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第十五話『試験まで三日』(改訂版 ver.1.01)

ついに、二つ星昇格試験への挑戦を認められたニールとハリト。


試験まで三日。


剣を鍛える?

魔法を練習する?

魔物を倒してLEVELを上げる?


ニールなりに考えた結果――。


もう一度、一つ星の依頼を受けることにしました。


選んだ依頼は、


《旧水路・詰まり調査》


……地味です。


果たして、こんな仕事が昇格試験の役に立つのでしょうか?


面白かったら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


それでは、第十五話『試験まで三日』をどうぞ!

「よっしゃあああああ!!」


 冒険者ギルドに、俺の声が響いた。


「ニール、うるさい」


「だって二つ星だぞ!」


「まだ一つ星」


「でも昇格試験だぞ!」


「受ける資格をもらっただけ」


「夢がない!」


「事実を言ってるだけ」


 ハリトはいつも通り冷静だった。


 でも。


 俺は見逃していない。


「……お前も嬉しいだろ」


「まあね」


「ほら!」


「ニールほどうるさくないだけ」


 俺はエマさんを見る。


「それで!」


「はい?」


「試験!」


「はい」


「いつ!?」


「まず説明を聞いてください」


「聞く!」


「本当に?」


「聞くって!」


「では、座ってください」


「はい!」


 俺とハリトは、受付前の椅子へ座った。


 さっき。


 エマさんから言われた。


『そろそろ――二つ目の星を、目指してみませんか?』


 二つ星。


 冒険者になった時は。


 一つ星になれただけで嬉しかった。


 でも。


 今は。


 その次が見えている。


 それに。


 蒼天遺跡。


 あそこへ近づくためにも。


 もっと冒険者として信用されなきゃならない。


「今回の二つ星昇格試験は、三日後に行います」


「三日後!」


「はい」


「明日じゃ駄目?」


「駄目です」


「今日!」


「もっと駄目です」


「なんで!?」


「昇格試験は、ニールさん一人のために行うものではありませんから」


「…………」


 そうだった。


「現在、お二人を含めて六名の受験資格者がいます」


「六人?」


「はい」


 俺とハリト。


 そして。


 他に四人。


 俺たちと同じように。


 一つ星から二つ星を目指している冒険者がいる。


「試験官はエマさん?」


「違います」


「即答!」


「私は受付です」


「じゃあ誰?」


「ギルドから認定された上位冒険者です」


「上位冒険者……!」


 その言葉だけで。


 ちょっとワクワクする。


「何つ星?」


「当日まで秘密です」


「なんで!?」


「その方がニールさんは喜ぶでしょう?」


「…………」


 考える。


「確かに!」


「扱い方を理解されてるね」


 ハリトが言った。


 なんか悔しい。


「試験官が見るのは、単純な戦闘能力だけではありません」


 エマさんの声が。


 少しだけ真面目になる。


「判断。行動。周囲への注意。依頼への向き合い方。そして、他の冒険者との関わり方」


「他の冒険者?」


「はい」


「六人で戦うの?」


「試験内容についてはお答えできません」


「じゃあ魔物は出る?」


「お答えできません」


「剣は?」


「お答えできません」


「魔法は?」


「お答えできません」


「何なら教えてくれるの!?」


「三日後だということです」


「それしかない!」


 ハリトが笑っている。


「一つだけ」


 エマさんが言った。


「覚えておいてください」


「?」


「二つ星への昇格試験は、魔物を何匹倒せるかを競う試験ではありません」


「…………」


「一つ上の仕事を任せても――きちんと依頼を果たし、生きて帰ってこられる冒険者か」


 エマさんが。


 俺たちを見る。


「それを見てもらいます」


「…………」


 その言葉。


 聞いたことがある。


『依頼を達成して――生きて帰る! それが冒険者だ!』


 西の森。


 アースボアを前にした。


 ガレスさんの声。


「……分かった」


「本当に?」


「たぶん!」


「不安ですね」


     ◇


 ギルドを出る。


「ハリト!」


「何?」


「試験まで三日ある!」


「三日しかないね」


「鍛えるぞ!」


「何を?」


「…………」


「…………」


「剣?」


「試験で剣を使うの?」


「分かんない」


「じゃあ弓?」


「それはお前だろ」


「魔法?」


「それもある!」


「報告書?」


「それも!」


「判断力?」


「……どうやって鍛えるんだ?」


「さあ」


「…………」


「…………」


「全部やるか!」


「出た」


「何が!?」


「ニールの『分からないから全部』」


「いいだろ! 全部強くなれば!」


「三日で?」


「…………」


「…………」


「じゃあLEVEL!」


「今度はそっち?」


「俺、LEVEL二になっただろ?」


「なったね」


「もう一回リーンって鳴れば、LEVEL三!」


「当たり前だね」


「魔物を倒そう!」


「駄目」


「なんで!?」


「試験前に怪我したらどうするの?」


「弱いやつ!」


「LEVELを上げるために魔物を探すの?」


「…………」


 ハリトが。


 じっと俺を見る。


「この前、エマさんにも止められたよね」


「…………」


「魔物を見るたびにLEVELの数字しか見なくなりそうって」


「…………」


「なったよね」


「……はい」


 くそ。


 正論だ。


「じゃあ何すりゃいいんだよ!」


「普通に依頼したら?」


「…………」


「ニール?」


「それだ!」


「そんな驚くこと?」


     ◇


「試験までにできる依頼ください!」


 俺たちは。


 ギルドへ戻った。


 エマさんが。


 俺を見る。


 ハリトを見る。


 もう一度。


 俺を見る。


「……何を企んでいます?」


「なんで最初から疑うの!?」


「先ほど出ていったばかりですので」


「普通に依頼したいだけ!」


「試験前ですよ?」


「だからだよ!」


 俺は。


 依頼掲示板を見る。


「何が試験に出るか分からないんだろ?」


「はい」


「だったら、試験の練習しようとしても分かんない」


「そうですね」


「だから」


 薬草を採った。


 荷物を運んだ。


 護送した。


 森を調べた。


 街道も調べた。


 失敗した。


 怒られた。


 引き返した。


 魔物と戦った。


 戦わなかった。


 そして。


 そのたびに。


 知らなかったことを覚えた。


「俺、まだ一つ星だから」


 自分のギルドプレートを見る。


 一つの星。


「試験までは、一つ星なんだろ?」


「はい」


「だったら」


 俺は。


 エマさんを見る。


「一つ星のうちに、もう一件。一つ星の仕事やっとく」


「…………」


 エマさんの表情が。


 少しだけ柔らかくなった。


「……最初よりは、冒険者らしくなりましたね」


「本当!?」


「少しだけです」


「またそれ!」


 ハリトが笑う。


「では――」


 エマさんが。


 依頼書を確認する。


「これなら、どうでしょう」


 一枚。


 受付台へ置かれた。


《旧水路・詰まり調査》


「…………」


「どうしました?」


「旧水路?」


「はい」


「魔物は?」


「現在のところ確認されていません」


「遺跡?」


「ただの古い水路です」


「宝箱は?」


「なぜあると思ったんですか?」


「…………」


 地味だ。


 ものすごく。


 地味だ。


「受けますか?」


 以前の俺なら。


 もっと冒険っぽい依頼ないの?


 とか。


 言っていたかもしれない。


 でも。


「……受ける」


 ハリトが。


 少しだけ驚いた顔をした。


「いいの?」


「だって」


 依頼書を見る。


「これも一つ星の仕事なんだろ?」


「そうだね」


「だったらやる」


 エマさんが頷いた。


「では、お願いします」


《旧水路・詰まり調査》。


 この時の俺は。


 本当に。


 ただの地味な仕事だと思っていた。


     ◇


 リーヴェル郊外。


 古い石造りの水路。


「暗いな」


「灯り、持ってきて正解だったね」


「俺もそう思ってた」


「エマさんに持っていけって言われたんでしょ」


「……そうとも言う」


「それ以外にどう言うの?」


 町へ水を引くために。


 ずっと昔から使われている水路。


 最近。


 町へ流れ込む水の量が減った。


 だから。


 どこかが詰まっていないか。


 それを調べる。


 原因が分かれば報告。


 自分たちで対処できるなら対処する。


 危険なら。


 戻る。


「冒険者って、本当に何でもするんだな」


「困ってる人が依頼を出すんだから、そうなるんじゃない?」


「なるほど」


 足元を。


 浅い水が流れている。


 壁には苔。


 ところどころに。


 枝や枯れ葉が引っかかっている。


「……詰まりって、どうやって探すんだ?」


「水が流れにくくなってるところじゃない?」


「それは分かる」


「じゃあ探そう」


「広いぞ?」


「依頼だからね」


「…………」


 剣なら。


 振ればいい。


 魔物なら。


 探せばいい。


 でも。


 水の詰まり。


 どうやって探す?


「ニール」


「何?」


「水」


「水?」


「分からない?」


 ハリトが。


 足元を指差した。


「ニール、水魔法使えるだろ」


「…………」


 俺は。


 流れている水を見る。


「《水球》撃つの?」


「なんで?」


「水魔法だから」


「それしかできないの?」


「…………」


「…………」


「できるかもしれない!」


「今考えたでしょ」


「やってみないと分かんないだろ!」


 しゃがむ。


 水へ手を触れる。


 冷たい。


 目を閉じる。


 意識を集中する。


 いつも《水球》を使う時みたいに。


 ほんの少し。


 魔力を流してみる。


「…………」


 水。


 流れている。


 当たり前だ。


 でも。


「……あれ?」


「どうした?」


 なんとなく。


 分かる。


 こっちから来る水。


 こっちは強い。


 でも。


 分岐の向こう。


 そっちから流れてくる水は。


 弱い。


「……こっち」


「分かるの?」


「たぶん」


「たぶん?」


「断定するなってエマさんに言われた」


「そこは覚えてるんだ」


「成長してるだろ?」


「はいはい」


 分岐を曲がる。


 進む。


 少しずつ。


 水の流れが弱くなる。


「こっちだ」


「本当に分かる?」


「……さっきよりは」


「じゃあ行こう」


 さらに進む。


 そして。


「あった」


 泥。


 石。


 折れた枝。


 大きな木の根。


 それらが絡まり合って。


 水の流れを塞いでいた。


「これだ!」


「たぶんね」


「たぶん!」


「学習したね」


「よし!」


 俺は腕まくりする。


「片付けよう!」


     ◇


「重っ!」


「押して!」


「押してる!」


「全然動いてない!」


「じゃあ手伝え!」


「やってる!」


 地味だ。


 ものすごく。


 地味だ。


 泥まみれになりながら。


 枝を外す。


 石をどける。


 根を切る。


「英雄譚って絶対こんなんじゃない!」


「誰も英雄になれなんて言ってないだろ!」


「もっとこう、巨大な魔物とか!」


「喋ってないで押して!」


「はい!」


 最後。


 大きな枝が一本。


 引っかかっている。


「せーの!」


 二人で持ち上げる。


「動いた!」


「そのまま!」


「重い!」


「もう少し!」


「うおおおお!」


 外れた。


 次の瞬間。


 溜まっていた水が。


 一気に流れ出した。


「うわっ!」


「ニール!」


 足を取られる。


 滑る。


「おわっ――」


 バシャーン!


「…………」


「…………」


「大丈夫?」


「…………」


「ニール?」


 俺は。


 水路の中に。


 尻もちをついていた。


「水魔法使いが……」


「うん」


「水に負けた……」


「そういう日もあるよ」


「慰めになってない!」


 ハリトが笑っている。


「くそ……」


 立ち上がる。


 服。


 びしょびしょ。


 泥。


 べったり。


「…………」


 でも。


 水は。


 流れている。


 さっきまで。


 淀んでいた水路を。


 勢いよく。


「……直ったな」


「うん」


「依頼達成?」


「帰って報告するまでが依頼」


「分かってるって」


 俺は。


 水路を見る。


「…………」


「どうしたの?」


「いや」


「?」


「…………」


 待つ。


「ニール?」


「……鳴らない」


「何が?」


「リーン」


「…………」


「LEVEL上がらない」


「水路一個直すたびに上がってたら大変だよ」


「でも経験したぞ!」


「したね」


「新しいこともやった!」


「やったね」


「水魔法で水の流れも見た!」


「見たね」


「じゃあなんで!?」


「僕に聞かれても」


「魔物か?」


「何が?」


「やっぱり魔物倒さないと駄目なのかな」


「さあ?」


「……プニラ探す?」


「駄目」


「即答!」


「依頼終わったんだから帰るよ」


「はい」


 俺は。


 もう一度。


 水を見る。


 LEVELは。


 上がらなかった。


 音も。


 鳴らなかった。


 だから。


 この時の俺は。


 この一日が。


 自分の成長と何か関係しているなんて。


 ほとんど考えていなかった。


     ◇


「――というわけで」


 ギルド。


 俺は。


 エマさんへ報告する。


「水路の分岐から奥で詰まりを発見。泥と石と枝、それから木の根が絡まってました」


「はい」


「二人で取り除いて、水が流れることを確認」


「他に異常は?」


「魔物なし。崩れてる場所も見つけてない」


「水量は?」


「戻ったと思う。でも町側までは確認してないから――」


 一度。


 考える。


「たぶん」


 エマさんが。


 少し笑った。


「はい。確認はこちらで行います」


「それと!」


「はい?」


「俺、水魔法使った」


「魔物はいなかったのでは?」


「戦ってないよ!」


 俺は。


 水の流れを感じたことを説明する。


 分岐。


 流れの強さ。


 弱い方向。


 そこを追ったら。


 詰まりを見つけた。


「なるほど」


 エマさんが。


 少し驚いた顔をした。


「そんな使い方をしたんですね」


「俺も初めて」


「水属性の魔法を扱える方なら、そういった使い方もできるのかもしれませんね」


「でもLEVEL上がらなかった」


「…………」


「エマさん?」


「ニールさん」


「はい」


「LEVELを基準に依頼をするの、そろそろやめませんか?」


「…………」


「依頼はLEVELを上げるためにあるものではありません」


「……はい」


 ハリトが。


 横で笑っている。


「笑うな!」


「だって」


「でも!」


 俺は。


 ちょっとだけ。


 胸を張る。


「依頼はちゃんと終わらせた」


「はい」


 エマさんが。


 依頼書へ印をつける。


「《旧水路・詰まり調査》――完了です」


「よし!」


 一つ星として。


 もう一つ。


 仕事を終えた。


「それから」


「?」


「二つ星昇格試験についてですが」


「!」


 俺の背筋が伸びる。


「明後日の朝です。日の出から一刻後までに、ギルドへ集合してください」


「明後日……」


「遅刻した場合は?」


「しない!」


「まだ聞いてません」


「絶対しない!」


「ニール」


「何?」


「明日は早く寝よう」


「子ども扱いするな!」


「寝坊するよりいいでしょ」


「寝坊しない!」


「八年前、森へ遊びに行く日に寝坊したよね」


「なんで覚えてんだよ!」


「親友だから」


「そういう時だけ使うな!」


 エマさんが。


 笑っている。


 俺は。


 自分のギルドプレートを見る。


 一つ星。


 明後日。


 俺たちは。


 二つ目の星へ挑む。


 その前に。


 今日。


 俺が手に入れたものは。


 新しい剣でもない。


 新しい魔法でもない。


 LEVELでもない。


 宝物でもない。


 水路の泥と。


 《水球》を撃つ以外の。


 水魔法の使い方。


 それから。


 一つ星の依頼を。


 もう一つ。


 ちゃんと終わらせた経験。


「…………」


「ニール?」


「何でもない」


 今は。


 それでいい。


 二つ星昇格試験まで――。


 あと二日。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


昇格試験直前。


ニールが手に入れたものは――。


新しい剣でもなく。

新しい必殺技でもなく。

LEVELでもなく。


水路の泥でした(笑)。


でも今回、ニールは《水球》を撃つ以外の水魔法の使い方を初めて経験しました。


魔法は、魔物を倒すためだけにあるわけではない。


水の流れを感じる。

異常を探す。

誰かの困りごとを解決する。


ニール自身は「LEVEL上がらなかった!」と残念がっていますが、この経験に意味があったのかどうかは――まだ分かりません。


そもそも《経験》とは何なのか。


なぜLEVELは上がったり、上がらなかったりするのか。


今はニールと一緒に「魔物を倒したら上がるんじゃないの?」くらいに思っていただければと思います。


そして次はいよいよ――


二つ星昇格試験。


一つ星として積み重ねてきたものが、初めて試されます。


果たしてニールとハリトは、二つ目の星を手に入れられるのか。


続きが気になった方は、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


次の冒険もよろしくお願いします!

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