★第8話ー7
乱入者のおかげで、奴隷達に隙が出来た。
「行くぞ!」
「にぎゃーーー!!」
リュカが敵のド真ん中に剣で切り掛かり、ゾンビのように襲ってくる奴隷たちを、天音が空から急降下して鋭い爪で一気に容赦なく薙ぎ払う。
アッと言う間に勝負はついてしまった。
「所詮、奴隷か。使えない奴らだ」
「まぁ。仕方ないわ。魔族が生き残ってて、しかも反撃してくるなんて予想外だもの。けれど次こそ、お前を頂くわ」
シャイナが、磔板のサリアの胸に短刀を突き入れ『開転』と唱えると、赤い禍々しいオーラが立ち昇り空間の裂け目が現れた。
「じゃ! また会いましょう!」
ラウルとシャイナは、倒れた奴隷たちを置き去りにして裂け目の中に消えていった。
赤い光が収束すると同時に、磔板も裂け目に吸い込まれた。あの感じだと、サリアもクロトも死んでいるのだろう。そして死体さえも利用するのを見てしまうと、シャイナたちの残虐性が分かる。
安全を確認してから、ルルカのそっくりさんは、僕をリュカと天音の元に下ろしてくれた。
「助けてくれてありがと!」
「そ……そんな! おっお礼は、いっいらないです。いっ! いきなり、だけど! きっ君は、アッアレティーシア……さん……ですよね?」
「うん。もしかしてルルカのお兄さん? ハルルなの?」
「はっ!はい! ルルカの……兄……です。そっそれで、あなたを…さっ探して! ました」
「僕もハルルを探してだんだよ。ルルカが心配してたから無事で良かったぁ!」
「わっ私も! 良かった! です」
先ほど颯爽と現れ僕を助けた時とは違い、顔を真っ赤にして服の裾を両手で握りしめて一生懸命に話す、ハルルは年上なのに何だか可愛いと思ってしまう。
そしてふと思う。と言うか気になる事がある。それは変装してるのにバレてる気がするのだ。ハルルはルルカと性能が同じだみたいだから、僕の正体は分かって当然なんだけど……。
「シャイナたちは何で僕がアレティーシアって分かったんだろ?」
「それは双子神子が喋ったんだろう。城で捕縛した時からタキに執着していたからな」
「あの時かぁ〜……」
いつの間にか思った事が声に出てしまっていた。それにリュカが答えてくれたんだけど、どう考えても僕からバラしたようなものじゃないか。溜息しか出ないよ。
もう一つ気になる事がある。
「蜘蛛男って、どうなったの?」
奴隷たちと違って、弾き飛ばしただけでは、死んだりしない気がするんだ。
「それについては大丈夫だ」
今までと違う人物の声が響き、シャイナたちが消えた岩陰から、長い黒髪を後ろで結んだ紫の瞳の男性が、右手で縄で拘束済みの蜘蛛男の襟首を掴んで、ズルズルと引きずりながら出てきた。
「俺の愛おしい妹。アレティーシア本当に生きていたんだね!」
「ヴァレリー!?」
「あとで抱きしめさせておくれ」
まるで恋人を見るかのように僕にフワリと微笑んでから、隣にいるリュカを射殺さんばかりの眼力で睨む。婚約者だと知っていての牽制かもしれない。
「俺は妹を殺したヤツを追って、この黄の大陸まで来たんだ。それがこの男だ。姿は変わり果ててるが蜘蛛男の正体はフィラシャーリの王シルヴァンスの側近グレダだ。どうやらシャイナに王を守れる力をやるからと唆されたようだ。okした途端に魔に堕とされたって所だろうね」
左手に持った半透明の小瓶を僕たちに見せる。中身は半分以上減っている。
「強い眠り薬だと説明されたようだが、たとえ眠り薬だろうと幼子に飲ませれば、どうなるかくらい分かりそうなものだがな……」
側近としてフィラシャーリ王を守りたかっただけなんだろうけど、盲信的過ぎて怖いと思ってしまう。
「それでな。アレティーシアが生きているのを教えてくれたのが、旅の途中で出会ったハルルなんだが、アレティーシアを傷つけたヤツは逃すわけにはいかなかったんで国には戻らず黄の大陸まで一緒に来た訳だ。ハルルも黄の大陸に用があるらしいからな」
「そっそうなんです。この……奥に、行きたい! のです」
ハルルは、パッと見ただの岩場だけの何もない場所に手で触れる。
すると大きな岩がホロホロ崩れて、奥への道が現れた。
「かっ隠し通路……ヤツラが! いない内に!」
「ここってティルティポーの?」
「そう。だっだから! い! 今のうちに!」
この黄の大陸はルルカとハルルの故郷だ。大切なモノがあるのかもしれない。
「リュカ! 行っても良いかな?」
「あぁ。行こう」
「待て! アレティーシア! 俺も行くからね」
リュカの服の裾を掴んでいると、僕の体を奪うようにして、勢いよくガシッっと僕を抱きしめ頬ずりまでしてくる。
「可愛い俺のアレティーシア! もう離さないよ」
アレティーシアの記憶も僕は持っているから、溺愛し過ぎのシスコンだと分かっていたけど愛がかなり暴走気味だ。だからこれだけは言っておかないとダメだと思う。
「ヴァレリー! あのさ。僕は本当はアレティーシアじゃ無いんだ!」
「知ってるよ」
「え?」
「ハルルから聞いたからね」
「そっか。ルルカと同じ全てが見える力」
「シン。大変だったね」
倉田木シンを知っているなら、子供じゃ無いのも分かっているはずなのに……。
「怒ってないの? ヴァレリーの最愛の妹の体を……」
“俺は奪ったのに……”と、全部の言葉を言い切る前に、再び力強くギュッと抱きしめられた。
「怒るはずないだろう。シンお前はアレティーシアの生を受け継いだんだ。アレティーシアは優しい子だったからね。きっとお前に生きて欲しいと願ったに違いないんだ。そうじゃなければ、こんな奇跡は起きない!」
「母さんたちもヴァレリーも優しすぎるよ……」
ホロリと涙が零れ落ちる。その涙をヴァレリーが指で掬いとってくれる。
「当然だよ。アレティーシアが生かした命なんだから、お前も俺の愛おしい妹だ。だから兄さんと呼んで欲しい」
こんなにも家族に、大切に思われる事は初めてで心がじんわりと温かくなり身体にまで広がり伝わる。
「うん。ありがと! ……兄さん」




