クライミング②
トップが最初のロープをクリップした。その動作を見守るビレーヤーの田中は、ATCを通ってトップへと渡っているメインロープを少しずつ繰り出していく。右手でロープのATCの二つある一方の穴の中に少しずつ繰り込み、左手でロープをひとひろごと上へと繰り出す。ATCは制動付きのカッシャのような支点となり、田中は慎重にロープを平行にしたり左右に分けたりしながら、少しずつロープを出していった。
「このATC、シンプルだけど頼りになるな。」田中は心の中で呟いた。
トップが三ヒッチ目に到達しようとしたとき、クラックに入れ込んだナットが不意に抜けた。全体重をかけていたタイミングで抜けたため、右手で中をつかみ、左手のプッシュホールドの圧力も一気に抜けた。トップはふわっと上体が壁面からはがれるように後方へと倒れ込んだ。
「やばい!」田中は瞬時にロープを送り出すために手を左右に分け、右手を強く下へ引いた。次に来る衝撃に備えて腰を落とし身構えた。しかし、予想していたショックが一向に伝わってこない。田中はロープに余分な余裕が生じていることに気づいた。
「落下距離が予想外に大きくなってしまった…。」田中は後悔しながら、さらに別のミスに気づいた。落石を恐れすぎて、登坂壁から5メートル以上も離れて確保姿勢をとっていたのだ。
強烈な衝撃がロープを通じて一気に田中に伝わり、彼は恐ろしい力で上方に引き上げられた。「くそっ、これじゃバケツの端に吊るされたみたいだ…。」セルフビレーも役に立たず、彼は猛烈な勢いで壁面に叩きつけられた。
ビレーヤーは体重のあるトップを確保するため、万が一に備え、背後の岩にセルフビレーをした。たまたまゲレンデに残置スリングを使用しようと一瞬思ったが、ハンマーでたたいてみると少しゆるんでいる感触があったので、別のクラックにピトンを打つことにした。30センチほどの間隔で水平に2本打ち込んだ。支点が効いているかどうか、再度ハンマーでたたいてチェックし、カラビナをかけて強く左右上下に引いてみた。
「よし、これで大丈夫だ。」田中は安堵しながら次に長めのスリングを両カラビナに通し、スリングを一回ひねった。「こうすることで、万が一ひとつの支点が抜けても、もうひとつの支点で止めることができるんだ。」
田中はスリングと支点のなす角度が60度以内であることを確認し、「これで流動支点が完成だ。それぞれの支点にかかる力が半分になる。」と安心した。
トップが再び体勢を立て直し、再度登坂を始めると、ビレーヤーの田中も慎重にロープを繰り出しながら見守っていた。
「このままうまくいってくれよ…」田中は心の中で祈るように呟いた。
トップが新たなホールドを見つけ、慎重に手を伸ばして掴む。彼の動きが徐々に落ち着きを取り戻し、リズムを取り戻し始める。
「よし、いいぞ、その調子だ。」田中は静かに声をかけた。
トップは再び上へと進み、ついに次の確保ポイントに到達した。彼は新たなナットをしっかりとクラックに挿入し、慎重に体重をかけて確認した。
「今度はしっかり固定されたな。」トップは安堵の息を漏らしながら、さらに上を目指して進んだ。
田中は引き続き慎重にロープを繰り出し、トップの動きを見守っていた。彼の手はすでに汗で滑りやすくなっていたが、集中力を切らさないように努めた。




