290話 お願いの裏の話
「お待ちしておりましたわ、アルノード伯爵」
王妃様に初陣のサポートをお願いされた翌々日。俺は王都の門に来ていた。当然王妃様からの依頼を行うためだ。
そこには既に人が集まっており、俺に声をかけてきたのは銀翼騎士団のメンバーであり、侯爵家の令嬢なのに銀翼騎士団に入団した変わり者であるラティファ・リストニックだった。後ろには他に2人同じ鎧を着た女性が立っていた。
まさか、銀翼騎士団から人が来るとは思っていなかったので驚いた。しかも、ラティファが来るなんて。そのラティファも不本意なのか眉間に皺が寄っている。
そのさらに後ろには3人の俺と同年代の男に兵士が5人。俺の方も部下の兵士が5人いて計16人とそこそこな人数になった。
「久しぶり、ラティファ嬢。前の手合わせ以来だな」
「ええ、そちらは色々と大変だったようで」
ふふ、と笑うラティファだが、初めて会った時のような少しこちらを侮ったような雰囲気はなかった。手合わせをして俺をそれなりには認めてくれたのかな?
「本日は王妃様のご命令により私たち銀翼騎士団から3名お供させていただきます」
そう言い騎士の礼をとる3人。俺も貴族として軽く挨拶をする。この辺はヴィクトリアとパトリシアにちゃんと習ってるからな。
そんな挨拶をしていると、3人の後ろから俺と同い年ぐらいの男たちが近付いてくる。彼らが王妃様が言っていたシェルエール家の甥と寄子の子供たちだろう。ただ……ねぇ。
「僕の名前はシュリク・シェリエールだ。まあ、よろしく頼むよ」
そう明らかに見下した雰囲気で挨拶をしてきたのが件の甥だった。……まあ、この感じは少し懐かしいし、この前話を聞いた時に王妃様からの軽く聞いていた。
彼の髪の毛の色は紺色だ。魔法も4属性使えるのだろう。魔法もそこそこ使えて優秀なようで、そのため少し他の人を下に見ている傾向にあると王妃様は嘆いていたな。
「ああ、よろしく頼むよシュリク殿。俺の名前は知ってると思うがレディウス・アルノードだ」
そう言いつつ手を出す。握手でもしようかと思ったが、シュリクはそっぽを向いてそのまま自分の馬がいる方へ行ってしまった。
いやー、ここまでの対応をされるのは中々懐かしいものがあるな。思わず笑ってしまった。伯爵位を貰ってからは表向きは他の貴族と同様の対応をされていたし。
しかし、この対応が誰がどう見ても悪いのはわからないのかな。彼はあくまでも伯爵家の嫡男ってだけだ。
確かに王妃様の甥であるから他の伯爵家の嫡男に比べれば、周りから注目されたりする事もあるのだろうけど、曲がりなりにも俺は伯爵の当主だ。その当主に対しての対応では無い。
しかも、今回侯爵家の出のラティファはしっかりと挨拶をし、俺を伯爵として相手しているのに、そのラティファの家より下の彼があの態度はまあいただけない。
しかも、彼の態度のせいでその寄子の2人も同様な態度をとっている。これには俺の後ろに控えている兵士たちから少し殺気が漏れている。……事前にこうなるかもしれないと話していて良かった。
「ふふ、これは大変な事になりますわね?」
そんな事を考えていたらニヤニヤと笑みを浮かべるラティファ。彼女は今回の事を王妃様かミストリーネ団長から聞いているのだろう。
今回表向きはこの前の話の通り初陣のサポートをする事であるが、裏のお願いとして彼らの俺に対する対応が悪ければ報告してほしいというのがあった。
どうやら、王妃様も兄であり当主であるシェルエール伯爵から色々と相談を受けていたようだ。
シェルエール伯爵家も男児が中々生まれなくて、シュリクは5人目の子供でようやく男児を授かったようだ。そのため少し甘やかして育ててしまったらしい。
……どこかで聞いた事のある話である。この話をしている時の王妃様の申し訳なさそうな顔が今も思い浮かぶ。
あの元王子の二の舞には出来ないと、今回強行手段として俺に依頼したようだ。今回の初陣での彼の行動を全て正直に話してほしいと。
俺に対しては、不快な思いをさせるかもしれないと謝られたが。事前こういう可能性はある事についての謝罪は受けているので俺は気にはしない。
「……色々と大変かもしれないけど、よろしく頼むよラティファ嬢」
「あなたが困っている顔を見るのは楽しいものですね。まあ、私も団長から承った任務ですから、やる事はしっかりとさせていただきます。勿論報告も」
初めは先ほどと変わらずニヤニヤとしていたが、後半からは真剣な表情を浮かべるラティファ。……残念な事にならないように彼らには早く気が付いてもらいたいものだが……難しいよなぁ。
俺は少し登ってきた太陽を眺めながらそんな事を考えるのだった。




