9話 再会にて
ふわふわする感覚がある
宙に浮いているかのようなそんな感覚
ただ広い宙を俺はふわふわ浮かんでいる
何処からともなく微かな声が聞こえ俺は辺りを見回す
何処から聞こえたのだろう?
呼ばれた気がした……
(……?)
ゆっくりと目を開けると見慣れた天井。
直ぐ側の窓からは陽の光が差し込んでいる。
(……ここは、俺の部屋……か?)
身体を起こそうとして腹のあたりに重みを感じ目を向けると、
(ミラ?)
掛けられた布団に覆い被さるかのようにミラが眠っている。
陽の光が彼女の橙色の髪を煌めかせた。
俺って部屋を間違えたか?
そう思い見回すがどう見てもここは俺が住んでいる部屋だった。
自分の荷物などが雑に置かれているところから見ても間違いなさそうだ。
どうしてこいつ俺の部屋で寝てるんだ?
首を傾げつつ布団から出ようとして自分の身体中に包帯が巻かれているのに気づいた。
(おわっ!? なんだこりゃ?)
と思うと同時に思い出した。
「だった! あの野郎を取り逃がしたんだった」
思わず悔しさが飛び出した。
わなわなと震える拳を握りしめあの時のことを鮮明に思い出す。
片腕を失った翼の生えた男……そのまま飛んで逃げやがった!
くそっ! 追いかけようとして確か……気を失った……のか?
「……ん?」
ふと小さな声がして目を向けるとミラが目を薄く開いた所だった。
そのままこちらに視線を向けたかと思うと……、
「よぉミラ、おはよう」
挨拶した俺を見て目を見開くとそのまま動きを止める。
かと思ったら急にポカポカと俺を叩き始めた!
「おわっ! な、なんだ!?」
「っ! この! 何が『おはよう』よっ!!」
「あだっ! いてて、叩くなって! なんだよ一体!?」
「『なんだよ』じゃないわよ! 人がどれだけ心配したか!!」
「だー悪かったよ! 俺だってあんなやられるとは思わなかったんだって!」
包帯も側で寝ていたのも彼女がずっと看病してくれていたという事。
謝罪の言葉を口にしながら振りそそぐ拳を受けて避けることはしない。
ミラのボロボロ溢れる涙を見てしまったからには全て受け止めてやるしかねーだろ?
「血だらけの! アノンを見て! 私が! どう思ったか!」
言葉と一緒に拳が来る。
(ミラの拳……全然痛くない。 こうしてても俺に気を使ってんのか)
拳は痛くないけど……泣いてるミラを見ると胸が痛ぇな
「悪かった。 心配掛けちまったな」
流石に申し訳なく思い神妙な面持ちで頭を下げる。
それを見たミラは叩く手を止めて、
「……な、何よ! 謝るなんて……アノンらしくもない」
そう言ってまた叩かれた。
(謝ったら謝ったでらしくないってどーすりゃいいんだよ)
流石に困る。
今の俺には他にどうしていいか思いつかなかった。
だが心配は無用だった様だ。
少しだけ落ち着いてきたのかミラは涙を拭いつつ、
「で、でも珍しい姿見れたし許してあげる。 でももうあんな姿は見たくないから……ね?」
しゃくり上げつつも殴っていた拳を止め、今度は優しく俺の両手を包み込んだ。
「心配かけたな」
「本当よ! もう! 左腕はちぎれかけてるし、身体中あちこち打撲とか擦過傷だらけだし、綺麗な髪もクシャクシャだし!」
「髪は握られたからだって! アイツ俺の事を髪掴んで持ち上げやがって……」
「アイツって誰の事なの?」
そうミラが尋ねた時だった。
「邪魔するぞ」
いきなり部屋のドアが開かれた。
そうして部屋に入ってきたのは……、
「ベリタテ? なんで此処に」
以前会ったのと変わらない無愛想な顔に驚いていると、俺の態度にすぐさま反応したのはベリタテの後ろにいたエルナトだった。
顔をしかめつつ荒い口調で、
「貴様! 上級冒険者のベリタテ様になんて口の聞き方を……」
「エルナト、放っておけ。 そんな話は実にもならん」
「で、ですが……」
言い渋るエルナトだがベリタテに手で制されると仕方なさそうに口を噤む。
俺はそんなエルナトに構わず、
「ベリタテ……一応ここレディの部屋なんだが? ノックもせずにいきなり入ってくるのは流石にどうよ?」
「気にするな、俺はお前をレディと思っていない」
平然と答える上級冒険者様。
(……こいつ失礼にも程がないか?)
今度絶対リベンジしてやると心に誓っていると、
「ベリタテ様、どうして此処に? 王都に戻ってたのでは?」
少し驚いたように尋ねるミラ。
小さく「ギルドから連絡なんてなかったのに……」と呟いている。
「王都に戻って報告を済ませたが、アルセフィナが魔物達に襲撃されてると聞いてな。 この前の調査のすぐ後だ、何かあったのではと舞い戻った次第だ」
そう告げ俺に視線を向けると、
「他の奴らにお前がボロボロになったと聞いてな、相当無茶をしたのか? そこそこの強さだったお前がそこまでやられるとは」
「そこそこって言うな! ……んー、まぁ変な奴がいてな」
ベリタテが眉をひそめ「変な奴?」と聞き返す。
「なんか人の姿みたいだけどでっかい翼が生えてて、あとなんか目が赤かった」
「お前の説明は子供か! なんだその内容は」
エルナトが小馬鹿にしたように言うが、話を聞いていたベリタテはますます眉をひそめて考え込み始めた。
俺とミラは顔を見合わせて首を傾げる。
(なんだろうな?)
(なんだろうね?)
と、暫く黙っていたベリタテだったが急に顔を上げると、
「アノン、お前には王都に来てもらおう」
「は?」
「王都に来てもらおう」
「いや、聞こえてたよ。 そうじゃなくて何で俺が王都なんかに?」
ベリタテはエルナトに部屋の扉を閉めさせると声を落とす。
心なしかいつも厳つい顔つきがさっきより厳しく見える。
「これは一部の者しか知らないが……お前が会ったのは魔族と呼ばれる奴らだ」
「魔族!?」
ミラが驚いて……慌てて口を手で抑える。
(ミラは知っているみたいだけど……魔族って何だ?)
「魔族? 魔物とは違うのか?」
静かに頷いたベリタテは、
「魔族は魔物や魔獣を生み出し人を滅ぼそうとする存在。 そして−−」
更に声を落とすと彼にしては珍しく悔しさを滲ませながら、
「我々、人が一度も勝ったことのない相手だ」
ありがとうございました!
いつも読んでる皆様に伝わるか心配しながら書いてます。
伝わるといいな! 次話で会いましょうね!




