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シンクロナイズド  作者: 響野旬悟
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30

 仕事帰りのサラリーマン、OL、はたまた学生らにまじって、通太たちが舞峰町の地元の駅に下車した時、陽はだいぶかげり始めていた。

 改札口を出れば右手に防波堤。それに沿って二人は並んで歩く。

 会話はない。

 通太は、釈然としない面持ちをずっと一波綾乃に向けていた。

(どういうことなんだ?)

 さっきから通太の脳裏にはそれしか浮かんでいない。

(彼氏ってなんなんだ?)

 これを声に出して聞いたところで一波綾乃は答えてくれない。

 しばらくすると、左手に、彼らが通う舞峰南高校の頂が表れてきた。

 通太は、その校舎を見て、

(もう、高校には行かないんだろうな)

 と漠然と思った。

 もう舞峰南高校には行けない。授業中に多数の生徒の前で先生に対して強気に出て学校を飛び出したが、今はもうその気持ちは一片もなく、通太は枯れてしまっていた。来週に強気な自分が表れるとも微塵も思わない。周囲の目が気になって、学校生活なんてできない。あの強気な感情さえあれば、また通学できるんだろうけど、もうないから無理。

そんな風に悶々としていたら、

「教室に寄るの?」

 という綾乃の声。

「え? あ、ああ、寄りません。いいです」

「そう」

「……」

 通太としては、教室にいかないと返事したものの、迷っていた。行ってつくえの存在を確認した方が、気持ちは楽になるかもしれない。でも、いなかったら……。

 そんなこんな色々と考えていたら、高校はすぐに遠ざかっていった。教室に行くことはやっぱり諦めクヨクヨしながら歩いていたら、いつの間にか通太の自宅前に着いた。綾乃も立ち止る。カバンを通太の家に置いているからだ。

「カバン取ってきます。これ――」

 通太は、ぬいぐるみを一波に渡そうとした。

 でも綾乃は、

「これ持ってるから、稀川にあげる」

 と言って受け取りを拒否し、月刊誌だけを受け取った。

 通太が玄関を開けると、母親が待ってましたといわんばかりに飛んで彼を迎えて

「通太! 今日、学校から電話――」

 と唾をまき散らしながら喋るのだが、通太は無言を一貫し靴を脱いだ。

 一波綾乃は、外で、家の中の騒動を想像できた。

 通太の母親の声がやたらでかい。ぬいぐるみどうしたの? やら、今までどこ行ってたの? シャツの背中側破けてるわよ、とかしつこく通太に尋ねているようだ。

 綾乃が苦笑しながら待っていると、

「――あとでキチンと説明するから」

 とドア越しに通太の声が聞こえてきて、声の主だけが出てきた。

「これ」

 通太はカバンを突き出した。

「もう一つあるでしょ?」

「え? ――あっ!」

 ポケットから綾乃の携帯電話を出し、手渡した。

 携帯からは、メールの受信を知らせる青い点滅信号が出ていた。

「加奈からだ。一時間前に受信してる。あんた気がつかなかったの、バイブ?」

「バイブ?」

「もういいわ。じゃ帰るね――――。あ、 そうだ」

 綾乃は、一、二歩歩き始めていたが、不意に止まった。

「来週月曜日学校行くの誘いにくるから」

「え?」

「いい?」

「僕と一緒に一波さんが学校に行くんですか?」

「そうよ。誘いにくるからね。時間は七時五十分ぐらい」

「何? 何なんだ? 一波さん、なんで? なにを考えているんですか? 僕、訳がわかりません。なんで急に僕と一波さんが一緒に学校に行くんですか? それにさっきのことも説明して下さい。彼氏だのなんだのって? 説明して下さい。お願いします」

「ふぅ、説明か……。それは来週にしようか。明日とかでもいいけど、あんたも色々疲れたでしょ? 土日ゆっくり休んで、月曜日に備えといて」

「そんな、勝手に決めないでください。僕来週学校行くなんて決めてないですよ」

「行くのよ、絶対。じゃないとあんた、終わるわよ」

 一波綾乃は、ジロリと通太を見た。

(終わる?)

 通太は心の中で反芻した。

「まっ、とにかく色んなことにビビってんでしょうけど、大丈夫だから。休養をしっかりととれば気持ちも楽になるから」

「……」

「よし、じゃあ帰るね。あっと、それと土日のどっちかで、携帯買いに行きな。じゃ!」

 綾乃は立ち去った。

 通太は肩を落とし、一波綾乃の背中を見送る。

 彼が家に入ったのは、それから五分後だった。それも、中々家に入ってこないと心配した母親が玄関先の様子を確かめて、道路に立ち尽くす息子に声をかけてからだった。


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