2話 アルセフィナにて
世界のほとんどを占める巨大大陸カンバリア。
その一番南端にある町が俺の拠点としているアルセフィナだ。
辺境な土地にあり周辺に大きな町がない事も相まってか、辺鄙な場所の割にはそれなりに賑わいがある。
円形状をしたその町は5メートル程の塀にぐるりと囲まれており、町への出入り口は北と南にある大門のみ。
その南側の門……みんなは南門と呼んでいるが、その近くに俺の所属する冒険者ギルドの建物があった。
「はぁ……ったく、ヤレヤレだぜ」
冒険者ギルドに入るなり深いため息と共にどかっと腰を下ろすと、敷かれた木のイスが抗議のように軋み声を上げる。
その声を無視しながら俺はテーブルの上に羊皮紙を広げた。
羊皮紙には報告書と書かれておりいくつかの項目名と記入欄が載っている。
それを見て再度深々とため息を付くと仕方なくペンを走らせ始めた。
(こーゆー事務系は向いてねーんだけどなぁ)
そんな事を思いつつペンを走らせ概ね記入を済ませた頃に、頭の上から知った声が降ってきた。
「アノン、おかえり。 ごめんね出迎えもせず」
名前を呼ばれ顔を上げると、そこには同僚のミラ=クロンの顔があった。
目が少し赤く腫れている。
「泣いていたのか?」
俺の言葉に少しだけ眉をひそめ、
「ああ……んー、まだ分かる? 冷やしてきたけど」
「少しだけな。 よく見れば、だ」
俺の言葉にため息をついてギルド内を見回した。
ミラは俺が所属している冒険者ギルドの職員で受付けと新人冒険者の登録等や案内などを主に担当している。
まだ職員になりたてで若く、愛嬌のある明るい性格とお節介気質もあり冒険者達から人気がある。
俺ともそれなりに仲が良く、よくこうして声を掛けてきてくれていた。
そんな彼女が暗い顔で泣いていたとなれば、俺が助けてきた新人冒険者の事だろう。
案の定おずおずと口を開くと、
「アイン君は……」
先程治療院に預けてきた新人冒険者の名前を口にする。
おおよその内容は聞いているだろうがそれでも直接助けた俺から聞きたかったのかもしれない。
俺はできるだけ穏やかに、
「あの新人なら大丈夫だ、さっき治療院に預けてきた。 傷は酷かったが回復魔法ですぐ治るだろう」
「それは良かった。 でも後の二人ってやっぱり……」
その問いには無言で答える。
ミラは知っているはずだ
俺がさっき提出したドッグタグ……冒険者の身分証を出したということがどういうことか
それでもやはり直接聞きたかったのだろう
ミラはギルド内に視線を向けたまま、
「そっか……」
とポツリと呟くと、
「朝、ここにいてさ……私いつもみたいに見送ったんだ」
「……ああ」
「『行ってきます!』って、元気よく応えて……それなのに」
声が震える。
死ぬなんてことは冒険者にはあるあるの話だ。
しかしだからと言って受け入れるものではない。
特にまだ若いミラは経験も少なく割り切れるものではないし、それがつい先日見送った者となれば尚更だったのだろう。
俺は話を少しそらしつつもここ最近思っていたことを口にする。
「……ここ最近は新人冒険者の死亡が多いからな」
俺の声にミラは袖で目をこすりながら頷くと、
「そうなんだよね。 ちゃんとクエストは新人さんレベルのものなのに、こういう事故が最近多くて……こうしてアノンに頼むことも増えてきちゃってるし」
「まぁ事故があれば救いに行く、それが『冒険者ギルドの救出者』の仕事だからな」
救出者……冒険者ギルドに所属した冒険者でありながら、行方不明になった冒険者や冒険者の救援要請を担当する者。
もちろんそれなりの実力がないと出来ない仕事ではある。
そして俺もそのうちの一人であり、今回帰ってこないアイン達の捜索を任されていた。
まぁ結果としては通常なら上々な方だ。
全滅ではなかったのだから……。
「アノンは強いね……同じ女の子なのに私泣いてばかりで」
「んな事ねーだろ。 ミラだって……何度泣いても新人を送り出す時は必ず笑顔。 俺にはできねーことだよ、だからミラは強いと思うぜ?」
「ん……ありがと」
袖で涙を拭うと、
「でもアノンも気をつけてよね」
「心配するなって、俺は大丈夫だ。 どっちかつーと報告書作成を勘弁して欲しいんだがなぁ」
俺は肩をすくめウンザリしたような素振りを見せると、ミラは少しだけクスリと笑い、
「仕方ないでしょ! それもセイバーの仕事なんだから」
「でも俺は身体を動かす方が楽なんだよ」
「はいはい、もう少しでしょ? さっさと書いちゃって」
俺の手にある報告書をちらりと見てそう言うと「お茶でもいれてくるわ」とギルドのカウンターに歩いていった。
先程より少しは声が明るい様に思える。
(ちょっとは元気が出た……か?)
「……こっちもさっさと終わらせるか」
俺は机に向き直り手元に視線を落としたのだった。
暫くして記入を終えたタイミングでミラが机の上にお茶の入ったカップを置いてくれる。
どうやらタイミングを見ていたようだが、その割には湯気が出ておりお茶は冷めておらず、その良い香りが鼻をくすぐった。
「サンキュー」
「書き終わった? なら預かるわ」
報告書を手にしたミラはササッと目を通すと……少し眉をひそめる。
「ゴブリン達の挙動に異変?」
書いてある文言が気になったのか俺に視線を向ける。
(『説明してほしい』ってところか)
そこで俺はアイン救出時のゴブリン戦について説明してやることにした。
……話を一通聞いたミラは考え込む様にして呟いた。
「ゴブリン達が包囲を……?」
「そうなんだ。 俺を見て……普通なら有無を言わさず我先に突っ込んでくるはずなんだけど」
あの時、ゴブリン達は武器を手にしつつもいきなり向かっては来ず、まず俺を半円状に囲んできた。
今までのゴブリンの挙動なら考えられない話なのだ。
ゴブリンは残忍且つ知性が低い、人を見たらまず襲い掛かってくるのがセオリーだ。
戦術なんて皆無でありその挙動は動物レベルなはず……いや、ハズだった。
「助けたアインも洞窟内で四方から囲まれたと言っていた。 これは今までのゴブリンの動きとは違う」
俺の言葉にミラは眉をひそめたまま少し考えると、
「最近の冒険者の犠牲はほとんどがゴブリンの仕業なのも関係があるのかな?」
「怪しいのはやっぱり挙動だな。 まさかゴブリン達の知能が上がったとか言わねーよな?」
「それは……分からないけど」
俺の言葉にミラはゆっくり頭を振ると、
「とりあえず報告書ありがと、今の話も合わせてギルド長には私から報告しておくわ」
「助かる。 ギルド長苦手なんだよ、任せたぜ」
席を立ちつつお茶を一気にあおるとギルドの出口へと歩き出す。
「あら、もう行くの?」
「この後あいつらの相手なんだよ」
「あら? 人気者は大変ね」
「よせって! 俺としては訓練目的なんだからな」
手をひらひらさせつつ後にする俺に「いってらっしゃーい」とミラの声がかけられたのだった。
1話続いて読んで頂きありがとうございました!
今でも全然自信ありません、皆さんに伝わるか不安です。
でも楽しんで頂けるよう進めたいと思います。




