291話 山の麓で
「……ここが予定の場所か」
王都を出て2日ほど経った頃。ようやく予定の山の麓へと辿り着いた。残念な事にここで終わりではなくて、ここから本番なのが中々辛いところではあるが。そう思うのはここまでの道中での事が原因だった。
まず、シェリクたちは馬に乗る事が出来なかった。これはまあ仕方ない部分はある。領地を持たず王都に住んでいると馬に乗る必要が無い。
馬を飼育するのにも莫大な金額がかかるし。王都にいれば大抵馬車で済むからな。だから乗馬の練習をしない貴族もいるようだ。
彼らは兵士たちが用意した馬車に乗って出発したのは良いのだが……ここでまた面倒だったのが、銀翼騎士団の彼女たちに一緒に乗るように迫ったのだ。
彼女たちは当然任務中なので断るが、そんなのお構いなし。ラティファは貴族の令嬢なので毅然とした態度で断っていたが、他の2人は平民のようでかなり困っていた。
俺が間に入らなければ、ラティファが剣を抜いていただろうくらいにしつこかった。俺も王妃様の甥でなければ正直殴っていただろう。
その後は何とか言い聞かせて進む事ができたが、出発早々こんなのだ。当然道中も色々ありもう思い出したくも無い。なんなら帰りもあると思うと憂鬱だ。
「2日間お疲れ様でした! アルノード伯爵!!」
そんな事を考えているとそう声をかけてきたのは銀翼騎士団の1人で名前はノエル。茶髪で身長が140とかなり低めであるが、魔法での身体強化が得意なようで、その力は男性相手でも引けを取らない。背にはアックスを背負っており、それを振り回す姿には流石に驚いた。
「お疲れ様、ノエル殿。まあ、本番はここからだけどね」
「まあ、そうなんですけど、マッドフロッグは私たちも倒したことありますし、余程の事が無ければ大丈夫だと思いますよ?」
まあ、俺たちや銀翼騎士団のみだったらそう考えても良いけど……彼らがなぁ。しっかりとこちらの言う事聞いてくれたらいいのだけど。向こうの兵士たちもあまり慣れて無さそうだし。
「ノエル、話すのは良いのだけれど、やる事は終わったのかしら?」
そう言いながらノエルの後ろから来たのは、金髪をストレートに腰まで伸ばしており、身長がノエルとは反対に170ほどあり女性にしては高身長、そしてクールな雰囲気のエーラがやって来た。
彼女はミストリーネ団長が旋風流を習った道場で一緒に習っていた門下生らしく、団長の後を追って入団したらしい。武器は勿論剣で旋風流も上級に近い中級まで扱えるようだ。
……そして、シェリクのお気に入りだ。この2日間何度も彼女に話しかけて袖にされていたのを何度か見た。そして、今俺と話しているところをじとっと見ている。
「……口だけの男が……死ね」
そんな雰囲気を感じてか、ボソッと怖い事を呟くエーラ。気が付いたらノエルはいなくなっていた。こうなるのがわかっていたか。
初めはそうでも無かったが、シェリクに絡まれ内に鬱憤が溜まるようになったのだろう、時折ボソッと本音を言うようになった。
まだ、本人の前では我慢しているのか言っていないが、俺の前では出るようになった。彼女も言った後にハッとして謝ってくれるのだが、まあそれだけ気を許してくれているって事なのだろう。
まあ、彼の前で爆発されるよりは良いかと俺も黙認している。そう思うほどに彼らの態度は彼女たちによく無かった。
「アルノード伯爵、準備が出来ましたわ」
そうこうしている内に、ラティファがやって来た。沼地に向かうための準備が出来たようだ。森を抜ける必要があるので馬を置いていく必要があるため、俺の兵士が2人待機する以外は全員森へ入る。
シェリクたちも流石に魔獣のいる森に入るとなると準備はしているし、どこか緊張した様子もある。一歩間違えれば普通に死ぬからそれくらいの緊張感は持ってくれて良かった。
「ありがとう、ラティファ殿。それじゃあ全員集まってくれ」
俺の号令で集まる皆。シェリクたちは少し嫌そうだが流石に文句は言わないようだ。まあ、言うこと聞いてくれるなら助かるからそのまま続けてほしい。
取り敢えず、森の中を進む際の隊列を伝える。前をアルノード家の兵士で固めて、真ん中辺りにシェリクたち。左右にシェリクたちのところの兵士たちで挟み、後ろを銀翼騎士団の3人、殿を俺が担当する。
領域で辺りをカバーしているので突然襲われるって事は無いだろうが、緊張感を無くさないため黙っておこう。少し天気も悪くなり雲も増えて来た。嫌な雰囲気があるのでさっさと終わらせて帰りたいところだ。




