第十七話『六人の冒険者』(改訂版 ver.1.01)
いよいよ始まった二つ星昇格試験。
ニール、ハリト、ミーナ、カイル、オルド、セラ。
今日初めて顔を合わせた六人が、それぞれの得意なことを持ち寄りながら、一つの仕事に挑みます。
LEVELも武器も戦い方も違う六人。
果たして、ちゃんと一つのチームとして動けるのでしょうか。
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「まず、役割を決めるぞ」
出発まで、あと十分。
最初に口を開いたのはカイルだった。
地面にしゃがみ込み、槍の石突きで簡単な道筋を描く。
「ラト村までは北西。街道を使う。まず、誰がどこを見るか決める」
「カイル、道知ってるのか?」
「この辺りの地図くらい、依頼を受ける前に見ておけ」
「…………」
「何だ」
「ちょっとムカつくけど、正しい」
「そうか」
なんだ、その何とも思ってなさそうな顔。
余計ムカつく。
「俺とオルドが前に出る。馬車の左右を――」
「待って」
ハリトが口を挟んだ。
「僕は前方にいた方がいい」
「弓なら後ろじゃないのか?」
「戦闘だけならね」
ハリトは地面に描かれた道を見る。
「足跡、折れた枝、草の倒れ方。魔物が近くにいるなら、出会ってから気づくより、先に見つけた方がいい」
「……斥候か」
「狩りをしてたから」
「だったら私も」
ミーナが手を上げた。
「耳と鼻なら役に立つよ」
「お前も?」
「お前じゃなくてミーナ」
「……ミーナ」
「よろしい」
「なんでお前が偉そうなんだ」
「LEVEL三だから」
「関係ないだろ!」
ミーナが楽しそうに笑う。
「じゃあ、ハリト。どっちが先に魔物を見つけるか勝負する?」
「何のために?」
「面白そうだから」
「試験中に勝負しないで」
セラが即座に止めた。
「二人とも見つけたなら、二人で教えて。それでいいでしょ」
「真面目だなぁ」
「試験だからね」
セラは杖を軽く持ち上げる。
「私は中衛。基本的な攻撃魔法は使えるわ」
「回復は?」
オルドが聞いた。
「応急処置くらいなら。でも治癒魔法は専門じゃない」
「分かった。怪我をしたら俺に言ってくれ。薬は持ってる」
「オルド、準備いいな」
「弟と妹が四人もいると、嫌でもな」
「四人!?」
「ちょっとした怪我で毎回騒いでたら身がもたない」
オルドが笑う。
なんか、頼りになりそうだ。
「俺は馬車の横にいる」
「前衛じゃなくていいのか?」
カイルが聞く。
「盾持ちが馬車から離れすぎても意味ないだろ。必要なら前にも出る」
「……分かった」
カイルは素直に頷いた。
それから。
全員が俺を見る。
「……何?」
「ニールは?」
「剣士!」
「それは見れば分かる」
「水魔法も使えるよ」
ハリトが言う。
「使える!」
セラが食いついた。
「どの程度?」
「水を出せる」
「…………」
「《水球》も使える!」
「他には?」
「この前、水路の流れを調べた」
「どうやって?」
「こう……水を流して」
「こう?」
「こう!」
「分からない!」
セラが頭を抱えた。
「やっぱりあなた、一度ちゃんと魔法を習った方がいいわよ」
「使えてるぞ?」
「使えることと、理解して使うことは別!」
「そうなの?」
「そうなの!」
なんか怒られた。
「その話は後だ」
カイルが俺を見る。
「ニールは俺と前方。剣と水魔法、両方使えるなら状況に合わせろ」
「分かった!」
「勝手に突っ込むなよ」
「なんでみんなそれ言うんだよ!」
「アースボアに追いかけ回されたからじゃない?」
ミーナが笑う。
「あれは向こうから来たんだよ!」
少し離れたところで。
レイヴさんは壁にもたれ、黙って俺たちを見ていた。
「時間だ」
その一言で。
全員の表情が変わった。
「行くぞ」
二つ星昇格試験。
六人での初めての仕事が、始まった。
◇
出発して、一時間ほど。
「……暇だな」
「ニール」
「何?」
「そういうこと言わない方がいいよ」
前方を歩くハリトが振り返る。
「だって何も起きないぞ」
「何も起きないのが一番いいだろ」
隣を歩くカイルが言った。
「…………」
「何だ」
「まともなこと言うんだなと思って」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「感じ悪い槍使い」
「本人に言う?」
ハリトが呆れる。
「本人だから言ったんだよ」
「そういうところだよ」
前方にはハリトとミーナ。
少し後ろを俺とカイル。
馬車の左右にはオルドとセラ。
最後尾にはレイヴさん。
たまに欠伸している。
本当に見てるんだろうか。
そう思った時だった。
ガタンッ!
「うわっ!」
馬車が大きく傾いた。
「止めろ!」
御者が手綱を引く。
右側の車輪が、ぬかるみに深く沈んでいる。
「……これも試験?」
カイルがレイヴさんを見る。
「知らん」
「知らないんですか?」
「俺が泥を仕込んだように見えるか?」
「いや……」
「なら普通にハマったんだろ」
「試験中に普通の事故起きるんだ……」
俺が呟く。
「当たり前だ」
レイヴさんが言った。
「仕事中だからな」
「…………」
その一言が、妙に残った。
これは訓練場で用意された課題じゃない。
本当に薬を届ける仕事をしながら。
俺たちは試されている。
「荷物を少し下ろそう」
オルドが馬車の後ろへ回る。
「馬車を軽くする。ただし全部は下ろすな。積み直す時間がもったいない」
「周囲は僕が見る」
「私も」
ハリトとミーナが街道の前後へ目を向ける。
「セラ。魔法で持ち上げられるか?」
カイルが聞いた。
「土属性は得意じゃない。無理に魔法を使うより、人力の方が早いわ」
「分かった」
「俺は?」
俺が聞く。
カイル。
オルド。
セラ。
三人が俺を見る。
「押せ」
「押そう」
「押すのが一番向いてそうね」
「なんで俺だけ力仕事!?」
「ニール、頑張って」
「ハリトまで!」
結局。
俺とカイルとオルドで馬車を押した。
「せーの!」
「もっと!」
「押してる!」
「ニール、足!」
「うわっ!」
ズルッ。
靴が泥へ沈む。
「また泥かよ!」
「何だ?」
「昨日も泥だったんだよ!」
「知らん!」
「なんで二日連続で泥まみれなんだあああ!」
「喋ってないで押せ!」
「押してるって!」
ギシッ。
車輪が動く。
「もう一回!」
オルドの声。
「せーの!」
ゴトン!
車輪がぬかるみから抜けた。
「出た!」
俺はその場へ座り込んだ。
「つ、疲れた……」
ふと。
レイヴさんを見る。
「レイヴさん!」
「何だ?」
「今のどうでした!?」
「馬車押してたな」
「それだけ!?」
「他に何て言えばいいんだ」
分からない。
この人。
何を見てるんだ?
◇
昼を過ぎた頃。
街道は少しずつ、岩の多い地形へ変わっていった。
左右には低い崖。
灰色の岩肌。
ところどころに生える短い草。
その時。
「待って」
ミーナが足を止めた。
声が変わる。
獣耳が、ぴくりと動いた。
「何かいる」
カイルがすぐ槍へ手を伸ばす。
「どこだ?」
「右……いや」
ミーナが鼻を動かす。
「近い」
ハリトも地面を見る。
「足跡がある」
「魔物?」
「たぶん」
ハリトがしゃがみ込む。
「新しい」
カリッ。
小さな音。
俺は剣の柄へ手をかけた。
「どこだ?」
「動かないで」
ハリトが言う。
ミーナが岩壁を睨む。
「そこ」
「どこ?」
「あの岩」
灰色の岩。
何も――。
動いた。
「うわっ!」
岩じゃない。
灰褐色の硬い鱗。
四本の脚。
長い尾。
「《ロックリザード》」
オルドが盾を構えた。
「岩場だと見つけにくい。気をつけろ」
「一匹?」
「違う」
ハリトが即答する。
「足跡が多い」
「左!」
ミーナが叫ぶ。
一匹。
「後ろにも!」
セラが杖を構える。
さらに一匹。
崖の上。
また一匹。
正面にも。
そして。
少し離れた高い岩の上。
一回り大きな個体が、じっとこちらを見ていた。
「……六体」
ハリトが呟く。
馬が怯えた声を上げた。
「馬車から離れるな!」
カイルが叫ぶ。
オルドが盾を前へ。
セラが杖を構える。
ミーナが二本の短剣を抜く。
ハリトが矢をつがえる。
俺も剣を抜いた。
岩場を蹴って。
一体のロックリザードが飛びかかってきた。
「来るぞ!」
カイルが叫ぶ。
俺は剣を構えた。
速い。
グラスドッグとは違う。
体が大きいくせに、岩場を滑るように走ってくる。
「ニール、下がれ!」
「え?」
ガンッ!
俺の前に、大きな盾が割り込んだ。
オルドだ。
ロックリザードが盾にぶつかる。
「ぐっ……!」
オルドの足が地面を滑った。
でも。
止めた。
「今だ!」
「おおっ!」
俺は横へ回り込む。
剣を振り下ろした。
ガキンッ!
「硬っ!?」
剣が弾かれた。
「ニール!」
「うわっ!」
ロックリザードの太い尾が迫る。
俺は慌てて後ろへ跳んだ。
ブオン!
目の前を尾が通過する。
「危なっ!」
「鱗が硬い!」
「今見た!」
「見てから言わない!」
ハリトの矢が飛ぶ。
カンッ!
矢も鱗に弾かれた。
「……硬いな」
「お前の矢も駄目じゃん!」
「だから確認したんだよ」
「俺で確認する前にやってくれ!」
「喋ってる場合!?」
セラの声。
「左!」
「え?」
二体目。
「ニール、伏せて!」
言われるまま頭を下げる。
セラの杖へ魔力が集まる。
「《風弾》!」
圧縮された風の塊が、俺の頭上を通過した。
ドンッ!
ロックリザードの横腹に直撃する。
巨体が横へずれた。
「おおっ!」
「倒せてない!」
「でもすげえ!」
「感心してないで剣を構えて!」
「はい!」
怖い。
この人。
エマさんと同じ種類かもしれない。
◇
「三体、右から来る!」
ミーナが叫んだ。
その声とほぼ同時に、岩陰から三体のロックリザードが姿を現した。
「本当に三体だ……」
「だから言ったでしょ!」
すごい。
俺にはまだ何も聞こえなかった。
でも。
ミーナには分かっていた。
「カイル!」
オルドが呼ぶ。
「分かってる!」
カイルが飛び出した。
槍を低く構える。
正面から来たロックリザードが口を開く。
「正面は硬い!」
「知ってる!」
カイルは止まらない。
槍を突き出す。
ガキン!
やっぱり弾かれ――。
「違う」
ハリトが呟いた。
「え?」
カイルは最初から、鱗を貫こうとしていなかった。
弾かれた反動を利用して、槍の穂先を滑らせる。
そのまま。
ロックリザードの前脚の内側へ。
「はっ!」
突き。
ロックリザードが大きく体勢を崩した。
カイルが踏み込む。
今度は下から。
腹側。
「そこか!」
俺にも分かった。
腹には、背中ほど硬い鱗がない。
「ニール!」
「おう!」
俺も走る。
だけど。
「前に出すぎ!」
「え?」
ミーナの声。
横を見る。
三体目。
「うわっ!」
完全に見落としていた。
「くそっ!」
剣を構える。
間に合わない。
ガンッ!
また。
盾。
「前だけ見るな!」
オルドがロックリザードを受け止める。
「悪い!」
「謝るのは後!」
オルドが盾を傾ける。
ロックリザードの突進が斜めへ流れる。
「今!」
俺は側面へ回り込む。
剣を振ろうとして――。
「待って!」
セラ。
「何!?」
「そこからどいて!」
「また!?」
慌てて飛び退く。
「《風弾》!」
風が横から叩きつけられた。
バランスを崩していたロックリザードが――。
ゴロン!
「ひっくり返った!」
腹が丸見えになる。
「カイル!」
「分かってる!」
槍が走った。
一撃。
ロックリザードの動きが止まった。
「……倒した」
一体。
俺たち六人で。
「よっしゃ!」
「まだいる!」
「喜ばせてくれよ!」
◇
そこからは。
最初より少しだけ、周りが見えるようになった。
「右!」
ミーナ。
「奥にもいる!」
ハリト。
「オルド!」
「任せろ!」
「セラ!」
「今やってる!」
「ニール!」
「今度は何!?」
「水!」
「水!?」
ハリトが地面を指す。
岩と岩の間。
そこへ。
ロックリザードが向かっている。
意味が分かった。
「なるほど!」
俺は手を向けた。
魔力を集める。
水を生み出す。
攻撃じゃない。
岩と岩の間。
ロックリザードが踏み込もうとしている場所へ。
「行けっ!」
水が地面を走る。
岩肌を濡らす。
「それだけか?」
カイルが言った。
「見てろ!」
ロックリザードが踏み込む。
ズルッ!
脚が滑った。
「今!」
「なるほど!」
カイルが槍を突き出す。
体勢を崩したロックリザードの腹へ。
命中。
「使えるじゃないか!」
「だろ!?」
「もっと早くやれ!」
「褒めてから落とすな!」
その横。
「もう一体!」
ミーナが走る。
速い。
短剣で無理に倒そうとはしない。
ロックリザードの視界へ入り、注意を引きつける。
「こっち!」
魔物がミーナを追う。
「セラ!」
「分かってる!」
杖が向く。
「《風弾》!」
風がロックリザードの横からぶつかる。
進路がずれる。
その先には。
「ハリト!」
「うん」
矢。
前脚の内側。
刺さる。
「すげえ……」
俺は思わず呟いた。
さっきまで。
ほとんど知らない奴らだった。
何ができるのかも。
どう戦うのかも。
でも。
少しずつ分かってくる。
カイルは強い。
特に、一対一なら俺よりずっと。
オルドは守るのが上手い。
ただ盾で受けるんじゃない。
敵の向きまで変えている。
ミーナは。
俺たちが気づくより先に敵を見つける。
それに。
速い。
LEVEL三だからって。
戦えないわけじゃない。
セラは。
魔法で倒すだけじゃない。
敵を押し、動かし、仲間が攻撃できる場所を作れる。
そして。
ハリトは――。
「ニール、ぼーっとするな!」
「分かってる!」
やっぱり。
俺をよく見ている。
腹立つけど。
助かる。
◇
「待って」
ハリトが言った。
「何だ?」
カイルが槍を構えたまま聞く。
「変だ」
「何が?」
ハリトはロックリザードではなく。
地面を見ていた。
「こいつら、逃げない」
「え?」
「仲間が倒されてる。それでも距離を取ろうとしない」
確かに。
グラスドッグなら。
不利になれば逃げることがある。
でも。
こいつらは。
まだ俺たちへ向かってくる。
「縄張りだからじゃないの?」
セラが言う。
「それにしては……」
「待って」
今度はミーナだった。
鼻を動かす。
右。
左。
そして。
岩壁の方を見る。
「同じ匂いが多い」
「同じ匂い?」
「うん」
ミーナがゆっくり岩壁へ近づく。
「ミーナ、離れるな」
カイルが言う。
「ちょっとだけ」
大きな岩。
その裏側。
ミーナが覗き込む。
止まった。
「……あ」
「どうした?」
「みんな」
さっきまでとは違う声だった。
「これ、見て」
俺たちは周囲を警戒しながら近づく。
岩陰。
そこに。
「……小さい」
いた。
俺たちが戦っていたロックリザードより。
ずっと小さい。
一体。
二体。
三体。
身を寄せ合うように。
岩陰の奥にいる。
「子ども……?」
俺が呟く。
背後。
グルルルルル……。
低い唸り声。
振り返る。
高い岩の上。
最初から俺たちを見ていた、一回り大きなロックリザード。
その視線は。
俺たちだけを見ているんじゃない。
俺たちと。
岩陰の小さな個体。
その間を見ている。
「……そういうことか」
ハリトが呟いた。
「何?」
「こいつらが逃げない理由」
地面に残った足跡。
岩についた爪痕。
小さな個体。
そして。
何度追い払われても。
俺たちへ向かってくる成体。
ハリトが弓を少し下げた。
「ここは、ただの縄張りじゃない」
そして。
言った。
「――巣だ」
「…………」
俺は剣を握ったまま。
ロックリザードを見る。
戦える。
たぶん。
この六人なら。
残った奴らとも戦える。
カイルなら。
倒せる。
ハリトとセラが援護して。
オルドが守って。
ミーナが見つけて。
俺も戦えばいい。
だけど。
その時。
頭の中に浮かんだ。
西の森。
アースボア。
そして。
ガレスの声。
『お前らの仕事は何だ!』
「…………」
俺たちは。
何をしに来た?
ロックリザードを倒すためか?
それとも――。
振り返る。
馬車。
そこに積まれている。
薬草と。
治療薬。
「……俺たち」
俺は口を開いた。
「何しに来たんだ?」
「え?」
ミーナが俺を見る。
「俺たちの依頼」
もう一度。
馬車を見る。
「ロックリザードを倒すことじゃないだろ」
「…………」
カイルも。
オルドも。
セラも。
ハリトも。
黙った。
その少し後ろ。
レイヴさんだけが。
何も言わずに。
俺たちを見ている。
答えを教える気は。
ないらしい。
高い岩の上で。
大きなロックリザードが。
俺たちを睨んでいた。
倒せるか。
倒せないか。
強いか。
弱いか。
たぶん。
それだけが。
冒険者の答えじゃない。
俺たちは今。
それを試されている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は六人の初共闘でした。
カイルの槍、オルドの盾、ミーナの感覚、セラの魔法、ハリトの観察力、そしてニールの剣と水魔法。
一人ではできないことも、それぞれの得意なことが噛み合えばできるようになる。
少しずつ「六人で戦う」形が見えてきました。
でも――今回の試験で問われているのは、魔物を何体倒せるかではありません。
ロックリザードたちが守っていたものに気づいたニールたち。
戦える。
倒せるかもしれない。
それでも、本当に倒す必要があるのか。
そして何より、
「俺たちは、何をしに来たんだ?」
次回、六人が冒険者としてどんな判断をするのか。
二つ星昇格試験は、もう少し続きます。
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