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PROTOCOL:ASH ──“神殺し”を埋め込まれた俺の異世界禁書──  作者: さば虎


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第12話

 夕暮れ――本来なら静まるはずの村は、逆に熱を帯びていた。


 いつもなら人々が家路につく頃合いだ。

 だが今日は違う――いや、ここ数日ずっとだ。

 村のあちこちで、木を削る音と掛け声が途切れることなく響いている。


 コン、コン、ガン――。


 乾いた音が、沈みゆく空に重なっていた。


「ガンテツ爺さん、この水路樋はこれでいいか?」

「ドンテツ! ちょっとこっち見てくれー!」


 声の中心にいるのは、ガンテツとドンテツの親子だ。


 ずんぐりとした体躯に、節くれだった腕。

 いかにもドワーフといった風貌の二人は、この村で唯一の鍛冶屋であり、大工でもある。

 他大陸出身らしい――そう聞けば、納得できた。

 村の建物の大半は、彼ら一家が建てたそうだ。


 頭髪の白いガンテツは村長に次ぐ年長者。その一言が現場の指針になる。


「……そこは削り過ぎるなよ?角度をしっかり見るんだ」


「了解だ、親父!」

 

 頭髪がグレーの方が息子のドンテツだ。

 短い指示で、作業が迷いなく進んでいく。


 その傍らで、黙々と加工を続ける二人の姿がある。


「ここ、ほんの少し噛み合ってないわね」

「削るわ。任せて」


 リリアメルとマリクララだ。


 リリアメルはガンテツの妻、マリクララはドンテツの妻。

 どちらもこの一家を支える職人だが――見た目はどう見ても少女にしか見えない。


 リリアメルは中学生くらい、マリクララに至ってはランドセルが似合いそうな外見だ。

 それでいて実際には相応の年齢を重ねているというのだから、この人たちの種族は不思議だ。


 小さな手で刃物を操り、継ぎ目を正確に仕上げていく。

 傍から見れば木工遊びだが、任されているのは精度を左右する重要な工程だった。


 やがて日が沈み、辺りは暗さを増していく。


 それでも作業は止まらない。灯されたランプの下で、人々は黙々と手を動かし続けていた。


 水路用の樋は、あと少しで必要な距離分が揃う。


 水車の部品も順調だ。


 あのとき――


 俺が仕組みと大きさを説明すると、ガンテツは顎に手を当てて頷いた。


「ほお、なるほどな。よく思いついたもんだ」


「それなら羽と箱桶のバランスは……」


 そう言うと、表に行き積んであった木材を加工し始めた。

 そして、あっという間にミニチュアの試作品を作り上げてみせた。


 さらに、村までの水路や村内の配管までも、小さな模型として再現してしまったのだ。


 タライに水を張り、水車の下部を沈める。


 ジョウロでゆっくりと水を当てると――


 視線が、集まる。

 誰も、息をしない。

 ――誰かの喉が、ごくりと鳴った。


 そして──



 ――カラカラカラッ


 水車は、確かに回った。


 外側に並んだ小さなバケツが水を受け、回転とともに上へ運ぶ。


 頂点に達した水が吐き出され、受け皿へと流れ落ちる。


 そこから水路樋を通り、先へ。


 ガンテツの作ったミニチュアが、実際に“動いた”のだ。


 その模型を集会室に置くと、村人たちが次々と見に来た。


 そして――空気が変わった。


 できる、という確信。


 それが、この村全体に火をつけた。


 とはいえ、問題もある。


「切りたての木は使えねぇ。乾いてねぇと曲がるぞ」


 ガンテツの言葉は現実だった。


 乾燥材の備蓄はあるが、到底足りない。


 そこで決まったのが、村を囲う丸太の柵を解体して使うという方法だ。


 もちろん囲いを失うわけにはいかない。


 新しい丸太を森から運び込み、入れ替えながら解体していく。


 ついでに囲いを四角に整えることにもなった。区画が整理され、今後の管理も楽になる。


 村は今、形そのものを変えようとしている。もう後戻りはできない。


「もどったぜ!」


 門の方から声が上がった。


 丸太を担いだ一団が帰ってくる。先頭はフリッジだ。


 ダイノの父であり、自警団のリーダー。

 その立ち姿は、同じ男として素直に格好いいと思える“イケおじ”だった。


 横には松明を掲げたレメリィ。肩には血抜きされたダイアーラビットを二匹担いでいる。


 フリッジの後ろにワーゲルとダイノ。三人で一本の丸太を運んできたようだ。


「まだいけるな」

「次は反対側行くぞ」


 息は乱れていない。


(どんな体力してるんだ……)


 思わず呆れる。


 レメリィも丸太調達班だったらしいが、ワーゲルが絶対に担がせないらしい。


 手が荒れる、肩が傷む――そんな理由で警戒役に回しているという。


「相当なシスコンだからな」


 ダイノが笑う。どうやら村では有名な話らしい。


 ――なるほど。


 ふと、思う。


 ワーゲルとレメリィの両親を見たことがない。……話題にも出ないな。



 俺も丸太調達に回ろうとしたが、止められた。


「お前が居なけりゃ回らん。測れ」


 ガンテツの一言だった。


 この村で正確な測量ができるのは限られている。俺もその一人らしい。

 レノスの機能を説明したときは弟子に誘われたが、さすがに断った。


 やがて完全に夜が訪れる。


 ルーメル村長が中央広場に現れた。


「今日はここまでにしておこう。みんな、ご苦労様」


 その一言で、作業が終わる。


 人々は広場に集まり、子どもたちが食器を運び、やがて大鍋が並べられる。


 ダイノの母であるセイラを中心に、村の女性たちが食事を用意してくれていた。


 ――本当に、村総出だ。


 皆で食事を取りながら、今日の進み具合を確認し合う。


「丸太は順調だ」

「部品も問題ねぇ」

「もうすぐだな……」


 期待が広がっている。


 俺も一日中樋作りで汗だくだったが、悪くない疲労だった。


 これは、俺が言い出したことだ。


 そのとき、話題が変わる。


「そういや、もうすぐだな」


 誰かが言った。


 ――王都からの来訪。


 年に一度の、王族の訪問。


 あと一週間。


 今年は成人を迎える王族が来るらしい。


 それが何を意味するのかは俺には分からない。


 だが――


「あいつ、今年だよな?」

「もう逃げられねぇんじゃねぇか?」


 どこからともなく聞こえてくる。


 レメリィが、にやりと笑っている。


 ダイノもどこか楽しそうだ。


 ワーゲルだけは、いつも通り無関心な顔をしている。


「そうだ!どうせなら、それまでに完成させようぜ?」


 雰囲気を変えたダイノの一言だった。


 一瞬の静寂。


 そして――


「いいな、それ!」

「やってやろうじゃねぇか!」


 あっという間に決まった。


 ――一週間で完成。


 (まじか…)


 だが、この流れは止まらない。


 レメリィと目が合う。


 『できる、よね?』


 と言っているかのように柔らかく微笑まれ、思わず視線を逸らす。

 顔が熱くなるのを感じた。


(……やるしかない、か)


 俺がやる。

 間に合わせる手段は――ある。


 そう思いながら、もう一口スープを飲んだ。


 温かさが、身体に染みる。


 ランプの灯りが広場を照らし、笑い声が夜に溶けていく。


 この空気も、期待も、無駄にはしたくない。


 残された時間は、あと七日。


 静かに決意を固めながら、俺は次の工程を頭の中で組み立てていた。



 《続く》

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