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PROTOCOL:ASH ──“神殺し”を埋め込まれた俺の異世界禁書──  作者: さば虎


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第15話

 パキッ、パキッ――ザッ。


 乾いた枝を踏み分け、ダイノは藪を抜けた。


 視界が開け、川縁に出た。

 森を這うように澄んだ水が流れている。


「うっし、問題ないな。レメリィ! そっちどうだー?」


 声を張ると、少し離れた茂みが揺れた。

 ほぼ同時に、レメリィが姿を現す。


「こっちも問題なーい」


 軽く手を振りながら近づいてくる。その声音に緊張はない。

 ダイノは小さく息を吐いた。


「あっちはどうだろな」


 上流側へと視線を向ける。


「集合場所、行きましょ」


 レメリィは短く言い、そのまま川沿いを歩き出した。


「あぁ……」


 ダイノも頷き、後に続く。


 集合場所は、水車の設置予定地だ。

 そこから村まで水を引く――そのための水路を通す。


 この一帯の安全確認は、すでに一度済ませてある。

 だが、それから一週間が経っていた。環境が変わるには十分な時間だ。


 新たな巣穴ができていないか――その確認と、必要であれば駆除まで行う。

 それが今回の役目だった。


 ――別の場所。


「この辺は大丈夫だな。ワーゲルのほう戻るか」


 周囲を一通り見渡し、シンガは呟いた。

 次の瞬間、足に力を込める。


 ――ブースト。


 踏み込んだ地面が、遅れて弾ける。

 景色が後ろへ“引き伸ばされる”ようにズレた。

 風を切る速度。だが、その制御はまだ完全ではない。


 昨日覚えたばかりのオンとオフの切り替え。

 今はそれを身体に叩き込んでいる最中だった。


 一方――


「おいおい、こんなのなかっただろ……」


 ワーゲルがしゃがみ込み、低く呟く。

 水路予定地の再確認範囲、その最外縁。

 緩やかな斜面に、不自然な穴が口を開けていた。


 人が一人、余裕で入り込める大きさ。


 土は新しく、奥は闇に沈んでいる。

 どこまで続いているのか見えない。


 耳を澄ませる――だが、気配は感じられなかった。


「……面倒だな。なぜこんなとこまで」


 視線を落とした先には、大きな足跡がひとつ。

 単独──か。


 ワーゲルはわずかに考え、そしてふいに顔をしかめた。


「まさか……? いや、それしかねぇか?」


 胸に浮かんだ嫌な予感が、消えない。


 そこへ、シンガが戻ってきた。


「ワーゲル、これは?」


「……グレイベアだな」


「クマか?」


「ああ……だが、ちょっとおかしい」


「どこが?」


 ワーゲルは足跡を示す。


「こいつは臆病でな。この辺りまで来ることはありえねぇ」


「じゃあ……なぜ?」


「……バグベア、かもしれん」


「バグベア?」


「ああ。見た目は同じだが、別物だ」


「どういうことだ?」


「“星空の魔獣”って言えばわかるか?」


「なんの歌だ?」


「違ぇよ……体の中に、星みてぇなのが浮くんだ」


「……わかんねぇな」


 シンガが眉をひそめた、その時。


「――しっ」


 ワーゲルの手が鋭く上がる。


 黙れ、の合図。


 ズシッ……ズシッ……ズシッ。


 重い足音が、斜面の向こう側から響いてくる。


 それだけでわかる。


 ――でかい。


 二人は即座に身を伏せ、穴から距離を取る。

 そのまま藪の中へと潜り込んだ。


 やがて姿を現したのは、灰色の巨体。


 盛り上がる筋肉、分厚い毛並み――グレイベア。


 クフー、クフー……と低く息を吐きながら、

 口にはダイアーラビットを咥えている。


「……ワーゲル、あれはどっちなんだ?」


「見た目じゃわからんって言っただろ」


「どうやって見分けるんだよ」


「興奮させる」


「……え?」


「じきに“星”が見えるようになる」


「意味わかんねぇって」


「やればわかる」


 静かな声。だが、その奥には確信があった。


「……え、やんの?」


「三人でギリだが、お前もいりゃどうにかなる」


「ってことはレメリィもだな?」


「やらせるわけねぇだろ! ふざけんな!」


「ブレねぇな!」


「レメには団長を呼びに行かせる」


「わかった」


「ダイノたちに伝えてくれ。集合場所にいるはずだ」


「そのあとは?」


「レメを走らせたらこっちに合流だ」


「オケイ!」


 シンガは音を立てぬよう、しかし素早くその場を離れる。

 気配が、すぐに森の中へと溶けていった。


 残されたワーゲルは、じっとグレイベアを見据える。

 拳に、じわりと力がこもる。


「……バグベアなら……」


 低く呟く。


 視線の先では、グレイベアが周囲をゆっくりと見回している。

 やがて獲物を咥えたまま、巣穴の奥へと姿を消した。




 ◇




 森の空気を裂く音が背後へと流れていく。


 シンガはブーストを駆使しながら森を駆けた。

 ほどなく視界の先に、見覚えのある二つの影を捉える。


「レメリィ! ダイノ!」


 呼びかけに、二人が同時に振り返った。

 すぐに減速し、三人は合流する。


 息を整える間も惜しむように、シンガは状況を手短に伝えた。


 穴。足跡。グレイベア。そして――バグベアの可能性。


 空気が、静かに張り詰める。


「……なるほどな」


 ダイノは短く頷いたあと、レメリィへ視線を向けた。


「レメリィ、聞いたとおりだ。オヤジと交代してきてくれ」


「なんで交代なのよ!」


「ワーゲルの指示だ!」


「いやよ!もう子どもじゃない!」


「……解ってやれ」


「なんで、よ…」


「怪我させたくねぇんだよ」


 口を挟めない。


 黙ってレメリィを見つめるダイノ。


 レメリィが口を開く。


「……わかった。そっちも無理しないでよね」


 目に滲んだものを振り切るように、レメリィは踵を返す。

 迷いのない足取りで、村のある方へと走り去っていった。


 小さくなっていく背中を、二人は一瞬だけ見送る。


「……よし、行くぞシンガ」


「ああ」


 地を蹴る。二人は並んで走り出した。

 ブーストを使いつつ走るシンガ。

 横を走るダイノが一切遅れない。


(……速ぇ)


 思わず目を見張る。


 風を切る中、ダイノが口を開く。


「シンガ、よく聞け」


「何だ?」


「ちったぁマシになったとはいえ、お前はまだ狩人じゃねぇ」


「っ……」


「退けって言われたら退くんだ。いいな?」


 シンガは一瞬だけ歯を食いしばり――小さく頷いた。


「あぁ……」


 やがて、見覚えのある地形が視界に入る。


 ――あの穴のあった場所だ。


 グアア!グルウウウ!


 そこではすでに戦闘が始まっていた。


 斜面の縁。ワーゲルと、灰色の巨体が激しくぶつかり合っている。


「ワーゲル!」


 ダイノが叫ぶと同時に弓を構え、走りながら射線を合わせた。


 その声に反応したワーゲルが、即座にバックステップで間合いを切る。


 ――射線が通る。


 ヒュッ!


 一射。


 間髪入れず、二射、三射。


 三本の矢は正確に飛び、すべてバグベアの掲げた腕に突き刺さった。


 グオオオオオオッ!


 唸り声が森を震わせる。


 バグベアは刺さった矢を乱暴に払い落とし、そのまま標的を切り替えた。


 視線が、ダイノを捉える。


 ――突進。


 地面を抉る勢いで、巨体が一直線に迫る。


 その瞬間――


「おらあ!」


 横合いから、シンガの飛び蹴りが叩き込まれる。

 体重ごとぶつけた一撃が、側頭部を打ち抜いた。


 鈍い衝撃音。バグベアの側頭部が大きく揺れる。


 巨体が一瞬だけよろけ、動きが止まった。


 しかし――


 ぶん、と首を振る。


 ぶんぶん、と何度も。


 次の瞬間、腹の底から絞り出すような咆哮が響いた。


 グオオオオオオオオッ!!


 空気が震える。


 その咆哮とともに――異変が起きた。


「……っ!?」


 シンガの目が見開かれる。


 仁王立ちしたバグベアの腹部が、ゆっくりと“透けて”いく。


 指先で触れれば、すり抜けてしまいそうなほどに薄れていく。


 その内側にあったものは――


 夜空。


 無数の光点が、静かに瞬いている。


 星。


 星。


 星。


 まるで――その体内に、


 宇宙そのものが閉じ込められているかのようだった。



 《続く》

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