フレイム&トランス 13
「……いや、ほとんど最近知った」
「その割にはさ、随分あの人のことを恨んでいたみたいだけど。あたしあの白い女の子に起こされてから、ずっと見てたから」
あの時、敗北を悟った阿木李がユリに耳打ちした内容。それは水瀬を眠りからお越し、解放してやることだった。
「あたし、メグルのことまだ何も知らない……」
支えてくれる水瀬の手に、ぎゅっと力がこもる。。
「今じゃなくていいんだ、だけどいつか話してほしいな……あたしはもう、メグルに返せないほどの感謝ができちゃったし、助けられてばっかりはいやだから」
「頼りにしてないわけじゃないよ」
「じゃあ、いつかは助ける日が来るってことね?」
「そうかもな」
「かもって、ひどい」
「いいから、早く帰ろう。学校には遅刻しちまうけど」
「い、いやメグルは病院でしょ」
住宅街を抜け人気が徐々に多くなってきた道に出た二人はヘトヘトになりながらタクシーへ乗りこみ当然のように押し寄せてきた眠気に支配された。深い睡眠という急速な時間の流れを超え目を覚ました時にはあの山道だった。
「あっ、あれじゃないかな」
水瀬が先にタクシーを降りてバッグの方へ走って行く。雑に横たわったそれは人通りが少ないことが幸いし誰かに触られた感じもなく、中身も無事だった。巡の鞄も付近で無事に発見され水瀬がタクシーまで運んでくる。そしてその場でおもむろに財布からタクシーの表示金額を取り出し下車を申し出た。
下り坂にさしかかり直ぐに見えなくなったタクシーを見送ってから巡が口を開く。
「学校まで乗っていけばよかったんじゃないか」
「うん、そうなんだけど……」
半ば強制的に巡の分まで荷物を持った水瀬がゆっくりと学校の方へ歩き出しながら、タクシーを降りた理由を話した。
「あたし、阿木李さんをおびき寄せるために能力を再び使ったって言ったけど。もう一つ大きな理由があったんだ。これは別に…言わなくてもいいことなのかもしれないけど、なんだか今になってすっごく言いたくなっちゃった。何でだろ、安心したからかな、それともメグルに助けられたからかな……」
「俺に関係してるってことか」
「……そう、だね。メグルに関係してる――メグルの、おかげなんだよ」
両手にぶら下がったバッグを大げさに揺らしながらくるくるとステップを踏む水瀬の顔は笑っていた。そしてもう一度言う「メグルおかげなの、あたしがまた能力を使えたのは」
「そもそも、あたしが能力を使わなくなったのは数々のトラウマ、恐怖の塊が原因だった。死ぬ思いと、人を殺しかけた記憶しか残っていないこの力を使う理由なんて一切なくなってしまったから、もう一生使わないんだろうなって思ってた。――だけどね、メグルと新緑喫茶で出会った時、思い出したの」
『誰かを守れる力が欲しい』
宮前の身体を巨大な鎌が切断仕掛けた時。巡が彼女を助けた時。その言葉が水瀬の脳内に湧き水のように小さくゆっくりと、しかし身体全体に広がっていくように蘇った。これだと思った、ずっと前に水瀬が一度望んだ力、誰かを守る強さ。それを巡が持っていたことに水瀬の中で光を失っていた何かがまた輝きだした。その心を巡に打ち明ける。
「いやでも、それって……結局ミート倒したの浩仁さんだし、率先して立ち向かったの綾だし」
「まー正確にはそうだよね。だけどやっぱりメグルなんだよ、あたしにもう一度思い出させてくれたのは。結局ここまであたしを助けてくれたのは、守ってくれたのはメグルでしょ? だからはっきりわかる、あたしはメグルのような強さを今でも求めていたんだなって。……いろんな事があったけれど、誰かを守りたい気持ちは今もあたしのなかで眠っていたんだなって」
だからね。と水瀬は続ける。
「あたしは、これからも能力を使おうと思うの。あたしもメグルみたいに誰かを守りたいから、能力のせいで嫌なことはたくさんあったけど……きっと、メグルだってそうなんじゃないかな…」
「……」
明確な理由がなくたって、水瀬にはもう確信と変わりなかった。
「……さっきも言ったけど。無理にその内容を聞こうってわけじゃないんだ。ただメグルにはあたしに無い強さがあるって言いたかったの、そしてあたしもメグルみたいになりたいって、伝えたかったんだ。……なんだかちょっぴり恥ずかしいね、えへへ」
【NEXT】10-8 07:00




