん?」
胸が。
熱い。
「ニール?」
「ちょっと待って」
左胸。
服の下。
生まれた時からある。
青い痣。
そこが。
熱を持っている。
服の隙間から覗くと。
青い光。
「また……?」
あの時と同じ。
いや。
前より。
はっきりしている。
そして。
なぜか。
俺の視線が。
一枚の依頼書で止まった。
目を離せない。
理由なんて。
分からない。
ただ。
そこに書かれていたのは――。
《二つ星・調査依頼》
依頼地。
《蒼天遺跡》周辺。
「…………」
心臓が。
ドクンと鳴った。
ずっと。
行ってはいけないと言われていた場所。
子どもの頃から。
何度も気になっていた場所。
開かなかった扉。
あの夢。
青い光。
知らない誰かの声。
『――まだ早い』
俺は。
手の中のギルドプレートを見る。
二つの星。
「……今なら」
小さく呟いた。
「行けるのか?」
◇
同じ頃。
《蒼天遺跡》。
その最深部。
誰にも知られていない。
地下深く。
光の届かない空間。
五百年近く。
沈黙を続けていた何かに。
小さな変化が起きた。
暗闇に。
一本。
青い光が走る。
途切れ。
また。
走る。
壁とも。
床とも分からない場所に。
古代の文字列が浮かび上がった。
《年齢条件――達成》
《成長計測――稼働》
《魂情報――検出》
沈黙。
《照合開始》
長い。
長い時間。
何も起こらない。
やがて。
《照合結果――一致》
青い光が。
わずかに強くなる。
《青――適合反応》
《認証領域――待機》
まだ。
扉は開かない。
まだ。
眠りから覚めたわけでもない。
ただ。
五百年。
止まっていたものが。
初めて。
もう一度。
動き始めた。
さらに奥。
巨大な何かを覆う。
石のような外殻。
その内側で。
二つの青い光が。
一瞬だけ。
灯る。
そして。
再び。
闇へ消えた。
ニール・レインは。
まだ知らない。
二つ目の星を手に入れたことで。
ずっと届かなかった場所へ。
ようやく。
手が届くようになったことを。
そして。
幼い頃から何度も見上げてきた。
あの開かない扉の向こうで。
五百年もの間。
彼を待っていたものがあることを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ニール、ハリト、ミーナ、カイル、オルド、セラ。
六人全員、二つ星昇格です!
今回描きたかったのは、「強い=優秀な冒険者」ではないということでした。
索敵する力。魔法を使う力。守る力。観察する力。戦う力。そして、迷った時に「そもそも何のための仕事なのか」へ戻る力。
それぞれ得意なことも、足りないところも違います。
だからこそ、一人で全部できる必要はない。
レイヴの、
「任せられるのも、強さだ」
という言葉は、この先のニールたちの冒険にもつながっていく考え方になると思います。
そして、二つ星になったニールの前に現れた新しい依頼。
《蒼天遺跡》周辺の調査。
第一章の序盤で、幼いニールには開けることのできなかった扉。
青い痣。
青い光。
『――まだ早い』
あの時はまだ届かなかった場所へ、ニールは少しずつ近づいています。
そして遺跡の奥でも、五百年止まっていた「何か」が――。
次回、物語は再び《蒼天遺跡》へ。
ここからいよいよ、タイトルにもある《青の勇者》へと繋がっていきます。
続きも楽しんでいただけたら、ぜひブックマーク・評価で応援よろしくお願いします!




