表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PROTOCOL:ASH ──“神殺し”を埋め込まれた俺の異世界禁書──  作者: さば虎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/30

第4話

「ん…」


 意識が、ゆっくりと浮き上がる。

 水の底から顔を出すみたいに、重く、鈍く。


 最初に来たのはーー安心感だった。


(…あぁ、まだ寝れるやつ…)


 目覚ましは鳴っていない。

 このままもう一度、沈めばいい。


 そう思って、いつものように寝返りを打ちかけーー


 止まる。


(……何時だ?)


 スマホを探す指先。

 そこにあるはずの、いつもの感触。


 だが、触れたのはーー


 乾いた、何か。


(……?)


 遅れて、匂いが来る。

 土と、獣と、干し草と。

 部屋の匂いじゃない。

 ベッドじゃない。


(……あ)


 そこで、ようやくーー


 思い出す。


 落ちた。

 森。

 痛み。

 あの、ありえない感覚。


 そしてーー


(ここ……)


 現実が、ゆっくりと形を持つ。


 同時に、身体のあちこちから

 じわじわと痛みが浮き上がってくる。


「……っ」


 小さく息が漏れた。


(夢じゃ……なかったか)


 認めたくない気持ちと、

 もう分かっているという諦めが、ぶつかる。


 ゆっくりと息を吸って、吐く。


 目を、開けた。


 薄暗い天井。

 隙間から差し込む光。


「……夢じゃない、ね…」


 口に出すことで、“確定”する。


 手を持ち上げる。

 指を曲げる。開く。


 昨日、あり得ない方向に折れた指。

 普通に動く。


(まじで……治ってる)


 ぞわ、とした。


 助かった実感と同時に、

 “何かおかしい”感覚が拭えない。


 ゆっくりと身体を起こす。


「……っ」


 脇腹に、鈍い痛み。

 思わず顔をしかめる。


(全部は戻ってない、か)


 それでもーー動ける。


 視界の端に、あのウィンドウが浮かぶ。


 >> Repair progress: 57%

 >> Additional energy required.


「……はいはい」


 思わず苦笑が漏れる。


 これが100%になったらーー

 何か変わる?


 一瞬、そんな考えがよぎって、

 すぐに打ち消す。


(エネルギー、ねぇ…)


 腹に手を当てる。空腹。

 だが、それだけじゃない。

 “足りていない”という確信だけがある。


(…気持ち悪いな)


 人間のそれじゃない。

 自分が、自分じゃない何かに変わっているような、

 そんな気持ち悪さ。


「……はぁ」

 短く息を吐く。


(考えすぎても、どうにもならない)


 今やるべきことは一つ。

 生きること。

 それだけだ。


 藁ベッドから足を下ろす。

 地面に触れる感触。

 ゆっくりと立ち上がる。

 膝が、わずかに震える。


(……まだか)


 完全じゃない。

 でも、動ける。


 一歩。もう一歩。


 ──問題ない。


 その時。


 足音。

 複数ではない。ひとり。

 ゆっくりと、近づいてくる。

 扉の影が揺れる。

 そしてーー


「起きてる?」


 聞き慣れた声。


「……ああ」


 自然と、少しだけ力が抜けた。


 扉が開く。

 朝の光が差し込む。

 逆光に縁取られた芸術に一瞬、視線が止まる。


 レメリィだった。


「……何その顔」


 開口一番がそれだった。


「いや…別に…」


「寝起きって感じじゃないわね」

 じっと顔を覗き込まれる。


(近い…)


 昨日より距離が近い気がする。

 警戒されていないわけじゃないがーー


「大丈夫そうね。一応」


 そう言って、視線が身体をなぞる。

 怪我の具合を見ているのだろう。

 ふと、興味を失ったように視線を外す。


「まぁいいや、これ」


 すっ、と何かを渡される。


 木の皿。

 その上に……


「……肉?」


 見ただけでわかる。焼いてある。

 それも“よく”焼いてある。


「そうよ」


「えと、なんの?」


「昨日の」


(あの……ウサギか)


 ダイアーラビット。

 こんな真っ黒になりやがって。


「いいのか?」


「うん、食べて」


「ありがとう。いただきます」


 真っ黒具合が気になるところだが、かじる。


 硬い。

 だが、噛むほどに味が出る。


「……うまっ」


「でしょ」


 ほんの少しだけ、表情が緩んだ。


 飲み込む。

 その瞬間。

 体の奥で、何かが動いた。


 じわ、と。


 熱でも、痛みでもない。

 だが、確かに変化。

 ウィンドウが反応している。


 >> Energy intake confirmed.

 >> Repair progress: 60%


 昨日もレメリィが用意してくれた食事で見た。

 “回復”というよりーー


(補給、か)


 レメリィがこちらを見る。


「……さっきから変な顔してる」


「あぁ、元から、かな?」


「それもそうね」


 あっさり頷かれる。


(…否定しないのか)


 内心でだけ突っ込む。


 だが――


 悪くないやり取りだと、少しだけ思った。


「で」


 レメリィが腕を組む。


「今日どうするの?」


「どうするって…?」


「働けって言われなかった?」


(ああ、そうだ)


 そういう約束だ。

 助けられた。

 だが、それで終わりじゃない。


「何やればいい?」


 聞くと、少しだけ考えてからーー


「そうね…先に食べたら?」


 そう言って出て行く。

 短い言葉。

 冷たい雰囲気。


 だがーー、


 嫌な感じはしなかった。

 理由は分からない。


「了解」


 短く答えて、残りを食べる。

 視界の端で、数字がまた少しだけ上がる。


 まだ痛みはある。


 でもーー


 昨日とは違う。

 レメリィの待つ外へ、一歩、出る。

 朝の空気が、肺に入る。

 冷たくて、少し痛い。


(……生きてるな)


 その実感だけが、

 妙に鮮明だった。

 視線は自然と、前を歩きだした背中を追っていた。



 《続く》

少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価を頂ければ、尻尾振って喜びます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ