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つくえは、滑走していた。そのまま坂を走り切れば、飛ぶのではないのかというぐらいの速さだ。その速さのままで、つくえは一年五組の教室にけたたましく到着した。
「綾乃!」
びっくりした表情で近藤加奈が叫んだ。
教室には、彼女一人だけが残っていた。掃除も終わった教室で一波綾乃を待っていたのだ。他の友達は帰ったのかいない。
「どうしたの綾乃? どこいってたの? なにがあったの?」
近藤加奈が心配するのも無理はない。強奪といっていいほどに、一波は、通太に掻っ攫われたのだから。
「なにもない」
つくえはそう簡単に答えると、一波の荷物を持ち、急いで教室を出ようとする。
「ちょっと綾乃っ」
近藤加奈は、一波を制止しようとする。
「どうしたの綾乃? あんたここ数日変だよ。心ここにあらずって感じだし、行動もいっちゃってるし、ほんとどうしたの? 稀川になにか弱み握られてて、脅されてるの? それともなにか他に理由があるの? みんな心配してるのよ」
「みんな?」
「そうよ、みんなよ。圭子も麻紀も絵里もみんな心配してんだから。」
「みんなって、近藤……、いや、カナしか今いないじゃないか」
「みんなはとりあえず先に駅前のカラオケに行ってもらったの。あとで綾乃が帰ってきたら私といっしょに合流しようと思って」
その一波の三人の友達だが、実は、さっき正門で擦れ違っているのだ。彼女ら三人が声をかけそびれるほど、一波の走りは凄まじいものだった。そんな彼女たち三人は、一波のあとを追いかけて、今急いでこの教室に戻ろうとしているところだ。
「そうか。でも本当に大丈夫だ。カラオケは、カナだけ行ってくれ。わ、ワタシは今日はいかない」
つくえは、再び風になった。一波の姿は目にもとまらぬ速さで近藤加奈の前から消えた。




