彼の理由
ほのぼの話。特に進展はなし。
「綾ちゃんっ」
「ああ千尋、お帰り」
発表会の後教室で他の人達が戻ってくるのを待っていると、千尋が真っ先に教室に入ってきた。
発表会はあの後すぐに終わったようで、私が教室についてから5分程ぐらいしか経っていない。
「綾ちゃん、私知らなかったよ!」
「生徒会の事?」
「うん!身近な人が生徒会に入るって初めてだから、ビックリした」
「滅多にないもんね~」
あっはっは。花咲さんがこちらを睨んでるのがわかる。凄ぉくわかる。怒鳴ってこないのが不思議なくらいだ。
「乙」
「ん?」
急に上から声が降ってくる。女の声じゃなく、男の声だ。それと同時に、机に新たな影が落ちる。
上を見上げれば、整った顔が天井からの光を遮っていた。眼鏡を掛けているからだろうか。真面目そうだ。
「どうしたんだい?野見山くん」
野見山 博之。新入生代表に選ばれた男子生徒。
一度聞いたら覚えるといった天才型ではなく、努力型。元々はここより入試レベルの高い学校を志望校としていたが、突然ここに変更したらしい。
「······お前、どうして生徒会に入ったんだ?」
「それは私が勧誘された理由を聞いてる?それとも生徒会に入ろうと思った理由を聞いてる?」
「前者だ」
「ふふ、私は生徒会に勧誘されるような人に見えない?」
「······単に勧誘の基準を知りたい」
「基準ねぇ······。特にないよ。いや、ないというのは言い過ぎだな。その人の能力や、他のメンバーとの相性で勧誘されるんじゃない?あくまで生徒会顧問の許可さえ貰えば誰を勧誘しても良いから、極端に言っちゃうと相手に惚れたからなんて理由で勧誘してもOKなんだよ」
「嘘だろ······」
あらら、かなりショックだったらしい。ポカーンってしてる。
······うわ、野見山くんの瞳も綺麗な色だ。明るい茶色。茶色の瞳を持つ人は少なくないけど、ここまで明るい色なのはクラスに1人いるかいないかだ。
眼鏡越しで、裸眼とはまた違う魅力がある。
「······お前は、どうして勧誘されたんだ?」
「へ?あぁ私?知らない。成績とかその辺じゃない?」
「お前、そんなに成績良いのか?」
「うん」
「······すげぇ自信だな」
「謙遜しすぎてもウザいだけでしょ?」
「······まぁ······うん」
「ほら、もうこんな時間だ。一時間目は選択科目だね。早く移動しよう」
「乙は体育とってたよな?俺も体育なんだけど、一緒に行かないか?聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事?へぇ、良いよ、一緒に行こう。······御免ね、千尋。話をぶったぎってしまって」
「ううん、綾ちゃんが悪いんじゃないし。じゃあ、私音楽室だから」
「ん、いってらっしゃい」
「いってきまーす」
「俺らも行くぞ」
「わかってる。私達は手ぶらで良いのかな?」
「持っていくもんもねぇしな」
「それもそうだね。君、着替えるかい?」
「いや。お前は?」
「着替えないよ。面倒だ」
「そうか」
止むことのない花咲さんの視線を背に立ち上がり、野見山くんと並んで教室を出る。
ずっと私を睨んでたら授業に遅れちゃうと思うんだけど。あの子何を選択したんだろ?私について来ようとはしなかったから、体育ではないのかな。
「あいつ何でお前睨んでんの?」
「花咲さんの事?私が生徒会に入ったからだと思うよ」
「生徒会に入っただけであんな睨まれんのか」
「ん~生徒会の人達はファンクラブが出来るほど人気だからね。やっぱその中に私みたいなのが入ったのが嫌なんでしょ。それより本題本題。君の聞きたい事って何?」
「この学年で一番頭良いやつって誰?」
「どういった基準で?」
「定期テストの点が一番高いやつ」
······答えづれぇ。実に答えづれぇ。
······うん、誤魔化そ。
「さぁ?高校に上がって結構人が入れ替わったからね。新しく入ってきた子に今一番頭が良い子がいるかも」
「去年で良い。去年、全体を通して最も点数が高かったやつは?」
「······粘るねぇ。先にそこまでこだわる理由を聞いて良い?」
「後で俺の質問に答えてくれるか?」
「約束するよ」
「よし。······去年、クラスメイトから噂を聞いたんだ。ここの中3ですげぇ頭の良いやつがいるって」
他校で噂される程?ん~、私はそんな目立つ事してないから、野見山くんが探してるのは別の人かな?だったら2位の人を?でも2位の人はコロコロ変わってるしなぁ······。
「そいつ、定期テストで全教科満点なんだとさ」
······ははっ誤魔化せねぇわコレ。
「まぁ全教科満点は誇張なんだろうけどさ。ほら、ここってテストのレベルが高いので有名じゃん」
「ん?あぁそうだね」
テストのレベル、といっては少々語弊があるがな。
ここは入試レベルはそこまで高くないし、小テストなども一般的なレベルだと思う。他校のものを知らないから断言は出来ないけれど。
それに比べて定期テストは異常にレベルが高い。平均点は大体20点前後だろうか。勿論100点満点で、だ。
問題が難しい為か、テスト直しなどの提出は強要されていない。提出したところで通知表の点数が上がるわけではないから提出する人も少ない。
赤点のラインは低く、2点とかその辺だ。そもそも追試をしないというものも多い。
そういう高校として有名だからこそ、ここを受ける人は少なく、1学年3クラスという現状。人数少ねぇ。
「なのにそんな高得点取るやつってどんなやつだろうって気になって」
「それだけで志望校変えたのかい!?」
「え、何で知ってんの」
「話の流れ的に」
「お、おう、そうか」
「君、どうしてそれだけの事で?」
「前からこの学校は気になってたんだ。平均滅茶低いってどんなテストなんだーって」
「ああ、なるほど。もし良ければ、今度去年のテスト問題持ってくるよ」
「え、マジ!?見せて!」
「明日······は学校休みか。んじゃ次の月曜に持ってくるよ」
「楽しみにしてる。······で、俺の質問の答えは?」
「ん、ああ、あれは私だよ」
「······は?」
「去年の学年末テストの段階で1位だったのは、私だよ」
「はああああああ!?」
「だからさっき言ったでしょ?私成績が良いって」
再びポカーンフェイスになる野見山くん。お、体育館に到着~♪今日早速ダンス出来るかな?何のダンスだろ?体育祭に向けての創作ダンス?フォークダンスかな。社交ダンスは今日は難しそう。
それじゃ、入りましょーう!
「あ、夏草会計」
「あれ、綾ちゃん」
うん?何で葵がここに?ジャージ姿だから、彼も体育を選択したのかな?でも葵は違うクラスだし······。
「······乙、どうして違うクラスのやつが?」
「おや野見山くん。復活したんだね。ん~、多分今日は合同なんじゃないかな」
「なるほど」
「じゃあまた後でね、夏草会計。野見山くん、もう結構な人が並んでる。順番は······バラバラっぽいね」
野見山くんの手を引っ張って、クラスごとに別れているらしい集団の中に入る。
そういえば、葵は入り口付近で突っ立っていた。誰かを待っていたのだろうか。
少しすると、日向が入ってきた。どうやら葵は日向を待っていたらしい。仲が良いねぇ。
「ハイッ集まれッ」
ズドーンと体育館に響く野太い声。体育を担当する先生は男性のようだ。
彼によれば、高等部は選択科目は3クラス合同でするとの事。
ちなみに、女の子の割合はえらい少なかった。うちのクラスは私1人で、葵のクラスはゼロ、日向のクラスは3人。学年で四人かー。ま、そんなもんなのかね。
「はいそこボックス~。それバランスね~」
「わかんねぇよっ」
「じゃあもう一回最初から一緒にやろう」
あの後軽く準備運動をしていくつかのステップを習い、それらを組み合わせたものを練習している。
ペアを組めという事だったので、野見山くんとペアを組んでいる。
「右足から~1、2、3、4、クロス~、ピボット~、5、6、7、8、ボックス~、5、6、7、8、で、バランス~。分かった?」
「無理!」
「何故に!じゃあゆっくり行こう」
ゆっくりゆーっくりステップを踏んでいく。覚えれば楽だけど、覚えるまでは辛いからなぁ。
でもまぁしょーがない。
「今覚えられなかったら昼休み潰して練習しようね」
「やめろおおおおおおおっ」
ふふふ······文字数見るのコワイ。いつ長さが戻るのだろう。




