クライミング③
田中は山頂でセルフビレーをマスト結びで取り、しっかりと固定した。彼は続けて、コング社の「ジジ」と呼ばれるセカンド確保器をセットした。カラビナが通る穴の下側に楕円形の穴が2つ並んで空いているシンプルな金具だ。
「これで、セカンドが万が一墜落しても手を離していても大丈夫だ。」田中は自信を持って呟いた。「ロープが自然にロックされる仕組みになっているからな。ただ、ロックを緩めるときに注意しないと、一気にロープが出てしまうから気をつけないと。」
田中はセカンドを確保しながらロープを引き上げた。引き上げたロープはからまないようにセルフビレーのロープに振り分けていく。しかし、確保支点を探しても適当な場所が見つからなかったため、やむなく肩がらみのボディビレーで確保することにした。
「岩場も優しいし、大きな転落の可能性はないだろう。」田中はそう思いながら、墜落時に強く引かれる方向に体を真横に向け、しっかりと腰を落とし、胸を張った。
急峻で狭いテラスに到達した田中は、すぐに支点を作り、セルフビレーを取った。残置用のスリングを使ってロープを固定し、シングルロープで約20メートルほどの懸垂下降を準備した。
「ロープの束を空中に放り出すように投げるんだ。」田中は自分に言い聞かせるように呟いた。下のほうに見える下草の茂みにからまないように注意し、右手でロープを引いてみる。ロープの重みがしっかりと伝わってきた。
「よし、からんでない。」田中は安堵し、エイト環を胸のたすきにかけた安全環付きカラビナにセットした。エイト環の脱落を防ぐためだ。エイト環の大きな輪のほうにメインロープを通し、だるま上になっている部分の下側を通してまた大きな輪のほうにロープを通した。ロープがしっかりと正しくエイト環の輪を通っていることを確認し、安全環付きカラビナを外してハーネスのビレイループに掛け直した。
「ビレイループがねじれてないな。」田中は確認した。カラビナは水平に、エイト環は立っている状態となっている。問題ない。念のため、ビレイループの網にもう一本カラビナをセットし、6ミリのロープでメインロープにバックアップを取った。メインロープのほうにはマッシャー結びでカラビナをセットし、テンションがかかれば自動的に結び目が締まり、ロックするようにした。
「懸垂下降を開始する。」田中は自分に言い聞かせながら、右手でメインロープのちょうどマッシャー結びをしている部分を握り、左手でエイト環を通った後のメインロープを握った。セルフビレーを外し、下降に入る。しっかりと体重をハーネスに預け、腰から下りる気持ちで、足をリラックスさせた。
「左手は絶対に離すな…。」田中は自分に念を押した。バックアップを取ってはいるが、それは体に覚え込ませておかなければならない鉄則だ。
懸垂下降の途中で、田中の目に何か妙なものが入った。彼はエイト環にロープを2、3回巻き付け、最後に端を安全付きカラビナに固定した。バックアップのため、続くロープを左足の太ももに3回巻き付けた。
「これで完全にロックされた。」田中は確信し、下降を再開した。
彼が下降を続けていると、突然ロープが急に緩んだ感じがした。何か問題が起きたのか、田中は一瞬心臓が止まる思いだったが、すぐに冷静さを取り戻し、慎重にロープの状態を確認した。
「何か引っかかっているのか?」田中は呟きながら、ロープを慎重に引っ張り続けた。下草に絡まないように注意を払いながら、少しずつ降りていった。
やがて地面に到達し、無事に懸垂下降を終えた田中は、深く息をついた。「ふぅ、無事に降りられた。」彼はホッとしながらロープを片付け、頂上にいるトップに合図を送った。
「田中、無事か?」トップの声が上から聞こえた。
「無事だ。ありがとう、こちらも準備が整ったら降りてこい。」田中は笑顔で答えた。




