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第九話『一つ星の報酬』(改訂版 ver.1.01)

初めての依頼から、無事に帰ってきたニールとハリト。


でも冒険は、帰ってきたら終わりではありません。


報告をして、依頼を完了して、初めて報酬を受け取る。


そして今回は、どう考えても一つ星には見えない男――

ガレス・ボーンについても、少しだけ明らかになります。


冒険者にとって「星」とは何なのか。


そして、ニールとハリトが初めて自分たちの力で手にするものとは。


改訂版を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


それでは、


第一章 第九話『一つ星の報酬』(改訂版 ver.1.01)


どうぞ!

 冒険者になって、初めて受けた依頼。


 《西の森・グラスドッグ生息状況調査》。


 本来なら森に入り、グラスドッグの数や痕跡を調べて帰ってくる。


 それだけの仕事だった。


 ところが。


 俺たちが森で遭遇したのは――《アースボア》。


 本来なら、もっと森の奥にいるはずの大型魔物。


 グラスドッグは森の奥から外へ移動していた。


 アースボアも、何かを気にするように奥から出てきた。


 そして。


 その先にあるのは――。


 《蒼天遺跡》。


 七歳の頃。


 俺とハリトたちが見つけた、開かない扉。


 あの時感じた、左胸の熱。


 一瞬だけ見えた、青い光。


 全部がつながっている。


 そんな気がした。


 だから――。


「蒼天遺跡に行きたい!」


「ダメです」


「まだ何も説明してない!」


 翌朝。


 リーヴェルの冒険者ギルド。


 受付に立つエマさんは、笑顔のまま即答した。


 隣にいたハリトがため息をつく。


「ニール。せめて理由くらい話してから断られろよ」


「結果変わらないじゃん!」


「だったら話す必要もないな」


「お前どっちの味方!?」


「常識」


「俺の味方して!?」


「常識に勝ってから言って」


 最近、こいつの俺への扱いが雑になってないか?


「お二人からいただいた昨日の報告ですが」


 エマさんが一枚の依頼書をカウンターへ置いた。


 見覚えのある名前が書かれている。


《西の森・生態系異常調査》


 ただし。


 昨日、俺たちが受けた依頼とは違う。


 右上には――。


《推奨階級――★★★以上》


「……三つ星」


「はい」


 エマさんが頷く。


「グラスドッグだけなら、生息数の増減で済んだかもしれません。しかし、アースボアまで本来の生息域を外れていた」


「しかも、逃げてたかもしれない」


 ハリトが言う。


「ええ。ですので、ギルドとして正式に調査することになりました」


「調査範囲は?」


「昨日アースボアが確認された地点から、さらに西。森の深部までです」


 俺は地図を見る。


 その先。


 やっぱりある。


《蒼天遺跡》


「じゃあ俺たちも――」


「一つ星です」


「まだ最後まで言ってない!」


「行きたいんですよね?」


「行きたい!」


「ダメです」


「ほら結果変わらない!」


「だから言っただろ」


 ハリトが呆れている。


「蒼天遺跡周辺については、状況を確認してから判断します」


「でもさ」


 俺は地図を見る。


「俺たちが見つけたんだぞ」


「何をですか?」


「グラスドッグがおかしいことも。アースボアが森の浅いところまで来てたことも」


 左胸へ手を置く。


「その先に何があるのか……俺、自分で確かめたい」


 七歳の頃なら。


 たぶん、そのまま行っていた。


 気になったから。


 見たいから。


 知りたいから。


 でも。


 今は分かる。


 昨日のアースボアにすら、俺たちだけじゃ何もできなかった。


「……勝手には行かないよ」


 俺は言った。


「ちゃんと許可を取る」


「ニール……」


 ハリトが俺を見る。


「なんだよ」


「成長したな」


「だろ!?」


「八年かかったけど」


「余計なこと言うな!」


 エマさんが小さく笑った。


「でしたら」


「ん?」


「信用される冒険者になってください」


「信用?」


「はい」


 エマさんは何枚かの依頼書を並べた。


《薬草採取》


《畑周辺の害獣調査》


《北街道・荷物運搬》


《近隣村への薬品配達》


《商隊・短距離護衛補助》


 全部――。


「一つ星」


「はい」


「…………地味」


「ニール」


「ごめんなさい」


 ハリトに肘で突かれた。


「冒険者の星は、強さだけを表すものではありません」


 エマさんが言う。


「依頼をきちんと達成する。依頼人との約束を守る。正確な報告をする。無理だと思ったら引き返す。そして――」


「生きて帰る」


 俺が答えた。


 エマさんが微笑む。


「はい」


 昨日。


 ガレスさんにも言われた。


 依頼を達成して。


 生きて帰る。


 それが冒険者だ。


「そうした実績を積み重ね、ギルドから一定の信用を得た冒険者には、昇格試験を受ける資格が与えられます」


「昇格試験?」


「はい」


「受かったら?」


「二つ星です」


「二つ星……!」


 俺はハリトを見る。


 ハリトも少しだけ目を輝かせていた。


「二つ星になったら蒼天遺跡に行ける!?」


「行けません」


「なんでだよ!」


「三つ星以上です」


「あっ」


「さっき聞いただろ」


「じゃあ二つ星になる意味ないじゃん!」


「あります」


 エマさんが即答した。


「一つ星として信用されていない冒険者に、二つ星の仕事は任せられません」


「…………」


「二つ星として信用されていない冒険者に、三つ星の仕事も任せられません」


 俺は並べられた依頼書を見る。


 薬草を採る。


 荷物を運ぶ。


 薬を届ける。


 人を守る。


 どれも。


 魔王を倒すような仕事じゃない。


 英雄譚に残るような仕事でもない。


 だけど。


 それを頼んだ人にとっては。


 必要だから、依頼になっている。


「近道はありませんよ、ニールさん」


「……そっか」


 なんか。


 冒険者って、もっとこう。


 魔物を倒して。


 強くなって。


 有名になって。


 どんどん星が増えていくものだと思っていた。


 でも。


 そうじゃない。


 任された仕事を終わらせる。


 帰ってくる。


 また次の仕事を任される。


 その繰り返しが――信用になる。


「よし」


 俺は一つ星の依頼書を一枚取った。


「まず、二つ星になる」


「はい」


「それから三つ星になる」


「はい」


「それで蒼天遺跡に行く!」


「その頃まで調査が終わっていなければ考えます」


「終わらせないで!」


「無茶を言わないでください」


 ハリトが横で笑った。


     ◇


「そういえば」


 俺はギルドの中を見回した。


「ガレスさんは?」


「もう出発されましたよ」


「え?」


「朝早くに報酬を受け取って」


「どこに?」


「それはお答えできません」


「なんで?」


「冒険者の行き先を、本人の許可なく他の方へ教えることはできませんから」


「そっか」


 それも信用か。


 昨日のガレスさんを思い出す。


 アースボアの突進。


 剣をほんの少し当てただけで、あの巨体の進む方向を変えた。


 倒そうとはしなかった。


 俺たちを逃がすために必要なことだけをしていた。


 どう考えても――。


「あの人、本当に一つ星なの?」


 エマさんの手が止まった。


 ほんの一瞬。


「昨日もお話ししましたよね」


「何を?」


「冒険者の星は、強さだけを表すものではない、と」


「……やっぱりなんかあるじゃん」


「私は何も言っていませんよ」


「今の言い方で絶対ある!」


 エマさんは答えない。


「ハリトも思っただろ?」


「うん」


 ハリトが頷く。


「あの剣は、一つ星になったばかりの人の動きじゃない」


「だよな!」


「装備もそうだった」


「装備?」


「昨日言っただろ。使い込まれ方がおかしいって」


「あ」


 そうだった。


 だからハリトは、最初からガレスさんを警戒したんだ。


「エマさん」


「はい」


「ガレスさんって、何者?」


「ガレス・ボーンさんです」


「名前聞いてんじゃない!」


 エマさんが少しだけ笑った。


 でも。


 その笑顔が、ゆっくり消えた。


「……昔は」


「え?」


「今とは違う星をつけていました」


 俺とハリトが黙る。


「何個?」


「三つです」


「三つ星!?」


 思わず声が大きくなった。


 周りの冒険者がこっちを見る。


「三つ星だった人が、なんで一つ星なんだよ?」


「星って減るの?」


「処分などで降格する場合はあります」


「ガレスさん、何かやらかしたの!?」


「ニール」


 ハリトが止める。


 エマさんは首を横に振った。


「そういう理由ではありません」


「じゃあ……」


 少し。


 間があった。


「ガレスさんは以前、パーティーを組んでいました」


 エマさんが静かに言う。


「仲間と一緒に依頼を受けて、冒険をしていたそうです」


「……そうなんだ」


「ですが」


 そこで言葉が止まった。


 何となく。


 続きが分かった気がした。


「……仲間に、何かあった?」


 エマさんはすぐには答えなかった。


 やがて。


「依頼から帰ってきたのは、ガレスさんだけでした」


「…………」


 昨日の光景が浮かぶ。


 アースボアの前に、一人で残ったガレスさん。


 俺たちへ叫んだ。


 走れ。


 行け。


 俺たちを逃がして。


 自分だけ残ろうとした。


「それからです」


 エマさんが続ける。


「ガレスさんが、以前のように冒険をしなくなったのは」


「だから一つ星に?」


「そこから先は、本人に聞いてください」


「でも――」


「本人が話していないことを、私が勝手に話すべきではありません」


 きっぱりと言われた。


「……分かった」


 俺はそれ以上聞かなかった。


 ガレスさんは怪しい。


 報酬を六割取ろうとしたし。


 新人の俺たちに声をかけてきたし。


 どう考えても怪しい。


 でも。


「……悪いやつじゃないのかな」


 俺が呟く。


「それも」


 エマさんが言った。


「ニールさんが決めることですよ」


「俺が?」


「はい」


「ガレスさんがどういう人なのか。昨日一日だけで、全部分かりましたか?」


「……分かんない」


「でしたら、まだ決めなくていいんじゃないでしょうか」


 なんだそれ。


 なんか。


 父さんみたいなこと言うな。


「ただし」


 エマさんが笑顔に戻る。


「新人から報酬を六割取ろうとした件については、次にお会いしたら私からもう一度お話ししておきます」


「そこは怒るんだ!?」


「当然です」


 怖い。


 やっぱりこの人、怒らせない方がいい。


     ◇


「さて」


 エマさんが話を戻した。


「お二人の依頼についてですが」


「うん」


「正式に達成と認定されました」


「…………え?」


「え、ではありません」


「でも」


 俺は首を傾げる。


「俺たち、アースボア倒してないよ?」


「アースボア討伐の依頼でしたか?」


「違う」


「グラスドッグの生息状況は確認しましたか?」


「した」


「痕跡も?」


「した」


「異常は?」


「見つけた」


「ギルドへ報告しましたか?」


「した」


「そして?」


 エマさんが微笑んだ。


「生きて帰ってきました」


「…………」


 あ。


 そうか。


 俺たちは。


 勝ってない。


 アースボアを倒してない。


 グラスドッグだって一匹も倒してない。


 逃げただけだ。


 でも。


 依頼は――。


「終わったんだ」


「はい」


 エマさんが小さな硬貨を取り出した。


「こちらが報酬です」


 チャリン。


 俺の手のひらへ。


 銅貨が置かれる。


「一、二、三、四……五」


 銅貨五枚。


「…………」


「どうしました?」


「いや」


 もう一度数える。


「五枚?」


「はい」


「昨日俺、アースボアに追いかけられたんだけど」


「はい」


「死ぬかと思ったんだけど」


「はい」


「銅貨五枚?」


「依頼内容はグラスドッグの生息状況調査ですから」


「アースボアいたよ!?」


「アースボア討伐を依頼しましたか?」


「してません!」


「でしたら、銅貨五枚です」


「冒険者って厳しい!!」


 ギルドのあちこちから笑い声が上がった。


「笑うなよ!」


「誰も笑ってないよ」


 隣を見る。


 ハリトが笑ってる。


「お前が一番笑ってるじゃん!」


「最初から報酬は書いてあっただろ」


「書いてあったけど!」


「命を賭けろとは書いてなかった」


「…………」


 それは。


「確かに」


「納得するんだ」


 俺は手のひらを見る。


 銅貨五枚。


 大金じゃない。


 むしろ。


 昨日の出来事を考えたら、少なすぎる。


 なのに。


 なんだろう。


 妙に重い。


 自分で依頼を選んだ。


 森へ行った。


 調べた。


 怖い思いもした。


 逃げた。


 帰ってきた。


 報告した。


 そして。


 仕事を終わらせた。


「これ……」


 銅貨を握る。


「俺が冒険者として稼いだ金なんだよな」


「そうですよ」


 エマさんが答える。


 なんか。


 急に。


 にやけてきた。


「ハリト」


「何?」


「見ろ」


「何を?」


「俺の銅貨」


「僕も同じだけもらってるよ」


「でもこれ、俺が稼いだんだぞ」


「僕のも僕が稼いだよ」


「すげえな」


「何が?」


「俺たち、冒険者じゃん!」


「昨日からそうだよ」


「初報酬だぞ!」


「そうだね」


「もっと感動しろよ!」


「ニールが二人分感動してるから大丈夫」


「なんだよそれ!」


 でも。


 俺は笑っていた。


 魔物を倒したわけじゃない。


 英雄になったわけでもない。


 LEVELが上がったわけでもない。


 それでも。


 手の中にある銅貨五枚が。


 冒険者になってから手に入れた何よりも――。


 冒険者になったんだと。


 俺に実感させてくれた。


「よし」


 俺は銅貨を握りしめる。


「ハリト!」


「嫌な予感がする」


「これでなんか買おうぜ!」


「……何を?」


「冒険者っぽいやつ!」


「具体的には?」


「…………」


「…………」


 俺たちは顔を見合わせた。


「何買えばいいんだ?」


「僕に聞かないでよ」


 剣は父さんにもらった。


 服も防具も父さんと母さんが揃えてくれた。


 ハリトの弓も、森のみんなからもらったものだ。


 考えてみれば。


 俺たちは――。


 冒険者の装備を、自分で買ったことがない。


「……店、行ってみる?」


 俺が言う。


 ハリトが笑った。


「いいんじゃない?」


 俺はもう一度。


 手の中の銅貨を見る。


 初めての依頼。


 初めての報酬。


 だったら次は――。


 初めての買い物だ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回はついに――


ニールとハリト、冒険者として初報酬ゲットです!


命からがらアースボアから逃げて、


銅貨五枚。


ニールとしては、


「割に合わねえ!!」


と言いたくなるところでしょう(笑)


でも今回描きたかったのは、「倒したから報酬がもらえるわけではない」ということでした。


グラスドッグを調査した。


異変を発見した。


無事に戻った。


正確に報告した。


だから依頼達成。


冒険者の星も同じで、単純な戦闘力ではなく、


「この人になら、次の仕事を任せられる」


という信用の積み重ねでもあります。


そして、もう一人。


怪しい一つ星冒険者、ガレス・ボーン。


やっぱり、ただの一つ星ではありませんでした。


かつて三つ星だった彼が、なぜ今は一つ星なのか。


なぜ新人であるニールたちに声をかけたのか。


そして、なぜアースボアを前にして、自分だけ残ろうとしたのか。


その答えは、まだガレス本人の胸の中です。


いつかまた彼と出会った時、その続きを描ければと思います。


さて。


初めて自分で稼いだ銅貨五枚を握りしめたニール。


次にやることといえば――。


やっぱりRPGなら、


お買い物でしょう!


剣は父から。


弓は故郷のみんなから。


実は二人とも、自分で冒険者の装備を買ったことがありません。


次はちょっと楽しい、冒険者のお買い物回です!


続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


それでは――次のクエストで!

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