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第6話:深海に響く共鳴(レゾナンス)。マルちゃんの直感

ASPSにより繋がれた二つのライブ会場。

銀河鉄道・ミルキーウェイ路線で繋がれた12星座のそれぞれの駅は、ペガスス座よりはずっと近い位置にあるとはいえ、超特急でも3日以上はかかります。

その距離を一瞬でゼロにしてしまうプロトコル技術に、僕はこの日初めて触れたのです。

牡羊座と牡牛座という2つの異なる会場に響き渡る圧倒的な音の波は、僕の五感を震わせ続けます。

ラスカルさんのシークレット・レセプションの時は、生演奏をするバンドマンもいないカラオケを伴奏役にしたライブ…というより配信でした。

しかし、今体験してるこのバレンタインデーイブライブの大迫力は、僕の想像を100億光年以上も超えたレベルのものでした。

視ること、聴くこと、触れること、そして、汗の匂いも、アリーナ席のテーブルに載せられたディナーの味も、すべてを感じる取ることができるテクノロジーの凄さに、

僕は、この信じられないシステムを創り上げたセーラとアシさんチームの素晴らしさを改めて知ることになったのです。


この日、バレンタインデーイブイベントが行われているシェリルのいる牡羊座ライブ会場では、リアル参加のオーディエンスと、オンライン参加のリスナーが完全に混ざり合っています。

既に、シェリルのセットリストは中盤を過ぎて、今は、ラスカルさんが特別ゲストとして、メインステージでシェリルとランカと3人でコラボ曲を歌っています。

僕は、シェリルさんのライブ会場に招待されて、オンライン参加のオーディエンスとして食事つきアリーナ席…その特等席に座ることを許されました。

右隣の席には、もちろんセーラさんがいます。

そして、左隣の席には、この会場にリアル参加しているという…この日初めて会ったアンと名乗る女性が座っていて、曲の合間合間に、シェリルの素晴らしさを教えてくれるのです。

こういう形で、アリーナ席を含めて、リアル参加者もオンライン参加者も会場の空気を共有することができるのが、この歌特化型配信システムASPSが実現した機能の一つでした。

オンライン参加でありながらも、最高レベルのAIプログラミングにより、超AR(拡張現実)となっているのです。

セーラさんは、指先の末端神経から神経節を経由して脳への共鳴振動を引き起こす技術を使用していると説明をしてくれましたが、

医療知識もプログラミング知識も皆無の僕では、その説明の全てを理解することはできませんでした。

この牡羊座のライブ会場と、もうひとつイブイベントが行われている牡牛座のライブ会場は、スマホのタッピングスイッチ一つで、瞬間移動をすることができるのです。


ソロライブなのに、セッションライブのように、遠く離れた二つの会場が融合し、共鳴し、共振しているのです。

「明日は、4日以上のジョイントセッションですからね…どうなるか、今からドキドキ」

隣の席のアンさんは、3人のコラボ曲の歌唱が終わり、シェリルが衣装チェンジでステージから姿を消したタイミングで、また僕に話しかけてくれました。

「3人とも素敵ですね…アンさん」

アンさん…あ、きっとそうだ!この人がもう一つの鍵の手がかりを知っているという牡羊座のアンさん…ラスカルさんが言ってた人だ…


「ねえ、マルコくん。私には見えるの。歌声が描く、未来の地図が」


アンさんがそう言って胸元に手を当てたとき、彼女の紅瑪瑙カーネリアンのブローチが、ステージの赤色灯に反応して妖しく脈動しました。

その瞬間、僕の耳の奥であの「折れ耳の猫」……ロミオの声が再び響いたのです。


『……二つ目の鍵……情熱という名の……記録……』


ハッとしました。セーラさんが言っていた「プロトコル」の意味が、少しだけ分かった気がしたからです。この圧倒的なライブの熱狂、アンさんの純粋な推しへの愛、そしてASPSが繋ぐ銀河規模の共振。それらすべてが重なったとき、このブローチはただの宝石ではなく、時空を繋ぐ「鍵」として機能し始めたのです。


「セーラさん、見て! アンさんのブローチが……!」

僕が叫ぶより早く、セーラさんはタブレットを操作していました。

「わかってる、マルちゃん。私のASPSが、アンさんの『想い』をトリガーにして、アーカイブの深層コードを読み取り始めたわ。……信じられない、牡羊座の会場そのものが、巨大なデコーダー(復号器)になってる!」


アリーナ席が激しく揺れ、現実と仮想の境界がさらに曖昧になっていきます。

アンさんは僕の手をぎゅっと握り、真っ直ぐにステージを見据えました。

「マルコくん、明日、ラスカルが歌う曲の中に『本物のメロディ』が隠されているわ。それを聴き逃さないで。それが三つ目の扉を開く音になるから」


アンさんの言葉が終わると同時に、会場は割れんばかりのアンコールを求める手拍子に包まれました。

僕は確信しました。ラスカルさんが見つけた瑠璃色の「過去の記憶」、そしてアンさんが持つ紅瑪瑙の「現在の情熱」。

残る鍵はあと一つ。

明日のバレンタインデー、魚座・牡羊座・牡牛座がASPSで完全同期するその時、僕たちは「時のアーカイブ」の真実を目の当たりにするに違いありません。

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