第十六話『二つ星昇格試験、開始』(改訂版 ver.1.01)
いよいよ二つ星昇格試験が始まります。
そして今回、ニールとハリトの前に現れる四人の受験者たち。
槍使いのカイル。
ハーフビーストのミーナ。
盾使いのオルド。
魔術師のセラ。
武器もLEVELも性格もバラバラな六人が、初めて同じ仕事に挑みます。
果たしてニールは無事、二つ目の星を手に入れられるのか。
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二つ星昇格試験まで、あと二日。
「何すればいい?」
「普通にしてれば?」
「それが一番難しい!」
「自覚あるんだ」
旧水路の依頼を終えた翌日。
俺は朝から、家の前で剣を振っていた。
振る。
止める。
構える。
また振る。
「九十七、九十八、九十九――百!」
「終わった?」
「もう百!」
「増えてるじゃないか」
「試験まであと二日だぞ!」
ハリトは近くの木陰で、弓の状態を確認していた。
弦の張り。弓の歪み。矢羽。鏃。
一本ずつ、いつも通りに。
「お前、緊張しないの?」
「してるよ」
「嘘つけ」
「してるって」
ハリトが弦を軽く弾いた。
「僕だって、落ちたくはないから」
「…………」
なんだ。
こいつも同じなのか。
「じゃあさ」
「何?」
「二人とも受かったら、何か食いに行こうぜ」
「落ちたら?」
「反省会」
「どっちにしても食べるんだ」
「腹は減るだろ」
「それはそうだね」
八年前。
冒険者になりたいと思った時も。
十五歳になった時も。
最初の依頼を受けた時も。
隣には、こいつがいた。
だったら今回も。
「一緒に受かろうぜ」
「うん」
ハリトが笑った。
「でも、試験中に無茶したら置いていくから」
「そこは助けろよ!」
「場合による」
「親友だろ!?」
「だから言ってる」
結局その二日間、特別なことはしなかった。
装備を確認して。
剣を振って。
ちゃんと食べて。
ちゃんと寝た。
そして――試験当日。
◇
「早すぎた」
「ニールが早く行くって言ったんだろ」
「遅刻したら、その時点で不合格かもしれないだろ!」
「だからって一刻も前に来る必要ある?」
朝。
俺とハリトは、冒険者ギルドの前に立っていた。
まだ集合時間まで、かなりある。
剣。
よし。
防具。
よし。
水筒。
よし。
荷物。
よし。
最後に腰のギルドプレートを見る。
刻まれている星は、一つ。
「……今日で見納めかもしれないな」
「落ちたら、また見られるよ」
「縁起でもないこと言うな!」
そして、目を閉じる。
意識を自分の内側へ向ける。
《ニール・レイン》
《LEVEL 二》
「……よし」
「LEVELも変わってないよ」
「分かってる!」
「昨日も確認してたよね」
「今日突然三になってる可能性があるだろ!」
「何もしてないのに?」
「寝てる間に成長したかもしれない!」
「それで上がるなら苦労しないよ」
ハリトはLEVEL五。
俺より三つも上だ。
でも、今日見るのはLEVELじゃない。
二つ目の星だ。
◇
「おはようございます」
ギルドへ入ると、受付にいたエマさんが俺たちに気づいた。
そして時計を見る。
「……ずいぶん早いですね」
「ですよね」
「ハリト!?」
「僕は言ったからね」
「遅刻するよりはいいでしょう。本日の受験者は、奥の訓練場へ集合してください」
「もう誰か来てます?」
「ええ。何人か」
「よし、行こう!」
「走らない」
「分かってるって!」
「ニールさん」
「はい」
「ギルド内は走らないでください」
「……はい」
なんで分かった。
◇
ギルド裏手の訓練場。
そこには、すでに三人の冒険者がいた。
最初に目へ入ったのは、長い槍を背負った青年だった。
俺より少し年上。
短い茶色の髪に、軽量の胸当て。
装備は必要なものだけ。
立っているだけなのに、なんとなく強そうに見える。
次に目へ入ったのは、俺たちとそう変わらない年頃の女の子。
明るい茶色の髪。
腰には二本の短剣。
そして、その頭には――。
「耳……」
ぴくっ。
俺が言い終わる前に、獣の耳がこっちを向いた。
「来た」
「え?」
「二人」
「……まだ何も言ってないぞ?」
「足音してたから」
女の子がニッと笑う。
「耳いいな」
「まあね」
ハーフビースト。
近くで見るのは、たぶん初めてだ。
三人目は、大きな盾を足元へ置いた男だった。
俺たちより明らかに年上だ。
鎧も盾も派手じゃない。
傷もある。
だけど、きちんと手入れされている。
男は俺たちを見ると、軽く手を上げた。
「おはよう」
「おはよう。俺、ニール・レイン」
「ハリト・ヴェール」
「俺はオルド・バッシュ。よろしく」
「私はミーナ・フェル!」
獣耳の女の子も続く。
「よろしく!」
「よろしく!」
なんか元気な奴だな。
最後に槍の青年を見る。
「カイル・ローデン」
「…………」
「…………」
「それだけ?」
「他に何がいる?」
「いや、よろしく、とか」
「……よろしく」
「言わせちゃったよ」
ハリトが小さく笑った。
なんだこいつ。
愛想がない。
……って思ったけど。
ハリトも最初、こんな感じだった気がする。
「今、僕を見た?」
「見てない」
「見たよね」
するとカイルが俺を見る。
「ニール・レイン」
「何?」
「お前、LEVELいくつだ?」
「二」
「…………二?」
「そうだけど」
カイルの眉が、わずかに動いた。
「それで昇格試験を?」
「何だよ」
「いや。よく受験資格が出たなと思っただけだ」
「それ、どういう意味だよ」
「そのままの意味だ」
「カイル」
オルドが苦笑する。
「LEVELだけで昇格が決まるわけじゃないだろ」
「分かってる」
「ならいいけどな」
なんか、ちょっとムカつく。
「じゃあ、お前はいくつなんだよ」
「八」
「…………」
「…………」
「八!?」
「うるさい」
「俺の四倍じゃん!」
「LEVELを掛け算する意味ある?」
ハリトに突っ込まれた。
「ハリトは?」
「五」
「オルドは?」
「六」
「…………」
俺。
二。
なんか急に不安になってきた。
「顔に出てるよ?」
知らない声が、すぐ横からした。
「うわっ!?」
ミーナが俺の顔を覗き込んでいた。
「近っ!」
「何?」
「いや……」
ミーナがニッと笑う。
「ちなみに私は三」
「…………」
「私の方が上」
「一だけだろ!」
「でも上でしょ?」
「一だけ!」
「先輩って呼んでもいいよ?」
「絶対呼ばねえ!」
「あははは!」
こいつ。
一個上なだけで、めちゃくちゃ先輩面するじゃん。
ハリトが俺とミーナを交互に見る。
「何だよ?」
「いや」
「なんだよ!」
「似たようなのが増えたなと思って」
「誰が!?」
「誰と!?」
俺とミーナの声が重なった。
「ほら」
「「…………」」
なんかムカつく。
するとミーナが俺の顔をもう一度見る。
「そういえば、ニールって――西の森の子でしょ?」
「西の森?」
「アースボアに追いかけ回された新人」
「言い方!!」
「あ、やっぱり!」
「なんで知ってんだよ!」
「ギルドで噂になってたよ。一つ星二人が、アースボアに追いかけ回されて逃げ帰ったって」
「最悪のところだけ広まってる!」
「でも」
ミーナが、あっさり言った。
「生きて帰ってきたんでしょ?」
「まあ……」
「ならいいじゃん」
「え?」
「死んだら、次の試験受けられないし」
「…………」
明るく言う。
冗談みたいに言う。
でも。
たぶん冒険者としては、それが正しい。
「……お前、いいこと言うな」
「でしょ?」
「LEVEL一しか違わないけど」
「それ今関係ある!?」
やっぱり。
こいつとは気が合いそうだ。
◇
「あと一人だね」
ハリトが言った。
受験者は六人。
今いるのは、俺、ハリト、カイル、ミーナ、オルド。
五人。
その時。
「すみません!」
訓練場の扉が勢いよく開いた。
一人の女性が駆け込んでくる。
俺たちより少し年上だろうか。
杖を持ち、動きやすそうな魔術師用の服を着ている。
「遅れました!?」
時計を見る。
「……まだ三分前」
女性は大きく息を吐いた。
「間に合った……」
「ギリギリだね」
ミーナが笑う。
「間に合えばいいのよ」
女性は乱れた髪を整えると、俺たちを見る。
「セラ・ミルフィ。魔術師。LEVEL六よ。よろしく」
「いきなりLEVELまで!?」
「必要かと思って」
「今ちょうどその話してたからな!」
俺もちょっと嬉しくなった。
「ニール・レイン! LEVEL二!」
「ハリト・ヴェール。五」
「ミーナ・フェル。三! ニールより一つ上!」
「そこ必要!?」
「オルド・バッシュ。六」
「カイル・ローデン。八」
セラが俺たちを順番に見る。
そして。
なぜか俺のところで止まった。
「ニール」
「何?」
「水魔法を使うって本当?」
「え?」
「受付で聞いたの」
「使うけど」
「どこで習ったの?」
「習ってない」
「…………」
「何?」
「誰にも?」
「うん」
「それで使えるの?」
「十一歳くらいから、なんとなく」
「なんとなく!?」
急にセラの顔が変わった。
「魔力循環は?」
「何それ?」
「術式構築は?」
「何それ?」
「属性接続は?」
「何それ!?」
「…………」
「…………」
セラが俺をじっと見つめる。
「あとで詳しく聞かせて」
「なんで!?」
「いいから」
「怖いんだけど!」
ミーナが横で笑っている。
ハリトも口元を押さえている。
オルドまで笑っていた。
カイルだけ真顔だ。
……大丈夫かな。
この六人。
◇
「全員揃っていますね」
しばらくして、エマさんが訓練場へ入ってきた。
俺たちは自然と並ぶ。
「本日の二つ星昇格試験。受験者は六名です」
一人ずつ名前を確認される。
俺。
ハリト。
ミーナ。
カイル。
オルド。
セラ。
「では、今回の試験官をご紹介します」
エマさんが入口を見る。
全員の視線もそちらへ向く。
……誰もいない。
「?」
数秒して。
のんびりとした足音が聞こえてきた。
「あー……悪い悪い」
一人の男が入ってくる。
ぼさっとした茶色がかった髪。
少し伸びた無精ひげ。
眠そうな目。
使い込まれた革鎧。
腰には片手剣。
背中には小さめの盾。
装備には傷も補修跡もある。
だけど、汚くはない。
長く使われていることだけが分かる。
男は俺たちを見る。
「一、二、三……」
途中で止まった。
「……何人だっけ?」
「六人です」
エマさんが即答した。
「ああ。そうだった」
大丈夫か、この人。
「あー……六人ね。全員いる?」
「います」
「じゃ、始めるか」
欠伸。
俺はハリトへ小声で聞く。
「……あの人?」
「たぶん」
「試験官?」
「エマさんがそう言っただろ」
「もっとこう……強そうな人が来ると思ってた」
「聞こえてるぞ、新人」
「うわっ!」
男がこっちを見た。
「す、すみません!」
「別にいいけど」
男は懐からギルドプレートを取り出した。
「レイヴ・アルディス。今回の試験官だ」
そしてプレートを俺たちへ見せる。
刻まれた星は――。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
「四つ星!?」
「うるせえ新人だな」
レイヴさんが耳を押さえる。
ミーナの獣耳が、ぴんと立った。
セラも目を見開いている。
オルドの表情まで少し変わった。
カイルは黙ったまま、レイヴさんを見ていた。
「さて」
レイヴさんがプレートをしまう。
「お前ら。何の試験を受けに来た?」
「二つ星昇格試験です!」
「ニール、お前にだけ聞いてない」
「もう名前覚えられてる!?」
「うるさいからな」
「そんな理由!?」
「まあいい」
レイヴさんが、俺たち六人を見回した。
「先に言っとく」
さっきまで眠そうだった目が、ほんの少しだけ変わる。
「俺は、お前らがどれだけ強いかを見るために来たんじゃない」
「…………」
「強い奴を二つ星にするんじゃない」
誰も喋らない。
「仕事を任せられる奴を、二つ星にする」
空気が変わった。
「今回の試験は――実地だ」
レイヴさんが一枚の依頼書を取り出す。
「依頼内容は、護送」
「護送?」
カイルが眉を上げた。
「薬草と治療薬を積んだ馬車を、ここから北西にある《ラト村》まで届ける」
「魔物討伐じゃないんですか?」
俺が聞く。
「なんで昇格試験で魔物を倒さなきゃならねえんだ?」
「いや……なんとなく、試験ってそういうものかなって」
「違う」
即答だった。
「お前らが二つ星になったら、討伐以外の仕事も受ける。護衛、輸送、調査、救助、採取。依頼なんていくらでもある」
言われてみれば。
俺たちも、もういろんな仕事をしてきた。
薬草を採った。
荷物を運んだ。
街道を調べた。
水路にも潜った。
「ラト村まで届ける。それがお前らの仕事だ」
「レイヴさんも一緒に行くんですよね?」
セラが聞く。
「ああ」
「指示は?」
「基本、しない」
「え?」
「俺は試験官だぞ」
レイヴさんがニヤッと笑った。
「先生じゃねえ」
六人が顔を見合わせる。
「誰が前を歩く?」
「…………」
「誰が馬車を守る?」
「…………」
「異変を見つけたら、誰が判断する?」
「…………」
「休憩は?」
「…………」
「道を間違えたら?」
「…………」
レイヴさんが肩をすくめた。
「二つ星になったら、毎回上の奴が答えを教えてくれると思うなよ」
そして壁の時計を見る。
「出発は十分後だ」
「十分!?」
「何だ。足りないか?」
「いや……」
俺は周りを見る。
今日初めて会った四人。
カイル。
ミーナ。
オルド。
セラ。
そして、八年間一緒にいるハリト。
六人。
LEVELも違う。
武器も違う。
得意なことも。
考え方も。
たぶん全部違う。
なのに。
これから一緒に、一つの仕事をする。
「相談して、役割を決めろ」
レイヴさんは壁際へ移動すると、俺たちに背を向けた。
「俺は口を出さねえ」
「…………」
カイルが槍を握る。
ミーナの耳がぴくりと動く。
オルドが盾を持ち上げる。
セラが杖を握り直す。
ハリトが俺を見る。
俺は。
腰の剣に手を置いた。
二つ星昇格試験。
どうやら。
俺が思っていたより、ずっと――。
冒険者らしい試験になりそうだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
二つ星昇格試験――ですが、いきなり魔物を倒す試験ではありませんでした。
レイヴの言葉、
「強い奴を二つ星にするんじゃない。仕事を任せられる奴を、二つ星にする」
この試験で見られているのは、単純なLEVELや戦闘力だけではありません。
そして今回登場したカイル、ミーナ、オルド、セラ。
たまたま同じ日に昇格試験を受けることになった六人ですが、これもまた一つの「出会い」です。
特にLEVEL二のニールに対して、LEVEL三でさっそく先輩面を始めたミーナ。
一しか違いません(笑)。
次回、いよいよ六人で《ラト村》へ出発します。
初めて組む六人は、果たして一つのチームとして仕事をこなせるのか。
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