第一歩 6
「……そうかよ」
「……あの」
「あンだよ」
少し身体が温まってきたのか、余裕がでてきたらしい浩仁はあぐらをかいている。
「俺のことについてですが」
「あァ、その馬鹿げた件か」
原因はわからない、巡はもともと自分は手に入れる者だと思っていた。異能も使えていたからそれ以外にありえなかった。けれど片山隼人に触れられ、全てが変わった。
巡は人とも手に入れる者とも触れ合いが許され、また異能、能力までもを使役する、異能力者と呼べる存在だった。
「このことは、誰も知らないんです」
「片山隼人もか」
「あの人にこそ知られてはいけないんですよ。だって俺を人と思って助けたのに、そうじゃなかったと知ったら。不本意の上に成り立っていたあの人の今までの行動が全て崩れてしまう……」
無差別に手に入れる者を殺しておいて、そのうちの巻き込まれた人を助けた思いきや、差別的に手に入れる者を生かしていたという事実は、片山隼人の心にどのような形を成して突き刺さるのか巡には想像がつかない。
「自分にさえ理解できない異能力者という存在は、世に知れ渡るべきではない……」
「手に入れる者の存在が知られた時と"同じ事"が起きると」
「その通りです……きっと俺が殺されるだけじゃない、世の中全体が大混乱に陥る。きっと隼人さんの時以上に残酷なことが起こりえる……そんなこと、あってはいけない」
「そうか……」
「……信じて、いただけますか」
ずっと言いたかったその言葉を、やっと口にした。いつの間にか巡るの瞳は紫色ではなく普段の茶色い瞳に戻っている。
「正直な、死ぬかと思った」
「……?」
「テメェの能力だよ! あのな、あーんな極寒で人間がタンクトップと短パンで無事なわけねーだろ!」
「えっ、えっ」
突然の説教に巡は狼狽する。
「でもな、お前は俺を殺さなかった」
「……」
「娘のことも、助けてくれた」
「……」
「ぶっちゃけ、もう信じる要素はあったっつー話だよ」
「……浩仁さんについては、気づかなかったら殺してたかもしれないんですが」
「台無しだなおい」
「あはは、冗談ですよ」
理解、してくれた。そう受け取っていいのだろうか。きっといいのだろう。ずっとずっと巡がそうしたくてもできなかった共存意志、その道の途中で同じ進路をたどる者が現れた。巡は一緒に行きたかった。その思いは隼人を救いたいという一心。けれど同じ進路をたどる者は片山隼人を心から憎悪していた。でも、今それが解消された。
そう、受け取っていいのだろうか。
巡はあぐらをかいている浩仁に手を伸ばした。
「……へっ」
浩仁は短く笑い、その手を力強く掴んだ。
「……ありがとう、ございます」
「これからもよろしく、だろ」
「はい、よろしくお願いします……それにしても驚いた、もうそんなに体温が戻っているなんて」
「オレの筋肉なめんじゃねえよ」
「はは、じゃあさっそくなんですが」
「うん?」
「後は、よろしくお願いします」
「は? なんのこ――」
浩仁が尋ね返す前に、深朋巡は地面にぶっ倒れた。
「お、おい! ――テメェ、出血が……!」
「能力を……解除しましたから……」
(まさか、傷口を凍らせてやがったのか。なるほど、途中から左腕の骨折も全然痛くねぇように見えてたのもこういうことかよ……)
「馬鹿野郎が……」
浩仁は自分のタンクトップを引き裂き可能な限り止血を試みた。
「はは……僕が馬鹿ならあなたは筋肉馬鹿」
「うっせぇ喋んな!!」
「いやむしろ馬鹿筋肉」
「あれ、お前余裕だな」
「あはは」
パタリ。
「おい……ってオイ? やべぇ死んだ! マジで死んだ!」
さっきまで冷えていたはずなのに汗すらかきはじめる浩仁は巡を絶対に死なすまいと、完全に気を失った身体を自慢の筋肉で担ぎ上げ全速力で走りだした。塞ぎきれない傷口からは出血が止めどなく溢れ、激しく揺さぶられる左腕は、暗闇に意識を委ねた彼を今も苦しめていたはずだ。
そんな真っ暗な意識の中で、巡は綾の声を聴いた。
父親である浩仁に、自分が友達だと言えばいいと口にした時のあの声だ。
友達ができたらお父さんに合わせたい。それは巡も同じだったのだ。
抱えられる彼の顔はほんのりとだが、笑っていた。




