16話 ギルド長にて
「なぁ?」
「なあに? アノンちゃん」
「もうちっと離れてくれねーかな?」
「えーヤダ」
そう言ってマイアはますます俺に密着してきた。
「はぁ」
俺は諦めのため息をついて目の前の少女に目を向けた。
俺は応対用の長椅子に腰掛けウレン様と向き合っている。
その俺にマイアがしがみつく様にくっついていた。
正直暑いし鬱陶しいし話をするどころじゃない
それに意図的なのかやたらデカい胸を押し付けてくるし……
(俺もそこそこあるけど、何食ったらそんなデカくなんだよ……)
俺の考えが読めたのかマイアはニヤリとすると、
「揉んでみる?」
「揉まねーよ!」
ったく! 何なんだコイツは!
どうしてこれでアルセフィナのギルド長なんだよ!?
そんな困った俺を見かねたのか、正面に座るウレン様が、
「マイア、そろそろ本題に入りたいのですが……」
「はい、入ってもらって大丈夫です。 あたしはアノンパワーをいただいておりますので!」
アノンパワーってなんだよ!
さっきアノン成分っても言ってただろーが!
「アノンさんが気になるようですので……」
ウレン様が遠慮がちにそう告げるも、
「ですよね! ウレン様もアノンちゃん気になりますよね! 見てください、この顔! もうね、天使ですよ天使!! 長くて光り輝く金髪! これはもう神様からの贈り物だし、性格良し、そして強いし身体もそれなりに柔らかくて肉付きもいいし……」
ピシッっと……空気が割れると言うかそんな音が聞こえた気がした
「更にアノンちゃんこう見えて……あれ? 急に……」
唐突にマイアが机に突っ伏して寝息を立て始めた!
(え? なんで急に……)
思わず目の前のウレン様に目を向けると、ちょっとホッとした様な表情で、
「マイアさんには魔法で眠ってもらいました」
顔を赤くして照れていた。
魔法で……眠らせたって!?
この人今何の動きもなかったよな?
俺の使う神聖魔法しかり魔法は高めた信力や魔素を魔法名と共に放出して発動する。
それをウレン様は何の動きもなく?
改めてまじまじ見るがギルド長と言うに幼く見える。
ショートボブの髪型のせいもあるだろうが、小柄で小動物を思わせる佇まい、童顔な顔つき。
一見すると子供にしか見えないのに……やっぱりこの人って凄いんだな
視線に気づいたのかウレン様はアタフタしながら視線をさまよわせていたが、やがて俺を見てニコッと笑みを返してくれた。
……やっぱりただの女の子に見えるんだけどな
コホンとウレン様は咳払いすると、
「それでは静かになりましたので改めて……王都のギルド長をしているウレンです」
「アルセフィナで冒険者兼救出者をしているアノンだ」
「よろしくアノン。 それでは本題ですが、おおむね報告は受けています」
そう言って俺の後ろに立っていたベリタテに頷いてみせる。
「貴方が戦ったのは間違いなく魔族でしょう。 特異な姿、そして見えない攻撃という……恐らく何らかの能力」
まぁここまではベリタテの話で確信に近いものがあったからな
やはりという感じか
「そして魔族の存在を知っているのは冒険者ギルドの方々と上流以上の冒険者達、それと衛兵や城の関係者などの町を治める方々」
「そもそも魔族はーー」
ベリタテがウレン様に続けて
「表に出てくることはあまり無い。 理由は不明だが人を滅ぼしたいのなら直接乗り込んで来れば良いのにそれをしない。 出てこれないのと共通の理由があるのだろう」
頷いたウレン様は、
「だからこそ表沙汰にはせず、無闇な討伐などをしないように勧めておりました。 戦えばまず負けるのですから」
ギルド長程の人でもそう言わしめるのか
魔族とはそれほどまでに?
「今回貴方によって傷を与えられるのが分かった。 倒せない敵ではないとの希望も湧きました。 だからこそ貴方に来てもらいました」
「ああ、だいたい分かるぜ? 俺もそう考えていたからな」
ウレン様の目を真っ直ぐに見ると、
「魔族を倒してこれ以上の被害を出さないようにしなきゃな。 人が滅ぼされるなんて許しちゃおけねー」
「……ありがとうございます」
断られる選択肢もあったからかウレン様は心底ホッとした様に、そして心から嬉しそうに笑顔を見せる。
……こうやって見ると責任を負う覚悟の顔だな
見た目は子供っぽいがやはり中身はギルド長だけありそうだ
「しかし倒すってのは良いけど、そもそも魔族は何処にいるんだ?」
「そこはご安心を」
ウレン様はテーブルに地図を広げ、
「上級の冒険者達には魔族の存在を話していると言いましたよね?」
「ああ、それと衛兵とか王様とかだろ?」
「その理由は倒さないにしても見張る必要があったからです」
様子を伺い何かするのであれば対応せざるを得ない
人が魔族に対して出来る最善の策だ
「今回アルセフィナを襲った魔族は今まで報告のなかった魔族でした、おかげでアルセフィナが攻められるまで動きが察知出来ず申し訳ございません」
「いや、別にアンタが悪いわけじゃねーからな。 謝んなくていいぜ」
ウレン様は少し頭を下げると、
「ですが、今はその魔族が何処にいるか把握しております」
地図の上で1点を指差すと、
「アルセフィナから西に進んだこの辺りに廃墟となった洋館があります。 そいつは……魔族って呼称だと不便ですね」
ウレン様は少し考えると、
「アルゴル……とでも呼びましょうか。 不可視の意味合いを持つ言葉です」
魔族アルゴル……か
「アルゴルはその洋館に潜んでいて、他の魔族同様あまり動きは見られないそうです」
「アルセフィナの時にはなんで来やがったんだ?」
ウレン様は首を振り、
「そこまでは……何か意図があったのか……」
「そっか、まぁどちらにしろそいつに直接聞きゃいいか!」
俺は立ち上がると、
「アルセフィナの借りを返してやらねーとな」
「……ありがとう。 ではこちらを」
ウレン様は一つのドッグタグを取り出した……普通のと違い金色をしている。
「これがあれば色々融通が利くでしょう。 移動で馬車を使用したりするのにお見せください」
そ、それはめちゃくちゃ助かる!!
徒歩で戻るのを考えると鬱になるとこだぜ
「ありがとな……ちなみに忘れてたけど」
俺はスヤスヤ眠るマイアを指差し、
「どうしてマイアがここに?」
「先のアルセフィナ防衛戦で失った冒険者達や家族への見舞金のお願いにいらしてたのですよ。 それと暫く立て直すまでの冒険者を送って欲しいと」
コイツはコイツでギルド長としての事をしてるってことか……セクハラは駄目だけどな
「分かった。 それは俺からもお願いしたい。 俺もアルセフィナの冒険者だからな」
「はい、分かっております」
ウレン様はそう言うと笑顔で見送ってくれたのだった。
今回もありがとうございます。
少しでも皆様が楽しんで頂けるよう精進いたします。
今後とも応援宜しくお願いいたします。




