表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/100

20 最強の携行食と森の番人たち

 完成させた異世界クスクスは耐魔力バフという予期せぬ効能を秘めていた。これを村の猟師たちに提供することで、彼らの魔物との戦いを有利にし、俺のログハウスの平穏を守る一助となる。


「このクスクスを携行食にするため、さらに工夫を加えるぞ」


「はい、アキトさん! 普通のクスクスだと持ち運び中に崩れてしまいます。圧縮して携帯性の高いマナ・レーションにしましょう!」


 俺が考えたのはクスクスをただ圧縮するのではなく、バフ効果を最大限に持続させるための結合材を使うことだった。


 調理工程:バフの結合と持続

 結合材の選定と抽出:リナの知識を借り俺はグレート・ヤマイモという粘り気の強い根菜を選んだ。これを低温で丁寧にすりおろし、粘り成分(ムチン質)だけを抽出する。このムチン質は体内でゆっくりと分解されるため、バフの持続時間を延ばすのに最適だ。


 クスクスのコーティング:パラパラに仕上がったクスクスにムチン質の結合材を極少量、一粒一粒の表面だけに俺の精密操作で薄く塗布する。これでクスクス同士が結合し、形崩れを防ぎながらバフの持続性を高める。


 圧縮と固定:次にこのコーティングされたクスクスを小さなブロック状に圧縮する。そして前回得た精密な環境操作バフを使い、ブロック全体に分子構造の固定化を施す。水分と成分が一切変動しない、完璧な保存状態になった。


 完成したのは手のひらサイズのマナ・レーション・ブロックだ。硬く崩れにくいが口に入れれば唾液ですぐにほぐれ、クスクスのパラパラ感が再現される。耐魔力バフの持続時間はリナの分析によると約半日。これは戦う者にとって、計り知れない価値がある。


 俺とリナはエルザの家で村の猟師たちと会うことになった。彼らは森の番人であり、魔物との最前線に立っている。


 エルザの家には屈強な体躯を持つ猟師たちが集まっていた。その中には以前俺を脅しに来た若手もいたが、今は皆、俺に敬意を持って接してくれている。


「アキトさん、リナさん。今回はありがとうございます。エルザから聞いた生命力棒の効能はまさに命綱だ」


 猟師たちのリーダーらしき男ドレイクが代表して言った。


「これはその生命力棒の発展型です」


 俺はマナ・レーションのブロックを差し出した。


「このマナ・レーションには食べてから半日間、魔物からの魔力攻撃に対する耐魔力バフが付与されます。森での狩りの前に試して頂きたい」


 ドレイクたちは訝しげにブロックを受け取る。


「飯で耐魔力バフだと? そんな話は聞いたことがない」


 しかしエルザが力強く頷いた。


「アキトさんの作るものは、この村の常識を超えている。騙されたと思って食べてみな」


 猟師たちは半信半疑ながらもマナ・レーションを口に運んだ。


 次の瞬間、数人の猟師が目を丸くした。


「なんだ、これ! 口の中でサラサラと米の味がするが、噛んでいると、身体の中になにかが流れ込んでくる!」


 リナは計測器を構え興奮した声で叫んだ。


「ドレイクさん、あなたの耐魔力レベルが、通常の倍になっています! 特に身体の外側の魔力バリアが非常に安定していますよ!」


 ドレイクは自身の腕を見つめ、信じられないという顔をした。


「本当だ! いつもなら感じる森の魔力の重さが軽くなっている。こんなことが飯で可能だなんて……」


 猟師たちの驚きと感謝の表情を見て、改めて俺の【究極の調理】が持つ力の大きさを実感した。


 王都の貴族は金と権力のために俺の料理を欲した。しかしこの村の猟師たちは、生きるために、この料理を必要としている。


 俺は静かなスローライフを求めているが、同時に料理が誰かを助け、そしてその結果として、この森の平穏が守られるのであれば、それは俺の望む生活に繋がる。


「ドレイクさん。このマナ・レーションの作り方を、あなた方に教えることはできません。ですが今後も定期的にこのレーションと、様々なバフ効果を持つ料理を提供させてください」


 ドレイクは深々と頭を下げた。


「アキトさん、ありがとうございます。これで俺たちの狩りは格段に安全になる。必ずあなた方のログハウスのある森は命をかけて守ります!」


 リナは俺の隣で感動して少し涙ぐんでいた。


「アキトさん……私の知識が人の役に立っている……この上ない喜びです。そしてこれが私たちが古都の書物を探すための最高の後援者になりますね」


 俺は頷いた。リナの言う通り俺の料理は単なる趣味ではなく、この異世界で生きるための最強の外交ツールとなったのだ。


 ログハウスに戻った俺たちは、早速次の調理の計画を立て始めた。


「耐魔力バフは手に入った。次は長期間の移動に耐えうる、究極の携行食と究極の回復薬が必要になる。リナ、君の言う古都の書物の記述をもう一度精査しよう」


 リナは分厚い古文書を広げ真剣な顔で読み始めた。


「古都の書物には『七層の魚のパイ』と呼ばれる料理の記述があります。これは七種類の異なる魚介を使い、魔力によって七つの層に分けて焼き上げることで、全属性耐性バフを付与するとされています。しかしその魚介の組み合わせが……」


 俺はにやりと笑った。


「七層のパイね。面白そうじゃないか? 俺の精密操作と環境操作があれば不可能じゃない。リナ、次はその七種類の魚介を集めるための大規模な漁が必要になりそうだな」


 俺の異世界スローライフは静かな料理の探求から、村の生活を守り遥かなる古都の謎へと繋がる新たな段階へと進化していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ