第8話
「レノス……すごいじゃないか」
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この日、
シンガは明るくなり始めると、
すぐに一人で村を出ていたのだった。
水車の設置場所と、
村までのルートを決めるためだ。
ついでに、
解放されたレノスの機能を確認したかった。
というのも、
レノスの表示が変わっていたのだ。
昨日の村長宅での食事。
あれで通常モードに戻れたのだ。
が、見た目に変化はなかった。
だが一晩眠り、
目を覚ました時にはすでに変わっていた。
通常モードの“表示”になっていた。
ウィンドウはわずかに大きくなり、
文字は消え、アイコンが並んでいる。
意識を向けると反応した。
まるでクリックするように。
軽く意識するだけで、
その機能の内容が頭に流れ込む。
理解に変わる。
一度把握すれば、次からは意識せずとも使える。
まるで思考と直結した道具。
しかも、何もしていなければ視界には現れない。
早く試してみたかった。
レメリィにはまだ言えないと思い、
一人で出たのだった。
そして、
森の中を歩きながら試して驚いた……。
【 身体能力ブースト 】
これを使えば、動きそのものが変わる。
歩く速度が上がる。
走れば風を切るように進む。
単純に筋力が上がっただけでなく、
地面の状態に合わせ、
最適な踏み込みを自然に選んでいる。
試しに跳んでみれば、
かなり高い枝にも難なく届く。
そのまま体を持ち上げ、
軽々と乗ることができた。
ニンジャにでもなったような感覚だった。
「これは……頼りすぎると危ないな」
そう思った。
川に着いてからは、笑うしかなかった。
【 簡易予測 】
水中を泳ぐ魚。
その動きが、視界に多数の線となって現れる。
次にどこへ逃げるのか。
予測範囲が、自分の動きに合わせ
リアルタイムで変化する。
誘導することもできる。
進路を限定し、逃げ場を絞る。
多数の線が収束する。
そうして手を差し入れれば──捕まえられる。
素手で、簡単に。何度でも。
こんな俺を見たら、
レメリィはなんて思うだろうか。
【 視覚補助機能 】
(これは……すげぇ……!)
思わず、息を呑んだ。
それを起動すると、
目の前の川と、その先にある村。
両者の間に横たわる地形が、ただの景色ではなく、
“情報”として流れ込んでくる。
高低差が分かる。
測量機器になった感覚だった。
そして、頭の中で思い描いた構造が、
半透明の像となって視界に浮かび上がるのだ。
現実の風景に“設計図”が重なる。
ここは高さが足りない。
ここは基礎が弱い。
このまま水を流せば、ここで漏れる。
──“未来の結果”が、先に見える。
これらの補助機能は、
エネルギーを消費した。
視界の端にあるウィンドウ枠。
機能を発動すれば、
その色が時計回りに変わっていく。
体感一分くらいで、
自動的に機能が停止する。
使いっぱなしにはできない。
『生存率があがるはずだよ』
ふと、あの言葉が蘇る。
(……こういうことか?)
納得しかけて、思考が一度止まる。
──もしかして。
あいつは、分かっていたんじゃないか?
リキャスリングが失敗することを。
ただ元の世界に帰すだけなら、こんな機能は必要ない。
くそっ──
つまり、これは。
(……ふざけやがって!)
帰れるはずだった。
運悪く失敗したんだと思っていた。
その前提ごと、思い切り踏み外す感覚。
(あいつ、最初から嘘だったのか……!)
胸の奥で、鈍い怒りが燻る。
(っ………)
だが──
(……でも)
吐き出すように呟く。
「詫びにくれて、良かったな……」
(……これがなきゃ、もう終わってた)
──レメリィに会うこともなかった。
受け入れたくはないが……。
(今は生きる方が先だ…)
──視線を川へ戻す。
やるべきことは決まっている。
必要な情報は、すべて揃っている。
水車は、単純な構造でいい。
まずは確実に動くことを優先する。
十分な高さまで水を持ち上げたら、
あとは流すだけだ。
(理屈は通る……実際に回るかは別だが…)
勾配を利用し、
流しそうめんの要領で村へ導く。
ただし、竹筒くらいでは細すぎる。
水量が足りないし、耐久性も不安だ。
木で作る。
太く、頑丈に。
柵に穴を開け、その内側へ導く。
水が滑り込むように、内側へ流れ込む。
内側を沿うように、角パイプを設置する。
村をぐるりと囲むように。
頭の中で、半透明の水路が組み上がっていく。
水が流れる。
輪を描くように巡る。
流れは左右に分け、その先を泉へと繋げる。
これなら溢れない。
柵の角パイプから各家へ、筒状の水路を引く。
栓を設け、開閉もできるようになる。
必要な分だけ水を使える仕組みだ。
さらに。
建物の配置も、少しずつ変えていく。
水路が無駄に増えないよう、効率よく再配置する。
段階的に、無理なく。
そうして最終的に──
(各家に、水路が通る)
確信が、形を持つ。
水汲みは不要になる。
生活が変わる。
この村が変わる。
視界の中、半透明の設計図が静かに完成へと近づいていく。
それはまだ仮の像だ。
だが──
実現できる。
そう言い切れるだけの根拠が、今の自分にはあった。
《続く》
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