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21 伝説の七層のパイと七種の至宝探し

 俺のログハウスは今、新しい挑戦への熱気に包まれている。目標は古都の書物に記された究極の防御料理――七層の魚のパイの再現だ。


「このパイの効能は全属性耐性バフ。これは村の猟師だけでなく古都を探る俺たち自身にとっても重要な防御になる」


「はい、アキトさん。書物にはこうあります。パイを構成する七つの魚介は、それぞれが火、水、風、土、光、闇、そして生命の七属性の魔力を帯びたものを選び、その属性を互いに拮抗させ融合させねばならないと」


 リナは古文書の挿絵を指差した。描かれている魚介はどれもこの世界の常識ではあり得ない鮮やかで幻想的な色をしていた。


「つまり俺の【究極の調理】で七種の魚介が持つ属性魔力を破壊せずにパイの中に封じ込め、かつ属性間の均衡を保つ必要があるということだな」


 これまでの調理とはレベルの違う、高度な魔力操作を要求される。そしてなにより七つの属性を持った魚介を探し出す必要がある。


「七属性すべてを一度に集めるのは不可能だ。まずは最も魔力の対比がはっきりしている、火(炎)と水(氷)の属性を持つ魚介から探そう」


 リナはすぐに地図を広げた。


「火属性の魚介はこの森の奥にある火山の源泉に生息する炎鱗魚フレイム・フィッシュが最適です。そして水属性は前回海老を採った魔力瀑布の最深部にいる氷晶貝アイス・シェルが該当するはずです」


 彼女の植物学者としての知識は、魚介類の生息環境にも精通しているようだ。


 炎鱗魚の捕獲

 俺たちは森の最奥にある常に湯気が立ち上る火山の源泉へと向かった。源泉の水温は非常に高く普通の生物なら即死する。


「炎鱗魚はこの熱水の中で鱗に炎の魔力を蓄えています。網などで捕獲すると、鱗が剥がれ魔力が漏出してしまいます」


 リナが忠告する。


「問題ない」


 俺は源泉の水を覗き込む。赤い鱗を持った小さな魚たちが熱水の中を泳いでいる。


【究極の調理】:捕獲。低温防護膜コールド・シールド


 俺は炎鱗魚の群れを囲むように水分子を操作して体温を奪わない極薄の低温の膜を一瞬で生成した。魚たちは外側の膜に触れることで魔力の放出を封じられその場で動けなくなった。


 捕獲した魚は鱗を一枚も傷つけることなく、冷たくなった俺の収納へ収まった。


 氷晶貝の採取

 次に前回紅の海老を獲った魔力瀑布の最深部へ向かう。滝壺の奥には陽光が届かず、冷気と魔力が渦巻く洞窟がある。


「氷晶貝は洞窟の壁面に張り付いています。貝殻が氷の魔力できていて、物理的な衝撃で割れると、内部の身が一瞬で凍りつき調理不可能になります」


 リナが声を潜める。


「デリケートな奴だ」


 俺は洞窟の奥へ進み青白い光を放つ氷晶貝を見つけた。


【究極の調理】:採取。超音波振動分離ウルトラソニック・セパレーション


 俺は貝が張り付いている壁面との接合部のみ、魔力で極めて微細な超音波振動を加えた。貝自身には振動を与えず、接合部の分子構造だけを弱める。


 氷晶貝は音もなく壁から離れ俺の手に落ちてきた。内部の身は完璧な生の状態を保っている。リナはその驚異的なスキルに目を丸くした。


「アキトさん! その振動の制御、人間技じゃないです! これならこの貝が持つ氷の属性魔力を完全に保ったまま調理に移行できます!」


 ログハウスに戻り俺は炎鱗魚と氷晶貝を観察した。


 炎鱗魚はまだ熱を帯びたかのように鱗が赤く、氷晶貝は触れると手の熱を奪うほどの冷気を放っている。


「火と水。二つの属性を持つ食材は揃った。この二つだけでも料理のバフとして強力な防御になるだろうな」


 俺は残りの五属性(風、土、光、闇、生命)を持つ食材のリストアップをリナに頼んだ。


 リナは真剣な顔で古文書と地図を照らし合わせるが、その集中力も彼女のドジ属性には勝てなかった。立ち上がった拍子に作業台の角に足の小指をぶつける。


「いっ、痛っ!」


 リナは痛みに耐えようと身体を捻り、その拍子にテーブルの端に置いてあった七つの属性の魚介の配置図が描かれた古文書のページを、誤って炎鱗魚を置いていた低温保存の容器の上に落とした。


 古文書のページが炎鱗魚が放つ魔力的な熱で瞬時に焦げ付き始めた!


「ああっ! 古文書が!」


 リナは悲鳴を上げた。


【究極の調理】:消火。局所的な酸素遮断ローカル・オキシジェン・カット


 俺は焦げ付き始めたページ周辺の空気中の酸素分子のみを一瞬だけ魔力で別の場所に移動させた。酸素を失った炎は即座に消えページはわずかに焦げただけで済んだ。


「ご、ごめんなさい、アキトさん! またドジを!」


 リナは涙目だ。俺は焦げたページを拾い上げながらにやりと笑う。


「面白いぞ、リナ。君のドジで炎鱗魚の魔力が古文書に触れた。そのおかげで焦げ跡とともに、次のターゲットである土属性の食材の場所が、焦げ跡のパターンとして浮き上がっている」


 俺の目には焦げ跡が森の特定の場所を示す紋様にしか見えなかった。リナのドジはやはり俺の探求の最高の触媒だ。


「よし、次は土属性だ。準備はいいか?」


 リナは目を丸くした後、満面の笑みで頷いた。


 俺たちの七層の魚のパイへの探求は、最高の仲間と、最高のドジのおかげで加速していく。

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