30話 村にて
馬車に揺られて流れる景色に目を向ける。
何処までも広がる金色の絨毯……小麦畑が風に吹かれて波が起こっている。
俺達は王都エルクルドを出て馬車でアルデバランに向かっていた。
アルデバランはミュー王国の一番東に位置しており、王都からは約2週間程掛かる。
そこまでの道なりは穏やかで、今は延々と麦畑が広がっている中を進んでいた。
「そーいやアノンさんはあれから回復魔法はどうっすか?」
俺の目の前に座るクルサがパンに齧り付きながら尋ねる。
……それ昼メシじゃないか? まだ10時にもなってないと思うが
まぁ、アイツの分だし良いか
「どうってなんだ?」
「や、なんか回復魔法の習熟上げたいって前言ってたじゃないっすか」
それは以前アルゴルを倒してみんなに回復魔法を掛けていた時の話だ。
習熟が低く回復する度合いも時間も酷かったのでそう思ったんだが……
「ん~~、あんまり変わらんなぁ。 あれから毎日少しはお祈りしてるんだけどな」
「少しってどれくらいっすか?」
「5……いや? 10秒は……」
「それお祈りっていうんすか?」
クルサの呆れたような視線が突き刺さる。
「前はもっと短かったんだよ! 少しずつが大事なんだ!」
「はぁ、そうっすね〜~」
くぅ~〜
でも本当に祈ると何か不快になって駄目なんだよなぁ……昔から
そうやって少し教会時代の事を思い出していると、
「おい、お前!」
「……」
「お前だ! この乱暴女!」
ったく! 仕方ねぇな!
「はいはい、なんだ?」
「トイレ」
「俺はトイレじゃねーよ」
「当たり前だ、お前は馬鹿か?」
むきーー
俺より弱くてへっぽこな王子のくせに!!
「クソっ! なんで俺が……」
「良いのか? 宿に泊まれなくて野宿で?」
馬鹿王子は懐から金貨の入った袋をチラ見せする。
あぁ! もう! こんにゃろーは!!
「分かったよ!! ちょっと待ってろ!!」
俺は馬車内を移動し御者台の窓から、
「わりぃケド、どっかトイレとかあるか?」
御者がこちらをちらりと見て、
「もう直ぐそこに村がある、それまで待て。 漏らすなよ? 漏らしたら放っぽり出すからな?」
そう言って鋭い目を向けてくる!
俺じゃねーよ! トイレ行きたいのは!
「ったく! 金だけ貰ってアイツ置いてったら駄目か?」
小麦畑に囲まれた小さな村。
そこに馬車を停め俺達は小休憩をとっていた……小だけに。
(やめだやめ! 自分で言ってて虚しくなるぜ)
俺は気分を変えようと村の中に目を向けた。
……が、ふとある事に気づく。
(何か……みんな表情暗くないか?)
何人かいる村人の表情は暗く、こちらを怯えるように見ている。
まるで怖がっているようだ。
村人達は農耕具の修理や手入れをしたり、洗濯やカマド用の薪を持って家に出入りしたりしている。
(!? そうか、この村……)
「ふぅ〜~さっぱりさっぱり」
丁度そこへ王子がスッキリした顔で戻ってきた。
「丁度来やがったな! じゃあサッサと出発するぞ!」
俺はちんたら歩いていた王子を馬車に無理矢理詰め込み、他の仲間達にも声をかける。
「ずいぶん忙しいですね」
「急いでんだ! 当然だろ!」
大声で騒ぐように……ふん! ここまでやれば聞こえるだろ!
シャム、アル、クルサと乗り込み最後に俺も乗り込むと馬車がけたたましく走り出した!
俺達が去った後の村では、仕事をしていた村人達が全員手を止めある家の前に集まっていた。
木でできた家のドアが開き男が一人剣を手にして現れた。
その男に向かって村人達がすがりつく。
「言われた通り何も言わなかった! だから子供を返してくれ!」
「おやじはもう年なんだ、あんまり無理をさせないで欲しい!」
「子供達は? 馬車は行ったわ! 早くうちの子を!」
口々に訴える村人達に、
「うるせぇ!! あんまりうるせぇと間違って殺しちまうかもなぁ? お前等の家族を」
「ヒッ!」
「っ!?」
村人達が息を呑む。
「そうそう、そうやって静かにしてりゃなんもしねーって。 とりあえず食い物持ってこい、あと酒もな!」
「こ、子供は……」
言い残して家に戻ろうとした男に、村人の一人が恐る恐るそう言った時だった!
「しつこいんだよ! 1人死なねぇと分かんねーか!?」
男は振り返ると手にした剣で男に!
鋭い風切り音!
そして剣が大きく弾き飛ばされる!!
「ぐあ! なんだ!?」
男の視線の先には弓を構える男と、先程馬車で去った奴らが居た。
「ナイス! シャム」
俺はメイスをポンポンと掲げながら男に向かって歩き出した。
「まぁこれぐらいは嗜みですよ」
さも当然とばかりにシャムが二つ目の矢をつがえる。
剣を弾かれた男は痛むのか腕を押さえながら、
「お前等! 行ったんじゃねーのか!」
「行くフリな、家の数と村人達の数がおかしいし、子供や老人も一人もいねぇ、全員畑にも行かず暗い顔ばかり……分かりやすいほど分かりやすいぜ!!」
俺はメイスを男に向かって指し示すと、
「降参するなら今のうちだぜ? 俺お前等みたいな奴に遠慮する心なんか持ってねーからな?」
「僧侶のクセになんてこと言いやがる!」
「心配するな、慈悲はあるさ。 ちょっとボコボコにするだけで助けてやる!」
俺はそう言ってニヤリとする。
そんな俺に恐怖を感じたのか男は家の中に向かって、
「来るな! 俺には仲間がいるんだぜ? 逆らったら人質を殺す!」
「ああ……この人には仲間が居るんです。 このままだと子供達が」
村人がそう言って泣き崩れる……それを見て男が有利と思ったのか、
「分かりゃいいのよ! お前等も来るなよ? おい! 一人人質持ってこい! 見せしめだ!」
しかし家の中からは誰も現れず返事もなかった。
「お、おい! どうしたっていうんだ!?」
焦った男がドアを開け家の中を覗き込む……瞬間!
男の身体がいきなりの突風で真上に吹き飛ばされた!!
(ふん! 何も準備せずに出てくるかよ!)
家のドアからトコトコとアルが姿を現した。
「裏手。 仲間寝た」
「よくやった!!」
アルはコクンと頷き飛ばされた男を指す。
「任せろ! ナイスコントロールだぜ!!」
アルが静かに親指を立てグーサインを出した。
男が吹き飛ばされた先には……俺が居る!
「待ってたぜ!! んじゃ!」
メイスを振り被った!
(まぁ慈悲として『聖衣』で包んでやってるけどな)
だが男にはそれが分からず金床の見た目から恐怖でしかないだろう!
「うわぁぁぁぁ! 助けてぇ!」
「あばよ!」
メイスで飛んできた男を打ち返す!
男は悲鳴を上げながら麦畑まで飛んでいった!!
「わぁ、よく飛んだっすねぇ」
クルサが感心したように告げ……俺達の前では村人達が家族と抱き合って喜んでいるのであった。
引き続きの応援ありがとうございます。
今回ちょっと分かりにくくなかったでしょうか?
今後も精進して参りますね。




