↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/99

第十四話『積み重ね』(改訂版 ver.1.01)

LEVEL二になったニール。


昨日より強くなった。

だったら今日から、もっとすごい冒険が――!


……始まるとは限りません。


薬草を採って、荷物を運んで、街道を調べて。

時には戦い、時には戦わず、時には引き返す。


LEVELのように数字には見えなくても、積み重なっているものがあります。


今回は、そんな二人の「一つ星冒険者」としての日々です。


面白かったら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


それでは、第十四話『積み重ね』をどうぞ!

「LEVEL二の俺に任せろ!」


「昨日まで一だったけどね」


「昨日の俺と今日の俺は違う!」


「剣は昨日も外してたけど」


「それは言うな!」


 LEVELが上がった翌日。


 俺とハリトは、森にいた。


 昨日。


 人生で初めてLEVELが上がった。


 LEVEL一から。


 LEVEL二へ。


 たった一つ。


 でも。


 俺にとっては、とんでもなく大きな一つだった。


「ハリト」


「何?」


「俺、速くなってない?」


「少しは」


「だよな!」


「でも走らなくていいよ」


「なんで?」


「薬草採取だから」


「…………」


 俺は足を止める。


 そうだった。


 今日の依頼は。


《リーファ草・採取》


 討伐じゃない。


 昨日。


 俺はギルドの依頼掲示板から討伐依頼を探しまくった。


 そして。


 エマさんに止められた。


『LEVELを上げるために依頼を選ばないでください』


 と言われた。


 仕方ないので。


 今日は薬草採取だ。


「……リーンって鳴らないかな」


「薬草で?」


「分かんないだろ?」


「まあ、分からないけど」


 俺はしゃがみ込む。


「あ」


 草を一本見つける。


「リーファ草!」


「違うよ」


「…………」


 危なかった。


 よく見る。


「こっちか」


「うん」


 似ている。


 でも。


 葉の縁が違う。


 匂いも。


 生えている場所も。


 昔なら。


 たぶん分からなかった。


「…………」


「どうしたの?」


「俺、成長してない?」


「LEVEL二だから?」


「違う」


 俺はリーファ草を摘む。


「前は間違えた」


「ああ」


「今は分かった」


「僕に違うって言われたあとだけどね」


「そこはいいんだよ!」


 でも。


 ちょっと嬉しかった。


     ◇


 別の日。


 俺たちは、商人の荷物を運んでいた。


「暇だ」


「いいことじゃない?」


「何も起きない」


「護送中に何か起きてほしいの?」


「……起きない方がいい」


「正解」


 荷馬車が。


 ゆっくり街道を進んでいく。


 最初の頃なら。


 たぶん。


 魔物が出ないかな。


 とか。


 何か事件が起きないかな。


 とか。


 考えていたと思う。


 でも。


 今は。


「前、異常なし」


「右も大丈夫」


「後ろは?」


「さっき見た」


「じゃあ――」


「もう一回」


「え?」


「さっきと今は違うから」


「…………」


 ハリトを見る。


「何?」


「お前、冒険者みたいだな」


「冒険者だよ」


「そうだった」


 俺も。


 荷馬車の後ろを見る。


 異常なし。


 何も起きない。


 何も起きないまま。


 目的地に着いた。


「ありがとうございました」


 商人が頭を下げる。


「何事もなくてよかったです」


 俺は答えた。


 言ってから。


 自分で少し驚いた。


「ニール」


「何?」


「今の、前なら言わなかったよね」


「…………」


「『魔物出なかったなー』って残念がってたと思う」


「俺も今思った」


 なんか。


 ちょっと。


 悔しい。


「大人になっちまった」


「十五歳で何言ってるの?」


     ◇


 また別の日。


 街道の調査。


「足跡」


 ハリトがしゃがむ。


「グラスドッグ?」


「たぶん」


 俺も横にしゃがむ。


 見る。


 前だったら。


 足跡なんて。


 ただの跡だった。


 でも。


「……二匹?」


「どうして?」


「こっちと、こっち。大きさが違う」


「うん」


「こっちは……」


 地面を見る。


 足跡が。


 街道から離れている。


「森に戻ってる?」


「たぶんね」


「じゃあ街道に出てきたけど、そのまま森に帰った?」


「可能性はある」


「可能性」


「うん」


 断定しない。


 見たこと。


 分かったこと。


 考えたこと。


 それを。


 ちゃんと分ける。


 第十二話の調査で。


 エマさんに教わった。


「あ」


「今度は何?」


 少し先。


 道の端。


 木の柵が一本。


 倒れている。


「壊れてる」


「依頼には関係ないね」


「でも」


「うん」


 俺は位置を覚える。


「報告しよう」


「そうだね」


 依頼に書いていないから。


 見なくていい。


 そんなことはない。


 ここを通る誰かが。


 困るかもしれない。


     ◇


「ニールさん」


「はい」


「こちらの報告書ですが」


「はい」


「…………」


「…………」


 エマさんが。


 俺の報告書を見ている。


 長い。


 ものすごく長い。


「……何?」


「いえ」


「何!?」


「ちゃんと書けています」


「…………」


「街道のどの地点で足跡を確認したのか。数。方向。断定できない部分には『可能性あり』。依頼外の破損した柵についても位置が書かれています」


「…………」


「どうしました?」


「もう一回言って」


「嫌です」


「褒められた!」


「一回で十分です」


「ハリト! 聞いた!?」


「聞いてたよ」


「俺、報告書褒められた!」


「よかったね」


「最初『森の奥』しか書けなかった俺が!」


「自分で言うんだ」


 エマさんが。


 少し笑った。


「ずいぶん、まともになりましたね」


「褒め方!!」


     ◇


 そんな日々が。


 続いた。


 依頼を受ける。


 出発する。


 仕事をする。


 帰ってくる。


 報告する。


 次の依頼を受ける。


 もちろん。


 全部が上手くいったわけじゃない。


     ◇


「……無理だな」


 川を見て。


 俺は言った。


 昨日から降った雨で。


 水が増えている。


 向こう岸まで行けば。


 目的地は近い。


「行けそう?」


 ハリトが聞く。


「…………」


 少し前の俺なら。


 行ける。


 そう言っていたかもしれない。


 でも。


 流れを見る。


 足元を見る。


 荷物を見る。


 俺たちが運んでいるのは。


 村へ届ける薬だ。


 濡らしたら駄目。


 流されたら。


 もっと駄目。


「戻ろう」


「うん」


「悔しいけど」


「うん」


「戻って報告」


「正解」


「……俺、冒険者っぽくない?」


「自分で言わなければね」


     ◇


 ギルドへ戻って。


 事情を説明した。


 エマさんは。


 怒らなかった。


「分かりました」


「依頼、失敗?」


「予定通り届けられなかった、という意味では完了ではありません」


「うっ」


「ですが」


 エマさんは。


 俺たちを見る。


「その判断で構いません」


「え?」


「薬を守り、自分たちも無事に戻った。そして川の状況を報告した。ギルドから別の経路を手配します」


「…………」


「無理に渡っていたら?」


「……流されたかも」


「薬は?」


「駄目になったかも」


「なら?」


「戻ってよかった」


「はい」


 依頼を完了できなかった。


 でも。


 間違ったわけじゃない。


 そういうことも。


 少しずつ分かってきた。


     ◇


 もちろん。


 魔物と戦うこともあった。


「グラスドッグ二匹」


 街道脇。


 俺は剣へ手を伸ばす。


「こっち見てるな」


「うん」


「…………」


 昨日の俺なら。


 LEVEL。


 上がるかな。


 とか。


 考えたかもしれない。


 でも。


「依頼は?」


「街道の状況調査」


「襲ってきてる?」


「……来てない」


「じゃあ?」


「避ける」


 俺たちは。


 距離を取った。


 グラスドッグも。


 こっちへ来なかった。


「…………」


「どうしたの?」


「いや」


「戦いたかった?」


「ちょっとだけ」


「正直だね」


「でも」


 俺は。


 遠ざかっていくグラスドッグを見る。


「戦わなくていいなら、いいや」


「うん」


「LEVELは上げたいけど」


「まだ言ってる」


「リーン聞きたいし」


「病みつきになってるね」


「だって気持ちいいんだぞ!」


「僕も知ってるよ」


「じゃあ分かるだろ!」


「分かるから困ってるんだよ」


     ◇


 十五件。


 十六件。


 十七件。


 依頼の数が増えていった。


 十八件目。


 荷物運搬。


 十九件目。


 街道調査。


 そして。


 その次の依頼。


《リーヴェル北部・行商人捜索》


 予定日を過ぎても。


 町へ到着していない行商人を探す。


 ただし。


 行方不明と決まったわけではない。


 荷馬車の故障。


 道を間違えた。


 天候。


 いろんな可能性がある。


「行こう」


「うん」


 北街道を進む。


 途中。


 車輪の跡を見つけた。


「こっち」


 ハリトが指差す。


 街道から。


 少し外れている。


「なんで?」


「分からない」


「じゃあ調べよう」


 追う。


 しばらくして。


 荷馬車が見えた。


「あ!」


 壊れていた。


 片方の車輪が。


 溝に落ちている。


「誰かいる!」


 男が一人。


 荷馬車の横に座っていた。


「大丈夫ですか!?」


 俺たちは走った。


 怪我は。


 軽い。


 でも。


 一人では。


 車輪を戻せなかったらしい。


「町へ助けを呼ぼう」


「いや」


 ハリトが荷馬車を見る。


「三人なら戻せるかもしれない」


「やってみる?」


「無理ならやめる」


「了解」


 昔なら。


 俺が。


 一人で持ち上げようとしたかもしれない。


 今は。


 男と。


 ハリトと。


 三人。


「せーの!」


 押す。


 持ち上げる。


 ずれる。


「待って!」


 一度止める。


 位置を変える。


「もう一回!」


 押す。


「今!」


 ハリトが車輪の向きを直す。


 ガタンッ!


「入った!」


 車輪が。


 道へ戻る。


「やった!」


 行商人が。


 何度も頭を下げた。


「助かった。本当にありがとう」


「いえ!」


 俺は。


 ちょっとだけ胸を張った。


「冒険者なんで!」


「ニール」


「何?」


「すごく言いたかったんだね」


「言いたかった!」


     ◇


 夕方。


 ギルドへ戻る。


「行商人を発見。怪我は軽傷。荷馬車の車輪が溝に落ちてました」


「場所は?」


「北街道を出て――」


 説明する。


 どうやって見つけたか。


 どんな状態だったか。


 怪我は。


 荷馬車は。


 他に危険はなかったか。


「以上です!」


 エマさんが。


 報告書を見る。


「はい。問題ありません」


「一発!?」


「はい」


「書き直しなし!?」


「なしです」


「ハリト!」


「よかったね」


「俺、成長してる!」


「そこは否定しないよ」


「珍しい!」


「どういう意味?」


 エマさんが。


 依頼書に印をつける。


「これで、依頼完了です」


「よっしゃ!」


 俺は。


 掲示板を見る。


「じゃあ次!」


「待ってください」


「ん?」


「ニールさん。ハリトさん」


 エマさんの声が。


 少しだけ変わった。


「何?」


 エマさんが。


 俺たちを見る。


 それから。


 俺とハリトの。


 ギルドプレートへ目を落とした。


 そこには。


 星が一つ。


 冒険者になった日に。


 もらった星。


「…………」


「エマさん?」


「お二人が冒険者になってからの記録を、確認していました」


「記録?」


「はい」


 依頼の達成。


 依頼人からの評価。


 報告。


 規則。


 危険への判断。


 そして。


 無事に帰ってきたか。


「依頼の数だけで決まるものではありません」


 エマさんが言う。


「二十件達成すれば、自動的に上へ行けるわけでもありません」


「うん」


「同じ一つ星でも、もっと早く挑戦する方もいます。逆に、何十件受けても認められない方もいます」


「…………」


「星は」


 エマさんが。


 俺たちのプレートを見る。


「ギルドが、その冒険者をどこまで信用できるか。その目安でもありますから」


 俺は。


 自分のプレートを見る。


 一つ星。


 ずっと。


 変わらなかった星。


「ニールさん」


「はい」


「ハリトさん」


「はい」


 エマさんが。


 少し笑った。


「そろそろ――」


 そして。


 言った。


「二つ目の星を、目指してみませんか?」


「…………」


 俺は。


 ハリトを見る。


 ハリトも。


 俺を見る。


「…………」


 俺は。


 もう一度。


 自分のプレートを見た。


 一つ星。


 冒険者になった日から。


 ずっと。


 そこにあった星。


 薬草を採った。


 荷物を運んだ。


 魔物と戦った。


 戦わなかった。


 失敗した。


 引き返した。


 報告書を書き直した。


 人を助けた。


 助けられた。


 そして。


 帰ってきた。


 何度も。


 何度も。


 帰ってきた。


 LEVELが上がった時は。


 ――リーン。


 音がした。


 でも。


 こっちは。


 音なんて。


 何も鳴らなかった。


 気がつかないうちに。


 少しずつ。


 積み重なっていた。


 俺は。


 顔を上げる。


「やります」


 ハリトを見る。


「もちろん」


「うん」


 俺は。


 もう一度。


 エマさんを見る。


「俺たち――二つ星になります!」


 一つ目の星をもらった日。


 俺たちは。


 冒険者になった。


 そして今。


 ようやく。


 次の星へ。


 手を伸ばすところまで来た。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回はタイトル通り、ニールとハリトが積み重ねてきたもののお話でした。


第十三話では、


――リーン。


という音とともに、ニールのLEVELが一から二へ上がりました。


でも今回は、何も鳴りません。


薬草を見分けられるようになった。


何も起きない護送を「よかった」と思えるようになった。


見たことと推測を分けて報告できるようになった。


戦う必要のない魔物とは戦わなくなった。


危険なら引き返せるようになった。


そして、何度もちゃんと帰ってきた。


そうした一つ一つを、ギルドはちゃんと見ていました。


LEVELは、その人自身の成長。


そして、


星は、冒険者として積み上げた信用。


似ているようで、少し違う二つの成長です。


そしてついに――。


「二つ目の星を、目指してみませんか?」


次はいよいよ、ニールとハリトが初めての昇格へ挑みます!


二人は無事、二つ星冒険者になれるのか。


続きが気になった方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります!


次の冒険もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。