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シンクロナイズド  作者: 響野旬悟
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 通太と笹山露子は、喫茶店に場所を移した。

 通太はレモネード、露子は、オレンジジュースを注文した。

「一波さんに悪い事したね」

 笹山露子は、店員が立ち去ってすぐに言った。

「ええ」

 通太は、火照った体が急速に冷えていくのを実感しながら返事した。

 この店のエアコンは、客への過剰なサービス精神なのか、それとも回転率を上げたいのか、異常にきかせてある。

「また謝っておきます」

 通太は、ひんやりしたおしぼりで汗を拭った。

「つくお、元の机に戻っているかな?」

「――そのことなんですけど……」

 通太はおしぼりをテーブルに置き話す。

「可能性は低いと思うんです。戻るなんて根拠どこにもないし、僕も可能性があるのなら、ここに居なくて、まっさきに学校に戻って一年五組に確認しに行くと思います。でも、

それをしていない……」

 通太は、テーブルに置いたおしぼりをまた手に取り、首筋を拭く。

「してないんです」

 笹山露子は通太のうなだれた様子をジッと見つめていたが、

「稀川くん」

 と口を開き、話し出した。

「あのね、前に私、稀川くんに、つくおと別れてから何度か一年五組の教室に行って、つくおに喋りかけた、って言ったよね」

 通太は顔を上げた。

「あれってなんであの時、つくおと私喋れなかったのかなって私なりに考えたの。そして私なりの答えを出したの」

「答え?」

「うん。もう私にはつくおが必要なかったのよ。ちょっと語弊があるかもしれないけど、私はそう思った。私ね、稀川くん。一年生の頃、クラス中の女子からいじめられていたの。理由は些細なこと。入学当時、ある人と私、仲が良かったの。でもね、その人とあまり仲が良くない人と私が喋ってから、急に仲の良かったコから無視され始めたの。気に入らなかったのかな? 二、三日したらもうクラスの女子全員が私と話をしてくれなくなっていたの」

「そのお話、つくえさんから聞きました。それから机に伏せるようになったって」

「そうなの。でもね、それからつくおと喋るようになって私、段々と立ち直っていったの。ずうと学校にも行ってたしね。二年生に進級する前の三学期なんか全てに関して前向きに取り組んでいこうって思えるようになったし、それが周囲にも伝わったのか、徐々に私に話しかけてくれる人も増えていったの。でもその頃になると――」

 笹山露子は話を中断した。店員が飲み物を運んできたからだ。

 二人の飲み物とレシートが、ガラスのテーブルに置かれた。

「笹山さん、それで……」

 通太は話の続きを促した。

「ええと、取りあえず、飲もっか。稀川くんのど乾いたでしょ?」

「はい」

 通太は袋からぎこちなくストローを取り出すと、レモネードに突き刺した。

吸うと、ひんやりとしていてが、味はやたらと甘ったるい。でも今の通太にはその甘みが心地よかった。

 笹山露子も一口吸うと、オレンジジュースをテーブルに置いた。

「えぇと、どこまで喋ったかな?」

「確か、三学期になって話す相手も増えだしたとかそんな感じだったような……」

「…………、そう! 。それでね、その頃につくおと喋ろうとしても上手くいかない時があったのよ」

「上手くいかない?」

「えぇ。なんか会話中にノイズが入るっていうのかな。つくおの声が聞きづらいこともあったし、私の声にも反応してくれてないこともあった」

 通太は何回も頷き、笹山露子の話に食い入っている。

「そんな交信状況だったけれども、一年五組の教室に最後来た時、私はつくおに、私二年生になるから離ればなれになるけど、また逢いに来るって言ったの。反応はあったようななかったような、あやふやなものだったけど、とにかく言ったの。でも、二年生になって、五組の教室に行ったけどつくおとは話が出来なかった。それで話は最初戻るけど、私は考えたの、もうつくおは私には必要なくなったんだって」

「必要がない?」

「うん。つくおは、神さまが私の元に送りこんでくれた幸せの使者だったのかなって思ったの。そして私が立ち直ったら、役目を終えてどこかにいったんだ。そう思ったら幾分か私も救われた」

 通太は、俯いた。膝の上にのせたこぶしは僅かに震えていた。

「だから、稀川くんの元からつくおは旅立っていったのよ。君が成長したから――」

「そんなの――」

「えっ?」

 俯き加減の通太から漏れた言葉に笹山露子は耳を傾けた。

「そんなの、ありえないですよ! 僕まだ、全然成長なんてしていません! 幸せにもなっていません。まだほんの少ししかつくえさんと喋っていないんです。もっと喋りたかったんです、あの人と。出逢って一週間も経ってないないんですよ。露子さんは、たくさんの時間過ごせたと思うけど、僕はほんの少ししか――」

 通太の眼から涙が溢れた。とめどなく頬を伝い落ちる涙は、汗でびしょびしょのズボンを更に濡らした。

 店内で泣く男子高校生を他の客はびっくりまなこで見つめる。

「稀川くん……、ごめん」

「あひゃ?」

 通太は我に返った。

「なんで僕、泣いてるの?」

「稀川くん?」

「え? あ、すみません、笹山さん。僕があなたに対して怒鳴ったりして。なんで?」

 笹山露子は、ウエストポーチからハンカチを出した。

「稀川くん、これ」

「ありがとうございます」

 通太は遠慮せず、笹山露子のハンカチで涙を拭った。鼻付近をかすめるハンカチからは、とてもいい匂いがした。

 それから少し二人は黙りこくった。

 と露子のポーチが震えた。中で携帯がバイブしているからだ。

「ちょっとごめん」

 露子は、携帯を見た。

 彼女の表情は途端変わった。

「どうしたんですか?」

「おじいちゃんがまた倒れたって今メールが」

「いィ?」

「どうしよう?」

「どうしようって、早く戻らないと!」

「う、うん」

 笹山露子は、レシートを手にし立ち上がろうとした。

「会計はいいですから、早く行って下さい」

 通太は、露子からレシートもぎ取った。

「ごめんね、稀川くん。また連絡する」

 笹山露子は、喫茶店から飛び出て行った。

 通太もそのあとすぐに用を足してから喫茶店を出た。なんとも、店内にいる人たちの視線が痛かったからで、会計の時などは、女の店員がうさん臭そうに彼を睨みながらレジを打っていた。

 通太は何か誤解されていた。



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