18話 山中にて
木々に覆われ空も見えない深い森
元々は洋館を含めた廃墟……町へ繋がるための道があったのだが、今は背の高い草がまるでその存在を隠すかのように包みこんでいる。
鬱蒼とした山道は獣道になっていたのかある程度の足場はあるが草に覆われ歩きにくい。
(それでも先頭の騎士団が道を作ってくれるからマシなんだけどな)
スピカに率いられた騎士の5人は手にしたマチェットで草をきり開き進んでいる。
そのおかげで引っ掛けやすい僧侶服の俺やローブ姿のレサトも余裕を持って歩く事が出来ている。
(⋯⋯ふぅ、さすがに整備されてない山道は大変だな)
思ったより風も吹かず緊張からか黙々と進む一行。
俺も歩けなくはないが少々息が上がってきたな
森の中は静かで騎士がマチェットを振る音と歩く音しか聞こえない。
(みんなも緊張してるのか? 意外に静かだな)
と、そう思ってふと気づく、
(ここって人があまり入らない山道だよな? 木々に覆われてこんなにも藪深いのに⋯⋯静かすぎる)
こんな場所なら動物や鳥がいくらか居ても良いはずだし人が来たことで逃げたりするのも居るはず
「なぁ? 何か様子が変じゃないか?」
「⋯⋯何かとは?」
全員が足を止めて困惑した顔を向ける。
「こんな場所なのに静かすぎる」
「⋯⋯調べてみます〜~」
レサトが静かに杖を取り出すと、
『探知』
魔法を使用してすぐにハッと顔を上げると、
「沢山の魔獣か魔物かがこちらに向かってます〜~」
「どちらからでしょう?」
スピカの問いに、
「多数は前方ですが、少数が後方から」
「分かりました。 前方は私達にお任せ下さい」
そう言うと騎士達に向かって、
「前方からの敵を食い止めます! 半円状に陣を敷き一匹たりとも逃がさないように!」
その言葉を聞くや騎士達が素早く隊形を整える、スピカも剣を抜きつつ隊列に加わりながら俺達に向かって、
「後方からの敵は任せました。 上級冒険者なら期待に応えてみせて下さい。」
「任せとけ」
胸を張って答えてやる
(まぁ俺は上級じゃないけどな)
と言うのは心の中だけにしておこう
こちらもレサトを真ん中に騎士達と反対方向に半円の陣を敷き、武器を構えて待ち構えるが……
「おかしいですねぇ〜~」
杖を構えて首を傾げるレサト。
「どうした?」
「いえ、『探知』だともうここにいるはずなんですが……」
「何も来てないっすよ?」
見える限り魔獣か魔物の姿は見えず、辺りの草が音を立てたりもしていない。
しかし誰もが油断せず静かに緊張感をたたえる中、1枚の木の葉が俺を掠めるように落ちて行く……
「『聖域』!!」
俺が全員の頭上に結界を張るなり間髪入れず魔獣達が降ってきた!!
展開された光の壁に複数の影がブチ当たり悲鳴を上げつつ弾き飛ばされていく!
「頭上からの急襲とはなんて卑怯な!」
憤るエルナトをベリタテが諭す。
「相手は魔物や魔獣だ。 人の道理が通る相手ではないだろう」
「そうですが……」
「良いから構えろ、来るぞ」
頭上からの奇襲が合図であったかの様に周りの草むらが揺れだし多くの魔獣達が飛び掛ってきた!
以前も戦った肉食兎をはじめ、森林狼、巨大蛇、突進猪……それらが次々襲い掛かってくる!
「おらよっと!」
手にしたメイスで足元に迫る巨大蛇の頭部を叩き潰し、そのまま払うようにして跳んできた食肉兎をぶっ飛ばす!
間髪入れず食い千切ろうと突っ込んできた森林狼の牙を身体をひねって躱しつつ回転の勢いのままメイスをその横っ腹に叩きつけた!
ギャン!と言う悲鳴と共に森林狼が草むらの中に転がっていく。
「ふん、ベリタテ様が認めただけはある」
すぐ横では森林狼を2匹まとめて切り捨てながらエルナトが感心している……って俺から見るといつもの姿と今にギャップあり過ぎだろ
と、鋭い金属音と共に1人の騎士が「うわぁ!」と声を上げる。
「矢が……ゴブリンが弓だと!」
「報告にありましたよ! 盾で矢を防ぎ、陣列は崩さないで!」
スピカの鋭い声が飛ぶ!
「弓ゴブリンは私が〜~『氷釘』」
レサトの魔法により空中に現れた鋭い氷柱が離れた場所から矢を放つゴブリン達を次々に仕留めていく。
そんなレサトを仕留めようと食肉兎が飛びかかるが……
「させないっすよ!」
クルサの剣が煌めき魔獣は声も出さず地面に落ちる。
「レサトさんは気にせずバンバン撃っちゃってくださいっす! ここは俺達が守るっすよ」
「ありがと〜~クルサくん」
2人は確か同じパーティーだっけか? 息ぴったりだな
2人をチラリと見てすぐに目の前に集中を戻す。
そんな俺の前に黒い巨体が現れた。
「へぇ? 殺人熊までいるとはな」
体長3メートル近くの黒い大熊……魔獣の中ではひときわ手強く人を好んで食べる危険な魔獣だ
駆け出した俺に殺人熊がその大木の様な腕を振り下ろす!!
身をかがめた俺のすぐ上を爪が掠める!
くくっ! その身長が仇になったな?
こうして懐に入れば……
隙だらけのその腹めがけメイスを横殴りに叩きつける!!
(ぐっ! 硬ってぇ!)
殺人熊の皮膚は分厚くしかも黒い剛毛がその威力を和らげる。
懐に入られたことに気づいた殺人熊がそのまま俺にのしかかってきた! が地面を転がって避ける!
俺の髪に沢山の枯葉が絡みつくが気にしていられない。
(さて……どう攻めるか。 まぁ決まってるけどな)
起き上がった殺人熊に俺は再び駆け寄る!
それを認めて相手も再度腕を振り下ろした!
先程の爪での引き裂きではなく、今度は叩き潰そうとする魂胆らしく真上からの叩きつけだ。
「こういう使い方もあるんだよ! 『聖域』!」
小さく張った結界は盾のように叩きつけを防ぎ……それどころか腕が弾かれたことで殺人熊の体勢が崩れる!
「腹が駄目ならここはどうよ!?」
俺は立ち上がった殺人熊の右膝に向かってメイスを振り下ろすと今度は確かな手応えと共に殺人熊が咆哮をあげた!
その巨体を支える足、その関節を砕かれた事で殺人熊は地響きと共に地面に倒れる。
(よっしゃ! トドメを……)
と駆け寄ろうとしたがすぐ横を素早く駆け抜けたベリタテが剣を振るい……閃光一閃倒れた殺人熊の首を切り落とす!
「おまっ! 俺の獲物を……」
「お前の武器では相性が悪い」
ひと言そう言い捨てると他の敵に向かっていく。
(くぅ〜~美味しいとこだけ持っていきやがって!!)
俺はメイスを掲げると、
「くっそーーどんどん俺にかかってきやがれ!」
俺の挑発にいきり立った魔獣が襲いかかってきた……
そして、
「これで最後です〜~『氷釘』」
レサトの間延びした声と同時に鋭い氷が逃げようとしたゴブリンを貫く!
そうしてようやく静かになった。
辺りにはむせ返るような血の匂いと倒れた魔獣と魔物。
深緑の草も赤に染まっている。
様子を伺いつつ俺を見たスピカが、
「被害はありましたか?」
「特になしだな」
「流石です」と頷きながら答えるスピカ。
騎士達にも被害はないようだ。
「少し移動して休息を取ろう」
ベリタテの言葉にレサトが頷きながら、
「そうですね〜~アノンさんの髪も飾りが凄いですし〜~」
そう言って俺の髪から枯葉を一つ手にする。
(長い髪はこれだからイヤなんだよなぁ)
この後の髪の手入れを考え俺は深々とため息をついたのだった。
久しぶりの戦闘回でした。
分かりづらくないか心配ですが伝わっていただければ幸いです。
今回も読んで下さりありがとうございました!




