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22 土と風の巡礼そして魚醤の閃き

 リナのドジによって古文書に焼き付けられた焦げ跡は、俺の感覚の鋭敏化バフをもってすれば、迷うことなく読み取れる地図となった。その紋様が示す次のターゲットは土属性の魚介だった。


「この焦げ跡が示すのは森の南西にある古代の巨木の根元だ。土属性の魔力が非常に濃い場所らしい」


「土属性……おそらく岩石や土砂を食べて生きる鋼魚スティール・フィッシュが生息しているはずです。体内に土の魔力を蓄積し、鱗を硬化させています。食材として利用するには、その硬い鱗を割らずに、内部の魔力を活性化させなければなりません」


 リナの知識はいつも完璧だ。


 土属性:鋼魚の採集

 俺たちは焦げ跡の地図を頼りに、巨大な根が地表を這うエリアへと向かった。根元の土壌は驚くほど硬く、まるで岩盤のようだ。リナが鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。


「アキトさん! 匂いがします! この土の中、深さ三尺ほどの場所に鋼魚が潜んでいるはずです! でも周囲の土の魔力が強過ぎて、通常の掘り出し方では鱗に亀裂が入ってしまいます」


 物理的な掘削は駄目。かといって属性魔法のような力も使いたくない。俺の仕事はあくまで調理のための食材を最良の状態で手に入れることだ。


【究極の調理】:採取。超高周波振動緩衝ハイフリークエンシー・ダンピング


 俺は地面に手をかざし、鋼魚の周囲の土の分子にだけ、極めて細かく速い振動を加えた。この振動は土の粒子間の結合を一時的に緩めるが、鋼魚の鱗には全く影響を与えない。


 土はまるで水のように柔らかくなり、鋼魚の群れがそのまま浮き上がってきた。硬い鱗を持った魚たちはなにが起こったのかわからず呆然としている。


「すごい! 土の魔力を分解せずに土だけを液体化しました!」


 リナは歓声を上げた。

 鋼魚を収納へ収め、残るは風、光、闇、生命の四属性だ。


 古文書をめくり風属性の魚介の記述を探し始めた。


「風属性の魚介はスカイ・クラゲとされています。このクラゲは常に風の魔力を纏い大気中を浮遊しています。しかしその体は非常に脆弱で、捕獲した瞬間に風化して消えてしまう」


「風化して消えるね」


 俺は腕を組んだ。

 通常の網や捕獲スキルでは、風属性の魔力に負けてしまう。そこでリナが閃いた。


「アキトさん! 風化の原因はクラゲの身体が持つ空中の水分の急激な変化です。もし私たちが極限まで制御された湿度の空間を作れば、その魔力を保ったまま捕獲できるのでは?」


「精密な環境操作バフか?」


 リナの知識と俺のスキルが再び結びついた。


 風属性:スカイ・クラゲの捕獲

 俺たちは森の最も開けた高台へ向かい、上空を漂う半透明のスカイ・クラゲの群れを探した。


【究極の調理】:捕獲。湿度固定結界ヒューミディティ・フィックス


 俺はクラゲの群れを囲むように、クラゲが常に纏っている湿度と同じ状態の魔力空間を空中に創造した。この空間は外部の風を遮断する壁となり、クラゲたちはその中に閉じ込められた。


 クラゲは風化することなく、魔力を放ちながら優雅に浮遊している。俺は慎重に必要数だけを収納へ移した。


 これで火、水、土、風の四属性が揃った。


 ログハウスに戻り次の探索に向けてエネルギーを補充するためリナと昼食の準備に取り掛かった。


「今日は残った鋼魚の鱗と岩猪の端材を使って、究極の魚醤フィッシュ・ソースの試作をするぞ。今後のすべての料理のベースになる」


 通常の魚醤は発酵に数ヶ月かかるが、俺の【究極の調理】はその過程を数時間で完了できる。


 調理工程:魚醤の昇華

 材料の準備と魔力抽出:鋼魚の硬い鱗と骨、そして岩猪の端材、さらにリナが持参した塩味の強い海藻を、俺の創造した専用の発酵釜に入れる。


 旨味の同時抽出:【究極の調理】:発酵。

 多段階分解と再結合。俺は肉のタンパク質と魚の魚肉タンパク質を別々の速度で分解させ、アミノ酸の抽出速度を完全に制御した。これにより肉の旨味(イノシン酸)と魚の旨味(グルタミン酸)が、最高のタイミングで混ざり合い旨味の相乗効果を最大限に引き出す。


 熟成の瞬間完了:通常数ヶ月かかる熟成を極限まで高めた圧力と温度制御で三時間で完了させる。


 完成した魚醤は透明感のある黄金色で、少量舐めただけで、全身に旨味が染み渡るような強烈なコクがあった。


「この旨味を嗅覚で分析してくれ」


 リナは目を閉じ香りを深く吸い込んだ。


「この魚醤は魚と肉、それぞれの旨味が、まるで一つの巨大な塊になっています。これは今後のあらゆる料理のバフの浸透力を高めますね。最強の調味料です!」


 俺は満足げに頷いた。この魚醤があれば残りの三属性(光、闇、生命)の魚介が集まれば、必ず『七層の魚のパイ』を完成させられる。


「次は光と闇だ。古都の書物になにかヒントはないか?」


 リナは再び古文書を開き、探求の炎をさらに強く燃え上がらせていた。

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