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第六話『一つ星の冒険者』(改訂版 ver.1.01)

八年間待ち続けて、ついにこの日がやってきました。


「冒険者になりに来ました!」


十五歳になったニールと、一緒に世界を見に行くことを決めたハリト。


二人は正式に冒険者ギルドへ登録します。


LEVELとは何なのか。


冒険者の「星」は何を表しているのか。


そして、冒険者とは本当に「強ければいい」仕事なのか。


憧れ続けた世界へ足を踏み入れたニールですが――。


どうやら冒険者の世界には、魔物とは違った意味で気をつけなければならない相手もいるようです。


二人の本当の冒険者生活、スタートです!


続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


それでは――


第一章 第六話『一つ星の冒険者』(改訂版 ver.1.01)


どうぞ!

「冒険者になりに来ました!」


 ニールの声が、ギルド中に響いた。


 酒を飲んでいた男が振り返る。


 依頼書を眺めていた女もこちらを見る。


 何人もの冒険者の視線が、一斉に二人へ集まった。


「……声が大きい」


 隣でハリトが呟いた。


「いいだろ! 八年待ったんだぞ!」


「僕は七年だけどな」


「そういう細かいことはいいんだよ!」


「八年前から変わってないわねえ」


 受付の女性が笑った。


 ニールがカウンターへ身を乗り出す。


「やっぱり覚えてた?」


「忘れるわけないでしょう」


 七歳の少年が突然やってきて、


『冒険者になりたい!』


 と言ったかと思えば、その後また、


『冒険者になる方法を教えてください!』


 と現れたのだ。


「しつこかったもの」


「行動力があると言ってほしい!」


「物は言いようね」


 女性は苦笑すると、二人へ向き直った。


「そういえば、ちゃんと名乗ったことはなかったわね」


 胸元の職員章へ手を添える。


「エマ・リンド。アルヴェリア冒険者ギルド、リーヴェル支部の受付担当よ」


「エマさん!」


「よろしくお願いします」


 ハリトが軽く頭を下げる。


「はい。よろしく」


 エマは二人を見た。


 八年前。


 カウンターから顔を出すのがやっとだった少年たち。


 それが今では――。


 一人は剣を。


 一人は弓を携えている。


「……本当に来たのね」


「言っただろ?」


 ニールが笑う。


「絶対また来るって!」


「私は約束した覚えないけどね」


「ええっ!?」


「でも――」


 エマは微笑んだ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


     ◇


「それじゃ、登録を始めるわね」


「おう!」


 エマがカウンターの下へ手を伸ばす。


 ゴトン。


 置かれたものを見て、ニールは首を傾げた。


「……何これ?」


 黒い板だった。


 石にも見える。


 金属にも見える。


 表面は異様なほど滑らかで、縁には細かな模様が刻まれている。


「《鑑定盤》よ」


「かんていばん?」


「冒険者登録に使うアーティファクト」


「アーティファクト!?」


 ニールの目が一気に輝いた。


「これ、古代文明の!?」


「そう言われてるわ」


「すげええええ!」


「顔を近づけない」


「どうやって動いてるの!?」


「知らない」


「……え?」


「だから、知らないの」


 エマは平然と答えた。


「いつ作られたのか。誰が作ったのか。どういう仕組みなのか。詳しいことは分かってないわ」


「分かってないもの使ってんの!?」


「便利だから」


「いいの!?」


「何百年も使われてるから大丈夫よ。たぶん」


「たぶん!?」


 ハリトが鑑定盤を覗き込む。


「何が分かるんですか?」


「登録に必要な基本情報ね。名前、年齢、LEVEL。それから魔力の反応なんかも確認できるわ」


「それだけ?」


「十分でしょう」


「もっとこう……必殺技とか!」


「出ない」


「隠された才能とか!」


「知らない」


「伝説の力とか!」


「冒険者ギルドを何だと思ってるの?」


「夢がない!」


「仕事だからね」


 ハリトがため息をつく。


「登録が終わる前に追い返されるぞ」


「八年待ったのに!?」


「なら大人しくしろ」


     ◇


「じゃあ、ニール君から」


「よし!」


「ここに手を置いて」


 ニールが右手を《鑑定盤》へ乗せる。


 冷たい。


 石のようでいて、石とは違う。


 その瞬間――。


 淡い光が走った。


「うおっ!」


「動かない」


「はい!」


 光が手のひらから広がっていく。


 やがて、黒かった鑑定盤の表面に文字が浮かび上がった。


《ニール・レイン》


《十五歳》


《LEVEL 一》


「出た!」


 ニールが身を乗り出す。


「本当に一だ!」


「今朝も見たんでしょう?」


「人に見せても一だった!」


「増えるわけないでしょう」


 さらに淡い青色の光が盤面を流れた。


 エマがそれを見る。


「魔力反応あり。水との相性が強そうね」


「おお!」


「水魔法は使える?」


「使える! 《水球》も――」


「水球?」


「……水を丸くするやつ」


「それなら水球ね」


「もっとかっこいい名前ない?」


「自分で考えれば?」


「いいの!?」


「技名までギルドは管理しないわよ」


「よし……!」


「今考えなくていい」


 エマが遮った。


「それで?」


 ニールが期待に満ちた目を向ける。


「何が?」


「俺、どう!?」


「どうって?」


「十五歳の冒険者として!」


「…………」


 エマがニールを見る。


 剣を携えた立ち方。


 手にできた小さな硬い部分。


 八年間の訓練は、鑑定盤に表示されなくても身体に残っている。


「ちゃんと準備してきた新人、ってところね」


「おお!」


「でも、珍しくはないわ」


「…………」


「騎士を目指して幼い頃から剣を習う子もいる。狩人の家なら、もっと小さい頃から弓を使ってる子もいる。魔法を専門的に学んできた子だっている」


「つまり……?」


「普通」


「やっぱり普通!」


 ハリトが顔を逸らした。


「今笑っただろ!」


「笑ってない」


「絶対笑った!」


「普通は悪いことじゃないわよ」


 エマが言った。


「今日から冒険者になる人が、最初から特別である必要なんてないんだから」


 ニールは少しだけ考えた。


「……それもそうか」


「立ち直るの早いわね」


「これから強くなればいい!」


「そういうところは変わってないわね」


     ◇


「次、ハリト君」


「はい」


 ハリトが鑑定盤へ手を置く。


 再び淡い光が走った。


《ハリト・ヴェール》


《十六歳》


《LEVEL 四》


「四!?」


 ニールが叫んだ。


「お前、LEVEL四なの!?」


「見れば分かるだろ」


「俺、一なのに!」


「お前は今日十五歳になったばかりだろ」


「ずるい!」


「何がだ」


「一年先にLEVEL上げ始めてる!」


「年齢は僕のせいじゃない」


「俺を待ってたならLEVELも待っててくれよ!」


「意味が分からない」


 エマが呆れた顔をする。


「LEVELは十五歳になってから上がるようになるんだから、ハリト君が先なのは当たり前でしょう?」


「そうだけど!」


 盤面に緑色の光が走る。


「風との相性が強いわね」


「はい。少しなら使えます」


「弓も使うのよね?」


「はい」


「十五歳になってから魔物と戦ったことは?」


「何度か。森や、父の交易の手伝いで」


「なるほど」


 エマは頷いた。


「それならLEVEL四でもおかしくないわね」


 ニールがハリトを見る。


「褒められた!」


「騒ぐな」


「嬉しい?」


「別に」


「耳動いたぞ」


「動いてない」


「エルフって嬉しいと耳動くの?」


「動かない」


「動かせる?」


「黙れ」


 エマが吹き出した。


     ◇


「二人とも」


 エマの声が変わった。


 先ほどまでの冗談交じりの空気が消える。


「ここから先は、自分たちを強いと思わないこと」


 二人がエマを見る。


「ニール君はLEVEL一。ハリト君はLEVEL四。二人とも、冒険者になるための準備はしてきた。それは分かる」


 そこで一度、言葉を切る。


「でも――ここから先は訓練じゃない」


「…………」


「魔物は手加減してくれない。依頼先では何が起こるか分からない。判断を間違えれば怪我をする」


 そして。


「最悪の場合、帰ってこられないこともある」


 ニールは黙った。


 八年前なら、


『大丈夫!』


 と、すぐ答えていたかもしれない。


 でも今は。


 少しだけ考えた。


「……怖いよ」


「そう」


「でも、それでもやりたい」


 腰の剣へ触れる。


「俺、自分で決めたから」


 冒険者になる。


 八年前。


 初めて自分で選んだ夢だった。


「僕もです」


 ハリトが続ける。


「まだ、自分が何になりたいのかは分かりません。でも――」


 自分の弓へ触れる。


「それを探しに行きたい」


 エマは二人をしばらく見つめた。


「そう」


 そして、笑った。


「なら、登録しましょう」


     ◇


 エマが《鑑定盤》の横に、小さな板を二枚置いた。


「これは?」


「《ギルドプレート》」


 鑑定盤から淡い光が伸びる。


 二枚のプレートへ、それぞれの名前が刻まれていく。


 所属支部。


 そして――。


 小さな星が一つ。


「星?」


「冒険者階級よ」


 エマは完成したプレートを二人へ渡した。


「冒険者には、一つ星から七つ星まで、七段階の階級があるの」


「七つ星!」


 ニールが食いついた。


「七つ星ってめちゃくちゃ強い!?」


「強い人は多いわね」


「やっぱり!」


「でも、星は強さだけを表してるわけじゃない」


「違うの?」


「LEVELがその人自身の成長を示す数字なら、星は冒険者として積み上げてきた信用に近いわ」


 ハリトがプレートを見る。


「信用……」


「依頼をきちんと達成したか。依頼人を守ったか。危険な時に正しい判断ができたか。仲間と協力できるか。規則を守っているか」


「強ければ上がるわけじゃないんだ」


「ええ」


 エマが頷く。


「たとえばLEVELが高くても、護衛対象を置いて勝手に魔物を追いかける人に護衛を頼みたい?」


「嫌だな」


「でしょう?」


 ニールは自分のプレートを見る。


 星は一つ。


「じゃあ俺たちは?」


「一つ星」


「俺、水魔法使えるけど?」


「一つ星」


「ハリト、LEVEL四だけど?」


「一つ星」


「俺より三も高いのに?」


「一つ星」


「二つ星から始めるとか……」


「冒険者としての実績は?」


「…………」


「ある?」


「羊を助けました」


「登録前」


「ポポォ……!」


「一つ星」


「はい……」


 ハリトの肩が震えた。


「お前、笑ってるだろ!」


「笑ってない」


「こっち向け!」


     ◇


「じゃあさ」


 ニールがプレートを眺めながら聞いた。


「七つ星って、どんな人なの?」


「見たことある?」


「一度だけね」


「マジで!?」


 エマの表情が少し変わった。


「七つ星は、世界中を探しても数えるほどしかいないわ」


「そんなに!?」


「国から直接依頼を受ける人もいる。単独で高位の魔物を討伐した人。誰も帰ってこなかった未踏地域を踏破した人。大勢の命を救って七つ星になった人もいる」


「…………」


 ニールの目がどんどん輝いていく。


「すげえ……!」


「戦う人だけじゃないのよ。探索、護衛、救助、交渉。何か一つの分野で、誰にも真似できないような実績を残した人だっている」


「かっけえ……!」


「目標にするのは自由よ」


「決めた!」


「何を?」


「俺、七つ星になる!」


 ハリトがため息をついた。


「お前、一つ星になって何分だ?」


「目標は大きい方がいい!」


「あと六つあるぞ」


「六つ上がればいい!」


「簡単に言うな」


 エマも笑った。


「まあ、頑張りなさい」


 だが。


「ただし――」


 その声が、少しだけ低くなる。


「星が多いから立派な人、とは限らないからね」


「え?」


「冒険者も、人だから」


     ◇


 ニールは改めてギルドの中を見る。


 楽しそうに話す者。


 依頼書を囲んで相談する者。


 武器を手入れする者。


 泥だらけで帰ってきた者。


 仲間と笑っている者。


 一人で静かに座っている者。


「いい人ばかりじゃないわ」


 エマが言った。


「特に、新人のうちは気をつけなさい」


「何に?」


「知識がないのを利用して、高い装備を売りつける人。依頼を手伝ってやると言って、報酬をほとんど持っていく人。自分に都合のいい契約を結ばせる人」


「最低じゃん」


「いるのよ。残念だけどね」


 ハリトの目が少し細くなる。


「ギルドは止めないんですか?」


「問題が確認できれば処分する。でも、全部を事前に防ぐことはできないわ」


 エマは二人を見る。


「だから、自分で考えること。分からなければ聞くこと。怪しいと思ったら、その場で決めないこと」


「分かった」


「特にニール君」


「なんで俺だけ!?」


「騙されそうだから」


「騙されないよ!」


「この前トーマに『この石は伝説の魔石だ』って言われて、パンと交換したでしょう?」


「なんで知ってるの!?」


「リーヴェルは小さい町なのよ」


 ハリトが頭を抱えた。


「……僕が気をつけます」


「お願いね」


「俺の信用どこいった!?」


     ◇


「さて」


 エマが依頼掲示板を指差した。


「せっかく冒険者になったんだから、見てみる?」


「何を?」


「あなたたちが受けられる依頼」


 ニールの目が輝いた。


「クエスト!」


「依頼」


「クエスト!」


「……好きに呼びなさい」


 二人は掲示板へ向かった。


 八年前にも、同じ場所を見上げた。


 あの頃は、ただ眺めることしかできなかった。


 手を伸ばしても、そこにある依頼を受けることはできなかった。


 でも今日は違う。


 この中から――。


 自分たちで選ぶことができる。


「これ!」


 ニールが一枚を指差した。


「《北の森・魔物生息調査》!」


「三つ星以上」


「じゃあこれ!」


「《南街道・商隊護衛》。二つ星以上」


「これ!」


「《洞窟内異常調査》。四つ星推奨」


「…………」


 ハリトがニールを見る。


「お前、星の数見えてる?」


「見えてる!」


「なら一つ星を探せ」


「一つ星の依頼、地味じゃない!?」


 薬草採取。


 荷物運搬。


 農作業の手伝い。


 家畜捜索。


 低級魔物の痕跡確認。


「冒険者になったらドラゴンとか倒すんじゃないの!?」


「一つ星にドラゴンを任せるギルドがあったら潰れてる」


「確かに!」


 ニールが改めて掲示板を睨む。


「うーん……どれにするかなあ」


 その時だった。


「お前ら、新人か?」


 背後から声がした。


「ん?」


 二人が振り返る。


 男が立っていた。


 二十代半ばほどだろうか。


 使い込まれた革鎧。


 腰には剣。


 顔には、人当たりのよさそうな笑みを浮かべている。


「今日、登録したばっかりだろ?」


「そうだけど」


 男の視線が、二人の新品のギルドプレートへ向く。


 そこに刻まれた、一つの星。


「なら、ちょうどいい」


「何が?」


「最初の依頼ってのは、分からないことだらけだ」


 男は親しげに笑った。


「俺が教えてやるよ」


「本当!?」


 ニールの顔が明るくなる。


「ニール」


 ハリトがすぐに名前を呼んだ。


「何?」


「待て」


「なんで?」


 男が笑う。


「そう警戒すんなって」


 そう言って、自分の胸元を指差した。


 そこにもギルドプレートがあった。


 そして刻まれていたのは――。


 同じく、一つの星。


「ほら」


 男は笑った。


「俺も一つ星だ」


「なんだ!」


 ニールがハリトを見る。


「同じじゃん!」


「…………」


 ハリトは答えなかった。


 男を見る。


 使い込まれた革鎧。


 何度も巻き直された剣の柄。


 手に残る傷。


 立ち方。


 視線。


 少なくとも――。


 今日、冒険者になった人間には見えない。


 ハリトは受付カウンターへ目を向けた。


 エマがこちらを見ていた。


 さっきまでの笑顔は、消えている。


「ニール」


「ん?」


 ハリトが小さな声で言った。


「その人から、少し離れろ」


「え?」


 男の笑顔が、ほんの少しだけ変わった。


「……へえ」


 その日。


 ニール・レインは、念願だった冒険者になった。


 LEVEL一。


 一つ星。


 ようやく始まった、初めての本当の冒険。


 そしてどうやら――。


 最初に気をつけなければならない相手は。


 魔物ではないらしい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ついにニールとハリトが、正式に冒険者になりました!


ニールは、


《LEVEL 一》


ハリトは、


《LEVEL 四》


そして二人とも、


★ 一つ星。


今回の改訂で特に大切にしたのが、LEVELと冒険者階級は別物という部分です。


LEVELは本人自身の成長を表すもの。


一方、冒険者の星は、


「この人に依頼を任せられるか」


という、冒険者として積み上げてきた信用に近いものです。


だから強いだけでは、星は上がらない。


依頼を達成すること。


依頼人を守ること。


仲間と協力すること。


時には戦わない判断をすること。


そして何より――無事に帰ってくること。


これからニールたちは、そんな「冒険者としての強さ」も少しずつ知っていくことになります。


そして今回、八年前から二人を知っている受付女性にも、ようやく名前がつきました。


エマ・リンド。


七歳だったニールを追い返した彼女が、八年後、


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


と迎えてくれる。


個人的にも、この八年間の繋がりを感じられる好きな場面です。


……と、めでたく終わるかと思ったら。


最後に現れたのは、使い込まれた装備を身につけながら、なぜかニールたちと同じ一つ星の男。


エマが教えてくれたばかりです。


星だけでは、その人のすべては分からない。


さて。


ニールとハリトに声をかけた、この男は何者なのか。


冒険者になったニールの最初の試練は――どうやら魔物ではなさそうです。


続きが気になりましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります!


ニール・レイン、一つ星。


ここから、本当の冒険者生活が始まります。

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