第十八話『冒険者の選択』(改訂版 ver.1.01)
ロックリザードの巣を前にした六人。
戦えば、おそらく先へ進める。
でも――本当に戦うことだけが正解なのか?
今回の昇格試験で問われているのは、強さだけではありません。
それぞれ違う武器、能力、考え方を持った六人が、初めて自分たちで「どうするか」を選びます。
そして長い一日の先には、少しだけ冒険者らしい時間も。
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「……俺たち、何しに来たんだ?」
俺の言葉に。
誰もすぐには答えなかった。
崖の上では、一回り大きなロックリザードが俺たちを睨んでいる。
岩陰には、小さな個体。
一体。
二体。
三体。
子どもだ。
だから逃げなかった。
俺たちが何体倒しても。
仲間が傷ついても。
こいつらは、ここから逃げられなかった。
「……巣、か」
オルドが呟く。
「だから何だ?」
カイルは槍を構えたままだった。
「こいつらが襲ってきたのは事実だ」
「それはそうだけど……」
「ここを通らなきゃ、ラト村には行けない」
間違ってはいない。
俺たちは護送中だ。
この先へ進まなきゃならない。
「残りを倒して、道を確保する。それが一番確実だ」
「私は反対」
セラだった。
「倒せないとは言ってない。でも、ここが巣なら話は別。まだ何体いるか分からない」
「見えてるのは三体だ」
「見えてるのは、でしょ?」
「…………」
「岩の奥に、もっといる可能性がある」
ミーナも頷く。
「匂いもするよ。たぶん、見えてるので全部じゃない」
「何体くらい?」
「分かんない」
「分からないのか?」
「鼻が良くても数までは分かんないよ!」
ミーナが頬を膨らませた。
その横で。
ハリトは地面を見ていた。
「それに」
「何だ?」
「こいつら、僕たちを追ってきてない」
ハリトが指さす。
確かに。
俺たちが幼体から距離を取ると。
ロックリザードたちも、それ以上近づいてこない。
「……追い払おうとしてる?」
「たぶん」
ハリトが答える。
「僕たちが巣に近づいたから襲った。少なくとも今は、そう考えた方が自然だと思う」
「じゃあどうする?」
カイルが俺たちを見る。
「引き返すのか?」
「それじゃ依頼失敗じゃない?」
ミーナが言った。
「別の道は?」
オルドが聞く。
「あるかもしれない」
ハリトが周囲を見渡した。
「探してみる」
「私も!」
ミーナがすぐに手を上げる。
「耳と鼻なら私の方が得意!」
「また勝負する気?」
「ちょっとだけ」
「試験中だぞ」
オルドが苦笑する。
その時。
「で?」
カイルが俺を見た。
「ニールはどうしたい?」
「俺?」
「最初に言っただろ」
「…………」
どうしたい。
倒す。
迂回する。
引き返す。
どれが正解なんだ?
俺には分からない。
レイヴさんを見る。
「…………」
少し離れた岩にもたれている。
「レイヴさん」
「何だ?」
「どれが正解ですか?」
「知らん」
「またそれ!?」
「俺は試験官だ」
「試験官って本当に便利な言葉だな!」
「便利だぞ」
教えてくれる気はないらしい。
だったら。
自分たちで考えるしかない。
俺は後ろを見る。
馬車。
中には薬草と治療薬。
それを待っている人たちがいる。
俺たちの仕事は――。
何だ。
『お前らの仕事は何だ!』
西の森。
アースボアを前にしたガレスさんの声が蘇る。
『依頼を達成して――生きて帰る! それが冒険者だ!』
「……そっか」
「ニール?」
ハリトが俺を見る。
「俺たち、ロックリザードを倒しに来たんじゃない」
カイルが眉を寄せる。
「薬草を届けに来たんだ」
「だから?」
「だったら」
俺は剣を鞘に戻した。
「倒さなくても届けられるなら、倒さなくていいだろ」
カイルは何も言わなかった。
「逃げるってこと?」
ミーナが聞く。
「違う」
俺は首を振る。
「道を変える」
「迂回か」
オルドが言う。
「うん」
「道があるか分からないぞ」
カイル。
「だから探す」
「見つからなかったら?」
「その時、また考える」
「…………」
「俺たち六人いるんだからさ」
みんなを見る。
「一人で正解出さなくてもいいだろ」
一瞬。
静かになった。
そして。
「……まあ」
カイルが槍を下げる。
「それで道が見つかるなら、俺も反対はしない」
「よし!」
「ただし」
「?」
「見つからなかったら、もう一度考える」
「もちろん」
正解かどうかなんて分からない。
でも。
少なくとも。
今ここで全部倒す必要はない。
「じゃあ」
ハリトも弓を下げた。
「道を探そう」
◇
「こっち!」
最初に声を上げたのはミーナだった。
巣から十分に距離を取り、俺たちは街道の脇を調べていた。
「人の匂いがする」
「人?」
「たぶん。古いけど」
ハリトも地面を確認する。
「……道っぽいな」
草に覆われている。
でも。
よく見ると、地面がわずかに平らになっていた。
「昔の街道?」
セラが聞く。
「かもしれない」
オルドが答える。
「馬車は通れる?」
俺が聞く。
全員で道を見る。
「……ギリギリ?」
ミーナ。
「狭いね」
ハリト。
「行けなくはない」
オルド。
「じゃあ――」
「待って」
セラが止めた。
「先を確認してから」
「……はい」
危ない。
また先に行くところだった。
「僕とミーナで見てくる」
ハリトが言う。
「遠くには行かない」
「分かった」
「じゃ、行ってくるね」
二人が先行する。
俺たちは馬車のそばで待った。
「……なあ」
カイルが突然言った。
「何?」
「さっき」
「うん」
「よく剣をしまえたな」
「え?」
「魔物を前にして」
俺はロックリザードの巣がある方を見る。
「……前にさ」
西の森。
あの時。
「逃げるしかなかったことがあるんだ」
「アースボア?」
「知ってるの!?」
「ミーナが大声で話してただろ」
「あいつ……」
「その時は?」
「最初、逃げるのが悔しかった」
倒したかった。
冒険者になったんだから。
強い魔物と戦って。
勝って。
それが冒険だと思っていた。
「でも、違った」
「何が?」
「倒すのが仕事じゃなかった」
カイルが俺を見る。
「今回は、届けるのが仕事だろ?」
「……そうだな」
「だから、それだけ」
「…………」
「何?」
「いや」
カイルは前を向いた。
「LEVEL二のくせに」
「今それ関係ある!?」
「別に」
「絶対ちょっと認めただろ!」
「認めてない」
「顔に出てる!」
「出てない」
こいつ。
やっぱりちょっと面倒くさい。
◇
「道、続いてる!」
戻ってきたミーナが報告した。
「ただ」
ハリトが続ける。
「途中に古い橋がある」
「橋?」
「小さな川を渡るための橋。人なら問題ないと思う」
「馬車は?」
「見た方が早い」
嫌な予感がした。
◇
「……無理じゃない?」
古い木橋。
幅は馬車が通れるくらいある。
でも。
橋の中央。
板が何枚か抜けている。
「人なら渡れる」
オルドが橋を確認する。
「馬車は危険だな」
「別の道は?」
セラが聞く。
「かなり戻ることになる」
ハリトが答える。
「今日中にラト村へ着けないかもしれない」
「薬草と治療薬、今日中に届けるんだよね?」
ミーナが馬車を見る。
「依頼書にはそう書いてあった」
カイルが言う。
「じゃあ橋をどうにかするしかない」
俺は橋を見る。
「直す?」
「何で?」
「木」
「どこから持ってくるの?」
「…………」
周囲を見る。
木はある。
でも。
切る道具なんて持ってない。
「俺の剣で――」
「やめろ」
ハリトに即答された。
「父親にもらった剣で木を切る気?」
「……やめます」
バルドさんにも怒られそうだ。
「板そのものを直す必要はない」
オルドが言った。
「馬車の車輪が落ちなければいい」
「どうする?」
「まず荷物を下ろす」
「また?」
「軽くするんだ」
オルドは橋を指さす。
「人が運べる分は先に向こう岸へ運ぶ。馬車をできるだけ軽くする」
「なるほど」
「でも穴は?」
ミーナが聞く。
「車輪が落ちたら終わりだよ?」
全員が考える。
橋。
川。
馬車。
穴。
「…………」
俺は川を見た。
水が流れている。
昨日の水路ほどじゃない。
でも。
流れはある。
「ニール?」
ハリトが俺を見る。
「ちょっと待って」
俺は川岸へ降りた。
水に触れる。
目を閉じる。
昨日と同じ。
水へ少しだけ魔力を流す。
流れ。
深さ。
勢い。
「……何してるの?」
セラが後ろから聞いた。
「水を見てる」
「見てる?」
「たぶん、こっちは浅い」
「たぶん?」
「昨日覚えたばっかりだから!」
「昨日!?」
「でも、たぶん合ってる!」
「その『たぶん』怖いんだけど!」
ハリトが川岸へ降りてくる。
棒を拾って、水の中へ差し込んだ。
「……浅いね」
「ほら!」
「でも、馬車が川を渡るのは危険だよ」
「分かってる」
俺は川を見る。
渡るためじゃない。
「この辺に、流れてきた木とかないかな」
「木?」
「橋の穴を塞げそうなやつ」
「あ」
ハリトが理解した。
「流木」
「そう!」
「下流を探そう」
「私も!」
ミーナが耳を立てた。
◇
見つかった。
「でかっ!」
川岸に引っかかっていた流木。
俺一人では持てない。
「使えそうだな」
オルドが言う。
「問題は運ぶ方法ね」
セラが腕を組む。
「六人いる!」
俺が言った。
「そういう時だけ人数を武器にするな」
ハリトが呆れる。
「人数は武器だろ!」
「まあ、それはそう」
「よし!」
六人で持つ。
「重っ!」
「ニール、そっち上げて!」
「上げてる!」
「カイル、押しすぎ!」
「お前が遅い!」
「ミーナ笑ってないで持て!」
「持ってるって!」
「セラ!」
「私も持ってる!」
「オルド!」
「俺に全部寄せるな!」
レイヴさんを見る。
「…………」
見ている。
「レイヴさん! 手伝ってください!」
「試験官だからな」
「やっぱり便利な言葉だな!!」
◇
流木。
近くに落ちていた丈夫な枝。
ロープ。
使えるものを組み合わせる。
完璧な修理なんかできない。
でも。
車輪が穴に落ちなければいい。
「これでどう?」
俺が聞く。
オルドが何度か足で踏む。
「……一台だけなら」
「じゃあ荷物を先に運ぼう」
カイルが言った。
薬草。
治療薬。
食料。
一つずつ。
人の手で橋の向こうへ運ぶ。
馬車を軽くする。
「全部運んだ!」
「次は馬車だ」
オルドが御者を見る。
「ゆっくりお願いします」
「ああ」
馬が歩き始める。
ギシッ。
橋が鳴る。
「怖っ」
「ニール、そういうこと言うな」
「だって鳴ってる!」
「古い橋なんだから鳴るよ!」
一歩。
また一歩。
車輪が、補強した場所へ近づく。
「ゆっくり!」
オルドが声をかける。
ギシ。
車輪が乗る。
流木が軋む。
「頼む……!」
誰に頼んでるのか分からない。
でも祈った。
ゴトン。
車輪が越えた。
「……!」
もう片方。
ゴトン。
「渡った!」
「まだ!」
ハリト。
「全部渡るまで!」
「分かってる!」
そして。
馬車全体が向こう岸へ渡った。
「よっしゃあああ!」
俺とミーナが同時に叫ぶ。
「うるさい」
ハリトとセラも同時だった。
「お前ら、息合ってきたな」
オルドが笑った。
「だろ?」
「どっちのこと?」
「全員じゃない?」
ミーナが笑う。
朝に会ったばかりなのに。
なんか。
ずっと一緒に仕事してるみたいだった。
◇
夕方。
「見えた!」
ミーナが指さす。
丘の向こう。
家々。
畑。
煙突から上がる煙。
「ラト村……!」
着いた。
ロックリザードと戦って。
巣を見つけて。
道を変えて。
橋を渡って。
ようやく。
「着いたああああ!」
俺は両手を上げた。
「終わった!」
「やった!」
ミーナも跳ねる。
カイルが息を吐く。
セラも安心したように杖を下ろした。
オルドが笑う。
ハリトは――。
「ニール」
「何だよ。今くらい喜ばせろよ!」
「僕じゃない」
「え?」
ハリトの視線の先。
レイヴさんが立っている。
「……何ですか?」
「誰が終わったって?」
「え?」
「依頼」
「いや、だって」
俺は村を指さす。
「着きましたよ?」
「ああ」
「薬草も治療薬も無事です!」
「そうだな」
「じゃあ――」
レイヴさんが言った。
「届けたのか?」
「…………」
「あ」
そうだった。
◇
俺たちは村の依頼人へ薬草と治療薬を届けた。
受取人と中身を確認する。
荷物に破損がないことも確認する。
そして。
「確かに受け取りました。ありがとうございます」
その言葉を聞いて。
ようやく肩の力が抜けた。
「今度こそ……」
俺はレイヴさんを見る。
「終わりましたよね?」
「何が?」
「やめてくださいよ、その流れ!」
レイヴさんが笑った。
「今日はな」
「今日は?」
「もう日が落ちる。帰りは明日だ」
「…………」
俺は空を見る。
夕焼け。
確かに。
「じゃあ……」
「村で一泊する」
「泊まれるんですか!?」
「お前、今から歩いて帰りたいのか?」
「泊まります!」
「即答だな」
当然だ。
もう足が棒だ。
◇
その夜。
俺たち六人は、村の宿の食堂にいた。
大きな木のテーブル。
湯気の立つスープ。
焼いた肉。
黒っぽいパン。
「うまっ!」
一口食べた瞬間。
声が出た。
「ニール、今日それ何回目?」
ハリトが言う。
「腹減ってたんだからしょうがないだろ!」
「私もおいしいと思う!」
ミーナが肉を頬張る。
「ほら!」
「ミーナを基準にするの?」
「何それ!」
俺とミーナが同時に言った。
「…………」
「…………」
顔を見合わせる。
「真似すんなよ」
「そっちでしょ!」
「ほら、また」
ハリトが呆れた。
セラがスープを飲みながら笑う。
カイルまで少し笑っている。
「カイル!」
「何だ」
「今笑っただろ!」
「笑ってない」
「絶対笑った!」
「うるさい」
昼間まで。
こいつとは喧嘩ばっかりしてた気がする。
いや。
今もしてるけど。
なんか。
朝とは違う。
「そういえばさ」
ミーナが俺を見る。
「ん?」
「アースボア」
「またその話!?」
「聞きたい!」
「何をだよ!」
「どれくらい逃げたの?」
「森から出るまで!」
「結構逃げてる!」
「しょうがないだろ! 強かったんだから!」
「泣いた?」
「泣いてない!」
「本当に?」
「ハリト!」
俺は隣を見る。
「言ってやれ!」
「泣いてはいなかったよ」
「ほら!」
「叫んではいたけど」
「ハリトォ!」
ミーナが腹を抱えて笑う。
「やっぱり!」
「何がやっぱりだ!」
「想像できる!」
「できなくていい!」
「『うわああああ!』って?」
「そんな声じゃない!」
「じゃあどんな声?」
「再現させようとするな!」
笑い声。
昼間まで。
命がけで魔物と戦っていたのに。
今は。
同じテーブルで。
くだらない話をしている。
「でもさ」
ミーナが言った。
「ん?」
まだ笑っている。
でも。
声が少しだけ変わった。
「ちゃんと逃げたんだね」
「……え?」
「無理して戦わなかったんでしょ?」
「まあ……」
俺はパンをちぎる。
「ガレスさんに怒鳴られたからな」
「それでも」
ミーナもパンをちぎりながら言った。
「生きて帰ってきたじゃん」
「…………」
「だったら、いいんじゃない?」
どこかで聞いた言葉。
『死んだら、次の試験受けられないし』
「……ミーナってさ」
「何?」
「たまに、まともなこと言うよな」
「たまに!?」
「痛っ!」
足を蹴られた。
「蹴るな!」
「失礼なこと言うからでしょ!」
「暴力反対!」
「弱っ」
「LEVEL一しか違わないだろ!」
「一個上は一個上ですー」
「まだ先輩面するのかよ!」
「するよ?」
なんだこいつ。
でも。
楽しい。
「じゃあミーナは?」
「私?」
「なんで冒険者になったんだ?」
「んー……」
ミーナが少し考える。
「里の外を見たかったからかな」
「里?」
「ハーフビーストの里」
「そんなところあるんだ」
「あるよ。私、そこで育ったから」
「へえ……」
「いろんな場所に行って、いろんなもの見て」
そこで。
ミーナの尻尾が少し揺れた。
「おいしいもの食べたい!」
「最後だけ急に軽いな!」
「大事でしょ?」
「大事だな」
「でしょ?」
そこは否定できない。
「ニールは?」
「俺?」
「どこ行きたいの?」
「どこって……」
言葉に詰まった。
考えたことがなかった。
冒険者になりたい。
ずっと。
そればかり考えていた。
でも。
冒険者になった後。
どこへ行くのか。
何を見るのか。
誰と旅をするのか。
そんなことは。
「……分かんない」
「じゃあ」
ミーナが笑った。
「これから決めればいいじゃん」
「これから?」
「うん」
当たり前みたいに。
言った。
「冒険者なんだから」
「…………」
そっか。
そうだよな。
まだ。
始まったばっかりなんだ。
「ミーナは?」
「何?」
「どこ行きたいんだ?」
「いっぱい!」
「雑!」
「いいの! まだ決めてる途中だから!」
「俺と同じじゃん」
「私は候補がいっぱいあるの!」
「じゃあ今度教えろよ」
「いいよ」
そんな話をしていると。
「ところで」
セラが口を開いた。
嫌な予感がする。
「ニール」
「何?」
「あなたの水魔法の話、まだ終わってないから」
「…………」
「魔力循環は?」
「知りません」
「術式構築は?」
「知りません」
「属性接続は?」
「知りません!」
セラが額を押さえた。
「よくそれで《水球》を使えてるわね……」
「使えるんだからいいだろ?」
「よくない!」
「なんで!?」
「基礎を知らないまま魔法を使う方が怖いの!」
「助けてハリト!」
「一度ちゃんと教えてもらった方がいいと思うよ」
「裏切った!」
「カイル!」
「俺は魔法使いじゃない」
「オルド!」
「俺もだ」
「ミーナ!」
最後の希望。
ミーナがニヤッと笑った。
「頑張れ、LEVEL二」
「お前らああああ!」
宿の食堂に。
笑い声が響いた。
◇
翌朝。
「眠い……」
「自業自得でしょ」
セラが呆れている。
「誰のせいだと思ってるんだよ……」
「昨日、途中から質問してたのはあなたよ」
「だって聞いたら気になるだろ……」
「ニール」
ハリトが言う。
「何?」
「楽しそうだったよ」
「…………」
否定できない。
俺たちはラト村を出た。
昨日通った古い橋。
補強した場所を一人ずつ確認しながら。
馬車を通す。
帰り道では、ロックリザードの巣があった道を避けた。
少し遠回り。
でも。
誰も文句は言わなかった。
昨日より。
会話が多かった。
ミーナがカイルをからかって。
カイルが無視して。
オルドが笑って。
セラが止めて。
ハリトが呆れて。
俺も混ざる。
昨日の朝。
ほとんど知らなかった六人。
なのに。
たった一日で。
少しだけ。
知っている奴らになっていた。
◇
昼過ぎ。
リーヴェルへ戻った。
ギルドの扉を開く。
「お帰りなさい」
エマさんが受付から俺たちを見る。
昨日より。
少し汚れている。
少し疲れている。
でも。
六人いる。
誰も欠けていない。
俺は受付まで歩いた。
「ニールさん?」
「ただいま戻りました」
自分でも驚くくらい。
自然に言葉が出た。
「依頼――完了です」
エマさんが。
少しだけ笑った。
「はい。お疲れさまでした」
「終わったぁ……」
「まだ」
背後から声。
「え?」
振り返る。
レイヴさん。
「まだ何かあるんですか!?」
「試験結果」
「…………」
そうだった。
「今!?」
「明日」
「なんで!?」
「報告書を書く」
「今ここで言ってくださいよ!」
「嫌だ」
「嫌だ!?」
「俺も疲れた」
「試験官!!」
レイヴさんは俺たち六人を見る。
いつもの。
眠そうな顔。
でも。
その目だけは。
試験が始まる前とは。
少し違って見えた。
「明日の朝、ここに来い」
誰も喋らない。
「そこで結果を伝える」
合格か。
不合格か。
俺は腰のギルドプレートを握った。
まだ。
一つ星。
明日。
この星が。
二つになるのか。
それとも――。
「……分かりました」
俺は答えた。
隣にはハリト。
カイル。
ミーナ。
オルド。
セラ。
昨日の朝には。
ほとんど知らなかった六人。
でも今は。
どんなふうに戦うのか。
何が得意なのか。
どんな時に怒るのか。
どんな時に笑うのか。
昨日よりは。
少しだけ知っている。
「じゃあ」
レイヴさんが言った。
「今日は解散」
「また明日ね!」
最初に手を振ったのはミーナだった。
「おう!」
「遅刻するなよ」
カイル。
「お前にだけは言われたくない!」
「僕たち、早めに来ようか」
ハリトが言う。
「なんで!?」
「ニールがカイルと喧嘩するから」
「俺のせい!?」
オルドが笑う。
セラも呆れながら手を振った。
俺たちは。
それぞれの帰り道へ歩き出した。
二つ星昇格試験。
俺たちにできることは。
もうない。
あとは。
結果を待つだけだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は戦闘よりも、「何のために依頼を受けているのか」を考える回になりました。
ロックリザードを倒せるかもしれない。
それでも、倒さずに目的を達成できるなら別の方法を探す。
そして壊れた橋も、一人の力ではなく、六人それぞれの知恵や得意なことを持ち寄って突破しました。
さらにラト村では、ようやく試験から少し離れて六人で食卓を囲むことに。
昨日までほとんど知らなかった相手と、一緒に戦って、一緒に困って、一緒に飯を食べて、くだらないことで笑う。
こういう時間も「冒険」の一部なのかなと思っています。
そしてミーナ。
相変わらずLEVEL一つ分だけニールの先輩です(笑)。
アースボアの話でニールをいじったり、故郷の話をしたり。
この二人、なんだか妙に会話のテンポが合いますね。
さて。
依頼は無事完了。
残るのは――二つ星昇格試験の結果発表。
六人のギルドプレートに、二つ目の星は刻まれるのでしょうか。
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