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PROTOCOL:ASH ──“神殺し”を埋め込まれた俺の異世界禁書──  作者: さば虎


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第16話

「ワーゲル! なんだよ、あれっ!」


 叫びと同時に、シンガの身体は後退していた。


 視界の先――仁王立ちで咆哮をあげる“それ”。

 圧し潰すような存在感に、距離を取らずにはいられない。


「あれがバグベアだ。……見ただろ、“星”を!」


 ワーゲルの言葉に、シンガは一瞬だけ息を詰める。


 確かに見た。


 あの巨体の腹部が透け――その奥に、在るはずのない光景。

 無数の光。深淵。――宇宙。


 だが今は、何も見えない。


(こういうことか……)


「てゆうか、なんでもう戦ってるんだよ!?」


「あの直後に出てきたんだ」


「気づいてたってのか?」


「わからんっ――来るぞ!」


 グオオオッ!


 大気を震わせる咆哮とともに、バグベアが突進してくる。


「っ!?」


 シンガは咄嗟に身を翻す。

 重心を崩しかけながらも、間一髪で進路を外れる。


 巨体が唸りを上げて通過ーー


 その刹那。


 ズバン! ズバン!


 横合いから飛来した矢が、バグベアの顔面へと突き刺さる。


 グアアッ!?


 衝撃に足を止め、獣は顔を掻きむしる。勢いが鈍る。


「気をつけろ!こいつは普通じゃねぇ!」


 ダイノが次の矢を番えながら叫ぶ。


「どういうことだよっ!」


 距離を取り直しながら、シンガは叫び返す。


 その問いに応じたのは、地を蹴ったワーゲルだった。


「“星空の魔獣”は――」


 言葉と同時に大きく跳躍し──


「殺せねぇっ!」


 両手で握りしめた剣を、振り下ろす。


 ――ズンッ!


 鈍い手応えが響いた。


 バグベアの腕が、肘から断ち切られ、宙を舞う。


 グアアアアアアッ!!


 絶叫が森を揺らした。


 その隙を逃さず――


 バスッ! バスッ!


 ダイノの矢が、間髪入れずに撃ち込まれていた。


 確かに効いている。


 それでも――


 肌で感じる、衰えない威圧。


「普通にはなっ!」


 ダイノが言い放ち、次の矢を番える。


「どういうことだよ!?」


「よく見てみろっ!」


 顎で示され、シンガは目を凝らす。


「……あっ!」


 脚部が一瞬、透けた。


 その奥に広がる――先ほどと同じ“宙”。


 だがそれも刹那で消える。


 そして再び、バグベアがこちらへ突進してくる。


「シンガ! 見てから避けろ!」


 再び突進。


 シンガはブーストで軌道を外す。


(今だ――)


 背後を取る。そう確信した、その瞬間。


「なっ!?」


 バグベアは不自然なほど急激に停止した。

 慣性を無視した動きで、ぎゅっと止まり――腕を振り抜く。


 ゴッ!


 衝撃が視界を白く染める。


「ぐはっ!」


 身体が吹き飛び、大樹に叩きつけられた。


「シンガ!」


「おらぁっ!」


 ワーゲルが膝裏へ斬り込み注意を引きつける。


 シンガの身体をレノスが修復する。


「“星空の魔獣”はな――星が見えたら要注意だ」


 ダイノの声が、冷静に落ちてくる。


「予測不能な動きをすることがあるんだ」


「予測……不能?」


 視界の向こう、ワーゲルが剣を振るいながら猛攻をいなしている。


「あぁ。動きを読んでも外れる。先読みが通じねぇ」


 まさに今、それを喰らった。


「必ずってわけじゃねぇのが救いだがな」


「……殺せないってのは?」


「致命打がなぜかズレる」


「さっき腕は落ちただろ」


「あれは脳天狙いだ」


「外れたのかよ……どうすんだ」


「連撃だ。通るまで叩き込む」


 短く、現実的な答え。


「だから最低三人なのか」


「そういうことだ。多いほどいい」


「おい!しゃべってんじゃねぇ!」


 ワーゲルの怒声が飛ぶ。


 その瞬間、空気が引き締まる。


 バグベアが再び体勢を低くする。


 ダイノは矢筒に手をやり――空を切った。


「……ちっ、矢切れだ」


 即座に弓を捨て、短剣を抜く。

 間合いは一気に詰まる。


 戦い方が変わった。


 ワーゲルが誘い、躱す。

 ダイノが腱を断ち、筋肉を削ぐ。

 シンガが心臓を打ち、脳を揺らし、意識を奪う。


 止めて、削って、繋ぐ――三人が噛み合っていく。


 バグベアが唸り、地を抉る。


 来る。


 ワーゲルが正面で剣を構え、ダイノが低く回り込む。

 シンガは一歩引き、レノスで全体を視る。


 巨体が突進し、ワーゲルが半歩だけ遅れて躱す。

 その刹那、ダイノの刃が膝裏を裂いた。


 グアアッ!


 わずかに崩れる体勢。


 その“わずかな歪み”を、シンガは、レノスは見逃さない。


(今――通る)


 踏み込む。一直線に、迷いなく。


「オラァ!」


 拳が心臓へ叩き込まれた。


 ドンッ――鈍い衝撃。


 一瞬、バグベアの動きが止まる。

 鼓動が途切れたかのような、空白。

 視線が揺らいだ。


 それで十分だった。


 もはや合図など要らない。


 三人の意識が、同時に一点へ収束する。


 ダイノが背後から跳躍、首の裏へ短剣を突き立てる。


 シンガも跳躍に繋ぎ、後頭部を直下に蹴り下ろした。


 巨体が屈む。首筋が、無防備に晒される。


 その瞬間――


 ワーゲルが跳んだ。


 迷いのない軌道。振りかぶられた剣が、一直線に落ちる。


「オラアッ!」


 ザンッ――


 重い音。


 次の瞬間、切断された首が地に落ちた。


 遅れて、巨大な体躯が崩れ落ちる。

 地面を揺らし、森の静寂を押し潰すように。


 ――終わった。


 三人はその場に立ち尽くす。


 言葉にならない息が、喉から漏れる。


 それは歓声にも、安堵にも似ていた。


 ただ確かに、彼らは“勝った”。


 その“事実”だけが、森の中に深く、重く、響いていた。



 《続く》


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