第十八話 調理の刃は、少し勝手が違う
「調理器具が欲しい」とグロームは言った。
「そんなもの、普通に売っているだろう」
「武器・調理器具」
アルダーは眉を動かした。「ん?」
「武器、調理器具になる」
グロームは二本の刃を背中から取り外した。テーブルの上に置く。幅広の剣で、刃は分厚く、根元の方は重さがある。先端は鋭いが、両端はまだ削り足りない形をしていた。刃の根元には、何度も研ぎ直した痕があった。
「これで、料理する」
「剣で料理している」とアルダーは言った。
「いつも持っている、荷物少ない、でも使いにくい」
アルダーは剣を手に取り、重さを確かめた。確かに普通の剣だ。刃渡りが長すぎるし、柄は戦闘用の握り方に最適化されている。これでスープを作ろうとすれば、相当に苦労するだろう。しかし考えが面白い。武器として使えて、かつ料理にも使える設計——刃の形状、重量配分、柄の角度を変えれば、不可能ではない。むしろ興味が湧いた、とアルダー自身が認めるには少し時間がかかったが、結局は認めた。
「セレニティー、言う、アルダー、なんでも作る」
「あの人がそう言ったか」アルダーは剣を置いた。「作っておく。明日の夕方に取りに来い」
「わかった」グロームは大きな手でテーブルを一度叩き、立ち上がった。それから思い出したように振り返った。「明日、夕飯、何?」
アルダーは顔を手で覆い、上を向いた。
天井の梁が見えた。工房に置かれた炉の煤が、長い年月をかけて木に染み込んでいる。梁の一本一本に、何十年分の鍛冶仕事の煙が層を成して染みている。その煤の層を、今日この瞬間も、新たに一層分追加している自分がいる。
今まで来た客の中で、最も対応に困る。しかしなぜか怒りは湧いてこない。剣で料理するオークというのは、考えるほど妙な可笑さがある。怒るよりも先に、頭のどこかが設計を始めてしまっている。それが自分の性だと、アルダーは昔から知っていた。
「明日は乾キノコのスープだ」とアルダーは言った。
二人分作る覚悟をしながら。
◆
グロームが帰ったあと、アルダーは工房の入口に立った。
倒れた扉が壁に立てかけてある。蝶番が片方ひしゃげており、木の端が割れていた。夜の空気が入口から流れ込んでくる。夏の夜の湿気と、遠くの路地の酒場の匂いが、ひとかたまりになって工房の床を撫でた。
修理するか、と考えた。
しかし明日もグロームが来る。修理しても、あの体格のオークが勢いよく押し込めばまた壊れる。
アルダーは扉をそのまま壁に立てかけておくことにした。代わりに、入口近くの重い棚を少し動かし、外からは容易に開かない配置にした。これで夜の間は誰かが勝手に入ってくることはないだろう。
依頼品の製造に取りかかった。
作業用のテーブルにしている樽の蓋を開けた。中に鉄の鉱物が詰まっている。アルダーは必要なものを取り出した。鉱石は、それぞれの重さと色で手が覚えている。目を閉じても間違えない程度には。
炎変鉄鉱<ろへんてっこう>。熱によって性質が変わる特性を持つ鉱石で、鍛えると刃として使える硬さと、調理の熱に対する耐久性を両立させやすい。
黒曜鉄砂<こくようてっしゃ>。細かい粒状の鉄分が含まれており、混ぜることで刃の粘り強さを増す。刃こぼれしにくくなる。
白銅雲母鉱<はくどううんもこう>。これを少量加えると、表面が滑らかになる。食材がくっつきにくくなり、洗いやすくなる——これが調理器具としての肝になる。
三種を秤にかけ、配合を決めた。秤の針が微かに振れるのを、アルダーは瞬きもせずに見た。武器の配合と、調理器具の配合。どちらにも寄りすぎず、どちらも満たす比率。そういう比率は、毎回少しずつ違う。その日の湿度、炉の癖、鉱石の産地——すべてが最終的な手触りに効いてくる。
炉に火を入れた。炎変鉄鉱が最初に要る熱を作るのに時間がかかる。アルダーは松明の光の中で、炉の口を見つめた。
「一緒にやるか」
声に出して言った。誰に向けて言ったわけでもない、と言えばそうかもしれない。しかし炉の奥で、何かが動いた。
炉の奥から、小さな赤い光がぽっと灯った。それが揺らいで、何かの形になった——小さな人影のような、炎のような、その中間のような何か。精霊は炉の口から少し覗き込むようにした。火の精が、作業を視ていた。
「邪魔するなよ」とアルダーは言った。
火の精は炉の中でぱちり、と小さく鳴った。了解したとも、無視したとも取れる音だった。ただ、鳴いたあとに炎が一度だけ軽く揺れ、それから安定した。否定の揺れ方ではなかった、とアルダーは思った。
鉱石を坩堝に入れ、炉に差し込んだ。
熱がすぐに上がっていく。炎の精が近くにいると、炉の立ち上がりが早い。いつもの倍は早い。熱の当たり方も、むらなく、坩堝の底まで均等に回る。
アルダーは黙ってそれを利用した。礼は言わない。言うようなことではない、というのが、この工房と炉の精の間の長年の約束だった。
鉱石が溶け始めた。三種が混ざり合い、色が変わる。炎変鉄鉱の赤に、黒曜鉄砂の黒が染み込み、白銅雲母鉱の白が表面に浮く。三色が一つの熱の中で競り合い、やがて均一な灼熱色に落ち着いた。
均一になるまで待った。坩堝を出し、型に流した。鉄が型に流れ込む音は、水のそれとも違い、蜂蜜のそれとも違う、鉄だけが出す重い音だった。
すぐに叩き始めた。これは武器の製造であると同時に、調理器具の設計でもある。刃渡りをグロームの体格に合わせながら、重心を柄の方に寄せる——調理のときに力を制御しやすくするためだ。
先端は鋭く保つが、刃の背を平らにする。鍋代わりに使うとき、食材が載せやすいように。柄の角度を少しだけ変える。
剣を握るときは垂直に近い方が力が入るが、鍋として持つときは少し傾いた角度の方が手首に負担がない。
鉄を叩く。熱が冷める前に戻す。また叩く。リズムが体に入るまで、少し時間がかかった。調理器具の重心と、武器の重心は、そもそも求める場所が違う。その二つの要求を同じ一本の刃の中で和解させるには、打つ回数ごとに頭の中で秤を動かし続ける必要があった。
問題は刃の形状だった。剣として使うときに最適な先細りの形は、調理用の刃には向かない。鍋の縁に乗せて切るとき、先端が尖りすぎると食材がずれる。
アルダーは刃の先端部だけ、わずかに平らに打ち直した。数ミリの違いだが、持ち方を変えたときの安定感が変わる。柄の接合部も考えた。戦闘用の握りでは柄と刃の角度はほぼ一直線だが、料理に使うなら鍋を持ち上げたり斜めに傾けたりする動きが要る。角度を七度ほど内側に傾けた。
グロームの手の大きさを想定して、柄の太さも少し増した。思い出したのは、テーブルの上でスプーンが玩具のように見えたあの大きさだった。あの手に合う柄を、この街の既製品は作っていない。火の精が炎の間から覗き込んでいる。時折、炎の温度が少し上がる。精霊が興味を持っているのか、単に炉の揺らぎか、区別はつかない。熱が安定しているおかげで、均一に叩ける。
今夜は助かっている、とアルダーは思った。口には出さなかった。白銅雲母鉱を混ぜた効果が表面に出始めた頃、アルダーは仕上げの研磨に入った。
食材がこびりつかない滑らかさを作るには、研磨の方向が重要だ。刃に対して横向きではなく、縦方向に沿って研ぐ。細かい筋が縦に走ることで、水が切れやすくなる。研磨石を当てる角度は、一定に保つ。揺れれば、筋の方向が散ってしまう。夜が深まる頃、一本目が完成した。
アルダーはそれを持ち上げ、炉の光に当てた。刃が赤みを帯びて輝いた。剣の形をしているが、どこか料理道具のような重さがある。両方を満たしている、と思った。武器の中に食卓の輪郭があり、食卓の中に武器の切っ先がある——そういう一本になった。炎の精がまた覗いた。
「良いだろ」とアルダーは言った。
ぱちり、と精が鳴いた。炎が少し揺れた。同意なのか、ただの相槌なのか、どちらでもよかった。鍛冶屋と炉の精の間に、そのどちらかを言葉にする決まりごとは、元々なかった。ぱちり、という音の一つで足りる。足りない分は、次の鍛造の夜にまた積み足していけばいい。
アルダーは一本目を作業台の端に置き、次の坩堝をすでに握っていた。二本目は、もう少し柄を重くしてみる。鍋を持ち上げたときの安定を、わずかに武器側に振り戻す。そういう調整をするつもりだった。
夜が進む中、工房に金属を打つ音が響き続けた。
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