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死んでこの世に未練は無いけど、元婚約者候補たちが私を地縛霊にしようとしてきます  作者: 天りあま


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2. 元婚約者候補たちとの再会です

 シェリアは行くあてもないので、ひとまず自室で寛いでいた。この身体は障害物を通り抜けられてとても便利だ。


 

「そういえば、今日決めるはずだったのよね……」


 壁にかかったカレンダーを見ながら、シェリアは独りごちる。



 町でも器量良し気立てよしと評判の娘だったシェリアは、成長するにつれ結婚の申込みが山ほどきた。

 しかし、シェリア自身は結婚に興味がなく、両親と平穏に暮らせればいいなと呑気に考えていた。


 そんなとき、幼い頃からよく遊んでいた幼馴染五人が、婚約者候補として名乗りを上げた。

 両親共に、彼らならば良いだろうと快諾した。


 斯くして、シェリアには五人の婚約者候補がおり、十八歳を迎える誕生日の今日、一人を選ぶ予定だった。

 のだが――。


「アンドリューもイブリオもウェルドもエリオルもオスカーも、みんないい人なんだよね……」


 幼い頃からよく知る五人兄弟は、一人っ子のシェリアにとって良き遊び相手であり、良き兄のような存在だった。

 そのため、婚約者として選ぼうにも何を基準にして良いのかわからなかったのだ。


 

 ――友達からはそれぞれ別の人を推されたし。


『背が高くてスラッとしていて、年上で包容力のあるアンドリューさんがいいでしょ!』


『いやいや、やっぱりお金は大事よ。商才のあるイブリオさんとなら路頭に迷うなんてありえないわ』


『どうかしら。ウェルドさんのような物静かで知性のある人も素敵だと思うけれど』


『ここはやっぱり男らしくてワイルドなエリオルさんじゃない?』


『小柄で可愛らしい感じのオスカーさんも、たまにギャップがあってぐっとくると思うわあ』


 

 彼女らの言葉を思い出し、シェリアは再び悩んだが。



 ――そっか、もう悩む必要もないんだ。だって死んだんだし! もう後はあの世へ行くだけ!



 そうだそうだ、と手をパチンと叩いたところで、自室の扉が開いた。


「シェリア!?」

「……え?」


 椅子に座っていたシェリアが振り向くと、ドアノブを持ったままのアンドリューと目があった。


「何言ってんだ兄貴」

「ついに幻覚まで見えるようになりましたか」

「……シェリアはもう居ねえだろ」

「そこで止まると邪魔だよ〜」


 彼の後ろからガヤガヤと声が聞こえてくる。

 

 目を見開いて一歩ずつシェリアの方へ近付いてくるアンドリューと、その背から姿を現した四人が部屋の中へ入り――。


「シェリア!?!?」

「うわうるさっ」


 四人の声が重なった。

 シェリアは思わず耳を塞いでしまった。透けているけど。


「ほ、本物?」

「どういうことですか?」

「棺ん中は空じゃなかったよな」

「さっきお葬式も済んだし……」


 顔を見合わせてひそひそと話し合う彼ら。

 シェリアは小首を傾げる。


 

 ――みんなからは私のことが見えているの?


 

「まさか、生き返ったのか……?」


 おずおずと手を伸ばしてきたアンドリューに向けて、シェリアも立ち上がって手を伸ばしてみた。

 しかし。


「あ、やっぱ触れないんだ」


 

 ――壁抜けできるくらいだし、当然か。


 

 透けた手の平越しに、シェリアは彼の姿をしげしげと眺める。

 彼は開いた口が塞がらないまま、自分の手とシェリアを交互に見つめていた。


 呆然としていた他の四人も、恐る恐る近寄ってきた。

 シェリアがぐるりと見渡してみれば、皆それぞれ辛そうに顔を歪めている。


「う……シェリアーー!」


 突如イブリオが両腕を広げて突進してきた。しかし、当然空振ってすり抜ける。

 すり抜けるとわかっていても、一瞬身構えてしまうシェリアであった。


「ふむ……幽霊ということですか」

「おいおい、科学的に証明できねえことは信じねえとか言ってたくせに」

「そうだよ、幽霊なんて……」


 オスカーは言葉の途中で口籠ってしまい、次第に目がうるうると潤みだす。


「ゆ、幽霊でもいい……。また会えて嬉しい……」


 目の際から溢れ出す涙を拭うこともせず、彼は微笑みを浮かべた。


「オスカー……」


 そんなに想ってくれていたのか、とシェリアの心臓がきゅっと締め付けられる。


「お、オレも嬉しい」


 エリオルが視界にずいっと割り込んできた。はにかむ彼につられて、シェリアも口角を上げる。


「再会を喜ぶのもいいですが、今はどうしてシェリアがここに居るのかを解明しましょう。一時的な現象にしないために」


 声を上げたウェルドに続き、アンドリューたちは「そうだな」「確かに」と口々に言い始めた。


「待って、みんな」


 

 ――私のことなのに、私抜きで決められちゃう。


 

 そう思ったシェリアは挙手をした。




「私、あの世へ向かう方法がわからなくて困っていたの。どうしたら行けるかな?」




 シェリアがキリリと顔を引き締め、彼らの顔を順に見回すと――。


「えっっっっ!!?」


 全員の声が部屋に響きわたった。

 シェリアは再度耳を塞ぐ。


「な、なんで」

「あの世って、本気か?」

「し、ししし死ぬと頭がおかしくなるんですか?」

「嘘だよな?」

「会えたばっかなのに、そんなこと言わないでよ……」


 皆一斉に顔を青褪めさせ、オロオロとし始めた。


 イブリオから本気か? と問いかけられるが、死んだらあの世へ行くものだろう。多分。

 ウェルドに至っては、いつもの冷静沈着さが消え失せて支離滅裂なことを言っている。



 ――やっぱり私の切り替えが早すぎた? 折角会えたのだし、確かにもう少し惜しむべきよね。そうだ、ママやパパにも会えないかな。



 シェリアの思考がふわふわと離れていく。

 

 その間、アンドリューたちが目配せをしあったり部屋のあちこちを見て回っているが、シェリアが気に留めることは無い。


 

「なあ、シェリア」


 アンドリューに呼びかけられて、シェリアの意識が呼び戻された。


「……はっ! ごほごほん。なあに?」


 急いで笑みを浮かべて取り繕うも、彼らの視線は何やら生暖かい。


「またシェリア変なこと考えてたな」

「そういうところは変わらないんですね」

「シェリアらしいっちゃらしいけどよ」

「たまには僕らのことを見ていてほしいよね」


 ひそひそと言葉を交わす彼らは相変わらずだ。


 昔はシェリアもその輪の中に入れてもらいたがったものだが、男同士で話したいこともあるのだと言われて以来、そういうものかと割り切っていた。

 それ以降、いつも仲が良いな、とシェリアは微笑ましく思っている。


 そんな中、真剣な眼差しのアンドリューが口を開いた。


「俺たちは、シェリアにずっとここに居てほしいと思ってる」


 

 ――ん? ずっとここに居てほしい?


 

 頭の中で彼の言葉を再生するが、何度繰り返してもあの世へ向かう方法では無さそうだ。


「え、でも私、」

「僕たちは君と離れたくないんです」

「そ、そうそう! そんな急いで行こうとしなくたって……時が来たら召されんのかもしんねえし……」

「自分で言って泣きそうにならないでよエル兄。ね、僕からもお願い」

「そう……?」



 ――確かに、死ぬのは初めてだからわからないことだらけだもんね。すぐにあの世行きかと勝手に思っていたけど、意外と時間が掛かるものなのかも。



「俺はもう二度と別れなんかごめんだからな」


 鋭い目をこちらに向けるイブリオは、よく見ると目元や鼻が赤らんでいた。あそこからでは見えなかったが、もしかしたら泣いてくれたのかもしれない。


 皆うんうんと頷き、彼への賛同を示している。


「わかった」


 シェリアがそう返せば、彼らはほっとしたように顔を綻ばせた。


「良かった。そしたら、俺たちはシェリアが()()()になれる道を探すから」

「金ならいくらでも積むし」

「あらゆる文献をあたって早急に方法を探しましょう」

「シェリアの家だとおじさんとおばさんがびっくりするだろうし、場所は俺らの家でさ」

「これでずうっと一緒に居られるね」


 さも良いことを言っていると言わんばかりの表情に、シェリアは耳を疑う。

 

「んんん?」


 シェリアの疑問に満ちた眼差しに気付いていないのか、彼らはすっきりとした顔で部屋を出ていった。

 


 ――そういえば、なんでみんな私の部屋に来たんだろう?

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