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32話 祈りにて


すでに日も落ち暗くなった部屋は蝋燭の明かりに照らされていた。

揺らめく暖色に静かな部屋。

たまにジジッと蝋燭から音が聞こえる程度だ。


俺は部屋のベッドで横になりつつ、


(この1週間……なかなかにハードだったぜ)


朝早くから午前中は避難民達のテントを大橋やアルデバランから離れた場所に移動し、アルデバラン町民も避難する人がおり強乱をきわめ、午後はアルニタク大橋に幾重にもバリケードを作り、合間で怪我をしている避難民に回復魔法を掛ける。


(お陰で体力も精神力もヘトヘトだぜ)


だが……


俺は身を起こすと祈りの姿勢を取る。


(避難民達を癒して回ったが……俺の回復魔法じゃまだまだだ。 時間も掛かるし治癒もいまいちだったし)


そうして目を閉じると祈りを捧げる。


(全知全能の神さんよ、どうかこの世の人々に平穏平安を! 神さんの子となる人々にその慈しみ、その慈愛、その……)


途中まで来た時……チクリとする胸の痛み、そして急に来る吐き気の様なこみ上げる不快感。

いや、これは嫌悪感だろうか?


「っ!  はぁ! ……はぁ!」


耐えきれず息も絶え絶えになりながら中断してしまう。


息を整えながら気分を変えようと窓の外に視線を向けた。

窓に反射して映る自身の顔は見たことのないぐらい青ざめている。


これが俺かよ……こんな儚くて今にも倒れそうな少女が?


「くそっ! ……やめだやめ!」


再びベッドに寝ころび……天井に目を向ける。


(どうして俺は……)


物心ついた時から教会で過ごしていた。

両親は分からないらしい……教会の前で捨てられていたと。

そこからはずっと教会で育ててくれて……祈りなんて日常茶飯事なはずだが、俺だけはずっとこうだった。


(ぷっ! そーいや神父(おやじ)は最初シスターにしたかったんだっけ?)


見た目の麗しさ、透き通るような声、そして神聖魔法も問題なくこなせる……ってなりゃそう思うよな


まぁ最後には祈れない上、どうみても向いてるのは冒険者って事で教会から出る羽目になったが、やっぱりこっちのか性に合ってるよなぁ……

ガックリした神父(おやじ)には悪かったけど


(………………両親……か)


俺は襟部分から手を入れそれを取り出した。


蝋燭の灯りを浴びて鈍く輝く……薄汚れたような色合いの十字架がついたネックレス

凝った装飾はなく長い棒の部分にツバのような突起があるぐらいだ


唯一これだけが俺と一緒に置かれていたらしい

つまりこれだけが両親との繋がりという事だ


(会いたいかって言われると……両親とかよく分かんねーからな)


俺はネックレスをしまい再び身を起こすと祈りの姿勢をとった。


(だけど家族ってのは分かるぜ 俺にとって住んでいた教会やアルセフィナの皆が家族だよな!)


癒した人達の喜んだ顔、家族と抱き合う姿が脳裏に蘇った。


怪我をした人達にも家族がいるんだよな? だったら!

それを救うためになら不快感だろうが嘔吐感だろうが耐えてやるよ!!


目を閉じ祈りを捧げる……


部屋の明かりは深夜まで消えることはなかった。





そして2日後……遂にその日が訪れた。

後に『アルニタク大橋の戦い』と呼ばれる、その火蓋が落とされようとしていた。



「レグルス国側!!  魔物達が来ましたぁ!! 数、目視でおよそ3000」


アルデバランの見張り塔から大声で伝えられた言葉。

準備をしている兵士や冒険者達に緊張が走った。


メンカルが大橋の防衛線にいる者達に向かって、


「いいか! 相手は不死者(アンデッド)を主体としていると報告を受けている。 歩行速度が遅い分、予想していたより進軍が遅かったのは僥倖だったな」


作られたバリケードを示すと、


「これだけの準備が出来て迎え撃つ準備も完璧、数でこそ若干劣るが相手もそこまで強い奴らじゃない、ただの骨だ」


ガハハハと大きく笑うと、


「アイツら直に骨折だな! 存分に砕いて畑の肥料にしてやるぞぉーーー!!!」


メンカルの大声に負けじと味方から大きな歓声が上がる。


(流石だな、これがウォークライってやつか)


それを眺めていた俺の隣にシャムが来ると、


「ああ言う人だからこそ効果的なんですよね。 これだけ士気が上がれば流れもこちらに傾きやすい」


「そうっすね、俺もなんだかムズムズするっす!」

「……」


クルサとアルも準備を終えて待機している。

ちなみにトノニ王子は全く役に立たない……というか邪魔なのでアルデバランで寝かせてきた(メンカルの物理)


「まぁ、気休めだが……『防御上昇(プロテクション)』」


パーティーの三人を初めとする周りの人に掛けて回ると感謝が返ってくる。


「サンキュー」

「ありがとう」

「これは心強い」

「天使かよ」


剣士、弓兵、槍兵、魔術師、僧侶……本当に兵士と冒険者の混成部隊だなぁ


そして遂に橋の上に奴らが現れた。

最初は黒い点や線の様だったその姿も、こちらに近づくにつれ徐々にその姿を明らかにしてくる。


そしてそれが分かった兵士達から悲鳴にも似た声が上がり始めた!


「おのれ! なんてことを!」


メンカルが怒りに震える声を絞り出す。


そして……俺も見た

決して許されざる行為


(アイツら!! 遺体を盾にしてやがる!!!)


アチコチから弓兵の声が上がるのが聞こえた。


「どうしましょう! これでは矢が……」

「いくらなんでも……あれじゃ遺体に」


そんな声を掻き消す大声!


「迷うな! 今は守るべき者達の為に!!  矢を放てぇーーーーーーー」


メンカルだ。


弾かれるように放たれた数多の矢がアンデッド達に振り注ぐ!

アンデッド達の構える遺体に次々矢が刺さっていく! 


遺体の盾とアンデッドと言う特性の為か、矢では数をあまり減らせず遂にはバリケードまで到達された。


「奴らを根絶やしにする! 続け!」


メンカルが自身の身体よりも大きな戦斧(バトルアックス)を構えて走り出す!!


おおおぉぉぉ!!


俺も含めて全員がアンデッド達に襲い掛かった!!


今回もありがとうでした。


日常パートが少ないかなぁ?と思う今日この頃。


書きながら色々迷います。

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