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PROTOCOL:ASH ──“神殺し”を埋め込まれた俺の異世界禁書──  作者: さば虎


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第14話

 薄暗かった室内に、横から差し込む光がゆっくりと広がっていく。

 窓の外――森と空の隙間から、太陽が顔を覗かせていた。


(そろそろ、かな……)


 そう思った直後。


 ――コンコンッ


 控えめなノックが静寂を揺らす。


「起きてるー?」


「あぁ」


 短く返すと、扉が開いた。


 逆光の中に立つその姿は、それだけで……芸術だった。


 ――ただし、一点を除けば。


 その手には、鍋。


(女神が鍋……か)


 内心でそう突っ込みながらも、視線を奪われる感覚は消えない。


 ふと疑問が浮かぶ。この村の男たちは、どうしてこんな存在に平然と接していられるのか。


 答えは単純だった。


 この村には、美男美女が多い。見慣れているのだ。


(羨ましいような……でも)


 こういう、小さな感動はきっと味わえない。


 そう思うと、わずかな優越感が胸をかすめた。


「……なにその顔」


 そして、当の“女神様”は大抵こうだ。


「あ、いや……おはよう」


「おはよう。朝ごはん持ってきたわよ」


 レメリィはそう言ってテーブルに鍋を置き、棚から食器を取り出し始める。

 その動きは妙に自然で、もう何度も繰り返してきたかのようだった。


「いつもありがとうね」


「うん?うん」


「すごく助かってるよ」


 そう言うと、レメリィの手が一瞬だけ止まった。


「……いつもって、そんなだっけ?」


「毎日持ってきてくれてるじゃん。ありがとう」


「そうだっけ?そんなつもりじゃなかったけど……あはは」


 笑いながら、皿を置く音がわずかに乱れる。


(そんな毎日来てる? わたし? うそでしょ)


 鍋の蓋に触れた指が、ほんの少し止まる。


 気づけば、十日以上経っている。


 彼を連れてきたのは自分だ。だから面倒を見るのも当然――そう思っている。


 だが、食事など昼か夜にまとめて持ってくればいい。三日分くらい用意すれば十分なはずだ。


 それなのに、毎日?


 自覚がないことが、むしろ信じられなかった。


「き、今日はアレでしょ? 水路周りの、駆除でしょ?」


 言葉が少しだけ早くなる。


「ああ。でも俺で本当にいいのかな? ワーゲルはなんで――」


 シンガはまるで気づかず、話を続ける。


(よかった……)


 内心でほっと息をつきながら、レメリィは思い返す。


 シンガが来てから――いや、正確には彼を見つけたあの時から。


 自分の日常は、少しずつ変わっていた。


 死んだと思った男が生きていたこと。

 世界が違うだの、能力がどうだの、理解の及ばない話。

 水車を作ると言い出してからは正直、気味が悪いと思ったこともある。


 けれど。


(……刺激的、なのよね)


 今までの暮らしに不満があったわけではない。むしろ好きだった。

 この村で、森の中で、慎ましく“願いを叶えながら”生きる日々は、穏やかで心地よいものだった。


 それでも――


 心の奥底で、何かが燻っていた。


 変化。……刺激。


 やがて泉が枯れ、村を出ていく者が現れ始めた。新たな生活の場を求めて。


 自分も、その流れに乗れるのではないかと思った。


 だが――森を、村を、捨てることはできなかった。


 残るか、去るか。


 答えの出ないまま、揺れ続けた日々。


(誰か、助けて……)


 そう願ったこともある。


 そして、そのとき。


 シンガが現れた。


 森にいながら、村にいながら、日常は変わった。


 退屈じゃない。


 ……少しだけ、胸が騒ぐ。


(……変なの)


 小さく息を吐く。


「――って流れでいいかな? ……レメリィ? 聞いてる?」


「え、あ、ごめん。何だっけ?」


「だから、駆除が終わったらそのまま土台の――」


 不思議な男だ、と改めて思う。


 別に、特別な感情が芽生えたわけではない。そこははっきりしている。


 けれど――一緒にいたい、と思っている自分がいる。


(これ、なんなのかしら)


 分からない。


 なら、分かるまでいればいい。


 観察しよう。この男を。そして、自分自身を。


 口元に食べ残しをつけたまま、水路設置の説明を始めるシンガをぼんやりと眺める。


(しょうがないわね……ふふっ)


「……きも」


「え?なに?きもって言った?」


「言ってない!早く食べちゃって!遅れるわよっ」


 そう言って背を向け、扉を開ける。


 外では太陽がすっかり森の上に顔を出していた。

 眩しい光が一面に広がっている。


「ほら!いくわよ!」


 後光の中で、レメリィは笑う。


 さっきまでの神々しさとは少し違う。

 いたずらっぽく、無邪気に笑っていた。


 《続く》

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