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つくえは正門を出ると、そこから広がる坂道の先を見た。
下校している生徒がちらほら。その中を、いかにも、わたし急いでいます、と颯爽と早歩きしている少女がかなり先にいる。笹山露子のようだ。彼女は坂道ということもあるのか、走ることはやめている。
わずかに見える彼女の後姿を見定め、つくえは、猛然と走り出した。
正門から下る坂道は、急でないにしろ、普通の人は、走るのをためらう。
スピードがついて、転んでしまうのではという恐怖心が出るからだ。
だがつくえの意識に恐怖はない。
笹山露子と逢うのは明日――という気持ちはどこかに消え去り、彼(?)の胸中は、是が非でも彼女との対面! に占められていた。
下校していた生徒たちは、後ろから聞こえる靴の音に振り返り、振り返った瞬間にはその音は風と共にもう前方に移動していたので、一波の姿を捉えることは難しかった。
つくえはすぐに笹山露子に追いついた。
勢いに乗ったスピードを止めようと、笹山露子の手前で急ブレーキをかける。
靴が滑り、滑りながら笹山露子の横を通り、つくえは強引に笹山露子に体を向けた。
その動きは滑空を終えた直後のスキーのジャンパーを思わせる。
突然目の前に何者かが現れた露子は、目を剥きながら早歩きをやめた。
「笹山露子……」
つくえは、一波の声を借り、呟いた。
「えっ?」
「おれだ、つくえだ。いや、つくおだ、笹山露子」
「――つくお?」
「おお、たしかに笹山露子だ。髪型は変わっているが、その面立ちは間違いなく笹山露子。おお逢えた、逢えたぞぉ」
両の二の腕をガッシリ掴まえられた露子は、目の前にいる少女の顔をまじまじと見た。
だが、過去自分が会ったことのある誰かを思い出し、照らし合わせたが、誰とも一致しない。知らない人だ。だが、妙なことに、どこかで会ったか見たかしたような気がしないでもない。
「ええと、どなたですか?」
「俺だ、つくおだつくお。今は訳あって少女の姿をしているが、中身は、正真正銘のつくおだ」
「つくお…………つくおくん? あの机のつくおくん?」
「そうだ、信じられないだろうが、そうなんだ」
そんな二人のやりとりを、下校していく生徒たちは、不思議そうに見ながら通り過ぎる。
「そんな、まさか……なんでこんな……」
と露子が驚嘆している後ろから
「ささやまさぁぁん」
と叫ぶ声がする。
両腕を持たれたままの露子は、顔だけ振り返ろうとするが、首の可動範囲の限界で止めた。
声の主はまだ視界に入ってこない。しかし声の主が、誰だかはわかった。
「稀川くん」
か細い声を出しながら笹山露子は、前にいる少女に向きなおした。
一体どういうことなのか戸惑いが隠せない彼女は、通太の到着を待った。
もう実家に帰るという逸る気持ちは、薄れていた。




