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Attri-tY  作者: ゆきながれ
Episode-0 似たもの同士
24/90

第一歩 5

無限の武器を創りあげたのではなく、相手に無限の武器を与えていたことに気付かされた巡に、驚く暇も与えず言葉がかけられる。

「改めて言わせてもらうか。娘とは金輪際係るな」

「……」

「正々堂々勝負した結果だ。返事くらい聞かせてくれよ」

「……お断りします」

「何だと……?」

巡は立ち上がった。その表情は乱れた髪のせいでよくわからないが、血の気が引いているのは明らかだ。

「やめておけ、その体で戦うつもりか」

「……血ならもう、止まりました」

「何……?」

「……俺の能力(ティ)では、あなたには敵わない」

一層、彼の髪の毛が激しく揺れた。

「ですが、絶対にここで負けるわけにはいかない」

「能力(ティ)で敵わねえんじゃテメェにもう為す術はねェだろうが。一体何を言って――」

彼の周りをざわめく空気、彼のゆらぐ変色した髪、直後巡は地面を蹴った。蹴って勢い良く浩仁に向かって直進していく。

「ちィ……テメェはもう、負けてんだって言ってんだろォが!!」

力強く放たれる浩仁の拳。巡との距離はもうほとんどなく、わずか数瞬後にその拳は巡の胸元を捉えるところだった。その直前、浩仁は自身が異能(アトリ)を発動している事を思い出す。瞬間の世界、今度は彼が血の気が引く感覚と後悔に襲われると同時に、巡の死を悟った。

乾いた音が響く。

浩仁の拳は、巡に達することはなかった。

「打撃が実現しなければ、斬撃も発生しないんですよね」

確認したのは、彼の素手が布も何もまとっていない浩仁の腕を掴む姿。


「な――」


なんで、テメェがオレに触れてやがる。そう口にしようと巡を見た途端。彼は言葉を失った。それは巡が彼に触れられる決定的な証拠でありながら、決してあり得ないことだったからだ。

"それ"はたった今までそんな深い紫色などしていなかった。

「……肌、凍ってるじゃないですか」

しかし、直後その手は離される。巡のその声を合図に空間を漂う全ての氷塊が霧に変換され四方八方に散々し消滅、まるで何もかもが無かったかのように空間の温度が本来の暖かさを取り戻していった。その瞬間浩仁は糸が切れたかのように膝をついてしまう。

「変に強がって、俺に人殺しをさせるつもりですか」

「……」

言葉がでなかった。肌が感じ取った暖かみに気が抜けただけじゃない。むしろ今の浩仁にはそんなことは些細な問題として処理される程、目の前にいる少年の"変わり果てた瞳"は彼を混乱させた。その彼の表情を汲み取るように、巡はそっと口をひらいた。

「俺には、深朋巡という本当の名前がありました。俺の"本当の"家族と手に入れる者(スチール)のみがいる場所で暮らしていた時の名前です」

彼の白い毛先が徐々に元の紺色へと戻っていく。

「でもある日、片山隼人という男に家族とその地域の人間を全員殺されました」

しかしその瞳の色は戻らない。

「でも俺だけが、隼人さんには殺されませんでした。手に入れる者(スチール)でありながら、俺だけが生かされた。理由は、俺が隼人さんに殴りかかったからです。正確には俺の拳が隼人さんの手に触れてしまったから……」

それは今、巡が浩仁に触れていたことが全ての証明になった。

「隼人さんは俺を人だと"勘違い"しました。手に入れる者(スチール)しかいない場所に人が紛れ込んだと考え俺をそこから助けだし、当たり前のように人から俺の両親を探しましたが見つかるわけもなく、最終的に俺は隼人さんの家に引き取られました。そして隼人さんとの生活が始まったんです。とはいってもあの人はいつも早朝に家を発ち真夜中に帰宅するので俺はいつも一人でしたが。もちろん子供ながらに寂しかったんですよ、だから俺はある日夜更かしをして隼人さんの帰りを待ちました。午前2時くらいだったと思います。……隼人さんが全身を鮮血で染めて帰って来たのは。それを見た時、不思議と俺は冷静でした。おかえりとだけ言って、風呂場のドアを開けて布団に入りました。それ以来たびたび夜更かしをした俺の元に姿を見せる隼人さんはどこかで着替えてくるようになりました。でも血の臭いが俺に全てを悟らせました」

そこまで話して、ようやく浩仁が口を開いた。「何が、言いたいんだ……」

「家に帰ってくる隼人さんは、ひどい顔をしているんです。俺にはとても毎日手に入れる者(スチール)を殺害する人の表情とは思えなかった。そんな簡単に殺しができるような人のはずじゃない。多くの手に入れる者(スチール)を殺す隼人さんを自分の目で見ておきながら俺はそう思えたんです。――あの人は……無理やり手に入れる者(スチール)を殺すように動かされていた」

浩仁はただ黙っている。巡の次の言葉を待ってくれている。

「そうとしか、思えないんですよ……あの人が本当に自分の意志で手に入れる者(スチール)を殺していただなんて、ありえない。手に入れる者(スチール)虐殺の動きがなくなった今、あの人は自らを隠すように生きている、もともと住んでたこの街が共存区域になると聞いた途端さらに東へと住居を変えた。隼人さんは自分のやったことを全部理解しているんです、きっと手に入れる者(スチール)に自分を知らない者などいないと。それだけじゃない、人にも食す者(イーター)にも隼人さんを悪く思う者はいる。だからずっと、ずっと隼人さんは誰にも自分を悟らせないように暮らしてきた、誰から見ても大量殺人者である自分がその街を脅かす存在であると、だからせめて俺だけは隼人さんのそばにいました。長い間隼人さんと暮らしていた理由はそれです」

「じゃあ、片山隼人と離れた理由はどうしてだ」

話の流れからして必然的に出てくる質問だ。だから巡も迷いなく答える。

「あの人が、共存区域で暮らせるようにするためにです」

「共存区域で……?」

「はい。だっておかしいじゃないですか。あの人が隠れて独りほそぼそと暮らす理由なんて何処にもない。だから俺は全ての地域が共存区域なればいいと思ったんです。隠れる場所なんてない、どこもかしこも共存で満ち溢れればきっと隼人さんが本当の意味で暮らしていける場所はいっぱいあるはず、俺はそれを実現したいんです。もちろん隼人さんから離れることに躊躇はありましたよ、でも共存区域に認定されたこの場所に残らなきゃ、何もできないって思ったんです。だから残った、だからあなたの娘さんにも声をかけた。全てそういうことなんです。俺はただ単に、共存を望んでるだけなんです」

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