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87 鉄嶺の包囲網と絆を煮込む野営ポトフ

 王都への最短ルートである鉄嶺の峠。切り立った岩壁が続くこの場所は、強力な魔物と、視界を奪う魔力霧で知られる難所だ。


「霧が出てきたね。ギン、鼻は利く?」

「ガウッ!」


 先頭を行くミカが足を止めギンが鋭く北西を睨む。背後では巨大な荷物を背負ったゴードンが「ふむ、嫌な気配だ」と鼻を鳴らし、セレフィナは不機嫌そうに空中に浮かぶ魔法文字を弾いた。


「低知能な岩石生命体の反応ね。計十二。三方向から囲まれているわ。配置が実に稚拙だこと」


「来たぞ! 各員、持ち場を死守しろ!」

 俺の号令と同時に霧の中から巨大な岩の塊――鉄殻ゴーレムたちが姿を現した。


 普通の旅人なら絶望する状況だが、このメンバーに死角はない。


 索敵と誘導:ミカ&ギン。


「こっちだよ、デカブツ! ギン、右のを引きつけて!」


 ミカが岩壁を跳ねゴーレムの注意を逸らす。ギンが足元を撹乱しゴーレムの巨体を一箇所に誘導する。


 知略と弱点看破:セレフィナ。


「無駄に硬いだけね。三番目と五番目の個体、核の共振周期がズレているわ。そこを叩きなさい筋肉ダルマ」


 セレフィナが魔力で弱点をマーキングし、同時に霧を晴らす風の魔法を展開。


 絶対防御と粉砕:ゴードン。


「ぬはは! 合点承知よ! 武王流:岩砕波!」


 ゴードンが正面からゴーレムの突進を受け止め、そのまま大斧でマーキングされた核を正確に一閃。岩の巨体が次々と砂へと還っていく。


 聖域の守護:リナ。

「聖域のアージス・フィールド! 皆さん、破片に気をつけてください!」


 リナが黄金の結界を張り飛散する岩石からメンバーを完全に保護する。


「最後の一体だ。ミカ、セレフィナ、任せる!」


 俺の指示を受けミカの投剣がセレフィナの加速魔法に乗って最後の一体の核を貫いた。


「ふぅ……いい運動だったけどお腹空いちゃったね」


 ミカが地面に座り込む。峠の気温は急激に下がり戦い終わったメンバーの身体に冷えが回る。


「待ってろ。今、最高の一皿を出してやるさ」


 俺は手際よく焚き火を起こし大きな鍋を用意した。使うのは聖域から持ってきた氷殻魔蟹の殻と、道中でミカが仕留めた雪山雷鳥の肉だ。


 調理工程:魂を温める『鉄嶺の絶品ポトフ』

 黄金の出汁:【究極の調理】:高圧魔力抽出。

 蟹の殻と雷鳥の骨から数時間煮込んだのと同等の旨味を数分で引き出す。魔力によって液体を高速振動させ骨の髄まで旨味を絞り出す。


 保存食の昇華:以前に作った聖域のジャーキーを厚切りにして投入。

 物質の浸透圧制御:復元。

 乾燥していた肉が出汁を吸って元の三倍の厚さに膨らみ、生肉以上の弾力と旨味を取り戻す。


 温熱の持続:仕上げに森の生姜に似た火照り根を微塵切りにして加える。


【究極の調理】:熱量保存。

 食べた後、数時間は体温が下がらないよう熱の成分を細胞に定着させる。


「お待たせ。こいつは『鉄嶺の黄金ポトフ・復元ジャーキー添え』だ」


 冷たい風が吹き抜ける峠の片隅。俺の鍋から立ち上る湯気はそこだけを春のような温かさに変えていた。


「内臓が歓喜の声を上げているわ」


 セレフィナが震える手でスープを口に運ぶ。


「蟹の濃厚なコクと鳥の野生的な旨味。そしてこのジャーキー……乾燥していたはずなのに噛むたびにジュースのように脂が溢れ出してくるわ。貴方の手は時間を巻き戻す魔法でも使えるのかしら?」


「うっま! 身体の芯からポカポカしてくる! さっきまでの疲れ、どこ行っちゃったの?」


 ミカが夢中で鳥肉に食いつく。


「かかか! このスープ、酒の代わりにしても良いくらいのパンチがあるぞ! 若造、これならどんな険しい山もただの散歩道よ!」


 ゴードンが巨大な木皿を空にし二杯目をおねだりする。リナも幸せそうにハフハフとポトフを頬張り「アキトさんのご飯があれば世界中どこまでも行けそうです」と微笑んだ。


 食後、一行は魔力で温めた毛布にくるまり満天の星空の下で休息を取った。


「あんなに騒がしかったのに食べてる時はみんな静かだな」


 俺は焚き火を見つめながら呟いた。個性が強過ぎてバラバラだった連中が、さっきの戦いでは見事な連携を見せた。それを繋いだのが俺の料理だとしたら料理人としてこれ以上の喜びはない。


「アキト、明日の朝食、期待しているわよ。私の脳が次の刺激を計算し始めているから」


 セレフィナが寝袋の中から少しだけ柔らかい声で言った。


「ああ。明日は峠を越えた先にある村の特産品を仕入れて『究極の朝粥』でも作ってやるよ」


 王都まで、あと四日。史上最強の調理師と愉快な仲間たちの旅は、一皿ごとに絆を深めながら、着実にその目的地へと近づいていた。

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