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第十話『冒険者の買い物』(改訂版 ver.1.01)

初めての依頼を終え、初めての報酬を手にしたニールとハリト。


冒険者になった。


報酬ももらった。


だったら次にやることは――。


やっぱり、お買い物!


……なのですが。


考えてみれば二人の剣や弓、防具は、家族や故郷のみんなから贈られたものばかり。


「強い武器を買えば、強くなれる?」


そんなニールに、鍛冶屋のバルドが教えてくれるのは、装備との付き合い方でした。


魔物素材、鉱石、魔晶石。


冒険者になったからこそ見えてくる、新しい世界も少しずつ広がっていきます。


改訂版を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


それでは、


第一章 第十話『冒険者の買い物』(改訂版 ver.1.01)


どうぞ!

「ハリト」


「何?」


「俺たち、どこ行けばいい?」


「…………」


 冒険者ギルドを出て。


 俺たちは、立ち止まっていた。


 俺の手の中には、初めて冒険者として稼いだ銅貨。


 五枚。


 さっきまでは、これで何かを買おうと盛り上がっていた。


 問題は。


「冒険者って、何買うんだ?」


「だから僕に聞かないでよ」


「ハリトの方が一歳上だろ」


「一歳で冒険者の買い物に詳しくなるなら苦労しないよ」


「じゃあ、剣?」


「持ってるだろ」


「弓?」


「僕も持ってる」


「防具?」


「それもある」


「…………」


「…………」


 俺は自分を見る。


 腰には剣。


 革の防具。


 水筒。


 小さな荷物袋。


 最低限必要なものは、冒険者になる前に父さんと母さんが揃えてくれた。


 ハリトも同じような格好をしている。


「俺たち……」


「うん」


「何も買う必要なくない?」


「少なくとも今すぐ武器を買う必要はなさそうだね」


「せっかく初報酬もらったのに!」


「貯めれば?」


「嫌だ!」


「なんで?」


「初報酬だぞ!? なんか冒険者っぽいもの買いたい!」


「その理由で無駄遣いする方が冒険者として危ない気がする」


 ぐっ。


 正論で殴ってくる。


「じゃあ……」


 俺は考える。


 武器。


 防具。


 冒険者。


 それについて詳しい人。


「あ」


「何?」


「いるじゃん」


「誰?」


「装備のことなら、あの人だよ!」


     ◇


 カンッ!


 カンッ!


 カンッ!


 通りまで響く金属音。


 店へ近づくにつれて、熱い空気が漂ってくる。


 見慣れた看板。


 《ベルク鍛冶店》。


「バルドのおっちゃーん!」


「うるせえ! 聞こえてる!」


 店の奥から、聞き慣れた野太い声が返ってきた。


「元気だな」


「怒られたけどな!」


 ハリトと一緒に中へ入る。


 壁には剣や槍。


 棚には小刀や工具。


 革の防具や金属製の部品も並んでいる。


 子どもの頃から何度も来ている店だ。


 トーマを遊びに誘うために。


 壊れた農具を届けるために。


 意味もなく剣を眺めるために。


 でも。


 今日は少し違う。


 俺は――冒険者として、この店に来た。


「なんだ、お前ら」


 火床の奥から大男が出てくる。


 太い腕。


 煤で汚れた革の前掛け。


 幼馴染のトーマの父親。


 バルド・ベルク。


「初仕事で剣でも折ったか?」


「折ってない!」


「じゃあ何しに来た」


「見ろ!」


 俺はカウンターへ銅貨を置いた。


 チャリン。


「初報酬!」


「……ほう」


「これで冒険者の装備を買いに来た!」


 バルドのおっちゃんが銅貨を見る。


 俺を見る。


 もう一度、銅貨を見る。


「五枚か」


「五枚だ!」


「何買うんだ?」


「分からん!」


「帰れ」


「なんでだよ!?」


 隣でハリトが笑っている。


「いや、なんかあるだろ! 冒険者になったら買うもの!」


「必要なもんを買え」


「だから必要なもんが分からない!」


「お前、よく冒険者になれたな」


「俺も今ちょっと思ってる!」


 バルドのおっちゃんがため息をついた。


「まず、お前が今持ってるもん見せろ」


「これ?」


 腰の剣を外す。


 鞘ごと渡した。


 バルドのおっちゃんが剣を抜く。


 刃を見る。


 指で峰をなぞる。


 柄を握り、軽く振る。


「……問題ねえな」


「もっと強い剣にした方がいい?」


「なんでだ?」


「冒険者になったから」


「意味が分からん」


「なんかこう……冒険者用のすごい剣とか!」


「それが冒険者用だ」


「え?」


「ガイルがここで選んでいった」


「ここで!?」


「知らなかったのか?」


 知らなかった。


 十五歳の誕生日。


 父さんから渡された剣。


 父さんが選んでくれたことは知っていた。


 でも。


「おっちゃんも選んだの?」


「相談には乗った」


 バルドのおっちゃんが俺を見る。


「お前の背丈と腕の長さ。握り。今の筋力。それから、まだ身体が大きくなることも考えてな」


「…………」


 もう一度、剣を見る。


 ただ買ってきた剣じゃなかったんだ。


「高級品じゃねえぞ」


「そこは言わなくていい!」


「だが、今のお前には十分だ。変な癖もねえし、扱いやすい。手入れすりゃ長く使える」


「そっか……」


 なんとなく。


 嬉しかった。


「そっちは?」


 バルドのおっちゃんがハリトを見る。


「弓か?」


「はい」


 ハリトが背中から弓を外した。


「森を出る時に、みんなからもらいました」


「見せろ」


 受け取る。


 弦。


 弓幹。


 握り。


 何度か確かめる。


「こっちもいいな」


「本当ですか?」


「ああ。お前に合ってる」


 ハリトの表情が少しだけ緩んだ。


「じゃあ俺たち、武器買わなくていい?」


「今はな」


「なんだぁ……」


「なんで残念そうなんだ」


「もっと強い武器にしたら、もっと強くなると思った」


 俺が言うと。


 バルドのおっちゃんは俺の剣を返しながら、鼻を鳴らした。


「強い武器持ちゃ、誰でも強くなれると思ってんのか?」


「……違うの?」


「違う」


 即答だった。


「どれだけいい剣でも、使う奴が振り回されてたら意味がねえ」


「振り回される?」


「剣に、だ」


 俺は手の中の剣を見る。


「今のお前に必要もねえ武器を持ったところで、扱えなきゃただの荷物だ」


「…………」


「まず――」


 バルドのおっちゃんが剣を指した。


「今持ってるもんを、ちゃんと使え」


 今持っているもの。


 父さんがくれた剣。


 八年間、ずっと振ってきた。


 冒険者になるために。


「分かった」


「おう」


「じゃあ何買えばいい?」


「話戻ったな」


     ◇


「砥石」


「うん」


「手入れ油」


「うん」


「予備の紐」


「うん」


「採取用の小刀」


「うん」


「素材袋」


「うん」


「野営するなら火打ち道具。雨具。保存食。水筒。薬。解毒薬――」


「待って待って待って!」


「なんだ」


「銅貨五枚じゃ足りなくない!?」


「足りるわけねえだろ」


「冒険者って金かかる!!」


「今さらか」


 なんてことだ。


 魔物と戦う前に、財布と戦わなきゃいけない。


「ハリト」


「何?」


「冒険者、思ってたより大変だぞ」


「昨日アースボアに追われた時点で気づいてよ」


「それとこれとは別!」


 バルドのおっちゃんが豪快に笑った。


「まあ、最初から全部揃える必要はねえ」


「そうなの?」


「必要になったもんから揃えろ。依頼によって持ってくもんも違う」


 なるほど。


 森へ行くのと。


 街道を歩くのと。


 荷物を運ぶのと。


 全部、同じ装備じゃない。


「それに」


 バルドのおっちゃんが言う。


「金がねえなら、冒険者には冒険者なりのやり方もある」


「やり方?」


「ちょっと待ってろ」


 店の奥へ消える。


 しばらくして戻ってきたおっちゃんの手には、小さな短剣があった。


「見てみろ」


「これ?」


 普通の短剣に見える。


 でも。


 刃の根元。


 薄い赤色の素材が埋め込まれていた。


「何これ?」


「《フレイムリザード》の牙だ」


「魔物の牙!?」


「そうだ」


 急に短剣が格好よく見えてきた。


「魔物は倒したら終わりじゃねえ。牙、爪、角、骨、皮、鱗、甲殻。使える素材はいくらでもある」


「じゃあ魔物倒したら、持って帰っていいの!?」


「依頼や土地による。討伐証明に必要な部位もあるし、依頼人の所有物になる場合もある。勝手に全部持って帰るな」


「難しい!」


「だからギルドで確認しろ」


 エマさんに聞くことが、また増えた。


「魔物だけじゃねえぞ」


 今度は棚から黒っぽい石を取り出す。


「鉱石?」


「そうだ。鉄鉱石はもちろん、魔力を含んだ特殊な鉱石もある」


「例えば?」


「《魔鉄鉱》とかな」


「魔鉄……!」


 名前からして強そう。


「もっと珍しいものだと?」


 聞く。


「そうだな。《ミスリル》なんかは有名だ」


「ミスリル!!」


「声でけえ」


「絶対すごいやつじゃん!」


「高えぞ」


「じゃあ無理!」


「諦めるの早えな」


 ハリトが呆れている。


「それから――」


 バルドのおっちゃんが棚の奥から、小さな木箱を取り出した。


 蓋を開く。


「うわ……」


 中にはいくつかの石が入っていた。


 赤橙色。


 淡い青。


 薄緑。


 どれも宝石とは少し違う。


 石の奥で、光が揺れている。


「《魔晶石》だ」


「魔晶石?」


「魔力を含んだ結晶だ。全部じゃねえが、中には特定の属性を強く帯びたものもある」


 俺は淡い青色の石へ顔を近づけた。


 石の中で。


 ゆらゆらと光が動いている。


 水みたいだ。


「これ、水?」


「水属性を帯びた魔晶石だな」


「俺と同じじゃん!」


「お前が水属性だからって、お前の石じゃねえぞ」


「分かってるよ!」


 たぶん。


「これを剣につけたらどうなるの?」


「物による」


「水の剣になる?」


「そんな簡単なら鍛冶屋はいらねえ」


「ならないの!?」


「属性素材を武器へ組み込む技術はある。魔力を通しやすくしたり、特定の属性と相性を良くしたりな」


「じゃあ、やっぱり水の剣にできるんじゃん!」


「だから簡単じゃねえって言ってんだろ」


 おっちゃんが俺の額を指で弾いた。


「痛っ!」


「素材同士の相性。武器との相性。加工方法。それから使う奴との相性もある」


「使う人とも?」


「ああ」


 バルドのおっちゃんが箱を閉じる。


「強そうな素材を片っ端からくっつけりゃいいってもんじゃねえ」


「……装備って難しいんだな」


「だから面白えんだよ」


「…………」


 その言葉に。


 俺はもう一度、店の中を見る。


 剣。


 槍。


 盾。


 防具。


 魔物の素材。


 鉱石。


 魔晶石。


 知らないものばっかりだ。


 これから冒険して。


 知らない魔物に出会って。


 知らない土地へ行って。


 そこで見つけたものが。


 いつか自分の装備になるかもしれない。


「……面白そう」


「だろ?」


「自分で素材見つけたら、持ってきていい?」


「ああ。使えるもんなら見てやる」


「よし!」


 俺はカウンターの銅貨を見る。


「決めた!」


「今度はなんだ」


「砥石!」


「……ほう」


「俺、砥石買う!」


 バルドのおっちゃんが少し意外そうな顔をした。


「新しい剣じゃなくていいのか?」


「うん」


 腰の剣を見る。


「これ、まだ使えるんだろ?」


「ああ」


「だったら」


 鞘を軽く握る。


「まず、こいつをちゃんと使う」


 父さんが。


 俺のために選んでくれた剣。


 いつか。


 もっと強い武器が必要になる日が来るかもしれない。


 この剣を使わなくなる日だって、来るかもしれない。


 でも。


 だからって。


 この剣がいらなくなるわけじゃない。


「手入れの仕方、教えて」


「……おう」


 バルドのおっちゃんが笑った。


「それならタダで教えてやる」


「マジ!?」


「砥石代は取る」


「そこもタダにして!」


「帰れ」


「買うから!」


     ◇


 店を出る頃には、日が少し傾いていた。


 俺の荷物袋には。


 初めて自分で稼いだ金で買った、小さな砥石。


 残った銅貨。


 そして腰には。


 父さんからもらった剣。


 隣を歩くハリトの背中には、森のみんなからもらった弓。


「ハリト」


「何?」


「俺さ」


「うん」


「自分で何も持ってないと思ってた」


「急にどうしたの?」


「だって装備、全部もらったものじゃん」


 剣も。


 防具も。


 服も。


「でもさ」


 剣の柄に触れる。


「何も持ってなかったんじゃなくて――」


 父さん。


 母さん。


 いろんな人が。


「いろんなもん、もらってたんだな」


 ハリトは少しだけ振り返る。


 背中の弓を見る。


「……そうだね」


「じゃあ今度は」


 俺は前を見る。


「自分たちでも増やしていこうぜ」


「何を?」


「金!」


「うん」


「素材!」


「まあ、うん」


「星!」


「欲張りだな」


「それからLEVEL!」


「さらに増えた」


「あと強い装備!」


「さっきの話、聞いてた?」


「聞いてたよ! 今のをちゃんと使ってから!」


「ならいいけど」


「魔法も覚えたい!」


「まだ増えるの?」


「世界も見たい!」


「もう買い物関係ないだろ」


「冒険者だからな!」


「便利な言葉だね、それ」


 ハリトが笑った。


 俺も笑う。


 まずは。


 一つ星の依頼をやる。


 信用を積む。


 二つ星を目指す。


 その途中で。


 知らないものを見つける。


 できることを増やす。


 少しずつ。


 少しずつ――強くなる。


 そして。


 いつか。


《蒼天遺跡》


 あの場所へ行く。


 今の俺には。


 それで十分だった。


     ◇


 その夜。


「…………ん」


 胸の奥が。


 少しだけ熱い。


 俺は目を開けた。


「……なんだ?」


 暗い部屋。


 窓から月明かりが差し込んでいる。


 身体を起こす。


 服の上から、左胸へ手を置いた。


 青い痣。


「…………」


 何も起きない。


 光ってもいない。


 ただ。


 少しだけ熱かった気がした。


「またか……?」


 七歳の頃。


 《蒼天遺跡》の扉の前で感じたもの。


 昨日。


 地図で遺跡の名前を見た時に感じたもの。


 同じなのか。


 違うのか。


 それすら分からない。


 窓を見る。


 もちろん。


 ここから西の森なんて見えない。


 《蒼天遺跡》も見えない。


「…………」


 なのに。


 なぜだろう。


 あの場所が。


 昨日までより――。


 ほんの少しだけ。


 近くなったような気がした。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は――


冒険者になって初めてのお買い物回でした!


初報酬の銅貨五枚を握りしめて、


「何か冒険者っぽいものを買いたい!」


と意気込んだニール。


ところが、よく考えてみれば。


剣は父さんから。


防具は父さんと母さんから。


ハリトの弓は、森のみんなから。


二人は「何も持っていなかった」のではなく、冒険へ出るために必要なものを、すでにたくさんの人から受け取っていました。


今回、個人的に大切にしたかったのが、


「まず、今持ってるもんをちゃんと使え」


というバルドの言葉です。


強い武器を手に入れれば、それだけで強くなれるわけではない。


LEVELが高ければ、それだけで何でもできるわけでもない。


今持っているものを知り、手入れして、使いこなしていく。


この考え方は、これからニールたちが「強くなる」ということを考えていくうえでも、大切なものになっていきます。


そして今回は、《魔物素材》《魔鉄鉱》《ミスリル》《魔晶石》など、装備に関わる世界も少しだけ登場しました。


冒険先で素材を見つける。


持ち帰る。


装備にする。


また冒険へ出る。


こういうRPGらしい成長の楽しさも、これから少しずつ描いていきたいと思っています!


そして最後。


また熱を持った、ニールの左胸の青い痣。


七歳の頃に開かなかった《蒼天遺跡》との距離も、少しずつ近づいています。


次はどんなクエストが待っているのか。


続きを楽しみにしていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


それでは――次のクエストで!

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