集合
ガラガラー
「おはよーございまーす」
ドアを横にスライドすると同時に挨拶をする。
今現在朝の8時前。昨日藤崎先生に、『8時に生徒会室に集合して下さいね』と言われた為、生徒会室に来ている。
室内に目を向ければ、柳瀬さんがいた。が、他には誰もいない。
「おはよう、乙さん。······先生は、職員室。他の皆は、そろそろ、来る」
「職員室?」
「うん。確認が、あるって」
「確認、ですか」
「······乙さん」
「はい」
手招きされ、彼の正面に座る。
「どうしたんですか?」
「······」
「柳瀬書記?」
問いかけるも、彼から答えは返ってこない。彼は何も言わず、ただこちらを見てくる。
······本当に、琥珀色の瞳だ。左右同じ色。柳瀬さんの茶色の髪と、健康的な肌の色によく合っている。もっと近くでじっくり見たいな。
「これ」
「······え」
彼の手がこちらに伸びてくる。その手は全く躊躇わずにローブのフード部分の中に入り、仮面に触れた。
何で、コレを知っているんだ?彼に見せた記憶はない。他の生徒会のメンバーにもだ。入学式の日に花咲さんのせいでクラスの人には見せる事になったが、それまでコレを見せた事のある人は椿先輩だけだ。
椿先輩が柳瀬さんに話すとは思えないし······。
ならば、何故?
「コレが、どうしましたか?」
込み上げてくる不快な何かを悟られないよう気を付けながら、仮面に触れる柳瀬さんの手に、自分の手を重ねる。
心臓の辺りが熱くなって、無性に掻きむしりたくなる。
彼が知っているという事は、私が言ったか、見せたかのどちらかだ。だが私は覚えていない。
彼の記憶と、私の記憶の差。食い違い、という程ではない。それでも、不快なのだ。
理由は、分かっている。だからといって、この不快感を一瞬で拭う方法がある訳ではなくて。
結局は、時間が経つのを待つしかない。
「······乙さんは、好き?」
急に言われた言葉を理解出来ず、すぐに答えられない。
『好き?』という事は、『仮面が好き?』という事、だろうか。文脈からしてそうなのだろうな。
「好きですよ」
「見て、良い?」
えらい仮面に興味持ってるな。これ私が断ったら気まずい空気になるパターンじゃないか。いやまぁ断らんけども。
「構いませんよ」
そう言って許可を出せば、彼はゆっくりとフードに手をかける。それに合わせ、自然と距離が近づく。
よっしゃ瞳が近くで見られるぜやっほい。
「······綺麗」
仮面を見て、柳瀬さんが小さく呟く。
口に出しはしないが、私も似たような心境だ。
彼の瞳を縁どる黒、その内側の濃い黄色。左右全く同じ色合いで、魅力的だ。
もしどちらかが濃かったり薄かったりしても、それはそれで興奮するがな。(キリッ
瞳の色が琥珀色に分類されるからといって全員が全員彼と同じような瞳を持っている訳ではない。外側の黒が無かったり、彼より淡い黄色だったり。
······ああ、もうあの不快感が消えている。
好きな物を愛でるだけで先程の不快感が消えた自分に気付き、自嘲する。
あんなにも不快だったのに。単純だねぇ。
まぁ、そんぐらい人間の瞳が好きって訳だし。せっかくこんな珍しい物を近くで見られるんだ。今の内に堪能しておこう。
心の中でヘッヘッヘと悪人のように笑いながら、彼の瞳を遠慮なく見続ける。
彼も仮面に見惚れているのか、私にじろじろと見られても気にしている様子はない。むしろこちらを見返している。
そのまま黙って互いを見ていると、ガラリと扉が開く音がした。
フードをかぶって振り返れば、目を大きく見開いている葵が。
「おはy「ゴッゴメン!!気にしないで続けてっ」······は?」
慌てて何処かへ走り去る葵。······とにかくメールでもしとくか?
携帯を開けると、前方からカチカチと聞こえた。どうやら柳瀬さんも同じ考えに至ったようだ。
「送ったから、大丈夫」
「ありがとうございます」
「······来た。······『何で逃げたの』って送ったのに、『誰にも言いませんから』って返ってきた」
「何か誤解してるっぽいっすねぇ」
「呼び寄せる」
「その方が良いですね」
「······諒、乙さん、どういう事ですか?さっき葵が走っていくのが見えたんですが」
おや、副会長。いつの間に来てたんだ。あ、会長もいる。おはよーございます。
「葵捕まえたよーっ」
「マジですいませんすいませんすいません」
「五月蝿い。とりあえず落ち着こうか、夏草会計」
「いやもう誰にも「葵くん、黙って」······はい」
葵の腕を引っ張って来た日向に、呪文のように謝罪を繰り返す葵。そして葵を黙らせた柳瀬さん。
何このカオス。
「葵くん、その謝罪は、何に対して?」
「いや······あの······」
「大丈夫さ、夏草会計。どうせ勘違いしてるだけだろうから」
「えっ何!?何があったの!?」
「······俺がここに来たとき、二人が見つめ合ってたから······邪魔したかなぁと」
「え!?二人ってそういう関係だったの!?恋人なの!?」
「違うよ、夏草庶務。互いに興味深い物を眺めていただけさ。そんな甘い関係じゃない」
見つめ合ってる=恋人、だなんて。どんな公式だよ。
「入って。もう、8時」
「ん?おい、藤崎はどこだ?」
「職員室。そろそろ、来ると思う」
だろうな。バタバタと足音が聞こえるし。じきに姿も見えるだろう。
「来たようですね」
「おはよーございます、藤崎先生」
「······ハァ······おは······」
「藤せんせー、とりあえず座ろ?」
「あ······はい······」
あらら。ドアが開いたままだ。······閉めないと。
「あぁ、すいません、乙さん」
「いや、気にする程じゃないですよ」
随分息も整ったようだ。普通に会話が出来ている。
「何を、確認しに?」
「乙さんの生徒会入り、高等部の皆さんに発表した方が良いですから、その時間帯の確認を」
「既に確認の段階なのか?いつだ?」
「今日の8時35分からです」
「······は?」
おい、聞いてねぇぞ?
すいません!昨日急にネットがダメになったせいで時間がなくて、普段よりかなり短くなってしまいました。次回からまた元の長さになります。




