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シンクロナイズド  作者: 響野旬悟
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 「綾乃、保健室行こ、ね?」

「そうしなさい、一波さん」

 通太の席で呆然となっている一波綾乃に対して、近藤加奈と英語の先生は、さっきから保健室に行こうと説得している。

 目は虚ろで、どう考えても正常ではない一波綾乃に対しての当然なる助言だろう。

 だが、一波は彼らになんの反応も見せず、椅子に座っているだけだ。

 一波綾乃の内にいるつくえは、通太の帰りをひたすら待っていた――目を覚まそうとしている本物の一波綾乃を押さえながら……。

(一波綾乃、頼む、もう少しだけ、もう少しだけ、おまえの体を使わせてくれ)

 つくえは、そう思いながら、自分を保とうとした。一波の覚醒の動きにはまだ波があり、波が低い場合、彼女の体をほぼコントロールできた。だが、波が強い場合、全神経を集中して、これに応えねばならなかった。さっき、つくえが大声を出して、一波綾乃の意思を屈服させた時は、まさにビッグウエーブが来たときで、思わず出てしまったものだ。

 今は段々と沈静してきている。

 つくえはその中待っていた。

 通太が戻って来ることを。

 何をしに教室を出たのかはわからないが、あいつなら何か妙案を持ってここへ戻って来てくれる。それをつくえは信じている。

 わざとじゃないかといわんばかりに廊下をきつく擦る何者かの足音が聞こえた。つくえは(来た)と直感し戸口を見た。

「稀川」

 つくえは呟いた。

 彼の希望の星、稀川通太がそこにいた。

つくえから見た通太は、少し笑みを浮かべているようにも見えた。

 静かに机の前まで来た通太は、

「つくえさん、行きましょう」

 と一波の腕をとろうとした。

「ちょっとなにしてんの!」

 当然過ぎる近藤加奈の発言と動作だった。

 昨日のように、稀川が自分の親友をどこかに連れて行こうとしているのは明白だ。近藤加奈は、通太の胸を突き一波綾乃から遠ざけようとした。

「こんな大衆の面前でいい度胸してるじゃない。ある意味あんたのこと見直したわ。でもいい加減にしなさいよ。――先生、こいつここ最近変なんです。一人でブツブツ言ってるし、放課後誰もいない教室で、自分の机に伏せているし、昨日の放課後なんかは、一波さんを無理矢理教室から連れ出したりして、何だか精神に異常をきたしてるみたいなんです。なんとかして下さい」

 近藤加奈の突然の懇願に、英語の先生は困り果てたが、とりあえずは通太を教室から出そうと考えた。

「稀川くん、ちょっと先生と話そうか」

 英語の先生は、やんわりと通太を刺激しないように言った。

 だが通太は、きっぱり断った。

「先生、先生と話すのはまた今度にします。今は、つく――いえ、一波さんを苦しみから解放させてあげなくてはいけません。それができるのは僕だけなんです」

「なに言ってんのあんた」

 近藤加奈が割って入る。

「綾乃を救えるのがなんであんたなのよ、えぇ?」

 ドンと、近藤加奈にまた胸を押された通太は、それでも怯まず、体勢を整え、凛と彼女の前に気をつけの姿勢で対峙した。そこにいる稀川通太は、これまで誰も見たことのない風格を備えていて、近藤加奈でさえそれ以上文句を言うのをはばかってしまうぐらいだった。

 先生はというと二人の間でモジモジしている。

「さあ行きましょう。あっ、携帯電話を持ってきて下さい、お願いします」

 通太はつくえにそう言い促した。

「ああ、わかった」

 つくえは、一波綾乃の机に戻って、カバンを手にした。カバンの中には携帯電話が入っている。

 近藤加奈は、唖然としつつ、事の移りを見届けていたが、使命感にも似た感情を湧き起し直し、通太にしつこく食い下がる。

「どこ行くのよ! 保健室に行くなら私が綾乃を連れていくわよ!」

 通太は近藤加奈を無視し、英語の先生に、

「一波さんと僕は、体調不良のため早退します。」

 とだけ言い、つくえと合流して教室を出ようとした。

「おいおい」

 先生はおろおろとしているだけだ。

「くっ」

 近藤加奈は戸口に素早く駆け寄ると、その場で仁王立ち。

「あんたをここから先行かせないわ! 綾乃、大丈夫よ、あたしが綾乃を守る、心配しないで!」

「どいて下さい、近藤さん」

ズイと詰め寄る通太の気迫に、不覚にも近藤加奈はたじろいだ。

「こ、ここは――」

通太たちを行かせまいと死守しようとした近藤加奈だったが、体のバランスが崩れ、戸口にもたれかかり、そのまま目の前の二人をただ見つめるだけ。

通太は、一波の手を取り、彼女の体をグイっと引き寄せ

「行きましょう」

と言い、教室を出た。

今さらだが、つくえの属性――性別は男だ。机ではあるが、男の感情で彼は物事を考え、発言したりする。その彼が今、通太に体を引き寄せられ思ったことは、女は、こういう男に惚れるんだろうな、ということだった。表情、手から伝わる熱、どれもが要因だった。かっこいいと単純に思った。

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