第13話、シャイナの野望と白の思惑
所変わって、黒の大陸ティルティポー共和国。ラウルの屋敷の応接室。
「色々と策を練っていると言うのに、全く成果が出ないどころか、青の大陸まで浄化されるなんて! 忌々しい」
シャイナは癇癪を起こし、金切り声を上げキャビネットの上に飾ってあった美しい花柄の食器を手で払い除ける。
ガシャガシャーン!!
凄まじい音に驚いた、シャイナの付き人がビクリと肩を震わせ思わず後ずさる。
「あなた! 今、あたしから逃げたわね!」
「い……いえ。そんな事はありません」
「分かりきった嘘をつくのね」
「……も……申し訳ありません」
「衛兵! 来なさい!」
シャイナが大声で衛兵を呼ぶと、すぐに応接室のドアが開き鎧姿の兵士が入ってきた。
「この娘、もういらないわ! 大陸送りにしてよ」
「了解しました!!」
「いやぁぁぁーーー……」
大陸送りの言葉に、付き人の女性は半狂乱になって暴れ出した。
「こら! 暴れるんじゃ無い」
「グフッ……」
最後は兵士に、女性は当て身をくらわされ気を失った。そしてまるで荷物を運ぶかのように女性を肩に担いで、兵士はお辞儀をして退室していった。
「シャイナ、あまり粗末に扱うな。特に女性の奴隷は少ないのだからな」
一部始終をソファに座り見ていた、ラウルが溜息混じりにシャイナを嗜める。
「ふん! そんなもの、また攫ってきたら良いでしょうに」
「そう簡単にはいかんのだ。最近、オレたちの周辺を探っているヤツがいるんだ」
「そうなの? でもラウルあなたが何とかしてくれるんでしょう?」
「まぁな。今までとは違い強化した商人共を配置してはおる。強化人間には魔導師に命じて口封じの術もかけてあるから大丈夫だろう」
「そう。まぁ……そっちは任せるわ。あたしは早く成果をあげて”あの方”に、この世界の王にしてもらいたいのよ」
赤いドレスを着てステップを踏むように微笑みながら、クルクル回りながら王になりたいと歌い願うシャイナは可愛いし美しいと思う。けれどラウルはシャイナのように”あの方”を信じきれずにいた。
今すぐにも何か良くない事が起こりそうな予感がするのだ。本能がこの場から逃げろと言っている気がする。けれどシャイナを放っておく事もできずラウルは見ていることしか出来ない。
「双子神子は失敗だったけれど、あのアレティーシアと言う娘は使えそうよね」
『その娘には手を出さないで頂きたい』
今まで2人きりだった室内に、もう1人よく知った声が響いた。振り返ると、白い霧を身に纏ったスヴェンが部屋の隅に現れた。”あの方”の側近だと言う得体の知れない男だ。
「ふふふ。”あの方”の犬の言う事なんて聞くわけないじゃない」
シャイナは赤いドレスを、ひるがえし踊るように歌うようにスヴェンを見下した。
『……何も成果を出す事が出来ない上に尻尾まで掴まれ、更に大精霊であるオレに対する暴言。そろそろ生かしておく意味は無いようですね』
小さく呟かれたスヴェンの言葉は、シャイナとラウルの耳には届かない。
「ふふふ! あたしは、この世界だけじゃなく、地球と言ったかしら? その2つの世界の王になるの! 誰にも邪魔なんてさせないわ!」
目の前で楽しげにヒラヒラ舞い踊るシャイナとは、正反対でラウルの嫌な予感、虫の知らせと言うのだろうか? そんなモノが、ますます高まっていき背中に冷や汗が流れる。
次の瞬間……
スヴェンが手のひらを、空に掲げると稲光がほとばしり世界が白く炸裂した。
ドドォォォーーーンッ……
ラウルの屋敷を含む周囲10キロの全てが消え去った。
『あの娘には、まだ”あの方”に辿り着かれては困るのです。色々と準備と言うものが必要なのでね……』
爆発で抉れたクレーターの中心には、スヴェンが1人で口元に笑みを浮かべ立っていた。
この爆発事件を受け、黒の大陸は大騒ぎになった。なにせティルティポー共和国の半分以上が一瞬のうちに轟音と共に吹き飛んだからだ。当然、被害も甚大でフィラシャーリ王国と、ミュルアーク王国が事態の収拾と救援協力する事となった。
両国が調査団を派遣したが、現場には何も残されておらず原因は不明という事にされた。
1週間後ミュルアーク王都、城門にて。
ティルティポー共和国の隣のアデルギィの街では入りきれなかった、ティルティポーの住民たちが早朝から列をなして王都へ入る為に並んでいる。
「あなた方に聞きたい事があるのだけど良いでしょうか?」
「おぉ。なんだい?」
「行方不明のミュルアーク王アラディス様の事で何か聞いてませんか?」
「うーん。ワシは知らんが……。おい! 誰かミュルアークのアラディス王の事、知ってるヤツいるか?」
背が低く髭もじゃの男の大きな声に、列に並んでいた人々が注目した。
「噂程度だけどよ。ラウルとシャイナに捕まっているって聞いた事があるぜ!」
「それならオレも聞いた事ある! なんか屋敷の地下に閉じ込めてるとか?」
「あたしは、港からどっかに連れてかれたって聞いたわね」
「そんなん初めて聞いたぜ。どっかって何処だよ?」
「知らないわよ。夜遅くに人目を避けるようにして船に乗せられたそうよ」
思ったより有益な情報を得る事が出来た気がする。
「情報ありがとうございます」
持っていた籠の中から、パンと干し肉を情報提供してくれた人たちに配ってからカリンは城へと帰り、急ぎ足で城内のルシェリアの私室のドアをノックし返事も待たずに入る。
「ルシェリア様、報告致します」
カリンが今、聞いたばかりの話を話すと、ルシェリアはベッドから立ち上がり、外がよく見える窓辺の揺り椅子に座る。
「そうですか。連れて行かれた先でもアラディスが無事であれば良いのですが……」
「目撃者もいますし、まだ希望はありますよ」
「そうね」
ルシェリアは人々の先見が出来る。けれど自分と身内の未来は見えない。だから不安なのだと思う指先が震えて顔色も優れない。カリンはベッドから膝掛けを持ってきてルシェリアの肩にかける。
「カリン。いつもありがとう」
「いえ。何かあれば、またお知らせいたします」
カリンは、部屋から退室した。




